中華人民共和国主席
テンプレート:中華人民共和国の政治 中華人民共和国主席(ちゅうかじんみんきょうわこくしゅせき)は、中華人民共和国の国家元首。他の主席職と区別するために国家主席と呼ばれることが多い。英語での表記は「President of the People's Republic of China」であり、大統領に相当する[1]。
目次
概要
1949年10月1日、中華人民共和国が建国され、毛沢東が中央人民政府主席として国家元首に就任した。1954年9月20日、中華人民共和国憲法が制定され、国家元首として中華人民共和国主席が設置された。9月27日、毛沢東が改めて初代国家主席に就任した。
毛沢東や劉少奇の時代の国家主席は、国政の最高責任者として位置づけられていた。しかし、文化大革命において現職国家主席である劉少奇が打倒の目標とされ、中国共産党内外からの非難と糾弾の末に解任された。それ以降、国家主席は空位となり、国家副主席が職務を代行した。1970年3月に毛沢東が国家主席の廃止を提案し、1975年1月の憲法改正によって国家主席は廃止された。
国家主席廃止後、その職権は中国共産党中央委員会主席と全国人民代表大会常務委員会に委譲され[2]、全人代常務委員会が集団で元首機能を有した。1978年の憲法改正では、全人代常務委員長が法律の公布や国家の栄誉称号の授与を行い、対外的な元首機能を行使することが定められた。
鄧小平時代の1982年に制定された憲法によって、国家主席は儀礼的国家元首として再設置された。再設置当初の国家主席は、全人代常務委員長や全国政治協商会議主席と同様に、かつて鄧小平の同輩であった中国共産党・中国人民解放軍の長老を礼遇するための名誉職として用いられた。しかし、1989年の第二次天安門事件に際して党内の対応が分裂したとき、楊尚昆が国家主席の権限において戒厳令を発動させたことは、政局に大きな影響を与えた。
1993年に楊尚昆が退任すると、中国共産党中央委員会総書記兼中央軍事委員会主席の江沢民が国家主席に就任した。それ以降、中国共産党の最高指導者が総書記・国家主席・中央軍事委員会主席を兼任して党・国家・軍のトップを独占し、権力を集中する状況が続いている。
選出
現行の中華人民共和国憲法(1982年憲法)によると、中華人民共和国の公民(国民)で、選挙権および被選挙権を有する満45歳以上の者が、全国人民代表大会によって国家主席に選出される。任期は5年、連続3選は禁止されている。
国家主席および国家副主席の候補者は全人代の大会主席団が指名し、全人代全体会議で投票による選挙を行って、全議員の過半数を獲得した者が当選者となる。なお、全人代の議員の大部分は中国共産党員および党の機関である中国人民解放軍軍人によって構成されており、また憲法にも中国共産党による国家の領導(上下関係を前提とする指導)が明記されているため、実質的な人選は中国共産党中央委員会によって行われている。
国家主席が任期途中で欠けた場合、国家副主席が国家主席の地位を継承する。国家主席・国家副主席の両方が欠位となった場合は、全人代で補選される。補選が実施されるまでは全人代常務委員長が暫定的に国家主席代理となる。
権限
憲法で規定されている国家主席の権能は、儀礼的・象徴的なものが中心である。具体的な行政は、国務院総理(首相)が執行する。ただし、1954年に公布された憲法では、国家主席に全国の武装力(中国人民解放軍・武装警察・民兵など)の統帥権が付与され、国家の最高軍事指導機関である国防委員会[3]の主席を兼務し[4]、同委員会の人事権を掌握することが規定されていた[5]。また、最高国務会議[6]の議長として、国家の重大事項に対する最高国務会議の意見を全人代・全人代常務委員会・国務院などに提出する権限も憲法で規定されており[7]、憲法上、国政の最高責任者として位置づけられていた。
1982年の憲法改正で国家主席が再設置された際に、統帥権は国家中央軍事委員会主席に移行し、また最高国務会議の規定もなく、国家主席は儀礼的国家元首としての性格が強まった。現行憲法での国家主席の権能は以下のとおり。
法律公布権
- 全国人民代表大会および同常務委員会の決定に基づき、法律を公布する。
人事権
- 国務院総理の指名。
- 全人代および同常務委員会の決定に基づき、国務院総理・副総理・国務委員(副首相級)・各部部長(大臣)・各委員会主任(大臣級)・監査長(会計検査長)・秘書長を任免する。
- 全人代および同常務委員会の決定に基づき、勲章・栄誉称号を授与する。
命令権 全人代および同常務委員会の決定に基づき、以下の権限を行使する。
外交権
- 中華人民共和国を代表して国事活動を行い[9]、外国使節を接受する。
- 全国人民代表大会常務委員会の決定に基づいて、海外駐在全権代表(特命全権大使・公使)の派遣・召還を行い、条約や重要協定の批准および廃棄を行う。
国家主席の職自体は政治上の実権を有しないものの、国家を領導することが憲法で定められている中国共産党の最高指導者が兼任することで、国家主席に政治的実権が付与されている。
歴代主席
代 | 肖像 | 国家主席 | 就任 | 退任 |
---|---|---|---|---|
中華人民共和国中央人民政府主席(1949年 - 1954年) | ||||
毛沢東 | 1949年10月1日 | 1954年9月27日 | ||
中華人民共和国主席(1954年 - 1975年) | ||||
1 | 100px | 毛沢東 | 1954年9月27日 | 1959年4月27日 |
2 | 100px | 劉少奇 | 1959年4月27日 | 1968年10月31日 |
* | 宋慶齢[10]、董必武
副主席が主席の職権を代行 |
1968年10月31日 | 1972年2月24日 | |
* | 100px | 董必武
主席代理として主席の権限を行使 |
1972年2月24日 | 1975年1月17日 |
国家主席廃止期(1975年 - 1982年) | ||||
* | 100px | 朱徳
全国人民代表大会常務委員会委員長 |
(1959年4月27日) | 1976年7月6日 |
* | 100px | 宋慶齢
全国人民代表大会常務委員会委員長代行 |
1976年7月6日 | 1978年3月5日 |
* | 100px | 葉剣英
全国人民代表大会常務委員会委員長 |
1978年3月5日 | 1983年6月18日 |
中華人民共和国主席(1982年 - 現在) | ||||
3 | 100px | 李先念 | 1983年6月18日 | 1988年4月8日 |
4 | 楊尚昆 | 1988年4月8日 | 1993年3月27日 | |
5 | 100px | 江沢民 | 1993年3月27日 | 2003年3月15日 |
6 | 100px | 胡錦濤 | 2003年3月15日 | 2013年3月14日 |
7 | 100px | 習近平 | 2013年3月14日 | 在職 |
脚注
- ↑ 1949年から1975年までの英語表記は「Chairman of the People's Republic of China」だったが、1982年よりchairmanからpresidentに変更された。
- ↑ 1975年の憲法改正では、中国共産党中央委員会主席が軍の統帥権を保有し、国務院総理以下、国務院の構成員の任免を決定すること、全人代常務委員会が外交使節の接受、海外駐在全権代表の派遣・召還、条約の批准および廃棄などを行うことが規定された。
- ↑ 1949年の中華人民共和国建国の際、最高軍事指導機関として設置された中央人民政府人民革命軍事委員会が、1954年の憲法制定によって改組され、国防委員会が成立した。1975年の憲法改正で廃止。
- ↑ 1954年憲法第42条。
- ↑ 1954年憲法第27条第6項では、「国家主席が国防委員会副主席および委員を指名し、全人代が選出する」と定められていた。
- ↑ 国家主席・国家副主席・全人代常務委員長(国会議長に相当)・国務院総理、およびその他の人員で構成。国家主席が必要と認めた場合に招集される。1975年の憲法改正で廃止。
- ↑ 1954年憲法第43条。
- ↑ 2004年の憲法改正で国家主席の職権から「戒厳令の発布」が削除された。
- ↑ 2004年の憲法改正で「国事活動の遂行」が国家主席の職権に追加された。
- ↑ 1981年5月16日に中華人民共和国名誉主席の称号を授与。
参考文献
- 曽憲義・小口彦太編『中国の政治 開かれた社会主義への道程』(早稲田大学出版部、2002年)
- 毛里和子『新版 現代中国政治』(名古屋大学出版会、2004年)
- 高橋和之編『新版 世界憲法集』(岩波書店〈岩波文庫〉、2007年)