音韻学

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音韻学(おんいんがく)とは歴史的な中国語および漢字音音韻変化を研究する学問分野。近代的な学問区分では歴史言語学の一部といえる。

歴史的背景

宋代明代を通じ、朱子学を始めとする理学によってという世界の根本的実在の体得を第一とする学問が隆盛した。その影響は儒教の経典である四書五経に対する解釈にも及び、まず理論があってそこから演繹的に理解をすすめ、ともすすれば主観的・独善的な解釈に陥ることがあった。このような状況への批判から清代には学問を修める方法はまず「実事求是」といった実証にあり、典拠となるより多くの資料を集め、それらを比較して帰納的に結論を導きだすといった考証学が行われた。古典中に見られる音に着目した音韻学は文字学訓詁学校勘学と並んで中心的な役割を果たした。

考証学では漢代から唐代に至る古典解釈学であった訓詁学の資料に着目し、その復古から始められた。音韻学者たちはまず資料が豊富にある今韻すなわち唐代を中心とした中古音を解析し、やがては『詩経』の古韻、すなわち上古音を復元する作業に向かうといった方法論をとった。その根拠となったのが言語音は時代や場所によって変化するという古今音変説にあり、このような歴史的な音韻変化という観点が生じたことによって音韻学は劇的に発展した。当時においては中古音や近古音を研究する学問は今音学、上古音を研究する学問は古音学と呼ばれた。

『詩経』古韻に関する研究は宋代にようやく萌芽が見られ、叶韻説を緝めた呉棫や、広韻を六部に分けた鄭庠といった学者がいた。しかし、詩経から宋代までの文献を区別なく使用するなど客観性を欠いていた。末に至り陳第が『毛詩古音考』において今と古えでは音が違っていたという観点を初めて提示し、清初の顧炎武は『音学五書』を著して陳第の今古音変説をもとに古音に関する多くの考証(参照『唐韻正』)を行い古音を十部に分け(参照『古音表』)、音韻学の基礎を築いた。かれの着眼点は入声の紛乱していた分かれていなかったものならびに分れ他音にわかれてしまっていたものを分つことにより、古音の分かれ目を見つけ出すというものでもあった(所謂「某某の半ば」)。

資料

現在資料として使用できる生のサンプルは北京語広東語閩南語などの諸派中国語及び日本語の漢字音(音読み)、朝鮮語ベトナム語の漢字音などである。

歴史的に中国大陸では少数民族が入り乱れて発音体系の変化が激しく、正確な中古音・上古音を推定することは困難を極める。 このため、書籍資料に頼ることが多くなる。代表的な史料は『広韻』などの『切韻』系韻書や『中原音韻』といった韻書、『韻鏡』を始めとする等韻図などである。

藤堂明保の『中国語音韻論』には各資料による構築が述べられている。

関連項目

外部リンク

  • KOTONOHA単刊目録 - 漢語音韻学入門のテキスト。PDF形式で無料でダウンロードできる。