人工芝

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人工芝(じんこうしば)はに似た形状を化合物で造った物。スポーツ用のスタジアムなどで使用する他、個人宅の用など様々なものが製造・販売されている。本項ではスポーツ用のものについて述べる。

競技用人工芝の種類

人工芝は下地の布(基布)とそれに貼り付ける芝糸(パイル)で構成される。基布の下にクッションとなるアンダーパットを敷くことも多い。同じくクッション用として珪砂やゴムチップが充填されているものもある。現在、販売されているのは以下のような種類である(例外も存在する)。

ショートパイル人工芝

最初に開発されたのがこれである。短めのパイルを使い、基本的には充填剤を使用しない。クッションとなるパッドをその下に貼りつけるものもある。巻き取って収納することができ、スポーツイベント以外の使用時に痛めないようにできる。新しく開発されたものの中にはクッション性を向上させるために、特性の違う長短2種類のパイルをつかったものもある。

ロングパイル人工芝

20世紀末に新たに開発されたもので、パイルを従来のものより長くしてその間に充填剤を表面上には見えない程度に詰める。充填材を多層構造にするものもある。クッション性に優れており天然芝に近い性質を持つが、施工に手間がかかる分、価格が高い。メンテナンスは充填材のコンディション維持に手間が掛かる一方、初期性能を維持しやすいメリットもある。充填材がある為、巻き取ることは不可能、充填材の重量があるので収納することはできない。スポーツイベント以外の使用時は上にシート養生をする。サッカー場で使用されるのは専らこちらとなる。

砂入り人工芝

ショートパイル並みの長さのパイルに珪砂を充填したもの。こちらは砂が露出しており、滑りやすい。テニスコートなどに使用される。 これらは基本的にコンクリートやアスファルトの上に敷かれる。屋外用に透水性を高めたコンクリート(アスファルト)、基布、アンダーパットが使用されたものがあり、特に透水性人工芝と呼称される。なお下には砕石や排水管なども埋め込まれる。

競技別

野球場

テンプレート:See also 1965年アメリカ合衆国に世界初の屋根付き野球場アストロドーム」が誕生した。高温多湿という気候や夏場のの大量発生により誕生したこの施設は当初、天然芝のフィールドを採用し、芝の育成のために透光性の屋根を採用したが、太陽光が選手のプレーに支障をきたすため後にシートをかぶせるようになった。ところが、芝が枯れてしまったため、人工芝の敷設に踏み切った。

この人工芝は米・モンサント社の開発で、「アストロターフ」と名づけられた。これにより緑のフィールドで一年中、プレーが出来ることになった。この頃からアメリカではアメリカンフットボール兼用の円形野球場(クッキーカッター)が流行となり、転換しやすい人工芝が続々と導入された。また維持コストも安いことから天然芝の野球場も人工芝に張り替えられるなど、人工芝は1980年代まで、隆盛を極めた。

日本においてはまず1969年、呉羽化学(現・クレハ)によって商品化された。その後アメリカの人工芝球場ブームに合わせて、1976年後楽園球場を始め、阪急西宮球場1978年外野のみ、1990年総人工芝化)、平和台野球場1979年)、明治神宮野球場1980年ファウルグラウンドのみ、1982年総人工芝化)、藤井寺球場1985年外野のみ、1996年総人工芝化)、川崎球場1991年)など次々と天然芝球場が人工芝化した。また新設球場の横浜スタジアム1978年)や西武ライオンズ球場1979年)でも採用された。人工芝は天然芝より雨に強く、雨天順延を減らすことによって利益を増やせるためである。

ところが、開発当初の人工芝は天然芝のように芝の目が長くなく、コンクリートの上に緑のカーペットを敷いた感じだった為、スライディングすると火傷や擦過傷を負ったり、クッションが少ないため膝や足に負担がかかった。1980年代に入ると、透水性やクッション性を高めるため、下層部に砂・土を散布もしくは充填したものが開発された(ロングパイル人工芝の走り)。

しかし下地がコンクリートやアスファルトであることから選手の足腰に負担がかかるという声もあがるようになる。さらに芝生を愛し、野球にノスタルジアを求める国民性もあいまって、アメリカでは1990年代から天然芝の新古典派式野球専用球場が主流となっていく。現在ではメジャーリーグのチームの本拠地で人工芝球場なのはトロピカーナ・フィールドロジャーズ・センターの2球場のみである。

その一方、芝の維持にかかる経費や多目的性、気候面を重視する日本では、1990年代以降も人工芝のドーム球場が次々と建設され、地方球場でも人工芝の球場が建設されている。

20世紀末にはパイルを5 - 6cmまで長くしたロングパイル人工芝が開発された。最初に実用化したのはカナダのフィールドターフ・ターケット社で「フィールドターフ」と名づけられ、2000年にトロピカーナ・フィールドで採用された。ただし、トロピカーナ・フィールドではダイヤモンドを除く内野部分には土を残し、見た目もプレイ感覚も天然芝球場に近づける配慮がなされている。

日本の野球場でロングパイル人工芝を最初に敷設したのは2002年に採用した東京ドームである。これ以後新聞記事などに「ハイテク人工芝」という表記がしばしば出るようになった。ただし「ハイテク」=「新型」なっており本来のハイテクの意味とは異なる。ショートパイル人工芝でも新技術を使用している場合には「ハイテク人工芝」と報道されているケースもある。その後、他社でもロングパイル人工芝が開発され、様々な野球場に採用されている。こうしたロングパイル型は従来の人工芝に比べ、身体への負担が軽いなど選手からも概ね好評である。また高校や大学の野球部の練習場にも導入されている。

2011年シーズンでは、日本野球機構加盟プロ野球チームの本拠地球場のうち10ヶ所が人工芝である。種類の内訳はロングパイルが6ヶ所、ショートパイルが4ヶ所で、ショートパイルは全て長短2種類を使う新型のものとなっている。また10ヶ所とも2003年以降に新しい人工芝が導入されている。球場によっては、内野の走路部分やウォーニングゾーンを土色に変えて総天然芝球場のようにしているが、ナゴヤドームではそのスタイルをやめて元に戻している。

アメリカンフットボール場

アメリカ・NFLの一部のスタジアムで使用されており、特に(野球・サッカーなどでの利用を想定しない)専用スタジアムで採用される傾向が強い。前出の「クッキーカッター」全盛期にはショートパイルが多く敷設されていたが、年間試合数がはるかに多い野球が優先された結果ゆえでありクッキーカッターでは(人工芝・天然芝問わず)NFL選手の故障が多くなったため、後に建設された専用スタジアムではその際にアメフトに適したロングパイルを敷設している。ロングパイルとなってからはラインやエンドゾーン、ロゴなどを着色したもので敷設して描くスタジアムも多い。

日本のXリーグや大学リーグの試合会場は人工芝にしている会場が多い。大阪市長居球技場(現:キンチョウスタジアム)はアメリカンフットボールでの利用を想定し、野球場以外における日本初の人工芝球技場として開場したが、現在は後述の通りサッカーなどでの利用を前提に天然芝に転換されている(転換後もXリーグ公式戦での利用は継続)。一方、日本初の専用スタジアムであるエキスポフラッシュフィールドもロングパイルが敷かれている。また、アミノバイタルフィールド神戸市王子スタジアムのようにアメフト仕様への転換を目的として人工芝に変えた競技場も存在する。さいたまスーパーアリーナではアメリカンフットボール用の巻き取り式人工芝をアリーナに敷設することができる。

サッカー場

サッカー場では長らく導入されていなかったが、ロングパイル人工芝の開発によって練習場などでの人工芝の導入が各地で進みつつある。そのため近年では試合会場でも採用の動きがあり、特に冬季は積雪で天然芝の育ちが不充分とされる北欧などでは、ロングパイル人工芝を使ったスタジアムの設置事例がある。2003年に開かれたU-17(17歳以下)世界ユース選手権大会フィンランド大会、2006年AFCアジアユース(U-17)選手権大会シンガポールジャラン・ベサール・スタジアムでは人工芝を使用した会場で実際に試合が行われた。FIFAはロングパイル人工芝の審査と承認、および格付けを行っている。またアメリカ合衆国メジャーリーグサッカー[注 1]とその実質的な下部団体である北米サッカーリーグ (2011-)[注 1]、およびロシアサッカー・プレミアリーグ[注 2]では、一部のスタジアムで人工芝が用いられている。将来的には、水の確保が難しいため芝の育成が困難とされるアフリカ各地での普及も提唱されている。また、天然芝に少量の人工芝を混ぜたものもあり、天然芝の回復力がより高いとされている(GrassMasterなど)。

日本国内では2000年6月に、Jリーグ川崎フロンターレの練習場・麻生グラウンドが、既存の天然芝グラウンドに併設することでいち早く導入している(東京ドームではこの実績を元にロングパイル人工芝を導入した。)。その他のクラブや大学、高校の練習場でも続々と採用されている。ただしプロクラブではあくまでも補助グラウンドとして使われている。現在、日本サッカー協会は天然芝グラウンドの不足を補完するため、地域レベルやユース年代の大会であれば人工芝の使用を認めている。全国規模カテゴリーであるJリーグやJFLでは未だ許可されていないが、将来的には冬季の寒冷地での試合で許可される可能性がある。

キンチョウスタジアムは前出の通り、元々アメリカンフットボールやフィールドホッケーなどに利用することを目的とした人工芝球技場(サッカー場としては地域大会程度止まり)だったが、Jリーグ・セレッソ大阪の本拠地としてなど、主要なサッカー・ラグビー大会の試合会場として利用するため、2010年に人工芝を天然芝に置換した。日本の主要な人工芝競技場を天然芝に置換した最初の例となる。

陸上競技場で行われる場合、フィールドと陸上トラックとの大きさの関係上タッチライン・ゴールラインの外側は天然芝の敷けるスペースが限られており、これを補うために外側に人工芝が敷かれることも多い。特にコーナーアーク周辺にはコーナーキックの足場を確保するために広い範囲に敷かれる。敷く範囲自体は任意で陸上トラック全体を覆うケースもある。

ラグビー場

1999年にラグビーニュージーランド代表「オールブラックス」が練習場に導入して以来、ロングパイル人工芝のラグビー練習場が世界的に広がっている。

国際ラグビー評議会(IRB)定款が2004年に改正された際、「競技に関する規定」第22条「人工芝の使用に関する基準」が追加され、基準に適合した人工芝であれば公式戦での使用が可能になった。香港のキングスパークはラグビー場3面すべて人工芝である。

日本では関西大学ラグビーフットボールリーグなど一部大学リーグや社会人地域リーグなどにおいて人工芝競技場で公式戦が行われている。ジャパンラグビートップリーグなど全国レベルの大会において全面的に採用している競技場は皆無であるが、陸上競技場においてはインゴール部分に天然芝を敷くことが不可能なため人工芝を敷いている。また球技場においてもノエビアスタジアム神戸では日当たりの悪さからサッカーフィールドの外側になるインゴール部分はロングパイルにしている。

その他の競技

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国別にみる人工芝グラウンド採用の競技場

アメリカ合衆国

カナダ

大韓民国

朝鮮民主主義人民共和国

日本

  • 配列はそれぞれの種類ごとに北から南に沿う。競技場名の太字NPB所属球団のフランチャイズ球場。
競技場名 現在採用されている人工芝の銘柄(メーカー) 導入年度
ロングパイル人工芝
楽天Koboスタジアム宮城 ビッグターフ(日本フィールドシステム) 2008年
仙台市民球場 ハイブリッドターフ(住友ゴム工業
東京ドーム フィールドターフHD(フィールドターフ・ターケット) 2014年
明治神宮野球場 ハイブリッドターフ 2008年
アミノバイタルフィールド 2005年
川崎球場 アストロプレイS-64(アストロ) 2004年
横浜スタジアム フィールドターフ(フィールドターフ・ターケット) 2003年
HARD OFF ECOスタジアム新潟 ハイブリッドターフ 2009年
長野オリンピックスタジアム アストロピッチSL(アストロ) 2010年
富山市民球場アルペンスタジアム アストロピッチSL PRO(アストロ)
京都市宝が池公園運動施設球技場 ロングターフ(大成ロテック 2005年
京セラドーム大阪 アストロピッチSL 2003年
エキスポフラッシュフィールド フィールドターフ 2006年
神戸市王子スタジアム ハイブリッドターフ 2003年
福岡 ヤフオク!ドーム フィールドターフ 2009年
長崎ビッグNスタジアム 2005年
ショートパイル人工芝
札幌ドーム グランドターフ(大塚ターフテック 2013年
西武ドーム アストロステージMJ(アストロ) 2008年
QVCマリンフィールド 2011年
ナゴヤドーム グランドターフ 2011年

人工芝運動

テンプレート:Main 英語で人工芝を「アストロターフ」(Astro Turf)と呼ぶこともあるが、転じて、偽の市民運動(草の根運動)に対してもこの単語で呼ばれる(正確にはingがついて「アストロターフィング」)。この場合の「偽の市民運動」とは、政党や政治団体などが、既存政党とは無関係な市民運動を装った組織を作り、その政党などの政策を支持する「草の根の運動」をさせ、あたかも一般市民の間に政策への支持が自然に広まっているかのようなイメージを作るための自作自演の活動を指す。なお、バックに何も付いていない本物の草の根運動を「グラスルーツ」(Grassroots)と呼ぶ。

関連項目

脚注

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注釈

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出典

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外部リンク

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