組体操

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組体操(くみたいそう) とは、体操を基礎にして、一般には道具を使用せず人間のを用いて行う集団芸術である。日本では学校運動会体育祭でしばしば披露されるマスゲームの一種である。別名は「組み立て体操」または略して「組み立て」。

呼称

日本ではタンブリングやスタンツと呼ばれる場合もあるが、日本語表現の「組体操」は個人技より集団美に重点をおくので、これらと多少意味が異なる。タンブリングとは床運動を基礎とした集団で行う近代リズム体操である。女子6人から30人位で行われるこの種の競技は日本語で「団体徒手体操」(aesthethic group gymnastics、AGG、美的集団体操の意味)と呼ばれることもあり、欧米ではスポーツクラブによる競技会が開かれている。日本で生まれ世界に広がった男子新体操 (日本英語でmens rhythmic gymnastic、欧米英語でJapanese group gymnastics) は、男子6人程度で行われるAGGに似た競技である。スタンツとは軽業を意味する米国俗語であり (スタントマンを参照) 、一人または数人で行われる小規模な演技である。四人程度でおこなわれるアクロバット体操 (acrobatic gymnastics) がこれに似る。

「組体操」に相当する統一された英語表現はまだない。「mass gymnastic」という表現がアメリカの一部のマスコミで使用されることがあるが、これは集団で行われる体操であり立体的な組み立てを必ずしも含まなのでマスゲームに近い表現である。北朝鮮のアリラン祭で披露される発展型のアクロバット体操も、日本語の「組体操」とは異なる。中国語ではかつて「団体操」とよばれたが、現代中国の「団体操」は組み立てを含まないので、mass gymnastics、mass gameに近い意味となる。他方、アメリカ、イギリス以外の英語圏の国々 (例えばマレーシア) では「gymnastic formation」という表現が使用される。この意味は日本語の「組体操」と同じである。ポルトガル語ではブラジル全土で通用する「ginástica montada」という表現があり、「組体操」を意味する。インドネシアではKumitaisoと呼ばれる。現在、世界で最も組み体操が盛んな国は日本である。

歴史

初歩的な組体操は、紀元前2000年の古代エジプト文明の壁画に観察できる。中国では漢の時代の土偶にそれが見られる。ヨーロッパでは中世以後のイタリアで祭日などに披露された。19世紀にはドイツで近代的な組体操が盛んに行われた記録がある。20世紀前半にはアメリカ体育連盟のカリキュラム研究会がタンブリングを全国で実施可能な種目として発表した。しかしながら、学校の体育授業としては採用されなかった。そのため、一部グループの努力にもかかわらず組体操は長い間成長できなかった。20世紀のチェコスロバキア(当時の国名)では、国民的行事で数千人規模な組体操がしばしば披露された。日本では現在でも学校における体育教育カリキュラムに含まれている。組体操は20世紀の終わりまでは世界各地で披露されたが、21世紀にはいると数千人規模の大規模な演技は見られなくなった。現在では日本における学校教育が最も盛んで、日本以外では香港マレーシアブラジルで盛んである。近年インドネシアでは組体操が急速に発達しつつある。 日本においては戦後、国が定める学習指導要領に組体操が盛り込まれたが現在では記載されていない。また自治体などの判断で組体操の安全面を考慮し廃止するなど、行事から外す学校も出てきている[1]

特色

組体操は一般にダンスマスゲームと同様に、得点を争うのではなく演技者の団結を一般観衆に見せるために行うことが多い。日本の学校では保護者に世界でも特筆される高度な集団教育の成果を見せる目的で行われる。そのため、赤組・白組ではなく男子・女子全員、5・6年生合同などといった団体分けをしたりする。古典的演技種目では十秒ほどの姿勢保持が必要である。そのため、バランスや筋力・筋持久力が発達した小学校高学年中学校高等学校で主に行う。しかし、それ以外の学年でもダンスのクライマックスの決め技に行うこともある。また、幼稚園遊戯でも、二段ピラミッド程度の簡単な技を行える。組体操の古典的な演技方法は、リーダー(一般には参加しない) が吹くの合図で形を作り出すのが日本では一般である。かけ声による同期も用いられる。日本の学校では先生方や児童・生徒たちの選曲による (J-POP行進曲などの) 音楽、BGMを流して形を作り出す場合もある。「カリブ海の海賊」のテーマ音楽は好まれている。2010年フィラデルフィアで行われた東部アメリカのNGOでは太鼓がBGMとして使われた。笛や太鼓を用いず音楽にあわせて行う組体操は演技者の高度な訓練を必要とする。ブラジルマレーシアのNGOではこの方法がしばしばもちいられる。1998年日本の大阪で行われた演技では、3000人が音楽を唯一の同期信号として組体操を披露した。少数の学校だが、プールの中で組体操を行う学校もある[2][3]

演技

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四段瞬間直立ピラミッド。ブラジル、リオデジャネイロ市における2011年10月30日の演技
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第2フォーメーション。ブラジル、リオデジャネイロ州、ニテロイ市における2010年11月の練習
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5人扇。ブラジル、リオデジャネイロ市における2011年9月の練習
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二段歩行壁。ブラジル、リオデジャネイロ市における2011年10月30日の演技。
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三段円塔と四段円塔。ブラジル、リオデジャネイロ市における2011年10月30日の演技。

日本の学校における体育授業ではペアを決め、2人技から練習を行っていく。基本的に背の小さい人あるいは体重の軽い人が上になる(後者の場合、下の人よりも上の人の身長の方が高い、ということもありえる)。日本ではV字バランスや肩倒立等の個人技に始まり、ペアの人と行う倒立肩車とその一種の通称「サボテン」などの2人組技、3人組や6人組などの小集団技と続き、クライマックスにピラミッドやタワーなどの大技を用いることが多い。世界各地のNGOによる一般参加者の演技はきわめて多彩であり、二次元波、人間ロケット(大砲)、風車、ヘリコプター、歩行人間城壁、歩行ピラミッド、人間起こし(カタパルト)、三段壁、カタル-ニャ式ピラミッドポセイドンの柱回転三段円塔瞬間直立三段円塔三段平面塔四段円塔、稀に五段円塔が披露される。開催国や地域によって演目は大きく異なる。1982年に日本で立ち上がった六段円塔ギネスブックに記載された。マレーシア香港ブラジルインドネシアフィリピンの演目は日本東ヨーロッパの技を基本としながらも独自の進化を遂げ、それぞれの地域の強い特色が見られる。かつては組み立て、姿勢を保持した状態での静止の繰り返しであったが、21世紀におけるマレーシア香港ブラジルの演技は極めて動的である。ブラジル国内でも、サンパウロリオデジャネイロニテロイの演技はスタイルが異なる。リオデジャネイロの演技は小規模ではあるが独創的であり芸術的完成度が高い。2011年10月のリオデジャネイロのヒバウタ劇場での演技では、五基の四段瞬間直立ピラミッドが重力に逆らうような動きを見せ舞台上で同時に立ち上がった。インドネシアの回転式二段扇も動的な演技である。21世紀に入り、組体操は静的な空間芸術から動的な時空間芸術に変貌しつつある。

規模

組体操の規模はさまざまである。10人いれば基本的な技を一応披露できるが、通常は最低でも30人以上の演技者で行われる。演技の質の美しさも大切であるが、多数の参加者による集団美は観客に深い感動を与える。30人から100人程度の演技者の場合は、舞台や講堂で披露される。100人から500人の規模では、体育館で披露される。それ以上の場合は、グラウンドで行われる。スパルタキアーダ (東欧諸国総合体育大会) では、50人くらいの単位でグループを組み、同じ演技を100グループくらいで同時に行った。演技者は総数5000人を超えるので、参加者の数の点では世界最大であった。チェコスロバキアの首都プラハには1万人の演技者、22万人の観客を収容できるストラーホフ大競技場 (英語、Great Strahov Stadium、チェコ語 Velký strahovský stadion) があり、組体操を含む大規模なマスゲームはそこでおこなわれた。1982年9月18日 - 19日に日本の西武球場で行われた3500人による演技は、巨大な単一組み上げとしては世界最大であったと考えられる。他方、ブラジルのリオデジャネイロは小規模な組体操を得意し、会場の大きさの都合などの場合によっては二十人未満の演技も行われた。

服装

日本の学校で行われる組体操の服装は基本的に体操服裸足という格好だが、踊りなどと組み合わせる場合はそれに合わせたユニフォームを着たり小道具を持つ事がある。上半身プライベートゾーンが無い男子は、鍛えられた上半身全体の肉体美を披露することで組体操の集団美を引き立たせるなどの理由で上半身で行う事がある。裸足である理由として、

  • 摩擦力が増すため、サボテン、カタルーニャ式ピラミッド、ポセイドンの柱など人の上に乗る技では滑りにくくなること
  • ピラミッドなど人の上に乗る技の時に下段の人の負担が減ること
  • 紐がほどけたり、靴が脱げることから来るトラブルをなくせること
  • バラバラの靴を履くより統一感があること

などがある。参加者が多数で男子が上半身裸で無い場合、ユニフォーム購入のための費用が予算に負担を強いる場合がある。統一性を高めるため体操帽は赤か白のどちらかに合わせるほか、脱げる事を考えて最初からかぶらない場合もある。重量種目の最下段のメンバーは運動靴を履く場合がある。日本以外のNGOによる演技では個性的なユニフォームが用いられる。とりわけ、香港の金鷹体操隊のユニフォームは世界的に見ても大変特徴的である[1]

世界の組体操

日本では組体操が大変盛んで体育の授業カリキュラムに組み込まれているが、そのような体制をとる国は現在ではまれである。西側諸国では組体操は一般的ではなかった。2009年マレーシアで東南アジアパラリンピックが開催されその開会式に組体操がNGOによって披露されたが、現在では国際体育大会ですらこのような例は少ない。北京オリンピックの際には華麗なマスゲームが披露されたが、その中に組体操はなかった。中国では1960年代まで軍人による組体操が国家の慶日に行われていたが、現在は行われていない。朝鮮民主主義人民共和国アリラン祭では大型のアクロバット体操がマスゲームの一部として披露されるる。二基の三段四角塔の頂上を構成する二人が四段目一人を支え、その上に倒立した五段目を乗せる形式である。演技時間は組み立て開始から分解終了まで一分半ほどのごく短いものであり、演技は主としてサーカスの技法による。アリラン祭のマスゲームは大変大きいが体操は小さく、日本で言う組体操とは異質の短時間演技である。しかし、日本では情報不足のためにしばしば組体操と他のマスゲームが混同される。アメリカ合衆国では大規模な組体操が行われなかったが、1983年1月9日ニューヨークの青年たちが五段円筒を披露した。2010年には約300名の青年による組体操がフィラデルフィアで行われ、続いて80人規模の組体操がニューヨークで披露された。20世紀に行われたスパルタキアーダ (東欧諸国総合体育大会) では、数千人規模の演技者による組体操が披露された。2008年にプラハで久々に開催されたときには、世界最大規模の組体操が披露された。21世紀の現代においては、学校軍隊などの強制動員力によらない自発的な組体操が、NGO諸団体によって、ブラジルマレーシア香港韓国インドネシアフィリピンアメリカでおこなわれている。日本の学校以外で行われる大規模組体操はブラジルインドネシアフィリピンが盛んである。2008年に皇太子殿下をお迎えしておこなわれたブラジル日系移民百年祭はその一例である ただし、演技者の大部分は非日系ブラジル人であった 。2009年にはサンパウロ州の州都ではない一都市、サンマテウスの独立記念日のパレードで組み体操が披露された。2013年にはリオデジャネイロ州の一都市、ベウフォルドホショの独立記念日パレードで、人間歩行城壁、瞬間起立四段ピラミッド、三段円塔、カタルーニャ式六段ピラミッドが披露された。マレーシア、香港、インドネシア、ブラジルでは組体操が地域文化になりつつある。2012年以降インドネシアの組体操が大きく進展し、2013年現在では世界最大級のグループに成長した。これらの動画はYouTubeで閲覧できる。検索はポルトガル語のginástica montada、英語のgymnastic formation、日本語の(インドネシア語でもある)kumitaisoで行うのが望ましい。組体操はかつては男子だけの演技種目であったが、ブラジルのサンパウロでは2008年以男子に混じり多数の女子 (約3割) が参加するようになった。女子の部分的な参加はそれ以前の1998年、2005年にリオデジャネイロでも行われた。上記のサンマテウス市の路上演技では、半数が女子であった。

訓練

オリンピック競技では個人や少数集団が卓越した力とスポーツで技術を競い合う、いわば一人が百歩前進する種目である。しかし、組体操は競争種目ではなく、100人が一歩前進する演技である。組体操には多人数の参加者が必要であり練習に多くの時間を割くという競技の性質から炎天下での長時間に及ぶ練習は疲労も早く集中力が低下したり熱射病へのリスクが高まる。組体操は体操が基本であるので、訓練を通した体力づくりは演技だけでなく安全のためにも大切である。器械体操とくらべると演技者個人の肉体的負担はそれほど大きくないが、全員が一定以上の体力を持つ必要があるので、実現には組織として大きな努力が必要となる。組体操の完成には全員の参加が必要であり、1人が欠けても実現できない。そのため、参加者には個人主義を克服した高水準の集団道徳が要求され、チームには高い動員力が不可欠である。これは演技の当日だけでなく練習でも同じで、1人の欠席者のために全員が練習ができなくなることがある。参加者の一人や二人に優れた能力をもつ者がいても、それだけでは組体操はできない。肉体的にも精神的にも優れた集団を養成する必要があり、とりわけ精神的な成長が重要である。参加者が確保されると、肉体、精神、安全の三方面を考慮した体力づくりの基礎訓練、初歩的な組み立ての練習が行われる。集団行動を真摯に行う態度の習得が肝要である。20世紀の各種実例では練習期間は3か月くらいであったが、21世紀においては青年たちの体力低下が著しく、この期間では不十分である。技を進化させるタイミングは参加者の肉体的精神的な成長を考慮してリーダーが決定するが、その時期を誤ると事故につながる。現実問題として参加者各人の個人的な訓練習熟度にどうしても違いができてしまうので、各メンバーを適材適所に配置できるかどうか、ほとんど訓練のできていないメンバーを含め全員参加の演技ができるかどうかで、リーダーの資質およびチームの成熟度が問われる。

事故

組体操には危険が伴う場合があり、開催者は細心の注意を払わなくてはならない。1988年には愛媛県で人間ピラミッドが崩れ小学6年の男子児童が圧死したほか[4]、1990年に福岡県で高校3年の男子生徒がピラミッドの崩落により首の骨を折り脊髄損傷の後遺症を残した事故では高等裁判所が学校側に過失があると認めているが[5]国家賠償法により学校活動内で後遺症や死亡が生じた際の刑事事件の立件は稀であり、民事裁判での賠償や和解(和解金)が大半を占める。そのため近年日本の学校では難しい形が外されたり、演技そのものを行わないケースが増えている。女子の体を傷つけてはならないとして、行うとしても男子だけに課す傾向がある。タワーには必ず学校職員が補助につく、ピラミッドの締めくくりであった総崩れを行わないなど、安全に配慮したものになっている。他方、瞬間直立ピラミッドのように総崩れのように見えて実はそうでない新技法の開発も行われている。

2014年5月、熊本県の菊陽中学で体育館にけが防止のためのマットを敷き、2、3年の男子生徒約140人で10段ピラミッドを作る練習中に一部がバランスを失い崩落。教諭8人が現場指導にあたっていたが、内生徒の一人が腰の骨を折る重症。社説:組み体操の事故 高さを競うのは危険だ毎日新聞 2014年5月

2012年度における組体操で発生した事故確認事例は約6500件。

関連事項

出典

  1. 組み体操は危険? 達成感も…見直しに賛否両論
  2. 倉敷市立船穂小学校・六年生のページ・プール開き
  3. 浜松市立大平小学校・水泳選手を励ます会!
  4. 山本健治 『年表子どもの事件—1945~1989』 柘植書房新社、1989年。ISBN 978-4-80-680195-5
  5. S. Takeda「子どもに関する事件【事例】」『日本の子どもたち』 2000年。

文献

  • 浜田靖一 『イラストで見る組体操・組立体操』 大修館書店、1996年、305p。ISBN 978-4-469-26349-7
  • 浜田靖一 『イラストと写真で見るマスゲーム』 大修館書店、1998年、268p。ISBN 4-469-26384-2

曲 

http://www.youtube.com/watch?v=hpxWvYPgs1E&list=PLN0824bfIehD5UWSRDtRcLA1BIVai_p49 http://www.youtube.com/watch?v=j5pmYpoMT2A http://www.youtube.com/watch?v=OTWojMj4idg&list=PLN0824bfIehD5UWSRDtRcLA1BIVai_p49