盲腸線
盲腸線(もうちょうせん)とは、起点もしくは終点のどちらかが他の路線に接続していない行き止まりの路線を指す。路線網の中で、あたかも盲腸(虫垂)のように見えることからこのように俗称される。本項では主に鉄道の盲腸線について記述する。
目次
概要
「盲腸」という言葉には、「役に立たないのに存在する短くて行き止まり状のもの」[1]という意味合いが込められ、輸送上重要な役割を果たしている幹線鉄道は盲腸線とは呼ばれないこともあるが、盲腸線の定義は執筆者の独断と偏見で決まるため、現状では明確な定義がない。
時刻表などの路線図上で定義されるため、広義では他社線と接続している路線も「盲腸線」呼ばわりされるケースもある[2]。
行き止まり線の性質上、通過需要(終点駅から別の交通機関等でその先の遠方へ向かう乗客)が少ないため、 終点側地域の社会的状況が路線の存廃に反映されやすい。かつて産炭地を結んだ路線は石炭から石油へのエネルギー供給転換によって廃止が相次ぎ、港湾や臨海工業地域に向けて建設された貨物線やその支線も、1970年代から1980年代にかけて鉄道貨物輸送が縮小すると多くが廃止された。
日本の盲腸線
古くは多くの私設鉄道が国有鉄道に編入され、多くの盲腸線が誕生した。1980年代の旧国鉄の再建にあたり、国鉄再建法は輸送密度を基準に廃止路線を選定することを規定したが、通過需要の少ない盲腸線は輸送密度の計算において不利であり、また同法施行令第4条では、第1次廃止対象路線として「旅客営業キロが30キロメートル以下であり、かつ、その区間における旅客輸送密度が2000人未満であるもの(その区間の両端の駅において他の日本国有鉄道の鉄道の営業線と接続するもの(中略)を除く)」を定義し、(計算上不利であるにもかかわらずかえって)盲腸線に対して基準を上げている[3]。事実、第1次廃止対象候補の40線区のうち、添田線を除く39線区が盲腸線であり、最終的に多数の盲腸線が廃止された。
かなり淘汰されたため、現在鉄道・バス・航路・航空の内一つも接続がない終点を持つ路線、即ち純粋な盲腸線鉄道は鋼索鉄道を除いてあまりなく、秘境路線と言われる大井川鉄道井川線ですらバスと渡船の接続がある。
日本以外の盲腸線
中華民国(台湾)においては、平渓線を日本人向けに「盲腸線」として案内している例がある[4]。
盲腸線の種類
路線の廃止
元々は盲腸線でなかった路線が、途中駅から先の区間が廃止されたり、終端側の接続路線が廃止になることで盲腸線と化したもの。例としては東北本線利府支線など。
路線の建設中止
地点間の接続を目指して、両側又は片側から路線の建設が進められたものの、全線開通に至らず、盲腸線になったもの。未成線も参照。例としては越美北線など。
分岐する新線の建設
元々は本線や幹線だった路線に、終点の手前から分岐する新線が建設されて、そちらが名義上又は事実上の幹線となり、残された分岐点 - 終点の末端区間が盲腸線化したもの。例としては水郡線(上菅谷駅~常陸太田駅間)など。
行き止まり線の衰退
幹線から離れた地域へのアクセスを目的とした行き止まりの線区、他社路線への接続を目的とした線区において、輸送量が減少し、路線の重要性が低下したもの。このような路線は地方私鉄に多い。例としては三角線など。
盲腸線として見解が分かれる路線
以下の路線は起点または終点が行き止まりであっても文献によっては広い意味で盲腸線の一種として扱われることもあるが、輸送上重要な役割を果たしていることから鉄道ファンからは盲腸線として扱われないこともあり、現状では明確な定義がないため、盲腸線に含めるかどうかは見解が分かれる。
起点または終点が行き止まりとなっている本線・幹線
長崎本線、横須賀線などがこれにあたる。ただし留萌本線は本線を冠する行き止まり路線であるが、地方交通線であるため、盲腸線に含める場合がある[5]。
引き込み線を旅客化したもの
沿線から旅客化の要請がなされたことによるものである(例:博多南線)。中には上越線越後湯沢 - ガーラ湯沢間[6]のように特定の施設へのアクセス目的で旅客化したものもある。
他社に接続されている路線
伊東線などがこれにあたる。文献によっては盲腸線として扱うこともあるが、起点または終点が行き止まりというわけではないので現状では見解が分かれる。ただし指宿枕崎線はかつては枕崎駅で鹿児島交通に接続していたが、鹿児島交通が廃線となったため、盲腸線扱いされる。
特定の施設へのアクセス
空港へのアクセスを目的とした空港連絡鉄道、港湾への貨物輸送を目的とした臨海鉄道、住宅地へのアクセスを目的としたニュータウン鉄道などは行き止まり線として建設されることもあるが、輸送上重要な役割を果たしていることから盲腸線に含めるかどうかは見解が分かれる。
脚注
- ↑ 実際のヒトの盲腸は20世紀頃までそのように理解されていた
- ↑ 『レイルマガジン』No.151 1996年4月号 p24、p28
- ↑ 本来、旅客輸送密度が2000人未満は第2次廃止対象路線の基準である。
- ↑ 中央放送局・『台湾よいとこ』平渓線の旅
- ↑ 『レイルマガジン』No.151 1996年4月号では本線を冠する行き止まり路線については割愛されている。その一方で幹線であっても本線を称しない行き止まり路線は紹介されている。
- ↑ 路線上は在来線扱いであるが、運行形態上は上越新幹線と一体になっている。
参考文献
- ネコ・パブリッシング『レイルマガジン』No.151 1996年4月号「今、盲腸線が面白い!!」
- 村上義晃、『学びやぶっく14・盲腸線-行き止まり駅-の旅』、明治書院、2009年、ISBN978-4-625-68424-1
- 大野雅人、『ワケあり盲腸線探訪』、エイ出版社、2011年、ISBN978-4777919963