未来の想い出

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テンプレート:Sidebar with collapsible lists未来の想い出』(みらいのおもいで)は、藤子・F・不二雄による日本漫画

1992年に映画化されている。

概要

1991年より小学館ビッグコミック』に連載された。藤子・F・不二雄の漫画としては、短編や連作シリーズを除けば最後の作品となった。

人生に後悔している漫画家が「記憶を持ったまま人生を何度もやり直す」というループもので、時代を1971年から1991年の20年間に設定している。漫画家の奮闘記を基本軸に、漫画家仲間との交流や女優志望の劇団研究生との真剣交際が盛り込まれている。

主人公の風貌が藤子・F・不二雄自身に似ていること[1]、主人公の駆け出し時代に漫画家仲間と共に住んでいた西日荘がトキワ荘に酷似していることなど、時代や年齢がやや異なるものの、自伝的要素も存在する。

ループものはケン・グリムウッドの『リプレイ』や木内一雅渡辺潤の『代紋TAKE2』との類似性を指摘する意見もあるが、この点については主人公の台詞として「古いね。ファウスト以来、手あかのついた題材じゃないか」と言及されており、そもそもの着想はそこからきているものと推察できる。

なお、藤子・F・不二雄の代表作『ドラえもん』にも、同様の効果を持つ道具「人生やりなおし機」「タマシイム・マシン」が登場する。

2003年にメディコム・トイから、納戸理人と、漫画に登場する「ざしきボーイ」のフィギュアが発売された。

あらすじ

かつての人気漫画家・納戸理人は、作家人生のすべてをかけて執筆した連載漫画「時空戦記」を打ち切られ、落ち目になりつつあった。老境を目前として妻との家庭生活もすれ違いが続き、夫婦仲は冷え切って、顔を合わせば嫌味を一方的に言われる毎日。日常に希望を抱けず、惰性で生命を維持しているかのような年月が長く長く続いていた。

そんなある日、納戸は参加した出版社のゴルフコンペでホールインワンを出し、驚きのあまり気を失ってしまう。気がつくと、そこは三途の川。人生に絶望しかかっていた納戸は、川を彼岸へと渡ろうとするが、どこからともなく聞こえてくる自分の若い頃に似た、かつて自分が思い描いた夢を熱っぽく語る声の熱意に惹かれるように、もと来た道を戻っていき、いつのまにか再び意識を失う。

再び気がついたとき、納戸は漫画家を目指して上京した日に戻っていた。驚く納戸だったが、周囲の反応に流されるまま、それまでの人生を夢と思い込み、再び人生を歩み始める。そんな納戸を待っていたのは、自分を東京に呼んでくれた漫画家仲間である沢井とその友人たち、自らを厳しく指導してくれる編集者、そして最愛の人・水谷晶子との出会い、さらには一大ブームを巻き起こした自らの漫画の大ヒットだった。しかし、一度頂点を極めれば後は転がり落ちるならいのごとく、納戸は大漫画家となった自らの立場に溺れて流行や状況をつかみ損ねる。ついには晶子の死をきっかけとして日常に破綻をきたし、締め切り落とし、時代への乗り遅れ、新人漫画家(しかも自身の弟子)の台頭などに悩まされていく。

気がつけば納戸は、老境を目前として希望も色あせ、晶子の自殺の後に結婚した、漫画家仲間でもあった妻・カオリとの家庭生活もすれ違いが続き、夫婦仲は冷え切り、さらには自らの未来を映したかのように見えて聞こえる幻影や幻聴に徐々に悩まされていくようになる。特に幻影や幻聴という『未来の想い出』に悩まされるようになった納戸は、精神科のドアを叩くも原因は特定できず、失望のままで家路についた。しかし、その途中で納戸は事故に遭い、そのショックで『未来の想い出』を完全な形で思い出してしまう。

自分は同じ人生を、同じ失敗を同じ時点で、何度も何度も繰り返しながら、生きている―――

そのあまりにも、むごい運命のカラクリに気づいた納戸は、逆に『未来の想い出』を利用することを考えつく。老境を目前として「運命の日」が近いことを知った納戸は「今の人生」を「次の人生」に対する準備期間とし、自らの『未来の想い出』を完璧にするべく行動を開始した。そして運命のホールインワンを迎えた納戸は、今度は完全なる『未来の想い出』を持った状態で上京した当日に帰還する。たったひとり、自らと周りの人々に、この運命を与えたもうた「神」に戦いを挑むために。

登場キャラクター

納戸 理人
本作の主人公。漫画家。山梨県出身。1948年4月1日生まれ。高校時代にアマチュアとして読切漫画を投稿しながら、プロの漫画家を目指して上京していた。駆け出し時代は漫画家仲間に揉まれながら、漫画『ざしきボーイ』をヒットさせて自作が次々にアニメ化される人気漫画家になるも、その立場に溺れて流行の波をつかみそこね、後に落ちぶれてしまった。ブームとなった劇画は不得意で、生活ギャグ漫画を得意としているが、ギャグが理屈っぽいと言われている。ループのカラクリに気づき『未来の想い出』を持ち越すことに成功するが、人生をやり直す際、運命(神)に逆らうごとに頭痛(警告)が起こる。
水谷 晶子
女優志望の劇団「未来座」研究生。北海道出身。納戸のヌードモデルのバイトをしている。納戸の最愛の人。納戸が人生をやり直す前は、父が経営する会社倒産による一家崩壊にまきこまれ、そのショックで精神を病んだ実母による無理心中で命を落とすことになる。彼女の死の運命の回避こそが、過去に帰還した納戸による「新たなる人生」の最終目標となる。
郷 カオリ
漫画家。大阪府出身。納戸の駆け出し時代の漫画家グループの一人。実家による親のすねかじりで生活しながら、読切漫画ではなく、未発表の大長編少女漫画『ファラオ五千年のたたり』の売り込みに漫画家人生をかけている。人生をやり直す前は納戸の妻。『ドラえもん』第2期2作「王かんコレクション」にモブキャラとして登場している。
沢井 登
漫画家。納戸が上京する前からのペンフレンドで、納戸のかけだし時代の漫画家グループのリーダー的存在。面倒見がよく、納戸の相談に乗っている。地味ながら人間描写が確かで、泣かせがうまい漫画で人気を出している。
小金井 英光
漫画家。北海道出身。納戸の駆け出し時代の漫画家グループの一人。大学留年の中で漫画家志望で上京した。大人向け漫画を志している。大学生のファンがおり、批評家が注目する漫画で人気を出している。郷カオリと同じく「王かんコレクション」にモブキャラとして登場している。
東山 岩男
漫画家。納戸の駆け出し時代の漫画家グループの一人。漫画家グループの中で最初に連載を持つが、すぐ打ち切りに遭う。ナンセンスに徹したギャグ漫画で人気を出している。
大学館の編集者
漫画雑誌の編集者。原稿をボツにされて落ち込む駆け出し漫画家の納戸を「ボツ原稿の山こそ最良の師」と励ましている。納戸の出世漫画『ざしきボーイ』を連載漫画化するも、人気漫画家になった納戸のマンネリ化した際には「漫画をパターン化せずに、いつまでも悩みながらかいて欲しかった」と嘆き、納戸を激怒させて担当を外れる。納戸の多忙にまぎれて関係が修復されることはなく、そのまま落ちぶれていく納戸を見捨てる形となった。そのため新しい人生では納戸は彼との関係を心から大事にし、人気漫画家となってからも彼の発言を謙虚に受け止めることとなる。
大学館の若手編集者
先輩編集者の後を受けて納戸を担当した編集者。人気絶頂だった納戸のワガママと時間のルーズさに悩まされ、彼に骨髄の恨みを抱く。後に矢吾団平を見出し、納戸が落としかけていた原稿に見切りをつけ、強制的に落とす形で彼をデビューさせ、さらには超人気漫画家へと育てる。その意味では後の納戸の凋落のきっかけを作った編集者でもある。
矢吾 団平
漫画家。納戸のアシスタント。後に漫画『やぶれハッポー』を大ヒットさせて、人気漫画家となる。
ノラ公
西日荘に住みついたノラ猫。ノミがついている。のちに交通事故に巻き込まれて死亡する。
青年
水谷のアパートの隣室に住んでいるネクラ青年。実は過激派の一員だった。『未来の想い出』を持つ前の納戸の人生では、ただ関わりを持たずに、すれ違うだけの存在だったのだが……。

映画

テンプレート:Infobox Film未来の想い出 Last Christmas』として、1992年8月29日東宝系で映画化された。主人公は女性に変えられている。タイトルについている「ラスト・クリスマス」が主題歌になっている。

特撮描写は夜景のシーンなどに使われているのみだがテンプレート:Sfn、監督も気に入っており、特技監督の樋口真嗣は若いスタッフ編成で満足できるものができたことで、後の『ガメラ 大怪獣空中決戦』(1995年)を製作するに至る自信を得られたと述べているテンプレート:Sfn

映画あらすじ

ふとした事で過去の記憶を持ったまま再び過去に戻ってしまい、人生をやり直そうとする主人公・納戸遊子が、同じように過去の記憶を持ったまま過去の時代へと戻ってきてしまった友人・金江銀子と共に、2人で人生をやり直して行こうという、友情あり、恋愛ありの感動物語。1回目の人生で思い通りにならなかったことを、2回目の人生でやり直そうとするが、またも思い通りに行かず、3回目の人生をやり直すのだが…?

キャスト

スタッフ

逸話

映画内の漫画原稿

主人公「納戸遊子」は作内における「最初の人生」では売れない漫画家である。しかし、生まれ変わった「2回目の人生」において「未来のヒット作の想い出」を使い、売れっ子漫画家に転身する。そのため劇中には、何枚にも及ぶ漫画原稿が登場するが、それを実際に執筆したのは、原作者である藤子・F・不二雄のアシスタントや、当時小学館新人コミック大賞の児童部門(藤子不二雄賞)などを受賞した新人漫画家であった。スタッフ名のエンドロールには「漫画作画指導」のスタッフとして紹介されている。メンバーは以下の通り。

出演漫画家

映画に関しては、藤子・F・不二雄自身が、2人の主人公に道を示す占い師として出演したことで話題になった。他にも藤子のつてにより、トキワ荘メンバーを中心とした巨匠漫画家が数名出演している。メンバーは以下の通り。

占い師
  • 藤子・F・不二雄
納戸の受賞パーティーに呼ばれた同僚および先輩漫画家

脚注

テンプレート:脚注ヘルプテンプレート:Reflist

参考文献

外部リンク

テンプレート:藤子不二雄

テンプレート:森田芳光監督作品
  1. より正確に言えば、藤子・F・不二雄が常より使用していた自画像のデザインをほぼそのまま利用している