ササラ電車
ササラ電車(ササラでんしゃ)は、札幌市電と函館市電で積雪期に運行される除雪用の車両である。「ササラ」とは車体前面に取り付けられた竹製のブルーム(箒)を指し、これが回転して軌道上の雪を排除する。
正式名称は「ロータリーブルーム式電動除雪車」。
毎年11月下旬から12月上旬にかけて、冬の便りとしてこの電車の初出動の様子がニュースなどで取り上げられる。
なお、かつて札幌市電に存在した非電化路線用の「ササラ気動車」(内燃除雪車)についてもこの記事で扱う。
ササラの構造
茶せんとほぼ同様に細く裂いた竹で出来ており、1束のサイズは長さ28.5cm、直径3.5cmの円柱形となっている。束は先端で3m角の150本に別れ、さらに根元側は太さ1.2mmの針金で3箇所を束ねられている。この束をナラ材で作られた長さ2.4m幅6.5cmの木製の台に50本、1列に並べて台に取り付け、さらにこの台を回転軸の周りに放射状に8列取り付けてある。回転軸は右側が前に突き出た斜め向きになっており、車輪と逆方向に回転し、回転軸は路面状況やササラ先端部の摩耗などに応じて上下に動かすこともできる。ササラの耐用距離は700から800kmとなっている[1]。
ササラの材料としては長らく山口県福栄村(現萩市)産の孟宗竹が使われてきたが、供給元の業者の廃業後は全国各地から調達している[2]。ナイロン製など他の素材が試験的に用いられたこともあるが、十分な除雪効果があり、かつアスファルト路面を傷つけない点などから現在でも竹が使われている[3]。
ササラ電車の歴史
札幌電気軌道(札幌市電の前身)技師長である助川貞利を中心とする同社技術陣が、海外の文献を参考にして開発した[4]。路線開通以来、札幌電気軌道では作業員による人海戦術で除雪作業を行っていたが、降雪量が多くなると作業が追い付かず運休に追い込まれる事も度々であった。より能率の高い除雪方法が求められ、研究の結果1920年に最初のササラ電車が登場し[2][5]1925年に実用化された[4]。ヨーロッパやアメリカではブラシを回転して除雪するシステムは19世紀末にすでに用いられていたが[6]、札幌電気軌道では台所用品のささらをヒントにブラシの部分に竹を利用する方法を考案した。
最新の車両では細部に変更が加えられているが、基本的なシステムは開発から90年以上経った現在もほぼそのままである。
函館では札幌から遅れること12年後の1937年に10形及び200形(2代)を改造してササラ電車が製作された。
旭川市街軌道においても1931年から1956年まで排1型というササラ電車が使用されていた。1956年6月9日の路線廃止後に排1号が旭川電気軌道に譲渡され、1973年1月1日の同線営業廃止まで無番号の電動排雪車として使用されていた。
ササラ電車の一覧
- 札幌市交通局
- 雪1形 - 1949年11月に電動客車40形を改造して局工場で8両が製造され、1969年9月から1970年11月までに鋼製車体に更新されて3両が現役。また雪8は木製車体のまま1971年10月廃車され、札幌市交通資料館に保存[7]。
- 雪10形(2代)- 1999年に雪1形4号を改造して札幌交通機械で1両製造。ブルーム駆動は雪1形のチェーン式に対して油圧式で、騒音を低減している。氷結路面用にアイスカッター(スパイクを埋め込んだ鉄棒を回転させて氷を砕く)を装備[8]。札幌市交通局の現役除雪車は雪1形、雪10形ともに廃車発生品のウェスティングハウス製B-18L形制御器を走行用に使用。年式の新しい国産品よりも構造がシンプルで過負荷運転に強く故障対応も容易なため。ブルーム駆動用はゼネラル・エレクトリック製を改造したものを使用[9]。モーターは、37.3kw×2個(走行用)、18.7kw×1個(ブルーム駆動用)を搭載[10]。
- DSB1形 - 非電化区間用に1961年2月から1964年12月までに札幌綜合鉄工場で3両が製造された内燃動車(ディーゼルカー。DSBは「ディーゼル・スノー・ブルーム」の略)。1971年10月に廃車。DSB1が札幌市交通資料館に保存[11]。変電所容量に余裕がないラッシュ時間帯には電化区間でも使用された。
- 函館市企業局交通部
- 旭川市街軌道→旭川電気軌道
- Sapporo streetcar snowplowcar.JPG
雪1形(鋼体化現役車)
- Sapporo streetcar YU KI 8.JPG
雪1形 雪8号
- Sapporo streetcar DSB1.JPG
内燃除雪車 DSB1形
ササラ電車の運転状況
- 札幌市電
- 例年10月中旬にササラを取り付け報道公開を行い、軌道に雪が頻繁に積り始める11月下旬から運行する。
- 積雪時には始発前に運行するほか、降雪状況によっては深夜や日中も運行する。
- 函館市電
脚注
参考文献
- 札幌市教育委員会『市電物語』〈さっぽろ文庫〉22、北海道新聞社、1982年。
- 鉄道図書刊行会「鉄道ピクトリアル-臨時増刊 特集 路面電車~LRT-」No.688、2000年。
- 鉄道図書刊行会「鉄道ピクトリアル-臨時増刊 全日本路面電車現勢-」No.223、1969年発行、1976年復刻。
関連項目
外部リンク
- ↑ 鉄道ファン1995年8月号 より
- ↑ 2.0 2.1 札幌LRTの会『札幌市電が走った街今昔』〈JTBキャンブックス〉、2003年、94 - 95頁。
- ↑ 日本経済新聞2009年10月19日北海道14版39面(社会)『窓』
- ↑ 4.0 4.1 沖寿雄「除雪車と散水車」札幌市教育委員会『市電物語』69頁。
- ↑ どうしんウェブ 北海道新聞 - フォト海道(道新写真データベース)でんしゃ半世紀*今もりっぱに活躍*雪国札幌で生まれた発明 【写真説明】勢ぞろいした新鋭除雪車。真ん中の二台が現在も活躍するブルーム式=大正九年写す 掲載 1967/11/172014年2月16日閲覧。
- ↑ National Capital Trolley Museam、2012年1月16日閲覧。*Capital Transit Company 07 McGuire Company,1899 の走行写真がある。
- ↑ 講神清「車輛経歴一覧表」札幌市教育委員会『市電物語』281頁。
- ↑ 早川淳一「日本の路面電車現況 札幌市交通局」『鉄道ピクトリアル』No.688、167頁。
- ↑ 横山真吾「路面電車の時代 路面電車の制御装置とブレーキについて」『鉄道ピクトリアル』No.688、87頁。
- ↑ 早川淳一「日本の路面電車現況 札幌市交通局」『鉄道ピクトリアル』No.688、167頁。
- ↑ 講神清「車輛経歴一覧表」札幌市教育委員会『市電物語』286頁。
- ↑ 「鉄道ピクトリアル-臨時増刊 全日本路面電車現勢-」132頁。
- ↑ 『鉄道ピクトリアル』2009年5月号(No.818)p.82「トピック・フォト」に出動時の写真掲載。
- ↑ 軌道内除雪用(車体前部にロータリーブルーム式のブラシを装備)と電停除雪用(車体前部にアーム付き回転ブラシを装備)がある。
- ↑ この置換えによる余剰化のため、排1・排6の2両が1997年1月31日付で廃車となった(『鉄道ピクトリアル』1997年10月臨時増刊号(No.644)「新車年鑑1997年版」p.86)。
- ↑ ササラ電車活躍【函館】
- ↑ 函館市電 2012年冬ササラ電車
- ↑ 函館市地域交流まちづくりセンターブログ まちづくりセンター活動日記 吹雪の函館