凧
凧(たこ)とは糸で牽引して揚力を起こし空中に飛揚させる玩具である[1]。日本では正月の遊びとして知られている。木や竹などの骨組みに紙、布、ビニールなどを張って紐で反りや形を整えて作られる。
目次
歴史
凧は中国が発祥地だと考えられている。中国の凧は昆虫、鳥、その他の獣、そして竜や鳳凰などの伝説上の生き物などさまざまな形状を模している。現代中国の凧で最上のものは竹の骨組みに絹を張り、その上に手描きの絵や文字などがあしらわれている。
日本の伝統的な和凧は竹の骨組みに和紙を張った凧である。長方形の角凧の他、六角形の六角凧、奴(やっこ)が手を広げたような形をしている奴凧など、各地方独特のさまざまな和凧がある。凧に弓状の「うなり」をつけ、ブンブンと音を鳴らせながら揚げることもある。
凧は安定度を増すために、尻尾(しっぽ)と呼ばれる細長い紙(ビニールの場合もある)を付けることがある。尻尾は、真ん中に1本付ける場合と両端に2本付ける場合がある。尻尾を付けると回転や横ぶれを防ぐことができ、真上に揚がるように制御しやすくなる。
スポーツカイトは1960年代に登場した凧である。2本、4本など複数のラインを用いて自在に操ることができる。第二次世界大戦中、アメリカ海軍では対空射撃の訓練用として2本ラインの凧が使用されたがこれがスポーツカイトの原型となった。定期的に競技会が開かれ、決められた図形を凧でなぞっていく規定競技や音楽に合わせてさまざまな技を披露するバレエなどで操縦技術を競い合う。
種類
以下のような凧がよく知られている。
一般の凧
- ぐにゃぐにゃ凧
- 二つの棒に間にビニールを付けて作る凧。製作が簡単な割にはよく飛ぶ。
- ゲイラカイト(Gayla Kite)
- アメリカで発明された三角形の凧。「ゲイラカイト」の“ゲイラ(Gayla)”とは発売したメーカーの名で、登録商標であるが、日本では「三角形の凧」の代名詞ともなっている。
- 日本には1974年に輸入された。NASAの元技術者が開発したという触れ込み(実際に発明者のフランシス・ロガロが所属していたのはNASAではなく、その前身の航空諮問委員会〈NACA〉である)で、当時一大ブームを起こした。
- 和凧と異なりプラスチックの骨組みにビニールが張られており、非常に簡単に凧揚げが可能である。元は安価な飛行機の翼「ロガロ翼」として開発され、1948年に特許を取得している。その目的としてはハンググライダーとして実用化されている。
- 1964年8月28日付の朝日新聞に「米国・民主党が凧上げで政治宣伝」との記事が掲載されているが、その写真に現在のゲイラカイトとほとんど同じ形の凧が写っていることから、この時点ですでにアメリカ本国では、ロガロ翼の凧としての使用がはじまっていることが確認できる。
- 2005年に日本上陸30周年記念としてスカイスパイ(SkySpy:空から覗くもの、の意、血走った大目玉のデザイン)のスポーツカイトが発売された。
- 立体凧
- 立体的な凧。「行灯凧」など。
- 連凧
- 小型の凧を複数連ねたもの。
- 鳥凧
- 鳥の格好をしたもの。
- セミ凧
- セミの格好をしたもの。
- 六角凧
- 六角形をしたもの。新潟県三条市のものが知られる。
- 丸凧
- 丸い形をしたもの。静岡県袋井市で保存・伝承されている。
- バイオカイト
- 2001年に伊藤利朗が開発。そよ風程度の風力で揚がり気候天候を問わず、形状の可能性が無限にある。流体力学や航空機力学を応用しているため、斜めではなく真上に高く揚がるのが特徴。
- 仕掛け凧
- 蝶の形状を模した風弾(ふうたん)がよく知られる。揚がっている凧に装着する。上空のストッパーに当たると羽根が折りたたみ落ちてくる。沖縄県の八重山諸島ではシャクシメーと呼ばれている。
- シコフレックス
- 短い円筒形の凧。
日本の凧の例
- Ezo-dako.jpg
蝦夷凧。北海道の凧。
- Tsugaru-dako.jpg
津軽凧。青森県の凧。
- Tenbata.jpg
天旗。宮城県の凧。
実用の凧
- 気象観測
- 19世紀末から20世紀前半にかけて箱型のボックスカイトに測定機器を取り付け風速、気温、気圧、湿度など高層の気象観測が行われた。
- カイトフォト
- 凧およびカイトで軽量カメラを上空に揚げ撮影を楽しむ。地上から約300メートル以下の低空の空中撮影が可能で、各種の学術調査にも利用されている。
- カイトサーフィン,カイトボード
- カイトボードは専用のカイト(凧)を用いて、ボードに乗った状態で、水上を滑走するウォータースポーツである。
文化
凧を「タコ」と呼ぶのは関東の方言で、関西の方言では「イカ」「いかのぼり」(紙鳶とも書く)と明治初期まで呼ばれていた。凧が「タコ」や「イカ」と呼ばれる由来は凧が紙の尾を垂らし空に揚がる姿が、「蛸」や「烏賊」に似ているからという説がある。長崎では凧のことをハタといい、ハタ揚げ大会が開かれる。世界各国の凧では、それぞれ空を飛ぶ動物などの名前が付けられていることが多く、英語ではトビ、フランス語ではクワガタムシ、スペイン語では彗星を意味する単語で呼ばれ、日本のように水生動物の名前で呼ぶのは珍しい[2]。
正月の風物詩としての凧
日本ではかつて正月を含む冬休みには子供たちが凧揚げをする光景がよく見られ、玩具店のみならず子供たちが買い物をする頻度の高い身近にある駄菓子店や文房具店などで凧も販売されていた。特に凧揚げが盛んに行われていた1970年代には、冬休みの時期には電力会社がスポンサーの夕方のニュース番組で「凧揚げは電線のない広い場所で」「電線に引っかかったら電力会社にご連絡ください」という内容のコマーシャルがよく流されていたほどで、当時のトラブルの多さを窺わせる。
凧揚げが安全にできる広い空間が少なくなったことに加え、少子化などもあり正月の凧揚げの光景も少なくなった。
凧揚げ大会
日本国内では、5月の端午の節句の行事として子どもの成長を願って全国各地で凧揚げ大会が行われることが多い。
滋賀県東近江市では面積100畳(縦13メートル、横12メートル)、重さ約700キロの大凧(おおだこ)を揚げる「八日市大凧祭」が行われている。八日市大凧(ようかいち おおだこ)は江戸時代中期から始まった。1882年には、220畳の大凧が揚げられたという記録がある。現在では、「近江八日市の大凧揚げ習俗」は国の選択無形民俗文化財に選択されている。
他にも大凧を揚げる大会としては新潟市の「白根大凧合戦」、浜松市の「浜松まつり」、愛媛県内子町の「五十崎の大凧合戦」、他には相模原市、神奈川県座間市、埼玉県春日部市などの凧揚げ大会が知られている。
凧に関する逸話
大凧に乗って名古屋城の金鯱を盗もうとした盗賊の話が知られている。この話は江戸時代に実在した柿木金助という盗賊がモデルになっている。実際には柿木金助は名古屋城の土蔵に押し入ったに過ぎないが、1783年に上演された芝居『傾城黄金鯱』(けいせいこがねのしゃちほこ)によって金鯱泥棒として世に知られるようになった。
世界恐慌期のドイツでは、たばこ1箱が数億マルクもする状態になり、紙幣は価値をほとんど失ってしまっていた。こうした背景から、当時の子供たちは紙幣を貼り合わせて作った凧で遊んでさえおり、写真も残されている。
1752年、当時楽器の発明で有名だったベンジャミン・フランクリンは雷雨の中で凧を揚げ雷が電気であることを証明した。これは感電の危険がある。フランクリンが成功したのはまぐれと言ってもよく、当時にも追試で何人かが感電死している。
注意事項
送電線や配電線の近くで凧を揚げると凧がそれらに引っかかる危険がある。引っかかった場合には感電する危険性が非常に高く、凧糸からでも感電する危険性がある。管理する電力会社等に連絡して取り除いてもらう必要がある。