卵かけご飯
卵かけご飯(卵掛け御飯、たまごかけごはん)は、飯に非加熱の鶏卵を掛けた飯料理である。調味料として醤油などが使用される[1][2][3]。卵を生のまま用いる。「卵ぶっかけご飯」、「卵ご飯」、「卵かっか」、「卵かけ」、「たまご飯」、「たまつる」、「ぼっかけご飯」、「T.K.G.(Tamago Kake Gohan)」[2][4][5]などとも呼ばれる。
目次
歴史
テンプレート:独自研究 古来より日本人が食する動物性の食品は、魚介類が中心であった。仏教の不殺生戒の影響(ただし誤解もある)により、獣肉や鳥肉の摂取は稀であった。それでも鳥肉は獣肉に比べればまだ食されていたが、テンプレート:要出典範囲。
近代に入った1877年頃、日本初の従軍記者として活躍し、その後も数々の先駆的な業績を残した岸田吟香(1833年 - 1905年)が卵かけご飯を食べた日本で初めての人物とされ、周囲に卵かけご飯を勧めた[6]。
卵の生食
現代日本では卵を生食できる食品として認知されているが、日本以外の国では韓国のユッケおよびヨーロッパのタルタルステーキで生卵と生肉、他の具材をかき混ぜる料理がある他は生食する食習慣は独特とされ、国外では薬用として卵が生食される[7]。卵を食す場合は、完全に火を通した調理が一般的である。日本以外の文化圏で育った人にとって、生卵を食する習慣はカルチャーショックであり、時にはゲテモノ食と映る可能性もある。アメリカ映画の『ロッキー』では主人公が複数の生卵を飲み干すシーンがあるが、日本人と日本人以外では受け止め方が異なる可能性がある。また、香港映画の『少林サッカー』では、ぼろ靴の上で潰れた生卵を吸うシーンでいじましさを演出している。なおフランスのミルクセーキ等のように、生卵を使った料理は世界各地に多数存在し、日本だけの食習慣ではない。『生卵をメインに使った料理』の存在が、日本独特のものである。
サルモネラ菌
元来生卵はサルモネラ食中毒などを起こしやすく、安全に食べられる地域は日本など一部に限られている。日本国外では、卵の生食で食あたりする日本人が毎年発生する。生食を前提にしている日本では、鶏卵農家が卵の完全洗浄など衛生管理全般が行き届いているが[7]、それでもサルモネラ食中毒が1990年代以降増加傾向にあり、一定の注意が必要である[8]。
サルモネラ属菌は、主にはニワトリの腸管におり、卵を産んだ後に糞便等から卵の殻に付着することが多い。日本では、GPセンター(Grading(選別)・Packing(パック詰め)を行なう工場)での選別時に次亜塩素酸ソーダによる殺菌処理を入れることもある[9]。生卵を食べる場合は、「ひび割れた卵」[10]や「割れた卵」、「割ってからテンプレート:要出典範囲卵」を使用するのは危険である。ただし、産卵後の汚染以外に、菌を保持している親鶏から卵巣や卵管を経由して菌が卵の中に付着する感染経路もあり、テンプレート:要出典範囲。
アメリカ食品医薬品局(FDA)[11]は、食中毒を避けるために、購入の際には殻が割れていないことを確認すること、調理の際には十分な加熱することを呼びかけている。
タンパク質の吸収性
タンパク質の生体利用率は生卵で51%、加熱された卵では91%であり、生卵のタンパク質の吸収率は、加熱された卵のタンパク質と比較して半分近く吸収率が低い[12]。
卵白の摂取による影響
卵白には卵黄に多く含まれているコレステロールを抑制する作用があるとする研究発表がある[13]。
一方、生卵白に含まれるアビジンにはビオチンの吸収を阻害する性質があり、生卵白を長期間にわたり継続して大量に摂取することによりビオチン欠乏症を発症する危険性があることを指摘する研究発表も出されている[14]。
日本の食文化の中での位置づけ
現代の料理として
料理研究家栗原はるみは、2004年に発刊した外国人向けの料理書『ジャパニーズ・クッキング』で、卵かけご飯を紹介している。このように、調理を施すか、複雑な調理方法を用いるか否かによる「料理(Cooking)」の定義は定かではない。
2008年には、岡山県久米郡美咲町に、卵かけご飯を中心のメニューとした定食店が開店した[15][6]。美咲町は卵かけご飯を日本で最初に食べたとされる岸田吟香の出生地でもある[15][6]。2009年10月10日には東京都日比谷の帝国ホテル前に卵かけご飯専門店が開店した[16]。
2000年代後半には、卵の生食習慣がない香港に向けて日本の食文化である「卵かけご飯」の市場開拓を目指す動きがある[17]。
生卵は冷凍保存できないことから長期間の保存が難しい。南極観測隊では補給物資として半年振りに振舞われた生卵で卵かけご飯を作る隊員もいる[18]。
卵かけご飯専用醤油
卵かけご飯に最適化するように調味されており、醤油をベースに昆布や鰹節のうま味を加え、卵との調和を向上させるために甘味を加えた「卵かけご飯専用醤油」が開発され、2000年代以降に数十社から商品化・市販され、メーカーによっては「関東風」「関西風」など細分化されている[19]。
- おたまはん(雲南市の吉田ふるさと村が開発、2002年発売)[20]
- たまごにかけるお醤油(福山市の寺岡有機醸造が開発)[21]
- 玉子かけご飯にかける醤油(熊本市の濱田醤油が開発)[22]
- ヒゲタ たまごかけご飯にどうぞ!(醤油メーカー大手のヒゲタ醤油が発売)[23]
など。
卵かけご飯専用調味材
卵かけご飯に合うように、または独自の風味を出すように調合された調味材も存在している。
関連イベント
- 島根県雲南市において卵かけご飯の魅力を語り合うシンポジウムが開かれた。これは卵かけ専用の醤油「おたまはん」を同市の第三セクター「吉田ふるさと村」が開発したことに起因するものである。
- シンポジウムの内容は歴史や魅力について語り合うものであり、卵かけご飯にまつわる思い出や料理法が募集された。その中で「卵かけご飯の日」が10月30日に制定された。
- 現在でも毎年開催されており、2009年10月25日には島根県雲南市で「《第5回》日本たまごかけごはんシンポジウム」が開催された。
- アスパムたまごかけご飯フェア(2009年4月25日〜5月6日・9月19日〜23日)
- 青森県観光物産館アスパムを会場として、第1回が2009年4月25日〜5月6日に、第2回が同年9月19日〜23日に開催された。
参考文献
書籍
- 『江戸時代の料理本にみるたまご料理について』松本仲子著、1992年、日本家政学会誌、pp.903-913
- 『食べかた上手だった日本人 - よみがえる昭和モダン時代の知恵』魚柄仁之助著、2008年、ISBN 9784000237796
- 『岸田吟香 - 資料から見たその一生』杉浦正著、汲古書院、1996年、ISBN 9784762950193
- 『365日たまごかけごはんの本』T.K.G.プロジェクト、読売連合広告社、2007年、ISBN 9784990378806
外部リンク
- 卵によるサルモネラ食中毒の発生防止について(厚生労働省)
- 日本たまごかけごはんシンポジウム
- 「卵かけご飯」を輸出したい!ターゲットは海外富裕層,読売新聞,2009/4/7
- 冷凍卵かけごはん・冷凍卵の目玉焼き,大石寿子著,ALLAbout,2008年7月12日
- 臥竜塾 - 生卵,藤森平司,2007年3月9日
- たまごかけごはん世界選手権,大石寿子著,ALLAbout,2008年9月3日
- 考えるパン - 魯山人の生卵かけごはん,戸矢学著
- 岸田吟香について - 日本で最初に生卵をご飯にかけて食べた人,美咲町旭文化会館
- Playing it Safe With Eggs,FDA
- 「たまご」で町おこし,美咲町役場産業観光課
- 「味の素」|NEO TAMAGO KAKE GOHAN,味の素KK
- 「卵かけご飯」佐賀市の新名物に 商工会議所がPR,佐賀新聞,2009/7/7
関連資料・作品
- 『365日たまごかけごはんの本』(読売連合広告社、2007年)では365種類の卵かけご飯を紹介している。その中で「T.K.G.」をたまごかけごはんの呼称(「醤油T.K.G.」や「チーズサンシャインT.K.G.」など)として使用している。T.K.G.とはもともと著者の一人である森田明雄が、編集作業の簡素化のために生み出した言葉で、この本ではごはんに生卵をかけた一般的なたまごかけごはんではなく、本文で掲げられている「おきて」に則った自分オリジナルの創作たまごかけごはんのことを「T.K.G.」と呼んでいる[4]。著・編集はT.K.G.プロジェクト。
- 司馬遼太郎の小説『翔ぶが如く』には、西郷隆盛が卵かけご飯を好み、明治維新以降、夕食事にしばしば食したという旨の記述があるが、史実では無く司馬の創作と推測される。
- 携帯電話のゲームにも登場した。Mobage(旧称・モバゲータウン)で提供されているビストロワールドは、世界の料理を調理して提供するソーシャルゲームであるが、2011年12月にイベント料理として「TKG」が登場している。
脚注
関連項目
たまごかけごはん専門店『たまごん家(ち)』で朝ごはんしてきた! ロケットニュース24 2009年11月3日
全品305円の"卵かけごはん居酒屋"、朝食スポットとしても外朝族に人気 マイコミジャーナル 2009年12月28日
ふりたま(卵かけご飯専用ふりかけ)
おうちで 牛丼風 たまごかけご飯(ブルドックソース)