印象派
テンプレート:Otheruseslist テンプレート:複数の問題
印象派(いんしょうは、仏:Impressionnistes)または印象主義(いんしょうしゅぎ、仏:Impressionnisme)は、19世紀後半のフランスに発した、絵画を中心とした芸術運動である。
印象派の登場当初は、貴族や富豪らのパトロンを持たぬ画家の作品ということもあり、画壇での注目は低かったが、絵画市場や投機家によるもっぱら、経済絵画として扱われ始め、その後、世界の画壇を席捲するようになっていった。
目次
時代背景
肖像画と写実主義
19世紀頃のヨーロッパでは肖像画を描くことが一つのステイタスであった。肖像画では、対象を正確に描写することが重要で、遠近法などの技法が工夫された。肖像画は大きな需要があったため産業として確立し、学校も多く設立され、技術さえ学べればそこそこの絵が描けるようになっていた。肖像画と言っても顔だけではなく、服装や背景の調度品なども、対象人物の地位を表すものとして重要だった。そのため、それらの物を正確に描く技術も発達した。これらの人物や物を正確に描く絵画のことを写実主義という。
バルビゾン派
画材道具の発達に伴って、屋外で絵を描くことが可能になった。しかし屋外は部屋の中と違って、日差しが刻々と傾き、天候が変化したりするので、室内のように同じ条件下でゆっくり絵を描くというわけには行かない。細部を省略し、すばやく絵を描く技法が生まれた。この頃の屋外を多く描いた画家たちは「1830年派」(のちバルビゾン派)などと呼ばれる。
写真の発明
絵具が発達し、絵画の教育システムが確立し、絵画が産業化していく一方で、1827年に写真が発明される。写真は瞬く間に改良されて、肖像写真として利用されるようになる。正確に描写するだけなら、絵画より写真の方がはるかに正確で安価で納期が早い。写真が普及し始めると画家たちが職にあぶれるようになった。また、瞬間をとらえた写真の映像は、当時の人々にとって全く新しい視覚であり、新たなインスピレーションを画家たちに与えることになった。
第1回印象派展
エドゥアール・マネ
1860年代、エドゥアール・マネが一般の女性をそのまま裸婦として描いた作品を発表した。当時の裸婦像は神話や聖書のエピソードとして描くのが普通で、マネの裸婦の絵画は激しい反発を受ける。
ジャポニスム
多くの画家が表現方法を模索する中、1867年パリ万国博覧会が行われる。これには日本の幕府、薩摩藩、佐賀藩が万博に出展し、日本の工芸品の珍奇な表現方法が大いに人気を集めた。次の1878年パリ万博のときには既にジャポニスムは一大ムーブメントになっていた。日本画の自由な平面構成による空間表現や、浮世絵の鮮やかな色使いは当時の画家に強烈なインスピレーションを与えた。そして何よりも、絵画は写実的でなければならない、とする制約から画家たちを開放させる大きな後押しとなった。
第1回印象派展の開催
1874年にモネ、ドガ、ルノワール、セザンヌ、ピサロ、モリゾ、ギヨマン、シスレーらが私的に開催した展示会は、後に第1回印象派展と呼ばれるようになる。当時この展示会は社会に全く受け入れられず、印象派の名前はこのときモネが発表した『印象、日の出(Impression, soleil levant)』から、新聞記者が「なるほど印象的にヘタクソだ」と揶揄してつけたものである。また、後にはスーラ、ゴッホ、ポール・ゴーギャンなどのポスト印象派、新印象派へと続くものとなった。
この運動以降の絵画は写実主義(主義と言うほどの思想は無く、あくまで既得権益と技術体系を軸とする守旧派に過ぎないが)を中心とするアカデミズムから開放され、芸術性やメッセージ性のより強いものに変化し、キュビズムやシュールレアリスムなどのヨーロッパにおけるさまざまな芸術運動が生まれる契機となった。
印象派絵画の技法
印象派絵画の大きな特徴は、光の動き、変化の質感をいかに絵画で表現するかに重きを置いていることである。時にはある瞬間の変化を強調して表現することもあった。それまでの絵画と比べて絵全体が明るく、色彩に富んでいる。また当時主流だった写実主義などの細かいタッチと異なり、荒々しい筆致が多く、絵画中に明確な線が見られないことも大きな特徴である。また、それまでの画家たちが主にアトリエの中で絵を描いていたのとは対照的に、好んで屋外に出かけて絵を描いた。
印象派画家の一覧
以下の表は主な印象派の画家の一覧である。印象派展出品回の項目が空白になっているのは、その画家が一度も印象派展に出品しなかった事を示す。文献によって印象派の画家の分類が異なっているため、印象派と時期が前後している写実主義、バルビゾン派、ポスト印象派、新印象派の項目も参照されたい。
画家 | 生年 | 没年 | 印象派展 出品回 |
備考 |
---|---|---|---|---|
ジャン=バティスト・カミーユ・コロー | 1796年 | 1875年 | 活動時期が他の印象派の画家よりも早いため、写実主義(バルビゾン派)の画家とされる事が多い。 | |
カミーユ・ピサロ | 1830年 | 1903年 | 1~8(全回) | 印象主義から離れ点描技法を用いていた時期があるため、新印象派の画家とされる事もある。 |
エドゥアール・マネ | 1832年 | 1883年 | 印象派とは密接な関係にあるが、芸術運動としての印象派とは一線を画して活動していたため、印象派の画家ではないとする見方もある。 | |
エドガー・ドガ | 1834年 | 1917年 | 1~6、8 | 他の印象派の画家とは異なり、古典的手法を重視していた。 |
アルフレッド・シスレー | 1839年 | 1899年 | 1~3、7 | |
ポール・セザンヌ | 1839年 | 1906年 | 1、3 | ポスト印象派の画家とされる事も多い。 |
クロード・モネ | 1840年 | 1926年 | 1~4、7 | |
ベルト・モリゾ | 1841年 | 1895年 | 1~3、5~8 | |
ピエール=オーギュスト・ルノワール | 1841年 | 1919年 | 1~3、7 | 稀にポスト印象派の画家とされる事がある。 |
アルマン・ギヨマン | 1841年 | 1927年 | 1、3、5~8 | |
メアリー・カサット | 1844年 | 1926年 | 4~6、8 | |
ギュスターヴ・カイユボット | 1848年 | 1894年 | 2~5、7 | |
ポール・ゴーギャン | 1848年 | 1903年 | 5~8 | ポスト印象派の画家とされる事も多い。 |
エヴァ・ゴンザレス | 1849年 | 1883年 | ||
フィンセント・ファン・ゴッホ | 1853年 | 1890年 | ポスト印象派の画家とされる事も多い。 |
音楽
それまでにワーグナーやリストによって展開されていた機能和声の崩壊を推し進め、また形式を崩し構造を断片化し、一方で全音音階・教会旋法・五音音階の多用による旋法性を基盤に、新たな音楽の確立を目指し、20世紀以降の音楽に多大な影響を与えた。対位法の欠如といった属性も特徴である。
印象派の作曲家
以下の作曲家の作品全てに「印象派」の分類が当てはまるわけではなく、むしろ一部作品の傾向にとどまっている者の方が多い。
- クロード・ドビュッシー(1862年 - 1918年 フランス)
- モーリス・ラヴェル(1875年 - 1937年 フランス)
- ジャック・イベール(1890年 - 1962年 フランス)
- オットリーノ・レスピーギ(1879年 - 1936年 イタリア)
- フレデリック・ディーリアス(1862年 - 1934年 イギリス)
- カロル・シマノフスキ(1882年 - 1937年 ポーランド)
- マヌエル・デ・ファリャ(1876年 - 1946年 スペイン)
関連文献(日本語)
画集
- 池上忠治編 『印象派時代』(高階秀爾ほか監修『世界美術大全集:西洋編』第22巻、新潮社、1993年)
- 池上忠治編 『後期印象派時代』(高階秀爾ほか監修『世界美術大全集:西洋編』第23巻、新潮社、1993年)
- 島田紀夫『西洋絵画の巨匠:1 モネ』小学館、2006年
- 圀府寺司『西洋絵画の巨匠:2 ゴッホ』小学館、2006年
- 賀川恭子『西洋絵画の巨匠:4 ルノワール』小学館、2006年
- 坂上桂子『西洋絵画の巨匠:6 モリゾ』小学館、2006年
- 島田紀夫監修『印象派美術館』小学館、2004年
- ジャン・クレイ『印象派』高階秀爾監訳 、中央公論社、1987年
概説
- 吉川節子『印象派の誕生 マネとモネ』中央公論社〈中公新書〉, 2010年
- 島田紀夫『印象派の挑戦 モネ、ルノワール、ドガたちの友情と闘い』小学館、2009年
- マリナ・フェレッティ『印象派』武藤剛史訳、白水社〈文庫クセジュ〉,2008年
- ジョン・リウォルド『印象派の歴史』三浦篤・坂上桂子、角川書店、2004年
- アントニー・メイソン 『アトリエから戸外へ 印象派の時代』武富博子訳、国土社、2004年
- セルジュ・フォーシュロー編『印象派絵画と文豪たち』作田清・加藤雅郁訳、作品社、2004年
- 三浦篤・中村誠監修 『印象派とその時代 モネからセザンヌへ』美術出版社、2003年
- ジェームズ・H・ルービン『印象派』太田泰人訳、岩波書店 2002年
- シルヴィ・パタン 『モネ 印象派の誕生』渡辺隆司・村上伸子訳、創元社〈「知の再発見」双書〉、1997年
- アンリ=アレクシス・バーシュ『印象派』桑名麻理訳、講談社、1995年
- バーナード・デンバー編『印象派全史 1863〜今日まで 巨匠たちの素顔と作品』池上忠治監訳、日本経済新聞出版社、1994年
- モーリス・セリュラス『印象派』平岡昇・丸山尚一訳、白水社〈文庫クセジュ〉、1992年
- バーナード・デンバー編『素顔の印象派』末永照和訳、美術出版社、1991年
- 高階秀爾『近代絵画史 (上) ゴヤからモンドリアンまで』中央公論社〈中公新書〉、1975年
- エッセイ集など
- 丹尾安典ほか『パリ・オルセ美術館と印象派の旅』新潮社〈とんぼの本〉、1990年
- 島田紀夫監修『すぐわかる画家別印象派絵画の見かた』東京美術、2007年
- 吉岡正人『印象派から20世紀名画に隠れた謎を解く! フィラデルフィア美術館の至宝から』中央公論新社、2007年
- 西岡文彦『二時間の印象派 全ガイド味わい方と読み方』河出書房新社、1996年
- 中山公男監修『印象派の魅力 花ひらく光と色彩のハーモニー』同朋舎出版、1996年
- 島田紀夫『セーヌの印象派』小学館、1996年