女王蜂 (横溝正史)

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テンプレート:基礎情報 書籍女王蜂』(じょおうばち)は、推理作家横溝正史が著した長編推理小説[1]。雑誌『キング』に連載され(1951年6月号~1952年5月号)、1952年講談社から『傑作長篇小説全集』第14として刊行。

本作を原作として、2014年現在までに映画2本、テレビドラマ5作品が制作されている。本作を作者の代表作と見なす者は少ないが、華やかな人物配置や背景、20年に及ぶ因縁のドラマなどが好まれて映像化の機会が多い。

あらすじ

「…彼女は女王蜂である。慕いよる男どもをかたっぱしから死にいたらしめる運命にある。…」

昭和26年、月琴島で育てられた大道寺智子は18歳になり、父・大道寺欣造の住む東京の屋敷に引き取られることになっていた。その欣造宛てに奇妙な手紙が届き、智子を呼び寄せてはいけないと警告していた。手紙は月琴島で19年前に起こった学生の事故死にも触れ、「あれは果たして過失であったか」と疑問を投げかける。不安を感じたらしい欣造は金田一耕助に調査を依頼。金田一は智子の後見人として月琴島に渡り、智子の東京行きに同行することになる。

一方、智子は、東京行きの直前のある日、椿の根元から開かずの間の鍵を見つけ出した。好奇心に駆られた彼女が、開かずの間の中で見たものは、血のついた月琴であった。

島を出て、伊豆のホテル松籟荘に着いた智子の前に、大道寺欣造、文彦らのほか、欣造の薦める3人の婿候補者(遊佐三郎、駒井泰次郎、三宅嘉文)と、謎の手紙で呼び出された多門連太郎が現れる。智子を巡る争いのうちに、惨劇の幕が開かれる。

登場人物

  • 金田一耕助(きんだいち こうすけ) - 私立探偵
  • 等々力大志(とどろき だいし) - 警視庁警部
  • 亘理(わたり) - 修善寺警察署署長
  • 工藤(くどう) - 下田警察署署長
  • 宇津木慎介(うつぎ しんすけ) - 新日報社調査部社員、金田一の同郷の後輩
  • 大道寺鉄馬(だいどうじ てつま) - 源頼朝の血を引くという伝承を持つ旧家の先代。故人
  • 大道寺槙(だいどうじ まき) - 鉄馬の妻
  • 大道寺琴絵(だいどうじ ことえ) - 鉄馬の娘、智子が五歳の時に死亡
  • 大道寺欣造(だいどうじ きんぞう) - 琴絵の夫(婿養子)。智子を私生児にしないために戸籍上夫婦になったに過ぎず、智子と血の繋がりは無い
  • 大道寺智子(だいどうじ ともこ) - 琴絵の娘
  • 大道寺文彦(だいどうじ ふみひこ) - 欣造と蔦代の息子、智子の弟(血の繋がりは無い)
  • 蔦代(つたよ) - 元大道寺家女中、欣造の愛人(実質的には妻)で文彦の実母
  • 神尾秀子(かみお ひでこ) - 琴絵・智子の家庭教師
  • 伊波良平(いなみ りょうへい) - 大道寺家執事、蔦代の兄
  • 九十九龍馬(つくも りゅうま) - 月琴島出身、加持祈祷の行者で、政財界にも影響力を持つ怪人物
  • 遊佐三郎(ゆさ さぶろう) - 智子の婿候補者の一人
  • 駒井泰次郎(こまい たいじろう) - 智子の婿候補者の一人
  • 三宅嘉文(みやけ よしぶみ) - 智子の婿候補者の一人
  • 姫野東作(ひめの とうさく) - ホテル松籟荘使用人
  • 衣笠智仁(きぬがさ ともひと) - 元宮様、ホテル松籟荘の前の持ち主
  • 日下部達哉(くさかべ たつや) - 欣造の友人で智子の本当の父。19年前、学生のときに島を訪れ琴絵と結ばれるが、謎の死を遂げる
  • 多門連太郎(たもん れんたろう) - 特攻隊帰りですさんだ生活をしている。優れた肉体美を持ち、遊佐と面識がある
  • カオル - 連太郎の恋人
  • 加納辰五郎(かのう たつごろう) - 加納法律事務所所長

映画

1952年版

毒蛇島綺談 女王蜂』は1952年2月1日に公開された。大映、監督は田中重雄、主演は岡譲司

原作で金田一が石を投げつけられ負傷するという場面があるが、本作では銃で撃たれ生死不明、さらに銃弾が命中したはずなのになぜ助かったのかの説明もなくクライマックスで変装をして現れ推理を披露するという、後の「土曜ワイド劇場」の『江戸川乱歩の美女シリーズ』を先取りしたような作りになっている。

キャスト

1978年版

1978年2月11日に公開された。東宝、監督は市川崑、主演は石坂浩二

この映画では舞台が東京から京都に変更されているほか、月琴島が伊豆山中の「月琴の里」に変更されている。この映画の放映時期に合わせるように、コミックスも出版された。過去3作の犯人役を総出演させての豪華キャスト、カネボウ化粧品とのタイアップなど話題作りなどでヒットしたが、日程がタイトでベテラン松林宗恵がB班監督として協力した。

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テレビドラマ

1978年版

横溝正史シリーズII・女王蜂』は、TBS系列1978年8月12日から8月26日まで毎週土曜日22:00 - 22:55に放送された。全3回。

毎日放送三船プロ

このドラマでは作中の全事件が月琴島内で起こったことになっている。結末は暗澹たるものに改変されている。

キャスト

1990年版

テレビ朝日系列2時間ドラマ火曜ミステリー劇場」(毎週火曜日20:00 - 21:48)で1990年10月2日に放送された。

キャスト

1994年版

名探偵・金田一耕助シリーズ・女王蜂』は、TBS系列2時間ドラマ月曜ドラマスペシャル」(毎週月曜日21:00 - 22:54)で1994年4月4日に放送された。

ストーリーは大幅に変更されている。

キャスト

1998年版

横溝正史シリーズ・女王蜂』は、フジテレビ系列2時間ドラマ金曜エンタテイメント」(金曜日21:00 - 23:08)で1998年4月17日に放送された。

キャスト

2006年版

金田一耕助シリーズ・女王蜂』は、フジテレビ系列2時間ドラマ金曜エンタテイメント」(金曜日21:00 - 23:22)で2006年1月6日に放送された。

ストーリーはほぼ原作通り進行していくが、登場人物が何人か省かれている。また、原作で歌舞伎座で殺害される三宅嘉文が登場せず、その代わりに原作では殺害されなかった駒井泰次郎が殺害される。また、三宅嘉文が登場しない関係で、3人目の婿候補が九十九龍馬になっている。金田一が襲撃されるシーンはないが、代わりに歌舞伎座で奈落に突き落とされるというシーンがある。

キャスト

脚注

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関連項目

  • 1931年(昭和6年)に雑誌『文学時代』に発表された本作と同名の短編があり、角川文庫版『殺人暦』に収録されているが、中島河太郎による同書の解説では、内容は本作とは特に関連がなく、他にも『仮面舞踏会』、『迷路の花嫁』といった作品など、同名で内容が異なる短編と長編が存在する例が挙げられている。