名鉄キハ8500系気動車

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テンプレート:鉄道車両 名鉄キハ8500系気動車(めいてつキハ8500けいきどうしゃ)は、名古屋鉄道(名鉄)が1991年に導入した気動車である。

東海旅客鉄道(JR東海)高山本線へ直通する特急「北アルプス」に使用されていたキハ8000系の置き換え用として導入されたが、2001年に「北アルプス」が廃止されたあとは会津鉄道に譲渡され、2010年まで使用された。

本項では、会津鉄道への譲渡後についても記述する。

登場の経緯

名鉄では、1965年から国鉄・JR東海の高山本線へ直通する列車を運行していた[1]。この列車は運行開始当時は準急「たかやま」として運行開始され、その後急行に格上げされ[1]1970年には富山地方鉄道立山駅まで乗り入れ「北アルプス」に改称[1]、さらに1976年以降は特急に格上げされて運行されていた[1]が、使用車両は1965年以来キハ8000系が継続使用されていたテンプレート:Refnest。しかし、登場当時こそ全車冷房車で評価の高かった[2]キハ8000系も、1990年代を迎える特急車両としては接客設備・走行性能の観点から問題外であるとみられていた[3]

このため、名鉄でもJR発足後まもなくJR東海へ新型車両への置き換えを申し入れ[4]、車両仕様についても検討を行った。名鉄社内での検討過程において、犬山線でのダイヤの構成上は高速性能の向上が望ましく[3]、加速度3.0km/h/s・最高速度120km/hという、電車並みかそれ以上の性能を確保するためには、「搭載するエンジンについてはカミンズ製以外の選択肢はない」と結論付けられた[3]テンプレート:Refnest

一方、JR東海が1989年以降高山本線の特急「ひだ」にキハ85系の導入を行い、1990年3月には特急「ひだ」は全てキハ85系が運用されるようになった[3]ため、車両の置き換えは名鉄にとっては一刻の猶予も許されないものとなった[3]ため、JR東海との協議が急がれることになった。名鉄にとって幸いだった[3]のは、キハ85系がカミンズ製エンジンを採用していたことで、その後の協議が順調に進む大きな要因にもなったという[3]

このような経過を経て登場したのがキハ8500系である。

車両概説

本節では、登場当時の仕様を基本として記述する。

キハ8500系は5両が製造された[3]。内訳は先頭車が4両・中間車が1両で[5]、全車両とも動力車である。車両番号および各車両ごとの特徴については、後述の車両一覧を参照。

車体

車体長20,800mm・車体幅2,740mmの全鋼製車体で、キハ8000系よりもわずかに拡大されている[3]。腐食が予想される扉周りの台枠や屋根にはステンレス材を併用している[3][6]。側面窓の幅は1,700mm[7]、窓の高さは980mmとしている[7]。客用扉は幅800mm[8]の2枚折戸とした[5]。床はエンジン音を遮断するために二重構造としており[5]、側面窓も同様の理由で複層ガラスとしている[5]

レール上面から床面までの高さは1,120mmである[8]が、これはキハ85系よりも70mm高い[5]。このため、キハ8501とキハ8502の前面貫通扉については下方向に70mm延長し、乗務員室内に段差を設けており、キハ85系との連結時にはここにスロープを取り付けることによって、スムーズな通行ができるようにした[5]

車体色はアイボリーホワイトを基調としてマスタードイエローとソフトイエローの直線を配し[6]、窓周りはダークブラウンとした[3]

内装

ファイル:Aizu-railway-Kiha 8500-inside2.jpg
客室内(会津鉄道に譲渡後)

客室内は「飛騨の大自然」というイメージを反映させるため、淡いベージュとブラウンで全体のイメージを統一した[6]。室内の照明は「より自然な室内照明」とする目的で間接照明とし、天井中央部に幅850mmで面照明システムを導入した[6]。通路の扉は飛騨の杉林をエッチングで表現し[9]、扉のガラスにも杉林をデザインした[6]

座席は2人がけリクライニングシートをシートピッチ1,000mmで配置した。座席のモケットはベージュ・グリーン・ブラウンのチェック模様とした[6]。窓のカーテンについては新素材として[9]、カーテンを閉じても窓の外の風景が見える「熱反射形スパッタミラーカーテン」を採用した[10]

便所・洗面所は1000系「パノラマSuper」と共通設計のものを採用した[11]ほか、客室内妻面に設けたLED式の案内表示装置も「パノラマSuper」と同じものである[11]テンプレート:Refnest

主要機器

テンプレート:Sound テンプレート:See also キハ8500系は名鉄の車両であるが、「北アルプス」の運行区間である新名古屋駅と高山駅の間の距離149.2km[3]テンプレート:Refnestのうち、名鉄の走行区間は新名古屋駅から新鵜沼駅までの30.1kmに過ぎず[3]テンプレート:Refnest、JR高山本線での走行区間のほうが長く、これはJR東海の運転士のほうが乗務する区間が長いことを意味する[3]。また、JR東海の車両であるキハ85系との連結が可能であることも設計条件とされた[3]。このため、走行機器に関してはキハ85系と同等とした[10]。ただし、キハ85系と比較して車体幅が狭いため、床下機器の艤装には苦労したという[3]

エンジンは、カミンズ製のNTA-855-R1形を採用し、各車両に2基ずつ搭載した[10]。このエンジンはキハ85系で使用されているC-DMF14HZ形と同型の直噴型ディーゼルエンジンで、最大出力は350ps・回転速度は2,000rpmである[9]。変速機は3段6要素・直結2段式の液体変速機であるC-DW14形を採用した[9]。これにより、最高速度は120km/h、上り20‰勾配における均衡速度は100km/hとなった[10]

台車は日本車輌製造のボルスタレス空気ばね台車であるND-719形で[10]、キハ85系が装着するC-DT57形台車に準じた設計である[10]制動装置(ブレーキ)については名鉄では初めてとなる電気指令式ブレーキを採用しており[9]、制動初速100km/h以上の際に機能する増圧ブレーキや、機関ブレーキ・耐雪ブレーキを装備している[11]

車両一覧

運用時は3両編成を基本とした[3]

キハ8501 
豊橋側の先頭車となる車両 (Mc'1) で[7]、便所・洗面所を装備する[5]。キハ85系との連結に対応[5]
キハ8502 
高山側の先頭車となる車両 (Mc'1) で[7]、構造はキハ8501と同様である[5]。キハ85系との連結に対応[5]
キハ8503 
豊橋側の先頭車となる車両 (Mc1) で[10]、便所・洗面所を装備する[5]。主に増結用として使用されるため[10]、キハ85系との連結対策は施工されていない[10]
キハ8504 
高山側の先頭車となる車両 (Mc2) で、車内販売準備室・自動販売機・公衆電話を装備[5]。主に増結用として使用されるため[10]、キハ85系との連結対策は施工されていない[10]
キハ8555 
5両中唯一の中間車 (M) で、車内販売準備室・自動販売機・公衆電話を装備[5]

沿革

名古屋鉄道時代

キハ8500系は須ヶ口駅近くの新川検車区に配置され[12]、1991年3月16日のダイヤ改正で営業運行を開始した[13]。このダイヤ改正からは、多客期にはJR東海の特急「ひだ」との連結も開始され[14]美濃太田駅から高山駅まではキハ85系と連結を行った[14]。なお、「北アルプス」と連結する「ひだ」は臨時列車として設定されておりテンプレート:Refnest、当初は「北アルプス」と「ひだ」の連結時には、上下列車とも先頭にキハ85系が連結されるようになっていた[15]

神宮前駅・新名古屋駅とも折り返し設備などがなく、かつ列車密度が高い区間であるため、運用時には神宮前駅の下り「北アルプス」発車時刻(午前11時37分)より2時間44分ほど前に出庫し[16]、まず津島線甚目寺駅に回送[16]、給油後に鳴海駅に向けて回送され[16]、時間調整のうえで神宮前駅へ回送され、特急「北アルプス」として営業を開始していた[16]。上り列車も神宮前駅に到着後にいったん鳴海駅へ回送してから入庫していた[16]

また、同年5月からは、電車並みの高加速性能を生かして過密ダイヤの名鉄線内でも運用可能と判断され、平日には朝ラッシュ時と夜間の特急にもキハ8500系が運用されるようになった。平日朝は甚目寺駅で給油した後に東岡崎駅へ回送され[17]、東岡崎駅を午前8時31分に発車する金山駅行きの全車指定席特急として運用された後に清掃と給水のために入庫し[17]常滑線大江駅に回送された後に「北アルプス」の運用に入った[17]。上り「北アルプス」の神宮前到着後も大江駅に回送し[17]、金山駅を午後8時35分に発車する犬山駅行きの全車指定席特急として運用された後に栄生駅まで回送の後入庫した[17]

しかし、1999年12月のダイヤ改正では、連結する「ひだ」が定期列車に格上げとなり[18]テンプレート:Refnest、さらに2000年10月からは名鉄自身のバス事業において名古屋と高山を結ぶ高速バスの運行を開始しており[18]、存在意義が薄れてしまった[18]。「北アルプス」の利用者自体も10年間で半減し[18]、電鉄会社がわずか5両の気動車を保有するのは非効率であるという理由により[18]、2001年9月30日限りで「北アルプス」の運行は廃止された[18]

会津鉄道時代

折りしも、会津鉄道では現有車両の更新の時期を迎えており、観光列車としての設備を備えた車両の導入を検討していた[19]。また、会津鉄道は一般車両のうちお座敷車両への改造と事故廃車で2両を失っており、車両を補充する必要があった[19]。会津鉄道では「北アルプス」廃止によって運用を失ったキハ8500系に着目し譲渡を申し入れた[19]結果、5両全車両が会津鉄道に譲渡されることになった[19]。会津鉄道の列車は西若松駅から会津若松駅までは東日本旅客鉄道(JR東日本)只見線へ乗り入れており、キハ8500系がJR直通対応車両であることもメリットとして挙げられた[20]

名鉄側でキハ8500系の売却整備が行われ[19]、同年12月22日から24日にかけて会津鉄道へ甲種輸送された[21]。会津鉄道でのキハ8500系の形式番号および外部塗装については、特急「北アルプス」に愛着を感じるファンを意識して、名鉄時代のままとなった[20]。また、2両編成2本として組成した上で、中間車1両は予備車となった[20]

こうして、キハ8500系は2002年3月23日のダイヤ改正から「AIZUマウントエクスプレス」として営業運行を開始した[20]。当初の運用列車は快速4本・普通列車2本であった[20]2003年10月からはJR東日本磐越西線喜多方駅まで乗り入れを開始[22]、さらに2005年3月からは野岩鉄道会津鬼怒川線を経由して東武鬼怒川線鬼怒川温泉駅まで乗り入れを開始した[22]テンプレート:Refnest

2007年3月31日付で中間車のキハ8555は廃車となり[23]、部品確保用となった[24]。残る4両はその後も運用されていたが、キハ8500系の性能上の特性は高速運転用に設計されていた[25]ため、こまめに停車を繰り返す会津鉄道ではエンジンなどの負担が大きく、老朽化が進行していた[25]。このため、会津鉄道での標準型車両をベースとした新型車両のAT-700形・AT-750形に置き換えられることになった[25]。運用最終日の2010年5月30日は特別運用が設定され、会津若松駅を午後12時59分に発車する列車までがキハ8500系の営業運転となった[26]。この列車は通常は鬼怒川温泉駅へ向かう列車であったが、会津田島駅にキハ8500系が到着すると、隣のホームに停車しているAT-700形・AT-750形と車両交換するという「新旧交代セレモニー」が行われた[26]

2010年12月に会津鉄道公式サイト上において、これらの車両の売却先募集が行われた[27]2011年3月26・27日には会津田島駅構内でさよなら運転のイベントを開催する予定であったが、東日本大震災の影響で中止になった[28]。その後、キハ8501とキハ8504は那珂川清流鉄道保存会で保存されている[29]テンプレート:Refnest

脚注

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注釈

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出典

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参考文献

書籍

雑誌記事

関連項目

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外部リンク

テンプレート:名古屋鉄道の車両

テンプレート:会津鉄道の車両
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