人間国宝

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人間国宝(にんげんこくほう)は、日本文化財保護法第71条第2項に基づき同国の文部科学大臣が指定した重要無形文化財の保持者として各個認定された人物を指す通称である。文化財保護法には「人間国宝」という文言はないが、重要無形文化財保持者を指して人間国宝と呼ぶ通称が広く用いられている[1]

概説

テンプレート:Main 人間国宝は、重要無形文化財保持者として各個認定された人物を指す通称である。日本の文化財保護法において、無形文化財とは、演劇、音楽、工芸技術その他の無形の文化的所産で我が国にとつて歴史上又は芸術上価値の高いものをいう(同法第2条第1項第2号)。すなわち、無形文化財とは芸能、工芸技術等の無形の「わざ」そのものを指すが、その「わざ」はこれを高度に体得している個人または団体が体現する。そして、日本国政府はこのような「わざ」のうち重要なものを重要無形文化財に指定するとともに、その「わざ」を体現する個人または団体を保持者または保持団体に認定する(同法第71条第1項および第2項)。

文化財保護法の当初施行時(1950年)から、無形文化財に関する規定は存在したが、当初は国が保護策を講じなければ「衰亡の虞(おそれ)」のある無形文化財のみが保護の対象とされていた。1954年、文化財保護法の第一次改正によって重要無形文化財の指定、および保持者の認定制度が同法に規定された。この改正以前の旧法に基づいて選定されていた80余件の無形文化財及びその保持者についてはいったん白紙に戻され、重要無形文化財とその保持者は新たに指定・認定されることとなった。改正法に基づく最初の重要無形文化財及び保持者(人間国宝)の指定・認定が行われたのは1955年2月15日である[2]

認定の方式

重要無形文化財の保持者または保持団体の認定の方式には、「各個認定」「総合認定」「保持団体認定」の3種があり、「重要無形文化財の指定並びに保持者及び保持団体の認定基準」(昭和29年文化財保護委員会告示第55号)に規定されている。

各個認定
「重要無形文化財に指定される芸能を高度に体現できる者」「重要無形文化財に指定される工芸技術を高度に体得している者」等が認定される。
総合認定
「2人以上の者が一体となって芸能を高度に体現している場合」や「2人以上の者が共通の特色を有する工芸技術を高度に体得している場合」において、「これらの者が構成している団体の構成員」が総合的に認定される。
保持団体認定
「芸能または工芸技術の性格上個人的特色が薄く」かつ「当該芸能または工芸技術を保持する者が多数いる場合」において、「これらの者が主たる構成員となっている団体」が認定される。

上記のうち、「各個認定」と「総合認定」はともに「保持者の認定」であるが、前者は特定個人の認定、後者は「○○保存会」等の「保持者の団体の構成員」を総合的に認定するものである。「保持団体認定」は1975年の文化財保護法改正以降行われるようになったもので、社団法人等の団体自体を認定対象とする。以上のうち「人間国宝」と呼ばれるのは、一般的には各個認定の場合のみであり、総合認定における団体の構成員、及び保持団体認定における当該団体およびその構成員については、人間国宝とは呼ばないのが通例である。

演劇、音楽などの芸能の分野では「各個認定」と「総合認定」が行われ、工芸技術の分野では「各個認定」と「保持団体認定」が行われている。法令上は芸能分野における保持団体認定、工芸技術分野における総合認定もありうるが、2012年現在、認定はされていない。

支援制度

日本国政府は、重要無形文化財の保護を目的として、人間国宝(各個認定保持者)に対して年額200万円の特別助成金を交付している。保持団体に対しては伝承者養成事業や文化財公開事業に対してその経費の一部を助成している。国立劇場では能楽文楽歌舞伎などの後継者養成のための研修事業が行われている。

人間国宝の一覧(芸能)

芸能分野は、雅楽能楽文楽歌舞伎組踊、音楽、舞踊演芸の8つの種別に分かれている[3]

2013年(平成25年)9月までに認定された芸能分野の重要無形文化財保持者(各個認定)は以下のとおりで、死亡により認定解除された者を含め、のべ174名が認定されている(分野別。認定年月日順)。

雅楽

過去に各個認定の事例はない。

能楽

文楽

歌舞伎

組踊

音楽

舞踊

演芸

演劇

芸能分野における「総合認定」

各個認定(いわゆる「人間国宝」)は、重要無形文化財に指定される芸能を高度に体現する個人に対して行われる。一方で総合認定は、2人以上の者が一体となって、重要無形文化財に指定される芸能を高度に体現している場合に行われるものである。総合認定が行われる分野は、一部の名人だけではなくその芸能自体が文化財保護の対象として考えられているものであるといえるだろう。

現在、重要無形文化財の芸能分野においては、以下の12団体の構成員が総合的に認定されている。総合認定の場合、「保持者」は、当該団体の部員、会員、座員などの構成員である。

人数は延べ人数(過去に構成員となった者の総数。故人を含む)である。[4]

  1. 宮内庁式部職楽部雅楽) - 62名(2013年認定分まで)
  2. 社団法人日本能楽会能楽) - 855名(2011年認定分まで)
  3. 人形浄瑠璃文楽座人形浄瑠璃文楽) - 149名(2010年認定分まで)
  4. 社団法人・伝統歌舞伎保存会歌舞伎) - 411名(2012年認定分まで)
  5. 伝統組踊保存会(組踊) - 92名(2011年認定分まで)
  6. 義太夫節保存会(音楽) - 59名(2009年認定分まで)
  7. 常磐津節保存会(音楽) - 58名(2012年認定分まで)
  8. 一中節保存会(音楽) - 18名(2012年認定分まで)
  9. 河東節保存会(音楽) - 13名(2010年認定分まで)
  10. 宮薗節保存会(音楽) - 13名(2010年認定分まで)
  11. 荻江節保存会(音楽) - 14名(2006年認定分まで)
  12. 琉球舞踊保存会(舞踊) - 39名(2009年認定分まで)

これらの団体には、多くの場合その母体となる全演奏家協会があり、その中で技量の熟達が認められた者について、上記の各団体への加入が認められ(通常は会員の推挙または互選)、各団体への正式加入に伴い、「重要無形文化財の保持者の団体の構成員」として追加認定される。各団体ごとに選出母体となる団体があり、数年に一回程度追加認定(実質上の人数追加)がある。

人間国宝の一覧(工芸技術)

2013年(平成25年)9月までに認定された工芸技術部門の重要無形文化財保持者(各個認定)は以下のとおりで、死亡により認定解除された者を含め、のべ169名(実人数は166名)が認定されている。

(凡例)

  • 陶芸、染織、漆芸、金工、金工(刀剣)、人形、木竹工、諸工芸、和紙に分け、重要無形文化財に指定された工芸技術名と、保持者に認定された者の氏名を記載した。記載順は指定・認定された順とした。
  • 荒川豊蔵、北村武資、喜多川平朗の3名は、それぞれ2つの工芸技術について保持者に認定されたため、重出している。
  • 1975年の文化財保護法改正によって保持団体認定制度が導入される以前に「保持者代表」として認定されていた者については割愛した。
  • 下の一覧には、保持者の死去により重要無形文化財の指定ならびに保持者の認定が解除されたものも含まれている(*印は存命者、無印は故人)。

陶芸

染織

染織(伊勢型紙)

漆芸

金工

金工(刀剣)

人形

木竹工

諸工芸

和紙

工芸技術分野における「保持団体認定」

工芸技術分野において、工芸技術の性格上個人的特色が薄く、かつ、当該工芸技術を保持する者が多数いる場合において、これらの者が主たる構成員となっている団体として認定されているもの、すなわち、保持団体認定は、以下の14件・14団体である。

陶芸

染織

  • 伊勢型紙 - 「伊勢型紙技術保存会」
  • 喜如嘉の芭蕉布 - 「喜如嘉の芭蕉布保存会」
  • 久米島紬 -「久米島紬保持団体」
  • 久留米絣- 「重要無形文化財久留米絣技術保持者会」
  • 宮古上布 - 「宮古上布保持団体」
  • 結城紬 - 「本場結城紬技術保持会」
  • 小千谷縮・越後上布 - 「越後上布・小千谷縮布技術保存協会」

漆芸

手漉和紙

  • 細川紙 - 「細川紙技術者協会」
  • 石州半紙 - 「石州半紙技術者会」
  • 本美濃紙 - 「本美濃紙保存会」

重要無形文化財の指定件数

各個認定の重要無形文化財保持者は自然人であるため、保持者の死去に伴って認定も解除される。ある重要無形文化財について保持者が全員死去した場合は重要無形文化財としての指定も解除される。ただし、いったん解除された重要無形文化財について、新たな保持者の認定を伴って復活指定される場合もある[6]。こうした事情から、指定件数には常に変動がある。

2013年9月現在、指定・認定の効力を保っている重要無形文化財の件数、及び保持者・保持団体の数は以下のとおりである[7]

  • 芸能分野
    • 各個認定 - 指定件数39件、保持者数57名
    • 総合認定 - 指定件数12件、保持者の団体数12団体
  • 工芸技術分野
    • 各個認定 - 指定件数39件、保持者数57名(重複認定を除く実人員56名)
    • 保持団体認定 - 指定件数14件、保持団体数14団体

脚注

テンプレート:Reflist

参考文献

  • 『無形文化財要覧』、芸艸堂、1978

関連項目

外部リンク

テンプレート:日本の文化財
  1. 文化庁においてもそのホームページ上の説明及び出版物等で「いわゆる人間国宝」という文言を用いている。例えば以下のページを参照。
    • [1] 無形文化財、文化庁
    • [2] 重要無形文化財パンフレット、p.2
  2. 同日文化財保護委員会告示第18号「無形文化財を重要無形文化財に指定し、当該重要無形文化財の保持者認定」
  3. かつては「演劇」という種別もあり、新派俳優2名が保持者に認定されていたが、保持者の花柳章太郎が1965年に没して以降、新たな認定はない。
  4. 人数の出典は以下のとおり。
  5. 「色鍋島」については、1975年の文化財保護法改正によって保持団体認定制度が実施される以前の1971年に重要無形文化財に指定。当時は「色鍋島技術保存会」が保持者で、12代今泉今右衛門がその代表者という扱いであった。1975年の12代今右衛門の死去に伴い、重要無形文化財「色鍋島」の指定はいったん解除されたが、翌1976年に再指定され、「色鍋島今右衛門技術保存会」が保持団体に認定されている。
  6. 例として、重要無形文化財「瀬戸黒」は、1名のみだった保持者の死去に伴い1985年に指定解除されたが、2010年に新たな保持者の認定を伴って復活指定された。「歌舞伎女方」も2012年2月に指定解除されたが、同年10月に復活指定された。
  7. 出典はテンプレート:PDFlink