バジリスク
バジリスクまたはバシリスク(テンプレート:Lang-en-short, テンプレート:Lang-la-short, テンプレート:Lang-grc-short [basiliskos])は、ヨーロッパの想像上の生物。名称はギリシア語で「小さな王[1]」を意味し[2]、βασιλεύς(basileus)に由来する。ヘビの王であり、見ただけで死をもたらす力を持っていると思われていた。姿はヤマカガシに似ており、頭部に冠状のトサカが隆起している。身体を半分持ち上げて、音を立てながら進むと言われ、この特徴から、インドに生息するコブラからこの生物を想像したのではないかというものもいる。リビアや中東にある砂漠地帯は、そこを住処とするバシリスクの力で砂漠となったと言い伝えられた。
古代ローマの学者大プリニウス(22 / 23 - 79)が書いた『博物誌』(77年)第8巻第33(21)章第78 - 79節では、バジリスクは小さいながら猛毒を持ったヘビで、その通った跡には人を死に至らしめるほどの毒液が残った、そしてバジリスクに睨まれることはその猛毒と同じように危険だということが記述されている。バジリスクを槍で殺した者はその毒が槍から伝わって死ぬ、ともされた。頭には冠を思わせる文様があるという。『エレミヤ書』や『詩篇』では、バシリスクは救世主によって倒される悪魔の象徴と言われている。
中世になると、バジリスクについての伝承はコカトリスのものと合流し、同一視されるようになる。バジリスクは、雄鶏の産んだ卵をヘビかそれに類する生き物が孵化させて生まれると言われるようになり、その姿や生態についての記述には雄鶏のそれが取り入れられた(後年の主な姿態としては、頭に鶏冠を持ったヘビ、あるいは8本足のトカゲなどがある)。そして、コカトリスとは雌雄関係にある(どちらが雄か雌かは不明)とも言われ、「バジリスク」の別称として「コカトリス」が用いられるようにもなった。また、ジェフリー・チョーサー(1343頃-1400)は『カンタベリー物語』(14世紀)に「バジリコック」(basilicok)という名前でバジリスクを登場させた。
その後、バジリスクの恐ろしさに関する記述はどんどん大げさになっていく。例えば、さらに大きな怪物とされたり、口から火を吹くことになっていたり、前述のコカトリスの能力同様に視線を合わせた者は石になってしまったり、その声だけで人を殺せる等とされたりした。中には、バジリスクと間接的に触れるだけで死ぬとした書き手すらいた。つまり手に持った剣がバジリスクと接触しただけで死ぬというのである。もっとも、このように驚くべき危険さが喧伝されたせいで、かえってバジリスクは信じられなくなったのかもしれない。本当にそれほど危険であれば、実際にバジリスクを見た者は生きて帰れないので、誰もそれについて語れないはずだからである。また、石化の魔眼を鏡で反射すると逆にバシリスクが石になるとされていたり、バシリスクよりも先にバシリスクを見たら、バシリスクが死亡するという伝承も存在する。
このようにバジリスクは、その危険な能力故に、過去20~30年ほどの間に多くのファンタジーを舞台とする本や映画やゲームに強敵として登場している。主なところではダンジョンズ&ドラゴンズ、ソード・ワールドRPGなどのテーブルトークRPGでも事実上のボス敵として登場している。これらのほとんどでは、特徴的な「猛毒を持つ」「視線で石化する」という2つの能力が共通して登場している。ファンタジー作品におけるバジリスクは、コカトリスと混同されるケースも多い[3]。
1768年に発見されたあるトカゲは、バジリスク(本来はコカトリス)を思わせるトサカを持っていたため、バシリスクと名付けられた。ただし、毒はなく、もちろん、見たものを殺す能力もない。
脚注
出典
- ルカーヌス 『パルサリア』第9巻第849 - 853行、第968 - 975行、1世紀頃。
- プリニウス 『博物誌』第8巻第33(21)章第78 - 79節、77年。
- セビリアのイシドールス 『語源集』第12巻第4章第6 - 9節、622 - 623年。
参考文献
- ホルヘ・ルイス・ボルヘス、マルガリータ・ゲレロ 『幻獣辞典』 柳瀬尚紀訳、晶文社、1998年、40 - 43ページ。
- キャロル・ローズ編、松村一男訳「世界の怪物・神獣事典」(原書房) ISBN 4-562-93850-0