岡山弁
岡山弁(おかやまべん)は、岡山県で話されている日本語の方言である。
目次
概要
岡山弁は中国方言の範囲の南東端に当たり、広島県東部(旧備後国)の備後弁と共に「東山陽方言」に属する。
県内の方言は、真鍋島のような特異な方言のある数地点を除けば、共通した特徴を持っている。方言によって地域を分けるとすれば、旧国ごとに備前(東南部)、備中(西部)、美作(東北部)に分けることができるが、これらの間に明確な境界を引くことはできない[1]。
岡山弁のアクセントは東京式アクセントの体系を持っており、共通語に近い。兵庫県境(船坂峠など)を東へ越えると、近畿方言の播州弁の地域となり、アクセントも京阪式に変化する(ただし播州西部は主流京阪式ではなく垂井式アクセント)。また、南の瀬戸内海の香川県境を越えると四国方言の讃岐弁の地域となり、アクセントも東京式から讃岐式(京阪式の変種)に変化する。
断定の助動詞(コピュラ)は「じゃ」が主で、理由の接続助詞に「けえ」「けん」が使われる。県南部では連母音の融合が盛んである。
音声・音韻・アクセント
岡山弁では母音の無声化はほとんど起こらない[1]。無声化は主に東日本で盛んであり、岡山弁を含む西日本では起こりにくい。
また、ガ行鼻濁音はなく、破裂音[g]で発音される[1]。共通語や東日本方言などで、語中・語尾のガ行子音"g"を鼻にかかった音 [ŋ] で発音することをガ行鼻濁音というが、岡山弁を含む中国・四国・九州ではほとんど鼻濁音を用いない。
備前・備中には「せ」「ぜ」の音声としてシェ・ジェという発音が存在している[1]。
連母音融合
母音(a, i, u, e, o)が連続する部分を連母音という。岡山弁では連母音が現れると、その部分が融合し母音の長音に変化する場合がある。以下は岡山市における連母音融合の主なパターン[1]。
- [ai] [ae] → [æː] [jæː] [eː]
- 長い(nagai) → ナゲー(nageː)
- 瀬戸内海(setonaikai) → セトネーケー(setoneːkeː)
- 前へ(maee) → メーへ(meːe)
- 考える(kangaeru) → カンゲール(kangeːru) .... etc
- [æː]はアとエの中間音の長音で、高齢層で聞かれる。[æː]は備前・備中に広く存在する発音で、美作には元来無かったが現在はこの発音がある。岡山市などの若年層では[eː]になる[1]。
- [oi] [oe] → [eː]
- 青い(aoi) → アエー(aeː)
- 数える(kazoeru) → カゼール(kazeːru)
- 覚える(oboeru) → オベール(obeːru) .... etc
- [ui] → [iː]
- 暑い(atsui) → アチー(achiː)
- スイカ(suika) → シーカ(shiːka)
- 縫い物(nuimono) → ニーモン(niːmon) .... etc
固有名詞について母音の長音化が行われる例は少ない。ただ、高齢層においては「生産物名」「地名」「歴史上の人物および芸歴の長い芸能人の名前」など、「生活において使用が一般化されている固有名詞」を長母音化させる人も多い。一般人の人名については高齢者でも長母音化させることは少ない。そのため「使用頻度の多い音節に対して、滑舌の使用頻度を下げ、疲労を軽減させ発語の速度を上げるための変化」とも言える。
アクセント
アクセントは大半の地域で内輪型東京式、新見市周辺で中輪型東京式である。
東京式アクセントの地域でも、県南部および北東部では「昼」「夏」「冬」が「テンプレート:高線る」のように頭高型(最初が高い)になる[2]。
東京のアクセントでは、三拍形容詞は平板型になるもの(あテンプレート:高線)と中高型になるもの(しテンプレート:高線い)の2種類がある。岡山県でも高齢層にはこの区別があるが、南西部(岡山市、笠岡市、旧勝山町・落合町を結ぶ三角形の内側)と兵庫県に接する南東部では、若年層においてどちらも中高型(あテンプレート:高線い)になっている。東京式アクセントでは第一類の語(赤い、軽い、暗い、など)は平板型、第二類の語(白い、高い、近い、など)は中高型になる地域がほとんどであるが、名古屋・岐阜県・兵庫県北部などではすべて中高型に統一されている。一方、岡山県でも美作では若年層にも区別がある[1]。
なお、岡山県内のうち、次の地域は東京式アクセントではない。真鍋島では一音節語は長音化する[1]。
文法
活用
岡山市の活用表を示す[1]。
動詞 | 未然 | 連用 | 終止 | 連体 | 仮定 | 命令 | 進行態 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
五段 | 読む | よま-ん、よもー | よみ-ます、よん-だ | よむ、よまー | よむ | よみゃー | よめ、よめー | よみょーる |
上一段 | 起きる | おき-ん、おきゅー | おき-ます、おき-た | おきる、おきらー | おきる | おきりゃー | おきー | おきゅーる |
下一段 | 受ける | うけ-ん、うきょー | うけ-ます、うけ-た | うける、うけらー | うける | うけりゃー | うけー | うきょーる |
カ変 | 来る | こ-ん、こー | き-ます、き-た | くる、くらー | くる | くりゃー | こい | きょーる |
サ変 | する | せ-ん、しょー、さ-す | し-ます、し-た | する、すらー | する | すりゃー | せー | しょーる |
ナ変 | 往ぬる | いな-ん、いのー | いに-ます、いん-だ | いぬる、いぬらー | いぬる | いぬりゃー | いねー、いね | いにょーる |
- 2つ目の未然形は、「書こう」「起きよう」などにあたる形であるが、岡山弁では意志・勧誘だけでなく、推量の用法でも用いる。上一段動詞の未然形は「起きゅー」のようにウ段拗音の形をとるが、まれに「起きょー」のようにオ段になることがある。[1]
- 2つ目の連用形は「て」「た」「とる」が付く場合を表す。共通語と異なる点は、ワ行五段動詞がウ音便になること(洗う→あろーた)、サ行五段動詞がイ音便になること(出す→だいた、でーた)である。
- 進行態は、動作の進行を表す形で、共通語の「~ている」に当たる(#アスペクトの区別を参照)。五段動詞は「書きょーる」「飲みょーる」のような形を取るが、ワ行五段動詞には「よーる」を付ける(買う→かよーる)[1]。上一段動詞の進行態は「起きゅーる」のようにウ段拗音の形をとるが、まれに「起きょーる」のようにオ段になることがある[1]。下一段動詞は「食びょーる」のような形を取る。ただし「-える」で終わる下一段活用動詞は、「え」を省略して「-よーる」を付ける場合もある(考える→かんがえよーる、かんがよーる)。
- 二つ目の終止形(「よまー」など)は、「読むわ」のように「わ」の付いた形が融合したもので、詠嘆を表す[2]。
- 岡山弁にはナ行変格活用の「いぬる」「死ぬる」が残っている。これらは「いぬ」「死ぬ」というナ行五段活用にもなる[1]。
形容詞 | 未然 | 連用形 | 終止・連体 | 仮定 |
---|---|---|---|---|
赤い | あかかろー | あこー-て、あかかっ-た、 あかかり-そーな |
あかい | あかけりゃー |
連用形のうち「-かり」の形は、「そーな」を付けて使う。また、動詞と同じく推量の用法で未然形を用いることが盛んにある。
形容動詞 | 未然 | 連用形 | 終止 | 連体 | 仮定 |
---|---|---|---|---|---|
静かじゃ | しずかじゃろー | しずかで、しずかに、 しずかじゃっ-た |
しずかじゃ、しずかじゃー、 しずかな、しずかなー |
しずかな | しずかなら |
中国方言ではよくある事だが、形容動詞の終止形に「-な」の形がある。これに伴い、「静かなじゃろー」(=静かだろう)、「静かなかろー」(=静かだろう)、「静かなかりそーな」(=静かだそうだ)、「静かなけりゃー」(=静かならば)のような活用を用いることがある。また、2つ目の連用形も、「静かになる」のような共通語と同じ使い方もあるが、「静かにあった」(=静かだった)、「静かにあろー」(静かだろう)という活用で用いることがある。[1]
名詞の曲用
岡山弁では、格助詞「は」「を」「に・へ」は前の名詞と融合して発音される。これを名詞の曲用と見ることもできる。[1]
表現の例
- 花は → はなー(hanaː)
- 花を → はなー(hanaː)
- 花に・へ → はねー(haneː)
- 月は つきゃー(tsukyaː)
- 月を → つきゅー(tsukyuː)
- 月に・へ → つきー(tsukiː)
- 水は → みざー(mizaː)
- 水を → みずー(mizuː)
- 水に・へ → みじー(miziː)
- 酒は → さきゃー(sakyaː)
- 酒を → さきょー(sakyoː)
- 酒に・へ → さけー(sakeː)
- ここは → こかー(kokaː)
- ここを → ここー(kokoː)
- ここに・へ → こけー(kokeː)
アスペクトの区別
共通語においては、動作の進行を表す相(アスペクト)と完了や経験などのほかの相、いずれの場合でも同じ「-(し)ている」と表現する。例えば、進行相に「今ラーメンを食べている」、完了後の結果の継続にも「窓が開いている」、経験に「太郎は3回ハワイに旅行している」を用いる。しかし岡山弁を含め中国方言や四国方言、九州方言では進行相と完了相その他とに対してそれぞれ別々の表現をするのが普通であり、岡山弁では前者を「-ょーる(ゅーる)」、後者を「-とる」で表現して区別する。したがって先ほどの例は「今ラーメン食びょーる」「窓が開いとる」「太郎は3回ハワイ(ん)旅行しとる」となる。
相に関するこれら2種の違いにより意味がはっきりと異なる文例を次に示す。
- A: 「今朝起きてなんかさみー思うて外見ょーったら、雪降りょーったけえおどれーたわ」
- B: 「今朝起きてなんかさみー思うて外見ょーったら、雪降っとったけえおどれーたわ」
これらを共通語に直訳すると、どちらも「今朝起きて、何か寒いと思いながら外を見ていたら、雪が降っていたので驚いたよ」となるが、実のところ A と B では意味が異なる。A は進行相の文であり、話者が外を見た正にその瞬間に空から雪が降っているさまを表している。しかし B からは、外を見た瞬間空には雪が降っていたか止んでいたかは読み取れず(とはいえ、聞き手には既に止んだものと捉えられることも多い)、むしろ既に雪が降っていたために外を見たときには雪が降り積もっていたというところに意味の重点を置いた文であり、完了の1つ、動作の結果による状態の継続を表す相である。
もう1つ文例を挙げる。
- A: 「見てみ! ゴキブリが死にょーるで!」
- B: 「見てみ! ゴキブリが死んどるで!」
A の「死にょーる」は進行相をあらわす表現であり、「死んでいる」と共通語に訳すことはできない。「死ぬ」は一瞬の状態の変化を表す動詞の1つであり、意味上「食べる」「踊る」のように動作の継続をも表しうる動詞ではない。こういった動詞が共通語の「-ている」に結び付く場合、一瞬の変化の完了(状態の継続)と捉えるのが自然であって、一瞬の変化が進行中であると捉えるのは難しい。そのような動詞に対し「死にょーる」のように進行相の形にしたとき、状態の変化が今まさに進行中であることを示し、共通語の「死にかけている」「死につつある」という意に相当する。発言した瞬間にはまだ死んではいないが、いまにもすぐに命のともし火が消えそうな状態をさす。同様に、「もうちょいで崖からおちゅーった」は「もう少しで崖から落ちるところだった」の意である。それに対し B は完了相であり、直訳文の文字通り「既に死んでいる、死んだ」ことを表す。
ただし、「-とる」が進行を意味することもときにある。例えば、
- 母: 「なんかやかましーけど、ホンマに宿題しょーん?」(なんか騒々しいけど、ホントに宿題してるの?)
- 子: 「んー? 今やっとるとこー」(んー? 今やってるところ)
上例の「今やっとる」とは「今やりつつある」の意味であり、この場合「やっとる」を「やりょーる」と言い換えることもできる。ただし、「やりょーる」が動作そのものが進行中であることを示すのに比べて、「やっとる」は「さっきからずっとやっている」というように、ある程度前の時間から現在(発言した時点)まで動作が継続している状態であるというところに重点を置いた文であり、普段意識されないほどにわずかではあるが、ニュアンスが異なる。
助動詞
- 「じゃ」
- 岡山弁では、共通語の「だ」にあたる断定の助動詞に「じゃ」を用いる。岡山弁の特徴の一つである。「じゃ」は西日本方言に広く見られるが、特に岡山を含む山陽地方で多く使われる。過去は「じゃった」、推量は「じゃろー」であるが、美作から備前東部にかけては、これら以外に「だった」「だろー」も用いている[1]。
- 打ち消し
- 動詞の打ち消しは「-ん」を用いる。「-なかった」にあたる過去打ち消しは県内全域で「-なんだ」を用いるが、備中では「-ざった」も用いられる[1]。
- 使役「-す」「-さす」
- 使役(-させる)は、「-す」「-さす」を用いる[1]。
- 尊敬「-てじゃ」
- 「来(き)てじゃ」のように、「連用形+て」で尊敬を表す[1](厳密には助動詞ではない)。「じゃ」は上述の断定の助動詞なので、「て」が敬意を表している。過去形は「-てやった/ちゃった」で、近畿地方の播州弁・丹波弁・舞鶴弁でも同様の表現がある。(例)「先生が言うてやった/言うちゃった」
- 「-まい」
- 打ち消し意志・打ち消し推量(-ないでおこう、-ないだろう)に「-まい」を用いる[1]。
- 命令表現
- 「-してください」「-しなさい」を意味する命令表現は、旧国によって異なっている。備前地方においては「-せられー」、備中地方においては「-しねー」、美作地方においては「-しんちゃい」「-しんちぇー」などと言う[2]。
備前 | 備中 | 美作 |
---|---|---|
○○せられー | ○○しねー | ○○しんちゃい |
助詞
- 「けー」「けん」
- 理由・原因の「(だ)から」を「(じゃ)けー」「(じゃ)けん」と表現する[2]。「故に(けに)」に由来する語で、中国方言の特徴である。空間・時間などの起点などを表す「から」の方は、「けー」「けん」とはならない。
- 例: 「たかしが東京からおみやげーステーキぎょーさんこーてけーってきたけー、こんしょーがつぁーくいもんには困らんじゃろーで」(たかしが東京からお土産にステーキをたくさん買って帰ってきたから、この正月は食べ物には困らないだろうなあ)
- 「と」抜き
- 日常会話において引用の助詞「と」が省略される傾向が強い。「と」を抜く変わりに「ゆうて」を用いることもある[1]。
- 共通語・・・「明日までにちゃんとやる」と言ったでしょ?
- 岡山弁・・・「明日までにちゃんとやる」言うたじゃろ?
- 共通語・・・「たぶん許してくれる」と思った。
- 岡山弁・・・「たぶん許してくれる」思うた。
- 「な」「なあ」「の」「のお」
- 共通語の「ねえ」に当たる助詞は、「な・なあ」「の・のお」がある。「の・のお」は年配男性に多く、女性で用いられるのは一部の高齢層など少数である。
- 例:「これがな、この前できたビックカメラなんじゃ」「ホンマじゃ、でーれーでけえなあ」
- 「が」
- 「が」を文末で用いる。「〜じゃないか」「〜よ」などの意味を持つ[2]。「がん」とも。
- 例:「今しょーるが/しょーるがん」(今やっているじゃないか)
- 例:「ええが/ええがん」(いいじゃないか)
語彙
動詞
- おらぶ - 大声を出す。大声で呼ぶ。古語に由来する。
- いらう - 触る、弄る
- ちばける - ふざける。「ちゃーける」とも言う。
- めぐ(他動詞) 、めげる(自動詞) - 壊す(他動詞)、壊れる(自動詞)。(例)「この時計、めげとる」(この時計壊れている) 播州弁や他の中国方言にも同様の表現がある
- ごうがわく - 腹が立つ。播州弁にも同様の表現がある。
- けなりがる - 羨む、妬む。
- いがる - 大声を出す。
- にがる - お腹等首から下がとんでもなく痛い状態を指す動詞。(例)「今日は腹がにがっておえん」
- まくばる - (均等になるように)配る、分ける。播州弁にも同様の表現がある。
- とらげる - 1.しまう、片付ける、元の位置に戻す。 2.(人から物などを)取り上げる。
- かる - 借りる。古語形が保存されている例であり、共通語と同じ「借りる」も使われるが、注意すべきは「借りた」を「かった」などと言うことである。ちなみに「買った」は「こうた」。
- ぞぞけがたつ - 鳥肌が立つ。悪寒がする。播州弁にも同様の表現がある
- いごく - 動く。
- うがす、うげる - 剥がす、剥げる。 (例)「その紙うがさにゃーおえん」(その紙を剥がさないといけない)
- ぶりゅー(ぶりを)つける - 勢いをつける (例)「かなりぶりゅーつけにゃあその川飛び越えれんで」
- かやる、けーる、かえる - 倒れる。ひっくり返る。
- けっぱんづく - つまづく。蹴つまづく。(例)「石段とこでけっぱんじーてひざーすりむいて(すりみーて)しもーた」
- あましをくう - 勢いあまる。
- はずむ - 尿意・便意を催す。糞尿がいまにも漏れそうである。(例)「こかー便所ねーんか!? さっきからはずんでどうもならんわ」
- やいとおを据える - お灸を据える。転じて、お仕置きをする。
- 頬玉(ほおだま)を張り回す - 頬を引っぱたく。顔面を張る(顔面を殴るの意味で使うことも)。転じて、お灸を据える、お仕置きをする。
- てごーする - 手伝う。
- 駆ける‐「疾走」というより単純に「走る」と同じように使う (例)「そんなにかけたら転ぶで(そんなに走ったら転ぶよ)」
- まける‐こぼれる、「撒く」とも違う (例)水がまけた
- みてる‐無くなる、分量があるものが尽きる(例)砂糖がみてた(砂糖がなくなった)
- うだる‐何かがちょっと端から零れる、垂れる、もれるというようなニュアンスで (例)「醤油のフタがゆるくて口からうだっとる(フタがゆるくて挿し口から醤油が出てきている状態)」
- くぎる‐焦げる
- 頭を切る‐髪の毛を切る
- ほとび る、さす‐ふやける、ふやけさせる
形容詞・形容動詞・副詞
- でーれー - すごく、ものすごい。「どえらい」の転。
- ぼっけー - すごく、ものすごい。「ぼっこー」とも。(例)「はちー刺されてぼっこー腫れた」(蜂に刺されてえらく腫れた)
- もんげー - 「ものすごい」の転。「ものげー」とも。
- 風がわりー - 格好が悪い、見栄えが悪い、体裁が悪い。転じて、恥ずかしい。「風変わり」とは意味が違う。アクセントの違いで区別できる。
- みてる/みける - 無くなる、空になる。他の地方の人は、「満ちる」と勘違いしがち。(例)「あねーようさんあった桃がはーみてたんか」
- 頭がわりー - 頭が痛いこと。備前地方で使われる。(例)「今日は頭がわりーので休ませてください」
- えらい(えれー) - (1)疲れた状態、(身体的に)つらい様子、 (2)凄い/凄く (3)偉いの二重母音変化。
- 胸糞(むなくそ)が悪りー - 腹が立つ
- ぎょーさん - たくさん
- ちーと - 少なく、少し、ちょっと
- ちょびっと/ちょー - 少し・少々。「ちょー」は「ちょっと」の転訛。「ちょびっと」は、物理的な量の意味に限定して用いる。現在でも日常的な表現。播州弁とも共通。 「ちょー」は流行語の「超」と同音であるが意味は正反対となっている。両者は微妙にアクセントが異なり、それに加えて文脈のニュアンスで区別・判断する。(例)「ちょー待てー」(ちょっと待って)
- きょーてー - 恐い。恐ろしい。古語「けうとし」(畏れ多いの意)が変化したもの。
- すわろーしー - 良くない。共通語の「すばらしい」の逆の意。
- おえん、おえりゃーせん - いけない、だめ。「もうお終いだ」の意の「畢へる」「竟へる」が変化したという説と、「手に負えない」の「負えない」が変化したものとの説がある。(例)「そねーなことーしちゃー、おえん」(そんなことをしてはいけません)、「あいつはおえん奴じゃ」(あいつはダメな奴だ)、「あの会社はもうおえりゃーせんで」(あの会社はもうだめだ)
- なんぼーにも - どうにも。(例)「なんぼーにも、おえりゃーせん」(どうにも、手に負えない)
- ~やこー - ~など、~なんて、~なんか。(例)「桃やこー、岡山じゃ安う買えるで」
- わや、わやくそ - 無茶苦茶。さらにひどい状況時などには「わやくそ」とも。(例)「わやなことゆーたら、おえんで」(無茶なことを言っては、だめ)。
- ごじゃ、ござ - 無茶苦茶。「わや」とほぼ同じ意味。「ごじゃくそ」「ござくそ」と表現する場合もある。
- あねーな、こねーな、そねーな - 順に「あんな、こんな、そんな」の意。関西弁の「あないな、こないな、そないな」に近い。
- あげーな、こげーな、そげーな - 上記同様、順に「あんな、こんな、そんな」の意。雲伯方言の「あげな、こげな、そげな」に近い。
- しわい(しうぇー/しえー) - 食べ物がすっきり噛み切れないこと。肉、スルメ、湿気た煎餅など。転じて、物事がなかなか上手くいかない様、扱いにくい人。
- どーならん - どうにもならない。手に負えない。「どーなん」とも言う。
- ひょんな - おかしな、変わった。(例)「ひょんなげなカッコじゃのー」
- あらつかな - 荒い。
- にーな(新な) - 新しい。
- よー 〜せん - 「とても~できない」。「せん」は、サ変動詞「する」の未然形+打ち消しの助動詞「ん」。古語の「え~ず」の表現に相当。おおむね西日本一帯で使用される。
- やっちもねー、やっち糞もねー - くだらない、つまらない、しょうもない、ろくでもない。(例)「何ゆーとんじゃ。やちもねー!」「やっちもねーこと言うとらんと、早ようしねー」
- くつろぐ「寛ぐ」という意味の他、(相手に何かをしてもらった時など)助かった、楽になったという意味でも使う(例)「てごしてもろうてくつれえだわ(手伝いをしてもらって助かったわ)」
- いごいご する(小さい子などが)うろちょろとする 手悪さなどする (例)「いごいごせんで、じっとせられえ」(うろちょろしないで、じっとしなさい)
名詞
- あんごー - あほ、ばか、たわけもの、ろくでなしの意。元来は公家などが使用していたもの。三重県でも使用。(例)「このおおあんごうが!」
- いら、いらち - せっかちの意。おおむね関西周辺で使用される。
- いら - 毛虫。
- ぶと - 蚋。
- なんば - とうもろこし。滋賀県湖東地方などでもいう。南蛮黍の略。
- ねき - 近所・近く
- べべ - 「服」という意味の幼児言葉。元々は晴れ着・着物・一張羅を意味していたが、現在は服全般を指す場合が多い。
- ちゃんこ、おっちゃんこ - 「座った状態」の意味。基本的に幼児言葉である。「ちゃんこする」という風に動詞としても使用される。
- べべちゃんこ - 上記同様の幼児言葉であるが、特に「正座」の意味で使用される。
- ふう - 風体、体裁。(例)「ふうが悪りーのー」
- ほんま - 本当。
- てんで - ばらばら、それぞれ等の意。(例)「今日は飯ゆーてんでに食べてん」「てんでに置いとくな」
- ぶに - 分(ぶん)。分け与えられたもの、わけまえ、わりあて。主に備中南部で使用される。(例)「この皿のケーキは、わしが食べるぶにじゃ」
- かしわ - 老鶏の肉。特に排卵を終えた雌鶏などの肉。
- うったて - 書道で一画を起筆・送筆・収筆にわけた際の「起筆」に当たる、最初に筆を下ろす部分。(打立・討立)
- どんづまり・つき-どんづまり=行き止まり、どんつき=突き当たり
- はとおじ - カメムシ。
- はみ - マムシ。
助詞・副助詞
- じゃ - 「その通り」の意で、「そうじゃ」が短縮されたものと思われる。主に備中地方で耳にする。
- ばー - ばかり。(例)「そねーに菓子ばー食よーっちゃー、しまいにゃー太るでー?」
- (ん)なら? - 「のか?」大抵は相手に対する強い非難や疑念、怒りや苛立ちの意をこめる時に使われる。(例)「なにゅーぐずぐずしょーんなら? はよー支度せにゃーバスに間に合わんで」「何を言いよるんなら/言いよんなら/よおるんなら/よんなら」
岡山弁に関連した人物・作品など
- 人物
- MEGUMI - 倉敷市出身のタレント。トーク番組でネタとして岡山弁を使用することがある。
- 千鳥 - 笠岡市・井原市出身のお笑いコンビ。岡山弁を多用した漫才を展開。特に大悟は漫才以外でも多用することがある。
- 甲本雅裕 - 岡山市出身の俳優。時折ドラマで、岡山弁丸出しの役を演じることがある。
- 稲葉浩志 - 津山市出身の歌手。歌詞に「ら抜き」「れ足す」が多く見られる。「O.NO.RE」では歌詞に岡山弁を活かしている。
- 甲本ヒロト - 岡山市出身の歌手。ライブ時のMCや、インタビュー等で岡山訛りがかなり見受けられる。自身のプロフィールにも特徴として「岡山訛り」を書いていた時期もある。
- 長門勇 - 倉敷市出身の俳優。映画やドラマで「なんぼーにも、おえりゃーせんのー」などの岡山弁を多用した。金田一シリーズに出演したときも岡山弁を多用する役を務めた。
- 作品
- 重松清作品
- つらつらわらじ
- 47都道府犬 - 声優バラエティー SAY!YOU!SAY!ME!内で放映された短編アニメ。郷土の名産をモチーフにした犬たちが登場する。岡山県は、桃がモチーフの岡山犬として登場。「こんな大きな桃、直感的に拾うがじゃ!!」などと話す。声優は岡山県出身の金元寿子。
- よみがえる空-RESCUE WINGS- - 主人公とその彼女が岡山出身という設定で、普段は標準語だが二人で会う時や帰省時など時折岡山弁が出る。「おえん」をネタに主人公が同僚にからかわれたこともある。
参考文献
- 飯豊毅一・日野資純・佐藤亮一編『講座方言学 8 中国・四国地方の方言』 国書刊行会、1982年
- 広戸惇「中国方言の概説」
- 虫明吉治郎「岡山県の方言」
- 佐藤亮一編『都道府県別全国方言辞典』三省堂、2009年
- 金沢裕之・中東靖恵「岡山県」
- 藤原与一『瀬戸内海島嶼のアクセント』(方言5巻8号内 昭和10年8月) - 岡山周辺のアクセントについてはこれを参照。
- 青山融『岡山弁JAGA!』 びーろくシリーズNo.2 1996年6月10日初版 ISBN 4900990108 - 連母音・助詞の融合・長音変化に関してはこれを参照
金田一春彦監修『新明解日本語アクセント辞典』(三省堂、2001年発行) - 共通語のアクセントはこの書籍に依った。