肝硬変
テンプレート:Infobox Disease 肝硬変(かんこうへん、英: Liver cirrhosis)は肝臓病の一つである。慢性の肝障害の進行によって、肝細胞が死滅・減少し線維組織によって置換された結果、肝臓が硬く変化し、肝機能が著しく減衰した状態を指す。肝炎は可逆的であるが、肝硬変は非可逆的である。
目次
疫学
ウイルス性肝炎(B型肝炎、C型肝炎など)、アルコール性肝疾患、原発性胆汁性肝硬変、原発性硬化性胆管炎、ヘモクロマトーシス、自己免疫性肝炎、Wilson病などの慢性肝疾患が原因となり、あるいはこれらの疾患が進行した終末像である。[1] 日本には40万人の肝硬変患者がおり、60%がC型肝硬変、15%がB型肝硬変、12%がアルコール性肝硬変である(新臨床内科学 第8版)。かつては日本でも日本住血吸虫の有病地において、虫卵と栄養不良を原因とする肝硬変もみられた。最近ではメタボリックシンドロームに関連した非アルコール性脂肪性肝炎 (NASH) が原因として注目されている。
症状
- 軽症では 食欲不振、易疲労感(疲れやすくなる)、体重減少などが見られる。
- 急性増悪(悪化)の場合、黄疸を伴う。
- 重症化すると、下肢の浮腫、腹水による腹部の拡張(膨満という)、意識障害(肝性脳症)などが生じる。
- 重症例では食道静脈瘤の破裂による吐血も見られる。
- 他に、細菌感染を併発しての発熱、凝固因子欠乏による鼻血、歯茎からの出血などが見られる。
- しばしば肝細胞癌を合併する。
- その過程で下記に示すような特徴的な身体所見があらわれる。
身体所見
- 皮膚にはクモ状血管腫(vascular spider:前胸部にできやすい)、手掌紅斑(palmer erythema:手のひらの小指側の丘が紅潮する)を認めることがある。
- 黄疸の出現にともない眼球結膜は黄染し、進行すれば皮膚も黄褐色からややどす黒い色調を示す。(偽性黄疸との違いは、眼球結膜黄染の有無である)
- 肝臓左葉は腫大し、硬く、鳩尾(みぞおち)付近に結節性の辺縁を触れることがある。門脈圧亢進に伴い脾臓も腫大する。
- 門脈圧亢進症に伴い、食道静脈瘤、腹部の静脈の怒張(「メデューサの頭」, caput Medusae)や痔核を認めることがある。
- 末期では腹水、胸水、むくみ(浮腫,edema)、下腿の点状出血(紫斑,purpura)を認める。
- 肝性脳症を合併した場合、特徴的な羽ばたき振戦(flapping tremor)を認め、意識障害や昏睡状態となることもある。
検査
血液検査
肝機能(AST(GOT)、ALT(GPT)等)は軽度異常であることが多く、肝硬変の程度をはかる指標にはならない。 肝硬変の程度を測る指標としては、血清アルブミン濃度の低下、総ビリルビン濃度の上昇、プロトロンビン時間の延長、コリンエステラーゼの低下がある。
他に、肝硬変に特有の検査として、肝臓の線維化マーカーであるヒアルロン酸やIV型コラーゲン7S,プロコラーゲンIIIペプチド(P-III-P)も用いられる。これらの異常は肝硬変であることを強く示唆する。 排泄能の評価にはインドシアニングリーン静注後15分の停滞率を測定することが多い(略号ICG15)。
そのほか、血液中の血小板数の減少(C型肝炎において肝線維化との相関が強い)、白血球減少、貧血、血清γグロブリンの上昇を認める。[2]
肝硬変患者は糖尿病を合併することがあり、しばしば血糖値とHbA1c(ヘモグロビンA1c分画)の上昇を認める。
- 肝臓のブドウ糖吸収能、糖新生能は、ともに肝硬変で低下するため、高血糖・低血糖がともにみられる。
肝臓によって合成される非特異的コリンエステラーゼ値・アルブミン値は、肝臓の蛋白合成能を反映し、肝硬変ではしばしば低下する。
成因についての検査としてはウイルス学的検査(HBV抗原・抗体, HCV抗体など)、自己免疫学的検査(ANA(Anti-Nuclear Antibody:抗核抗体),AMA,AMA-M2分画=抗PDH抗体など)などを行う。
肝生検
肝生検では、再生結節を伴う線維化した肝組織を認める。再生結節の大きさが3mmより小さいものは小結節性肝硬変と分類され、アルコール性肝硬変に多くみられる。3mm以上のものは大結節性肝硬変と分類され、ウイルス性肝硬変に多くみられる。日本では大結節性肝硬変が多い。近年、超音波や腹部CTなどの画像診断技術の進歩に伴い、肝硬変の診断における肝生険の意義は薄れつつある。
上部消化管内視鏡検査
上部消化管内視鏡検査にて、食道・胃の静脈瘤を定期的に検索することは、生命予後を改善する上で重要である。
画像診断(CT、超音波など)
腫大した肝左葉と萎縮した肝右葉、mesh pattern(小網目状)の実質、鈍化した辺縁、肝表面の凹凸が 腹部超音波検査や腹部CT検査で共通にみられる典型的な肝硬変像である。しばしば腹水が見られる。
腹部超音波検査では、肝臓の再生結節、門脈圧亢進を反映した胆嚢壁の肥厚を認める(胆嚢静脈が門脈に還流するため)。左葉の腫大については、腹部超音波検査で尾状葉(S1)が大動脈の位置まで達していれば、左葉腫大と判定する。
アルコール性肝硬変では、再生結節が小さく均一に分布するため、両葉が腫大し、実質は粗くなく、表面の凹凸も目立たない。
傍臍静脈や左胃静脈の拡張・脾後腹膜短路など、側副血行路の形成も認める。
肝硬変にはしばしば肝細胞癌が合併するが、造影剤を用いたダイナミックCT・MRI検査や超音波ドップラー法などで、癌組織内の血流を評価する検査が癌の診断に有用である。
治療
- アルコール性肝硬変ではアルコールを中止することが最も効果のある治療である。
- ウイルス性肝硬変においても、禁酒は予後を改善する。
- C型代償性肝硬変では、セルログループ1の低ウイルス量例とセログループ1以外の症例に天然型インターフェロンβを用いる。
- B型肝硬変ではHBV-DNAが陽性の症例にはエンテカビルを用いる。[3]
- 5年間にわたるテノフォビル投与により、HBVによる肝硬変患者の約75%は、肝硬変が改善していた。[4]
- アルコールは肝硬変を悪化させる、健康食品などによる過剰なたんぱく質の摂取は肝性脳症を誘発する、過剰な塩分の摂取は腹水を悪化させることが知られており、禁酒と食事中の蛋白・塩分制限が必要になることがある。肝硬変患者では消化管での脂溶性ビタミン、特にビタミンKの吸収が低下するため、ビタミン剤の補給が必要になることがある。
- 腹水や浮腫の治療としてスピロノラクトンやフロセミドなどの利尿薬の内服や、腹水穿刺やLe-Veen shuntによる物理的な腹水の除去が行われることがある。門脈圧亢進症に対してTIPS(経頚静脈的肝内門脈肝静脈短絡術)など血管内治療による治療が行われる場合もある。いずれの治療法にせよ、病期の進行とともに治療は困難となることが多い。
- 特発性細菌性腹膜炎が腹水の原因である場合は、第三世代セフェム系抗生物質を使用する。腹膜炎の発症のリスクの高い患者では予防的な抗生剤の内服を行うこともある。
- 貧血に対してはその原因に応じて鉄剤やビタミン剤を補給する。輸血が必要になることもある。
- 出血傾向に対する治療としてビタミンKの補充や、血液凝固因子の補充を目的として新鮮凍結血漿の輸血が行われることがある(これはアルブミンの補充にもなる)。
- 腎機能の低下(肝腎症候群)や呼吸機能の低下(肝肺症候群)を合併することがある。この場合、予後は著しく不良である。
- 低アルブミン血症を改善するために分岐鎖アミノ酸製剤(BCAA顆粒製剤)を服用することが推奨されている。肝不全の悪化や食道静脈瘤破裂、肝細胞癌発生の抑制が期待できる。
- 肝硬変ではしばしば下肢のこむら返りがみられる。ジアゼパムやダントロレンなどによる神経系の抑制のほか、芍薬甘草湯が効果を示すこともある。
肝移植
米国では脳死肝移植が一般的だが、日本では生体肝移植が一般的である。移植後は拒絶反応を抑制する目的で免疫抑制薬(タクロリムス)が用いられることが多い。
予後
肝硬変患者の予後を予測するための指標として、Child-Pugh(チャイルド・ピュー)分類(肝性脳症の有無、腹水の有無、血清総ビリルビン値、血清アルブミン値、PT活性値などで分類)がしばしば使われる。肝硬変の予後は、肝不全、消化管出血、肝細胞癌の合併症により決定される。特にC型肝硬変では肝細胞癌の合併が多く、中でも予後は比較的不良である。肝移植が成功した患者では、その予後は著しく延長する。
脚注
関連webページ
関連項目