構造色
構造色(こうぞうしょく、テンプレート:Lang-en)は、光の波長あるいはそれ以下の微細構造による発色現象を指す。身近な構造色にはコンパクトディスクやシャボン玉などが挙げられる。コンパクトディスクやシャボンには、それ自身には色がついていないが、その微細な構造によって光が干渉するため、色づいて見える。構造色の特徴として、見る角度に応じて、様々な色彩が見られることが挙げられる。色素や顔料による発色と異なり、紫外線などにより脱色することがなく、繊維や自動車の塗装など工業的応用研究が進んでいる。
構造色の仕組み
薄膜による干渉
光の波長程度の薄い膜(薄膜)では、膜の上面で反射する光と下面で反射する光が干渉するため、膜の厚さに対応した波長光が色づいて見える。シャボン玉や油膜に色が付いて見えるのは、このような薄膜干渉(はくまくかんしょう)に起因している。シャボンや油膜の厚さに応じて、様々に色づいて見える。
多層膜による干渉
薄い膜を何層も重ねたような構造による光の干渉である。膜厚の組み合わせ、各層の枚数の組み合わせによって干渉の仕方が変化し、様々な色彩が現れる。
アワビ等の貝殻の内側は、真珠母と呼ばれる炭酸カルシウムの薄膜が層構造を形成しており、1つ1つの層から反射される光が干渉することで、様々な色合いが見られる。
タマムシ、ハナムグリといった甲虫類に見られる金属光沢に富んだ色彩は、キチン質の層構造によるものである。オオゴマダラといったチョウの蛹も同様に金属光沢のある構造色が見られる。
サンマやイワシといった魚類の体色が銀色なのは、体表にある虹色色素胞中でグアニンの板状結晶(反射小板)と細胞質の積層構造による干渉の効果である。可視光線がほぼ完全に反射されることで、体色が銀色に見える。ルリスズメダイやネオンテトラでは、反射小板と細胞質の膜厚比が大きく異なるため、特定の波長領域の光のみが反射され、鮮やかな色彩がみられる。
微細な溝・突起などによる干渉
コンパクトディスクやDVDではアルミ薄膜表面に刻まれた凹凸によってデジタル情報を記録している。この凹凸が回折格子の様に光を干渉するため、記録面側は虹色に見える。
『生きた宝石』とも呼ばれるモルフォチョウの翅(はね)は、鮮やかな青色をしているが、これは鱗粉表面に刻まれた格子状の構造による構造色である。この構造は青色の光の波長のちょうど半分にあたる200nm間隔に並んでおり、干渉により青色の光のみが反射される。2003年、松井真二(兵庫県立大学高度産業科学技術研究所 教授)らは集束イオンビーム装置を用いて、この構造をシリコン基板上に作り出すことで、モルフォチョウの青色を再現することに成功している。
クジャクやカワセミといった鳥類では、羽毛にある微細な構造によって、鮮やかな色彩が現れる。
微粒子などによる散乱
宝石のオパールは、規則的に並んだケイ酸塩の微粒子によって光が干渉し、見る角度によって様々な色彩がみられる。
牛乳が白いのは、脂肪のコロイドが光を散乱するためである。青い空、夕焼けなどの色は、太陽光が大気中の窒素分子や酸素分子によって散乱されるためである。このような、光の波長より小さな粒子による散乱現象はレイリー散乱と呼ばれる。光の波長と同程度の粒子(散乱体)による光の散乱はミー散乱と呼ばれる。雲が白く見えるのはミー散乱によるものである。
温度変化によって分子のねじれが変化する液晶や高分子のマイクロカプセルによる示温材が開発されている。 加熱することにより、色相が変化する。マグカップやフィギュア等に使用されている。
産業への応用
1995年、日産自動車、帝人ファイバー、田中貴金属工業の3社によって、構造色を有する繊維「モルフォテックス」が開発された。「モルフォテックス」では、屈折率の違なるポリエステルとナイロンからなる数10nmオーダーの多層構造によって光が干渉し、見る角度によって赤・緑・青・黄と様々な色彩が見られる。