直列6気筒
直列6気筒(ちょくれつ6きとう、Inline-six engine または Straight-six engine)とは、レシプロエンジン等のシリンダー(気筒)配列形式のひとつ。シリンダーが6つ直列に並んでいる。略して「I6」、日本では「直6」「L6」とも記載することがある。
特徴
6つのシリンダー内で燃料を同時に燃焼させるとクランクシャフトに同時に負荷が掛かり、エンジン全体が反作用を受けて激しく上下に振動するため、通常は6つのシリンダーが1つずつ均等のタイミングで燃焼行程に入る。6つのシリンダーの燃焼行程の順番はクランクシャフトに掛かる負荷が均等化するように決まっており、多くは1→5→3→6→2→4の順番である。4ストローク機関では吸入、圧縮、燃焼、排気の4つの行程でクランクシャフトが2回転する。つまり、2回転 (=720°) ÷6(気筒数)=120°であるので、クランクシャフトが120°回転するたびに1つのシリンダーが燃焼行程に入ると最もタイミングよく力を取り出すことができる。
エンジンの振動の面から見ても、カウンターウエイトやバランスシャフトを用いずとも一次振動・二次振動および偶力振動を完全に打ち消すことができる構成であり、直6のバランスの良さがもたらす滑らかさは、「シルキースムーズ」とも例えられている。
林義正は、レシプロエンジンでは振動がなくパワーも出せる直列6気筒がベストであり、理想のエンジンを作るなら直6かV12の2形式以外ありえないとしている[1]。
自動車用
近年の普通乗用車では、V型6気筒エンジンによって直列6気筒エンジンが淘汰されている。これは、
- 衝突安全性の観点から、直6エンジンを縦置きした場合に比べ、全長が短く、クラッシャブルゾーンの確保が有利になること
- 縦横比が1に近く、縦置き、横置きが兼用でき、FF車にも搭載しやすく、コストの面で有利であること
- シャフト類が短くメインベアリングも少なく、剛性とフリクションの面で有利であること
などの理由による。
前輪駆動方式に横置き直6エンジンを組合わせた例がかつてのBMCに存在したが、現在テンプレート:いつのボルボでは同様のレイアウトでクラッシャブルゾーンを確保している。VWヴァナゴンでは直5を横置きとしていた。また極めて直6に近い、狭角V型6気筒エンジンも採用された。
また、中・小型のキャブオーバー車では、縦置きでは長いパワートレインが収まりきらず、短いボンネットが必要となる。
直列6気筒を2つ並べて配置した形状のV型12気筒エンジンもバランスが良く、静粛性と高出力の両立が求められる高級車に搭載されてきたが、フォルクスワーゲングループのフォルクスワーゲン、アウディ、ベントレーなどはW型12気筒エンジンを採用し始めている。
一方、日本では1960年代から高速道路網の整備で大型商用車の高出力化が進んだが、一定速で巡航できる状況が少ない背景(距離に比して勾配の変化が大きく、信号停止、渋滞も多い)から、ピックアップ(ツキ)の良い大排気量・マルチシリンダーの自然吸気エンジンが好まれ、1990年代終盤までは特にダンプカーやミキサー車などの作業車のみならず、大型バスでも路線・観光を問わず、過給エンジンは極少数に留まっていた(UDエンジンに必須となるスーパーチャージャーを除く)。一方、欧州ではコンパクトで軽く、燃費や排出ガス浄化にも有利なため、インタークーラーターボ付き直列6気筒で発展してきた。また、大排気量化しても振動が少ない利点もあり、排出ガス規制の強化や将来の燃費規制を踏まえ、日本でも2000年代に入ると、大排気量も無過給も受け入れられなくなるとの予測から、新短期排出ガス規制、新長期排出ガス規制を機に、各メーカーともターボ付直列6気筒に移行した。
搭載車種
直列6気筒エンジンを搭載している現行テンプレート:いつ車種は以下の通りである。
普通乗用車
- BMW : 1シリーズ (130i、135i)、3シリーズ (323i、325i、335i)、5シリーズ (523i、528i、535i)、6シリーズ (640i)、7シリーズ (740i、740Li)、X1 (25i)、X3 (28i、35i)、X5 (35i)、X6 (35i)、Z4 (23i、35i、35is)
- ボルボ : S80 (S80、S80 3.2)、XC90 (XC90、XC90 3.2)
- TVR : サーブラウ (Speed Six)、タスカン、タモーラ、T350、サガリス
- クライスラー : ジープ・ラングラー
- トヨタ : ランドクルーザー(輸出専用モデル)
- 日産 : サファリ(国内での販売は2007年に終了)
- サンヨン : レクストン
トラック・バス
- 日産ディーゼル・コンドル
- 日産ディーゼル・Cシリーズ
- 日産ディーゼル・レゾナ
- 日産ディーゼル・ビッグサム
- 日産ディーゼル・クオン
- 日産ディーゼル・スペースランナー
- 日産ディーゼル・スペースアロー
- 日産ディーゼル・スペースウィング
- 日産ディーゼル・スペースアローA
- 日産ディーゼル・スペースウィングA
- 三菱ふそう・ファイター
- 三菱ふそう・ザ・グレート
- 三菱ふそう・スーパーグレート
- 三菱ふそう・エアロミディ
- 三菱ふそう・エアロスター
- 三菱ふそう・エアロスターS
- 三菱ふそう・エアロエース
- 三菱ふそう・エアロクィーン
- いすゞ・フォワード
- いすゞ・ニューパワー
- いすゞ・810
- いすゞ・ギガ
- いすゞ・キュービック
- いすゞ・エルガミオ
- いすゞ・エルガ
- いすゞ・ガーラ
- 日野・レンジャー
- 日野・K♯/T♯/H♯型トラック
- 日野・スーパードルフィン
- 日野・スーパードルフィンプロフィア
- 日野・プロフィア
- 日野・レインボー
- 日野・レインボーII
- 日野・ブルーリボン
- 日野・ブルーリボンII
- 日野・セレガ
二輪車での利用
古くは1920年代に縦置き直列6気筒を搭載したヘンダーソン・モーターサイクルの事例が知られるが、近代的な並列(横置き直列)6気筒の初採用例は、1960年代のホンダが250cc/350ccクラスのロードレーサーである。市販車両としてはイタリアのベネリが1972年に発売したベネリ・セイが初めてこの形式を採用した。ホンダも市販車として1978年に空冷DOHC4バルブのCBX1000として開発。海外専用モデルとして量産・輸出が開始された。また同年にはカワサキから水冷DOHC2バルブのKZ1300が発表され、輸出が開始された。両車とも現在テンプレート:いつは生産されていない。近年ではコンセプトモデルとしてスズキからストラトスフィアが発表されており、2011年にはBMWモトラッドから大型ツアラーのK1600 GT/GTLが発売されている。
- Henderson 1926 DeLuxesupersix 3.jpg
1926年式ヘンダーソン・デラックス・スーパー6の縦置き直列6気筒
- Honda RC165E engine front Honda Collection Hall.jpg
1964年式ホンダ・RC165ロードレーサーの250cc直列6気筒
- Honda CBX Engine Detail.jpg
1978年式ホンダ・CBX1000に搭載された空冷横置き直列6気筒エンジン
鉄道車両用
関連項目
- 直列型エンジン
- V型12気筒
- 日産・L型エンジン
- 日産・RBエンジン
- 日産・RB26DETT
- 日産・S20型エンジン
- プリンス・G型エンジン
- トヨタ・M型エンジン
- トヨタ・G型エンジン (2代目)
- トヨタ・JZエンジン
- トヨタ・1JZ-GTE
- 三菱・KE64
- 三菱・6G34"サターン6"
- 三菱・6D2x
- 三菱ふそう・6M6x/6M70
出典
- ↑ MotorFan illustrated vol.89 「最善の妥協 ―V型エンジン― 」(ISBN 978-4-7796-2090-4) P.028