公民
公民(こうみん、テンプレート:Lang-en-short)は、政治に参加することができる人々のことである。市民、国民、住民、人民などの単語と似たような意味を持つが、それぞれの区別に注意を要する。
政治への参加の意味合いから「市民」と言い換えられることも多いが、厳密には参政権、特に選挙権や被選挙権があることをもって公民と呼ぶことが多い。このため、ほとんどの公民という言葉は、市民におきかえることが可能であるが,市民は多義的であるため,特に上記意味を強調したい場合には公民と呼ぶことがある。
なお、中華人民共和国、朝鮮民主主義人民共和国、中華民国では国民、国籍者の意味で憲法上公民という語が使われている。
律令制の公民
公民(こうみん)とは、古代日本律令制における統治対象とされた一般の人々を指す。倭訓は「おほみたから」。公民は戸籍に編入され、口分田が班給され、課役を賦課された。
ただし、中国(唐)には「公民」という言葉が存在せず、日本の律令法にも直接「公民」について規定した法規は無い。元は倭国王やヤマト王権に直属する民のことを指し、臣や連、伴造などの豪族が支配する民や百八十部と区別されていた人々を指していたと考えられている。日本における「公民」の語の確実な初見は『続日本紀』に引用された文武天皇即位の宣命である(記紀にも「公民」の語は見られるが、後世の脚色の可能性もある)。以後、「公民」という言葉が記録上に見られるようになる。
一般的に律令制を「天皇が全ての土地と人民を支配する体制」として、公地公民制と呼ばれることが多いが、その典拠とされる改新の詔において使われている語句は「百姓」である。また、公民とともに皇親や諸臣(官人)、五色の賎が併記されて「公民」の範疇から除外されており、「全ての人民」が公民であったという表現は誤解を招きやすい表現であると言える。また、国家に直接租税を納めない封戸・神戸などの人々や戸籍に記載されず、租税を納めない浮浪や蝦夷・隼人の人々も公民には含まれない。更に官人や皇親をも念頭に置いたとみられる「公民」という表現例もあり、その用法も一定ではなかったようである。
参考文献
- 吉田孝「公民」(『国史大辞典 5』(吉川弘文館、1985年) ISBN 978-4-642-00505-0)
- 吉村武彦「公民制」(『日本史大事典 3』(平凡社、1993年) ISBN 978-4-582-13103-1)