C型肝炎
C型肝炎(Cがたかんえん、テンプレート:Lang-en-short)とは、C型肝炎ウイルス (HCV) に感染することで発症するウイルス性肝炎の一つ。 テンプレート:Main2
目次
疫学
現在の日本のHCV感染者数は約200万、世界では1億7千万(世界人口の3%近く)がキャリアであると見られている。
日本ではインターフェロン治療が効きにくい1b型が70 - 85%を占め、以降2a型が10 - 15%、2b型が約5%で、他はまれである。ただし、血友病患者では1a型が多い。これは血友病患者がC型肝炎に罹患する原因となった血液製剤の輸入元であるアメリカでは1a型が最も多いことに由来する。
以前より、非A非B型肝炎と称されていた。
U.S. Preventive Services Task Forceは、1945~1965年生れのすべてのアメリカ人に対してC型肝炎スクリーニングを推奨することとした[1]。
感染経路
HCVは血液が主な感染経路で、かつては輸血による感染が多かった。ディスポーザブル注射器の普及により現在においては先進国では検査体制が確立したためほとんど見られない。現在は針刺し事故や刺青、覚醒剤注射の回し打ちなどが主である。性行為ではほとんど感染しない。[2]また母子感染も少ない。
血液製剤は、非血友病患者にも投与された。非血友病患者に対する血液製剤(フィブリノゲン製剤、第IX因子製剤)の投与によるC型肝炎感染については、国と製薬会社を相手とする訴訟(薬害肝炎訴訟)が起こされている。
病態
初期感染
一般に自覚症状が乏しい場合もあるが、発熱、全身倦怠感、食欲不振、悪心、嘔吐、口腔扁平苔癬[3]が出現し、血液検査にて肝障害(AST・ALT高値)、黄疸(T-Bil高値)を認めるといった急性肝炎症状を呈する場合が多い。多くは症状が強いほど自己の免疫応答によってC型肝炎ウイルスの排除が行われるが、70%程度は感染が遷延化し持続感染へと移行する。なお、B型肝炎やA型肝炎に比較して劇症肝炎を呈する例は稀である。
持続感染
初期感染後に、血液検査にてALTが正常化しHCV-RNAも陰性となってC型肝炎ウイルスが排除され治癒する場合もあるが、70%程度はC型肝炎ウイルスが排除されず、血液検査にてHCV-RNA陽性状態が続き、持続感染状態となる。
慢性肝炎
血液検査にて、HCV-RNA陽性でALTが正常な場合は無症候性キャリアであるが、多くの場合はALT高値持続し慢性肝炎状態となる。ALT高値が持続する慢性肝炎の状態を5~10年以上経過することで、その後肝硬変への移行・肝細胞癌発症となってくる。 慢性肝炎持続の場合、約60%が肝硬変へと進展し、肝硬変後は年間7 - 8%が肝細胞癌を発症する。肝硬変に至る前は肝細胞癌への発症率は低い。
検査
問診
基本的に血液感染によって成立するため、輸血、注射、手術、針刺し事故、覚醒剤注射などの感染の原因となりうることがあったかどうかを確認が大切である。
血液検査
- ウイルス検査
- HCV抗体:多くの医療機関・検診等にてスクリーニングで施行。感染初期には陰性を呈する場合も多い。
- HCV-RNA:C型肝炎ウイルスのRNA量を測定する。手法はいくつがあるが、現在主にTaqMan real-time PCR法が用いられる。HCV抗体陽性でも、HCV-RNA陰性の場合は既感染・治癒症例と診断する。HCVウイルス量は、治療成功予測因子でもある。抗ウイルス治療後の効果判定にも用いられる。発癌とウイルス量は相関しない。
- HCV-RNA定量のDNA-probe法やTMA法は、測定感度が低く、現在はあまり用いられない。
- HCV-RNA genotype/serotype:HCV-RNAの型によってインターフェロン療法の治療効果推測に用いられる。
- 肝障害
- 肝線維化
- 肝機能
- 肝細胞癌の腫瘍マーカー
- AFP、AFP-L3、PIVKA-II:これらは肝炎マーカーではないが、肝癌スクリーニングのため、上記検査と同時に行われることが多い。
画像検査
以下の画像検査によって、慢性肝炎~肝硬変・肝細胞癌の発生を評価していく。
病理組織検査
治療
慢性C型肝炎の治療の目的は、慢性肝炎の沈静化(ALTの正常化)と、その後の肝硬変への移行・肝細胞癌発症の阻止にある。急性C型肝炎は基本的に保存的加療がなされる。急性肝炎を参照。
抗ウイルス療法
抗ウイルス治療はC型肝炎ウイルスを排除する治療である。一般的にインターフェロン療法を基本として行われ、治療方法はウイルスの「serotype(血清型)」によって選択される。治療効果は血液検査にてHCV-RNA量を測定して評価し、治療終了後6ヶ月の時点までHCV-RNA陰性が持続している状態を「ウイルス学的著効 (SVR; sustained virological response)」と言う。
- インターフェロン治療(IFN)
- インターフェロン (IFNα) を基本とし、IFNα単独療法から、IFNα2b(イントロンA®)+Ribavirin(リバビリン)併用療法が開発され発展してきた。現在は以下のポリエチレングリコールを付加し体内停滞時間を持続させたペグインターフェロン (PEG-IFNα)+リバビリンの併用療法が行われる。基本は24週間の投薬で、治癒が見られない場合は更に24週間の計48週間の投薬治療が行われる。
- PEG-IFNα2a(ペガシス® Pegasys)+Ribavirin(コペガス® Copegus)
- PEG-IFNα2b(ペグイントロン® Pegintron)+Ribavirin(レベトール® Rebetol)
- また以下のIFNを用いることもある。
- IFNα(オーアイエフ® OIF)
- IFNα(スミフェロン® Sumiferon):肝硬変進行例でも適応
- IFNβ(フェロン® Feron):肝硬変進行例でも適応
- Consensus-IFNα・IFNαcon1(アドバフェロン® Advaferon)
- 直接作用型抗ウイルス薬(Direct acting Antiviral Agents:DAAs)
- 難治性の遺伝子型1b型高ウイルス量症例に対して、以下の直接作用型抗ウイルス薬(Direct acting Antiviral Agents:DAAs)が開発され併用されている。
- PEG-IFNα+Ribavirin+DAAsの3剤併用療法、またはDAAs×2剤併用療法が行われている。ただDAAsのみの場合はインターフェロンと異なり薬剤耐性の問題があり、選択は慎重に検討される。
- ギリアド・サイエンシズ社のソフォスブビルとレディパスビルの合剤はSVR 98-99%であった。[4]
- NS5B(ポリメラーゼ阻害薬)
- ソフォスブビル Sofosbuvir(GS-7977)
- NS5B(ポリメラーゼ阻害薬)
- 血液浄化療法
- VRAD(virus removal and eradication by DFPP:ウイルス除去療法)と呼ばれ、IFN治療に二重濾過血漿交換療法を併用することで治療効果を高める目的で施行される。
- その他
- 一般的では無いが、スタチン(脂質異常症治療剤)製剤をインターフェロンに併用して行う治療方法があり、臨床学的信頼性は低いものの、安価でかつ可能性のある療法として選択されている。スタチンによりウイルスが成熟に必要な脂質が不足し、ウイルス複製を阻害すると考えられている[5]。
肝庇護療法
抗ウイルス療法以外に、ALTの正常化を計る目的で、以下が用いられる。
- グリチルリチン(SNMC:強力ネオミノファーゲンC®)
- ウルソデオキシコール酸(UDCA:ウルソ®・ウルソサン®)
- 肝臓加水水解物(プロヘパール)
- 小柴胡湯(漢方):IFNとの併用は間質性肺炎のリスクが高まるとのことで併用禁忌薬
その他
- 血中の鉄分が肝障害を与えるとし、瀉血療法を用いることもある(鉄による酸化ストレスを軽減すると考えられている)。
- シクロスポリンを併用している肝/腎移植後や乾癬を合併したC型肝炎患者では、HCVの増殖が抑制されることが観察されている。研究ではシクロフィリンがHCV複製に重要な働きをしていることが示唆されている[6][7](類薬であっても、シクロフィリンでなくFKBPに作用するタクロリムスでは抑制されない)。
- ウイルスを排除できた (SVR) 後にも、SVR肝癌と呼ばれる発癌症例がまれにみられるため、インターフェロン治療終了後も肝癌スクリーニングは必要とされる[8]。
予防
針刺し事故では速やかに傷口を洗い流す。事故後に予防的にインターフェロンを投与することもある。
脚注
関連項目
- ラクトフェリン
- 薬害肝炎
- 抗ウイルス療法
- World Community Grid - 新薬開発のための分散コンピューティング
外部リンク
- C型肝炎 国立感染症研究所
- C型肝炎およびC型肝炎ウイルスとは 独立行政法人国立国際医療研究センターテンプレート:Link GA
- ↑ Ann Intern Med 2013 Jun 25; [e-pub ahead of print].
- ↑ Hepatology 2013 Mar; 57:881.
- ↑ 口腔癌患者における肝炎ウイルスの持続感染とその臨床的意義 日本口腔科学会雑誌 Vol.49 (2000) No.2 P112-121
- ↑ http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1402454
- ↑ テンプレート:Cite journal
- ↑ 学術月報 57(8): 704-708, 2004
- ↑ 医薬ジャーナル 40(7):1990-1993, 2004
- ↑ 内科 106(6): 1104-1105, 2010