禁煙
禁煙(きんえん)とは、喫煙を禁止する、もしくは喫煙者が喫煙習慣を止めることである。
喫煙の禁止としての「禁煙」(smoking ban, smoking restrictions)は、飲食店や交通機関、さらには路上などの公共の場、もしくはオフィスなど職場で の喫煙を禁止するものである。個別の方針として決定されている場合と、法律により定められている場合とがある。
喫煙習慣を止める「禁煙」(Smoking cessation)については、能動的にやめる場合を「断煙」という場合がある。また喫煙者として現役を引退またはタバコなどを卒業した場合を「卒煙」という。
ただし、無理な禁煙は治療の有無を問わず様々な症状を伴うことが報告されており、基礎疾患として有している精神疾患の悪化を伴うことがあるので注意が必要である[1]。 嫌煙権も参照。
目次
歴史
禁煙それ自体は歴史的に古く、1575年にメキシコで禁煙条例が出され、メキシコの教会またスペインのカリブ植民地で禁煙が命じられた。またオスマン帝国でも1633年、喫煙を禁止した。同時期に欧州でも喫煙者を教会から破門すべきかどうか議論された。16世紀後半にはオーストリアやバヴァリアで、また1723年ベルリンで、1742年ケーニヒスベルクで禁煙条例が出された。こうした禁煙条例は、1848年の革命で廃止された。
国民規模で行われた禁煙運動はナチスによって行われた。ナチスは大学、郵便局、軍用医院などが禁煙にされた。 第二次世界大戦後から現在にいたる禁煙運動は主にアメリカ合衆国からはじまっている。
日本では、煙草の伝来した慶長十年ごろより喫煙習慣がひろまった。当初は薬として喫煙されていた。「当代記」慶長十三年十月の条に
とある。
林羅山は煙癖があったと見えて、佗波古(たばこ)希施婁(きせる)に関する文章を執筆している。「莨※文」では
と記し、酒の代わりとしている。
幕府は、失火の原因となり、煙草の植附けは田畑を荒すなど弊害あるものとして、慶長十四年七月、たばこを禁止した。
「タバコ法度之事、弥(いよいよ)被レ禁ト云々、火事其外ツイエアル故也。」
穂積陳重はこれを日本における禁煙法令の初めとしている[2]。
慶長十七年八月、幕府は、耶蘇教、屠牛に関する禁令とともに、煙草に関する禁令を出した。
こののちも幕府はしばしば喫煙および煙草耕作の禁令を出したが[3]、その頃の落首に、
というものがあり、完全に統制されていたわけではなかった。
慶長の幕府の喫煙禁止令に応じて薩摩の島津藩でも禁煙が命令された。薩摩ははやくより南蛮との貿易をはじめており、喫煙風習もひろがっていた。
文之は「南浦文集」で次のような喫煙と頽廃に関する詩を残している。
島津藩の禁煙令については、「崎陽古今物語」に記事がある。
これによれば、島津藩では喫煙者を死刑に処していた。しかし、抑止力はなかったとはみえ、同書、前掲文の続きに、
とあり、さらに後年、薩摩煙草は名産物になった[4]。
喫煙の空間的禁止
テンプレート:See also テンプレート:See also
欧米諸国の先進国
アメリカ合衆国
- アリゾナ州は、米国で初めて1973年に、公共の場所における喫煙を包括的に制限する法律を成立させた。カリフォルニア州は、1994年に働く場所での喫煙を禁止する法律を成立させ、1998年には壁で囲まれた場所における喫煙を完全に禁止する法律を成立させている。「壁で囲まれた場所」とは主に店舗・室内または空気の流れない場所のことであり、街路などはあてはまらない。また多くのレストランやバーでは室外に喫煙所を設置している。またニューヨーク州、カリフォルニア州、ハワイ州を含む22州(2008年2月1日現在)、及びワシントン特別区では、レストランとバーにおける喫煙が全面的に禁止されている[5]。さらに、カリフォルニア州ベルモント市がアパートやマンションなどといった個人施設にまで禁煙する条例が可決し2009年1月1日付から施行された。
アイルランド
- アイルランドは、2004年3月に世界で初めて国として、壁で囲まれた働く場所を完全に禁煙とした。この禁止は、現在では、自由意志を基盤として、建物の外に広がっている。例えば、ダブリン空港では建物の入り口でも、喫煙は許されておらず、喫煙が許される標識のあるエリアにおいてのみ、喫煙は可能である。アイルランドでは、印刷物、テレビ、ラジオ、掲示板におけるタバコ広告の禁止に加え、2008年には店における広告も禁止され、タバコを店に置くときも見えない場所に置かねばならなくなる。
ブルガリア
- 2010年6月に、他の欧州諸国に倣って公共の屋内での喫煙を禁止する予定であったが、飲食店での喫煙を認めるように方針を転換し、規制を緩めた。ブルガリアは欧州でも指折りの喫煙大国で、10代の若者の3分の1が喫煙者である[6]。
その他の国家
- 英国はアイルランドに追随し、2007年7月1日付から禁煙法を施行させた。フランスは、2008年に禁煙法を成立させ、室内禁煙になった。デンマークは、2007年8月1日付からより、酒場やクラブやレストランにおける禁煙が開始している。スウェーデンも同様の禁煙法を2005年7月1日付から施行させた。オランダとルーマニアは、2008年7月1日に酒場やクラブにおける禁煙を開始した。ただし、いずれも喫煙所では喫煙可能である。
アジア諸国
ブータン
香港
- 香港では、2007年1月1日付からオフィスやレストラン等の公共施設での喫煙を全面的に禁止する「喫煙公衆衛生改正条例」が施行。
トルクメニスタン
- 大統領だったサパルムラト・ニヤゾフがガン手術を受けて、禁煙したため、トルクメニスタン国内でタバコが禁止された。
韓国
- ソウル市は、2010年中に、受動喫煙防止のための「間接吸煙ゼロソウル」政策を実行する予定である。同政策においては、禁煙区域に指定されたバス停留所、公園、学校周辺200メートルの区域などで喫煙した場合、10万ウォン(約7300円)以下の過料を科すことになっている。この政策についておよそ91%の人が賛成しているとの結果が世論調査で出た。[7]。
中東
ガザ
- 2010年からガザの女性は公共の場所での喫煙が禁止されている(宗教による女性の喫煙禁止も参照)。
イスラエル
- イスラエルには禁煙法があり、公共の場所は基本的に全面禁煙となっている。
日本国内
つぎのような法律・条例により、喫煙の空間的禁止が行なわれている。
- 路上喫煙禁止条例
- 未成年者喫煙禁止法(親や監督者、販売者に対する罰則)
- 健康増進法(受動喫煙の防止、第25条)[8]
- 労働安全衛生法(快適な職場環境の形成、71条の3第1項、指針第2の1の(1))
- ビル衛生管理法(浮遊粉塵の基準)[9]
- 鉄道営業法(喫煙禁止車両、34条1号)
- 交通機関の喫煙規制
- 旅客自動車運送事業等運輸規則(禁煙表示のある自動車、53条6項)
- 海上運送法施行規則(船舶内の禁煙場所、23条の14第2号)
- 各地の火災予防条例(禁煙場所)
- 興行場法施行条例(禁煙表示、喫煙所)
喫煙習慣の停止
予防
世界では毎年約300万人が喫煙を原因として死亡している。病気の原因のうち、最も死亡者が多く、最重要課題である。各国政府は、タバコの害を広く国民に広告し、禁煙を勧める政策を施行している。欧米諸国では、こうした政策が奏功し、次第に喫煙率は低下している。日本は、先進国の中では、最も喫煙率が高い。 世界保健機関(WHO)では禁煙を強く推進しており世界禁煙デー(毎年5月31日)を定めている。なお、1993年にWHOの国際傷害疾病分類第10版(ICD-10)において、喫煙は「精神作用物質による精神及び行動の障害」に分類されている。
子どもに対する禁煙教育は効果がある。欧米では積極的に禁煙教育が行われて成果を上げている[10][11]。日本でも禁煙教育の試みがある[12][13]。
なお、エンストローム論文の著者はタバコ産業から研究資金を得ており(それまで資金援助していたところが急に断ったため、なお共著者は、非喫煙者で研究資金も貰っていない)、その中立性が疑問視されているほか、研究自体に統計上の瑕疵があり学会からの評価が低いにも拘らず、喫煙規制に反対する非専門家などによって「科学的根拠」として言及される場合がある。今日ではこの論文はアメリカでの裁判でタバコ会社が御用学者を使って世論を印象操作しようとした「証拠」として扱われ、著者は教授の地位と俸給を失っている。
ニコチンと禁煙
テンプレート:独自研究 自力で禁煙できる人もいるが、含まれるニコチンの嗜癖性のため、禁煙したい人の多くは禁煙困難とされる[14]。禁煙は心臓虚血発作を起こした医師ですら困難で、その半数しか禁煙できていない[15]。研究によって、たばこは強い嗜癖性があるものだと、R.J.レイノルズ・タバコ・カンパニーは調査していた[16]、人体への影響・動物実験データを総括的に第三者が評価した研究論文では、ニコチンはヘロイン・コカインなどに匹敵する強力な依存性物質であるとする向きも存在[17]、中脳ドパミン神経の研究でニコチンとヘロインの脳への作用が類似しているという報告もある[18]が、逆に社会的背景を含めての評価ではニコチンはコカインほどの依存性は無いとする報告もあり[19]研究論文の場において、未だその依存性の強さに関しては議論されている最中である。
禁煙トレーニング
タバコに含まれるニコチンには依存性があるとされる。 どの禁煙トレーニングも、1年後に禁煙が達成される割合はおよそ10%であるテンプレート:要出典。ニコチンガムや、ニコチンパッチを使用すると、この割合がおよそ20%になるテンプレート:要出典。さらに、以下に述べる行動療法を併用すれば、禁煙達成の割合は、およそ25%になるテンプレート:要出典。禁煙が達成されるまでには、数回以上の試みが必要となる場合が多い。
1回の禁煙の試みは、例えば次のような手順で行われる[20]。
- 2週間以内に、禁煙を開始する日を決める(土曜日、日曜日、祝日が選ばれるケースが多い。)。
- 禁煙の準備として、禁煙中に行うことをなるべく多く考え、書きとめておく[21]。
- 身の回りにある喫煙関連の用具をすべて廃棄処分すること。
- 医療機関を受診しニコチンパッチを入手する。通常は8週間分であるが、4週間分で行う方法もある。
- ニコチンパッチを貼る。前に書きとめたことを行う。喫煙は、他の習慣と結びついていることが多いので、なるべく日常の習慣を変える。タバコを吸いたい衝動は、およそ3分で収まるので、その間を乗り切る。少量でも吸えば、失敗に終わる。
- タバコなどに由来するニコチンは平均3日で体から消えるが、精神的な依存は平均30日続く。禁煙後およそ30日が経過したら、一応禁煙達成と考える。
- およそ平均2kgの体重増加があるが、禁煙達成後に対策を行う[22]。
- 達成後に再喫煙してしまうのは、酒の席が多い。なるべく参加を辞退する。止むを得ない場合は、非喫煙者の隣に座る。また、ストレスが急に増えた時に再度喫煙することがあるので、対策を立てておく(現役喫煙者から再喫煙を勧められたり、強要されそうな場合はその場から立ち去り、先に退出しても問題はない。ただし、無銭飲食は厳禁。)。
- 移動手段(新幹線、特急電車など[23])として現役喫煙者とは常に別行動をすること。喫煙エリア、喫煙ルームには近づかない、立ち入らない習慣を身に付けること[24]。
- 現役喫煙者とは別居するのも有効手段の一つである[25]。
- タバコ代を貯金箱に入れて貯金するなど、禁煙の利益を見やすい形にして禁煙を継続する。卒煙後は自分自身のためにご褒美を作ると好ましい[26](ただし、喫煙関連の商品およびそれを連想するものは厳禁。)。
その他にはニコチン、タールを体外へ排出する禁煙サプリメントの服用、禁煙を支援する内容の書籍を読み実行することにより禁煙の成功率が若干あがる(但し、途中で中断したり誤使用した場合は対象外とする。)。
薬物依存症の治療には、グループ治療が効果的であり、アルコール依存症や麻薬依存症の治療でも成果を挙げている。
また、専門家によるカウンセリングも有効であり、カウンセリングを受ける時間に比例して、禁煙成功率は最大30%にまで増加する。欧米諸国の先進国では公的機関による禁煙用の無料電話en:quitlineがあり、禁煙希望者の質問に答えている[27]。日本の禁煙外来では、ニコチンパッチとカウンセリングを併用して行っているが、電話などの相談窓口は存在しない。
失敗のケースとして喫煙本数を1本ずつ減らすやり方は、減らすこと自体がストレスになりやすい。またタバコの無い環境に閉じ込める方法も、依存を強めるだけに終わる。かつては島津藩では喫煙者を死刑にしたが、喫煙を減らす効果は無かった[28]。
2008年から、医療機関にて保険診療による経口禁煙治療薬を用いる禁煙外来が行われている。薬物療法とカウンセリング療法を組み合わせたもので、科学的に卒煙できる方法として、注目されている。
税収との関連
多くの国ではたばこには税金が課せられているため、禁煙政策は常に税収減の可能性と隣り合わせとなっている。たばこ税の増税という考えもあるが、その結果たばこの値段が上がることで喫煙を止める人が増えれば、当然国家の税収は減ることになるという矛盾をはらんでいる。日本の鳩山由紀夫首相(当時)は、たばこ税の問題に関して、「税収の問題ではなく国民の健康の方を重視するのは当然」という趣旨の発言をしている。
禁煙利権
禁煙を推進するための多くの制度設計が成された事により禁煙利権が生まれ、問題の指摘が成されている。
2011年には厚労省関係者主導により職場での受動喫煙防止に関する法的義務付けにより40億円程度の追加予算が見込まれている。厚生労働省が受動喫煙を防止するためさらなる法案成立を目指し、その裏にはある利権があることが指摘されている。このことは「一旦通ってしまえば将来的には自動的に大きく膨れあがっていく、こんなことだから予算規模はドンドン大きくなって行く」との財務省関係者からの批判の声も挙がっている。[29]
関連項目
- 喫煙の禁止
- 喫煙の中止
- その他、全般
文献・脚注
外部リンク
- 禁煙 メルクマニュアル
- 禁煙支援マニュアル 厚生労働省
- How to Quit Centers for Disease Control and Prevention アメリカ合衆国
- 日本禁煙学会
- ↑ [http://www.info.pmda.go.jp/go/pack/7990003F1028_2_08/ チャンピックス錠0.5mg/ チャンピックス錠1mg添付文書
- ↑ 法曹夜話 十七
- ↑ 穂積陳重「五人組制度」
- ↑ 法曹夜話 十八 禁煙令違反者の処分 穂積陳重
- ↑ これら22州には太平洋岸の全ての州と、ニューイングランド地方の全ての州が含まれる
- ↑ テンプレート:Citenews
- ↑ テンプレート:Citenews
- ↑ [1]厚生労働省健康局長通知「受動喫煙防止対策について 」…「受動喫煙防止の措置には、当該施設内を全面禁煙とする方法と施設内の喫煙場所と非喫煙場所を喫煙場所から非喫煙場所にたばこの煙が流れ出ないように分割(分煙)する方法がある。」としている
- ↑ [2]建築物衛生管理検討会報告書…「3 建築物衛生の観点からの対策が必要な問題 (2)タバコの受動喫煙」において「受動喫煙を防止するためには、建築物において禁煙や適切な分煙の措置を講じることが重要である。現在、第154回国会で審議中の健康増進法案においても、多数の者が利用する施設における受動喫煙防止措置の努力義務規定が盛り込まれており、建築物衛生の観点からも、環境タバコ煙対策を推進する必要がある。」としている。
- ↑ Tar Wars American Academy of Family Physicians
- ↑ HOW SCHOOLS CAN HELP STUDENTS STAY TOBACCO-FREE (pdf)
- ↑ 公衆衛生ネットワーク
- ↑ 文部科学省
- ↑ The Health Consequences of Smoking: Nicotine Addiction. A Report of the Surgeon General. (pdf) Rockville. Md: US Dept of Health and Human Services; 1988.
- ↑ Stolerman IP, Jarvis MJ. The scientific case that nicotine is addictive. Psychopharmacology (Berl).1995;117:2–10.
- ↑ RJレイノルズ内部文書. Tobacco. 19830000;19870205. Bates: 504231648–504231658.
- ↑ Stolerman IP, Jarvis MJ. The scientific case that nicotine is addictive. Psychopharmacology (Berl).1995;117:2–10.
- ↑ Britt JP, McGehee DS. Presynaptic opioid and nicotinic receptor modulation of dopamine overflow in the nucleus accumbens. J Neurosci. 2008 Feb 13;28(7):1672-81.
- ↑ Is nicotine more addictive than cocaine? Henningfield JE, Cohen C, Slade JD.PMID: 1859920
- ↑ Clearing the Air National Cancer Institute
- ↑ 散歩、体操、映画鑑賞、図書館へ行くこと、ゲームをすること、何かを食べること、歯を磨くこと、水を飲むことなどがその例。
- ↑ 例として腹八分目にして野菜の量や種類を増やし果物を摂取し、魚介類以外の動物性脂肪を減らす。
- ↑ 2007年4月1日付から一部の車両を除いて車内は全面禁煙になっている。同様に喫煙ルームは設置されていない。
- ↑ 2007年3月31日付までは禁煙車と喫煙車に分かれて移動することが多かったが同年4月1日付から現役喫煙者は車内喫煙が高確率で不可能となったため、途中下車して喫煙エリアまたは喫煙ルームを探しその場で喫煙するケースが多い。また特急券などを必要とする料金をすべてタバコ代に回すこともあり、移動手段はLOCAL系(RAPID系、EXPRESS系以外)の可能性が高い。
- ↑ 欧米諸国の先進国の場合は男性と女性の喫煙率の差が少ない要因の一つとして、同居している場合は夫婦揃って現役喫煙者または非喫煙者の割合が極めて高いからである。
- ↑ 例として卒煙旅行、女性の場合は洋服、タイツ、スパッツ、レギンス、トレンカなどの種類や枚数を増やしたり、美容関連の諸費用。
- ↑ National Cancer Institute
- ↑ 法曹夜話 十八 禁煙令違反者の処分 穂積陳重
- ↑ [3] 事業仕分けの裏側で「禁煙利権」争いが厚労省内部に勃発