除雪
除雪(じょせつ)は、主に積雪地において交通や場所の確保など冬季の円滑な社会活動の運営を目的として、雪や氷を除くことである。
目次
概要
家の出入口や駐車場など比較的小規模なもの、階段など機械の入れないところは、人力で行なわれるが、道路や線路などで、積雪量や除雪範囲の大きい場合は、重機や除雪車が使用される。人力で行う除雪作業は、雪掻き(ゆきかき)、雪除け(ゆきのけ)、雪片し(ゆきかたし)、雪透かし(ゆきすかし)、雪撥ね(ゆきはね)、雪掘り(放り)(ゆきほり)、雪寄せ(ゆきよせ)、雪投げ(ゆきなげ)、など、地方・地域によって様々な呼び名がある。なお、除雪された雪を離れた場所に移すことを、特に排雪と呼ぶ。
近代以前の雪国では、積雪期に備えて、2階にも出入口を設けたり、アーケード状に長く連ねた軒先(雁木)で通路を確保するなど、雪と共存する為の工夫を強いられてきた。人の歩く道は足で踏み固め(雪踏み)、荷物の運搬ではソリなども利用された。鉄道や自動車の登場によって除雪の必要性は格段に増した。今日では冬季においても至る所で、自動車の通行が不可欠となっており、除雪は極めて現代的な問題である。
毎年かかる多額の除雪・排雪予算、排雪した雪の処分場所の確保、雪中の廃棄物の処理といった問題は、雪国の自治体の悩みの種となっている。
建築物における除雪
家屋が雪の重みで崩れないようにするために屋根に上り、屋根に積もった雪を下へ落とす作業(雪下ろし)や、さらに積雪が多い場合には家の周囲に壁の様になった積雪の上へ屋根雪を投げ上げる作業(雪掘り)などとは区別されるが、これらを含む場合もある。足元の滑りやすい高所での作業となるため、毎年、転落事故が後を絶たない。近年では、自宅用に融雪機やロードヒーティングを設置する家や、家庭用の小型除雪機を持つ家も増えてきている。高齢者の一人暮らしなど、除雪することが困難な家屋が増えてきたため、除雪ボランティアが呼びかけられている地域もある。
手作業では、軽量化、あるいは屋根などを傷つけないための簡単なプラスチックやアルミでできた四角いスコップがある。圧雪の場合はこれらでは歯が立たないので、鉄製の角スコップが用いられるほか、鶴嘴(つるはし)なども使用される。鶴嘴や剣先スコップは屋根に穴を開ける恐れがある。また、より多くの雪を除雪する場合は、スノーダンプ(あるいはママさんダンプ)と呼ばれる、ソリの機能を兼ねたシャベルが便利である。また滑走路でも除雪車を使い除雪し、滑走路を除雪する。
道路の除雪
20世紀半ばまで、日本では幹線道路の除雪は行われず、冬の積雪地の運輸は馬そりによっていた。第二次大戦後、日本に進駐してきたアメリカ軍の要請を受ける形で一部幹線道路における除雪が開始され、1950年頃から除雪車を用いた機械除雪が本格的に行われるようになった[1]。1956年(昭和31年)に「積雪寒冷特別地域における道路交通の確保に関する法律」(積寒法)が制定、これに基づいて翌57年に第一次積寒五カ年計画が策定され、道路除雪が進められた[2]。
道路除雪は用途や規模に応じて次のような機械を用いて行われる。 テンプレート:See also
- 除雪トラック
- ロータリー除雪車
- 車体前部に横向き水平の軸を持つオーガで雪を掻き込み、ブロワーで上方向に雪を飛ばす。吐出口の向きを変えることにより、雪を路側や路外に飛ばしたり、運搬排雪のダンプトラックに積み込んだりする。多くは9ナンバーの大型特殊自動車。
- 除雪ドーザ(装輪式)
- 除雪ドーザ(装軌式)
- 除雪グレーダー
- 車体下部にスクレイパーを持つ重量車。路面整正に用いる。
- バックホー(油圧ショベル)
- 傾斜地や入り組んだ場所の雪を掻き出したりするために用いる。
- 小型除雪車
- 歩道などを除雪する小型のロータリー除雪車や、小型特殊自動車のミニショベル等。
- 凍結防止剤散布車
- 車両後方に散布装置を備え、積載している凍結防止剤等を散布しながら走行するトラック。多くは8ナンバーの特種用途自動車。
- ダンプカー
- 運搬排雪などで雪を雪堆積場などへ運ぶトラック。多くは夏季に土砂を運搬している貨物自動車運送事業者の1ナンバーの車両を流用しており、荷台アオリに差し枠を入れて側板を取り付けてかさ上げしているものが多い。北海道トラック協会では行政や道路管理者との協議の上、この側板の高さを左60cm、右80cmとする取扱要領を自主制定している(左側を低くしているのは積み込みを容易にするため)。
- 北海道開発局 除雪車01.JPG
国道を除雪する北海道開発局のクオン除雪車
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日本除雪機製作所 HTR202型ロータリー除雪車
- 網走市除雪ドーザー.JPG
マルチプラウを装備した除雪ドーザー
- 網走市除雪グレーダー01.JPG
作業中の除雪グレーダー
- 網走市歩道用除雪車02.JPG
作業中の歩道用ロータリー除雪車
- 女満別町除雪ダンプカー01.JPG
総輪駆動の除雪ダンプカー
- 排雪仕様ダンプカー01.JPG
差し枠を入れて排雪仕様になったダンプカー
道路除雪の作業工種
- 北海道開発局 除雪車01.JPG
雪を路側に排除する新雪除雪
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除雪ドーザーと油圧ショベルによる拡幅除雪(山地)
- Rotary Clearing snow blower002.JPG
小型ロータリ除雪車による歩道除雪
- Snow removal01.JPG
小型ロータリー車とダンプカーによる運搬排雪
- 網走市内の運搬排雪作業01.JPG
網走市内の運搬排雪作業
- 一般除雪
- 新雪除雪
- 路面に降ったばかりの雪を路側に排除する作業。
- 路面整正
- 路面整正には2つの作業方法があり、1つは路面上に形成された氷盤や、轍掘れした圧雪の不陸を除去・切削し平滑化する作業ともう1つは、春先などの路面の雪を削らずに地面に引き伸ばし平坦にする作業と2つある。
- 拡幅除雪
- 路側に堆積した雪を、ロータリーや除雪車などで外側に排除したり、雪堤に積み上げたりする作業。その後の除雪に備える。ただし、これ以上に拡幅できない場合は運搬排雪を行う。ただ、近年では通学路など、学生が多く通行する路線では車の確認ができず、危険が伴うことから拡幅除雪をやめ、住宅地路線や交通量の少ない路線の出動回数を減らし、通学路や交通量の多い路線の運搬排雪の回数を増やしている自治体が増えている。一方で、住宅地路線や交通量の少ない路線では運搬排雪をやめ、拡幅除雪が増加しているようだ。
- 新雪除雪
- 運搬排雪
- 運搬排雪には2つある。排雪対象となる基準としては雪堤が成長し、路側への堆積や拡幅の余地がなくなったときに排雪を行い、雪を雪堆積場などに運搬し、車道部の堆雪のみの排除と、歩道部も含めて全て排除する全面排雪がある。また、主要幹線道路(バス路線や通学路も含む)以外にも準幹線道路や住宅地路線(生活道路とも呼ばれる)でも行われる。しかし、近年は財政難ともあり、準幹線でも主要幹線と同様の機能を持つ路線以外の道路や住民が少ない住宅地路線や農家の人のみ利用する道路では費用を抑え、運搬が必要な場合でも雪堤の上や空き地、空きスペースなどに雪を拡幅し、路線を確保する場合が多い。また、冬季に交通量や人通りが少ない路線では除雪を一切行わない場合もある。
- 歩道除雪
- 通学路の確保を優先に、夜間から早朝にかけて全体の歩道を児童が登校する時間帯までに確保を目標設定し、実施しされる。
- 凍結防止剤散布
- 路面の凍結や圧雪化の防止や、氷盤化した圧雪の融解のため、凍結防止剤や融雪剤、防滑材(砂)を機械または人力で散布する作業。近年は除雪の費用を抑えるため、散布する場所を交差点やバス停、歩道などに絞っており、機械での散布から道路沿いや町内会の人たちが協力し合って散布するのが増加している。
- 附帯除雪
- 機械による除排雪が困難な箇所の作業や、各種標識の設置・補修、氷柱除去作業など、人力による作業。
行政発注路線の除雪目標
近年、各自治体では除雪目標の考え方が変わってきている。
- 第1種除雪
- 昼夜2車線以上の確保を原則とする。主要幹線(バス路線や通学路)を説明する。基本的に交通量の多い昼間は通行に著しく支障をきたす場合を除き、夜間に除雪を行う。運搬排雪も同じである。
- 第2種除雪
- 昼間2車線(5.5m)以上の確保を原則する。準幹線を説明する。夜間は除雪しないが近年、各自治体は、交通量が多い場合や登下校する学生、ゴミの有料化に伴い戸別回収に変わった地域が多いことや、郵便や宅配便業務に支障が出たり、家の前に車を出す場合もあることから、昼間の除雪より、夜間に除雪が行われる。異常降雪時は極力1車線以上の確保を図る。
- 第3種除雪
- 最低でも1車線確保を原則とし、夜間は除雪しない。住宅地の路線を示す。近年、各自治体は、登下校する学生やゴミの有料化に伴い、戸別回収に変わった地域が多いことや、郵便や宅配便業務に支障が出たり、家の前に車を出す場合もあることから、昼間の除雪より、夜間に除雪が行われる。状況によっては車が通行できる最低限の幅員(約3m)を確保する。異常降雪時には緊急のライフライン(救急車や消防など)がマヒするのを防ぐために昼間に除雪を行う場合もあり、一時通行止めもやむを得ないものとする。
行政発注路線の出動基準としては、新雪除雪では従来降雪10cmを基準としていたが、財政難で10cmの降雪があり、今後とも雪が降り出す恐れがある場合に出動するや15cmの降雪をめどに出動する場合が多い。
散水消雪
除雪作業を不要にする装置もある。水を道路に流して雪を除くことを散水消雪(消雪)、道路を下から温めるものをロードヒーティングという。こうした装置は費用がかかるため、交差点、坂道、主要道路、除雪車の入りにくい住宅密集地の道路などに重点的に取り付けられる。近年では除雪費用軽減のため、ロードヒーティングを使用しない自治体が増えてきており、新規に造成する場合には住民負担で設置・維持するよう指導する自治体もある。
散水消雪は特に消雪パイプと呼ばれ、この消雪パイプは新潟県長岡市が発祥の地とされる。北陸から東北にかけての比較的気温の高い地方で行われる。地下水をポンプで汲み上げ、道路上に埋め込んだノズルから噴出し、雪を融かす。坂道では坂の上から水を流すことによって同様の効果を得る。消雪のための地下水くみ上げが地盤沈下問題を引き起こした地域がある。
北海道など気温が低いところでは、消雪の為の水自体が凍ってしまうなどの問題で散水消雪等の消雪装置は用いられず、もっぱらロードヒーティングを用いる。地面を温めるための熱源には、電気、石油、ガス、温泉、地熱、地下鉄やごみ焼却場の廃熱など様々なものがある。近年は地球温暖化や歳出削減などの理由で、ロードヒーティングの新設を抑制し、既設のものも可能な限り停止する傾向にある。
鉄道の除雪
かつては専用の雪かき車を機関車で推進して除雪を行い、大規模なものとしてはキマロキ編成のようなものも用いられた。そのほか、人力も大変重要で、構内の除雪、ラッセル車で線路両側にかき分けた雪が次の除雪の障害にならないようさらにかき分ける作業(段切り)など多くの人手を必要とし、そのため地元住民によって除雪組合のような組織も作られていた。また捨て場のない雪を無蓋車やホッパ車などに積み込み、橋梁などで捨てるいわゆる「雪捨て列車」にも多くの人が乗り込み、列車間合いの短時間で雪を捨てるべく努力した[3]。
しかし現在では除雪用ディーゼル機関車(DD14、DE15など)や、モーターカーの発達により、格段に機械化が進むとともに、従来の雪かき車は殆ど用いられなくなった。また上越新幹線などでは大規模な融雪装置も使用されている。
また、ポイント部分においては、雪の量は大したものでなくとも、凍結によって転換が不可能になると列車の運行に致命的な影響を与えるため、電気融雪装置などが開発されているが、場合によっては一時的にポイントにカンテラを仕掛けて融雪装置とする場合もある。
低温のため雪の湿り気が少ない北海道の路面電車と、かつて存在したインターアーバンの除雪には、スノープラウ式の雪かき車のほか、回転する竹ブラシで雪を跳ね飛ばすササラ電車が古くから用いられている。
温暖地で除雪車両のない場合や運行形態が過密路線で除雪車両の運行が困難な場合、乗客を乗せない終夜運転で線路上の積雪をある程度防止でき[4]、現在でもそのような運用をすることがある[5]。
航空機の除雪
積雪地の空港での駐機時に機体可動部や翼などに付着した雪氷を、飛行の妨げにならないよう、スノーバーにより機体除雪液、またはブロワーにより圧縮空気を噴射するなどして取り除くことを機体除雪という。
ジェットエンジンの風で除雪することも行われている(外国の空港や鉄道)[6]。
スポーツ雪かき
スポーツ雪かきは、高齢化が進み担い手不足に悩む豪雪地帯の除雪問題をスポーツの力で解決することを目的に考案された。4人一組となって降り積もった雪の巨大ブロックを砕いて10メートル離れた陣地へ運びそのタイムを競う競技(スノーショベリング&ムーブトライアル)と運ばれた雪を使って雪だるまを製作してその大きさと数を競う競技(スノーマンコンテスト)と除雪困難地域のボランティア雪かきによって構成されている。[7][8]。2013年10月に設立された一般社団法人日本スポーツ雪かき連盟公認のもと[8]、2014年1月に小樽市で「第1回国際スポーツ雪かき選手権in小樽2014」(主催・国際スポーツ雪かき選手権実行委員会)が開催され1日目の「1st STAGE スノーショベリング&ムーブトライアル」、「2nd STAGE スノーマンコンテスト」、2日目の「ボランティア雪かき」で実施される[7][8]。
脚注
- ↑ テンプレート:Cite book
- ↑ 北国の除雪の歴史 NICHIJOの誕生のあゆみ「社会の出来事 NICHIJOの動き」、日本除雪機製作所ホームページ
- ↑ 映画『雪にいどむ』(株)日映科学映画製作所1961年製作。
- ↑ よく使うポイントの凍結も防止できる。
- ↑ 昭和35年頃西武鉄道池袋線で始めたのが広まったという話がある。北海道札幌圏内では昼夜を問わない電車の頻回な運転と装着しているスノープラウの効果により大雪でも線路への積雪が最小限に抑えられる効果がある
- ↑ 日本でも実験が行われたことがあった。
- ↑ 7.0 7.1 テンプレート:Cite web
- ↑ 8.0 8.1 8.2 テンプレート:Cite news