ドルビーラボラトリーズ
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
(ドルビー研究所から転送)
ドルビーラボラトリーズ(英語:Dolby Laboratories, Inc.)は、映画、テレビ、記録メディアその他の音響記録・再生技術の研究、開発を行う米国の企業である。現在、サンフランシスコ(本社)、バーバンク、ニューヨーク、ロンドン、東京他にオフィスを持つ。
目次
概要
高校時代、アンペックス社でアルバイトをした事がきっかけで、以来音響研究一筋60年の米国人技術者レイ・ドルビー博士が、1965年にノイズリダクション技術の研究所をロンドンに設立。彼はまた、初期のビデオテープレコーダであるアンペックス社の2インチVTRの開発において、オーディオ記録再生技術を担当した。
同社は装置製造だけでなく、開発した技術を他社に積極的にライセンスすることで収入を得るビジネスモデルを採用している。MPEG-AACのライセンス供給者の1社でもある。
ドルビーエンコードの映画
映画の音響再生で、臨場感を高めるため聞き手の周囲を包む音場を再生する技術で主導的な地位を占める。ドルビーサラウンド、ドルビーデジタル、ドルビープロロジックなど各種の方式がある。これらの再生にはそれぞれ専用の再生機(デコーダー)が必要になる。
- 1971年に公開された、スタンリー・キューブリック監督の英国映画『時計じかけのオレンジ』が初のドルビー映画となる。エンドクレジットにも記載されているが、商標のドルビーマークは当時存在しなかった。
- 日本映画では、1981年8月8日に劇場公開された東宝製作・配給の特撮戦争大作映画『連合艦隊』で、初めてドルビー・ステレオ方式の音響が採用された。なお、『連合艦隊』で採用されたドルビー・ステレオの音響は、4チャンネル・ドルビー・ステレオ(アナログ)方式である。
- 初のドルビーデジタル採用の映画は、1992年に公開された『バットマン・リターンズ』である。
- 初のドルビーデジタルサラウンドEX採用の映画は、1999年に公開された『スター・ウォーズ エピソード1/ファントム・メナス』である。
- 初のドルビーサラウンド7.1採用の映画は、2010年に公開された『トイ・ストーリー3』である。
- 初のドルビーアトモス採用の映画は、2012年に公開された『メリダとおそろしの森』である。
主な技術・製品
音響用雑音低減方式
- Dolby A, Dolby B, Dolby C, Dolby S など
- 業務用、コンシューマ用など多数の方式がある。
- コンシューマ用カセットテープレコーダーにはDolby Bが広く使われて、ほぼ標準のノイズリダクションシステムになっている。
録音時の高域特性を改善する技術
- Dolby HX PRO
- 高域の音声信号は、テープに録音する際の搬送波の周波数に近く、波の重ね合わせにより録音時にバイアスを微妙に変化させてしまう。Dolby HX PRO は、この変化を自動的に補正し、録音時の高域特性を改善するための技術である。Dolby HX PRO は、録音時の特性を改善するための機能なので、この機能を使用して録音されたテープは、録音したプレーヤー(レコーダー)で再生しても、他のプレーヤーで再生しても、Dolby HX PRO の効果は現れる。
音響高効率符号化方式
音響の高効率符号化(圧縮)方式として、1980年代から研究を行う。
- AC-3
- 米国の地上デジタルテレビジョン放送(DTV)やDVD-Videoに採用されている。
- AAC(Advanced Audio Coding)
- AC-3に代わる次世代の高効率符号化方式。
- MPEG-2 AACは主に日本のBSデジタル放送と地上デジタル波放送及びSD-Audioに採用されている。
- MPEG-4 AACは、米アップル社のアプリケーション『QuickTime』や『iTunes』をはじめ、デジタルオーディオプレーヤー『iPod』やソニー・コンピュータエンタテインメントの『PlayStation Portable』などに利用されている。
- MLPロスレス
- DVDオーディオに採用されたロスレス(可逆型)の圧縮技術。
- ドルビーデジタルプラス (Enhanced AC-3またはE-AC-3)
- ドルビーデジタルの後継となる規格。HD DVDの必須音声方式、ブルーレイディスクのオプション音声方式として採用されている。最大7.1chサラウンド。
- ドルビーTrueHD
- Blu-ray Disc、HD DVDよりさらに次の世代の高精細光ディスクを見据えた可逆圧縮音声規格。96kHz/24bitでは最大7.1chサラウンド、192kHz/24bitでは最大5.1chサラウンドまで記録できる。
映画のアナログサラウンド記録再生方式
- ドルビーステレオ(アナログ)
- センター、左、右、リアの4.0chサラウンドをフィルムにアナログで2.0chステレオ記録する技術。
- ドルビースペクトラルレコーディング(Spectral Recording 略:ドルビーSR)(アナログ)
- ドルビーステレオで行われていたノイズリダクション効果を強力にし、記録音域もさらに広げて音響のクオリティを向上させている。
映画のデジタルサラウンド記録再生方式
- ドルビーデジタル
- ドルビー社の音声高効率符号化方式であるAC-3を使った記録方式。AC-3とドルビーデジタルは同じ意味である。ドルビーSRDとも呼ばれる。1chモノラルからマルチチャンネルまで幅広いチャンネルに対応している(ドルビーデジタルは5.1chを指していると思われることがあるが、これは誤りである)。映画フィルムの場合、音声のデジタル情報を二次元コード化し、フィルムのパーフォレーションとパーフォレーションの間に光学的に記録する。
- ドルビーデジタルサラウンドEX
- 家庭用機器ではドルビーデジタルEXと呼ばれる。5.1chトラックの中に、真後ろの方向にあたるサラウンドバック(リアセンターとも言う)チャンネルの音声情報を追加して6.1chサラウンド再生を可能とした方式である。サラウンドバックチャンネルの音声は左右サラウンドトラックにマトリックスエンコード処理することによって記録する。再生時はマトリックスデコード処理でサラウンドバックチャンネルを取り出し、サラウンドバックスピーカーで再生する。上位互換性があるのが特徴で、ドルビーデジタルEX非対応で5.1ch再生環境の場合は5.1chサラウンドとして再生される。この場合サラウンドバック音声は左右サラウンドスピーカーから再生される事になるため、音声情報の欠落は発生しない。
- ドルビーサラウンド7.1
- 8チャンネルのディスクリート音声を使用し、5.1ch音声に新しい2つの独立チャンネルを追加した7.1chサラウンド音声。3D映画に対応。
- ドルビーアトモス
- 劇場の広さと設備に応じ最大128個の音響素材を元にリアルタイムレンダリングを実施し、最大64chのスピーカー音響となる。
- 天井にもサラウンドスピーカーが設置されており、ドルビーアトモスの映画館では特に質の高い・空間のあるサラウンド音響を楽しむ事が可能。スピーカーまで指定されているため映画館の個性が無くなってしまう点があり、導入する映画館には広い劇場のみ限定されている。
- 2013年11月22日開業のTOHOシネマズららぽーと船橋のTCXスクリーンが日本初導入館となる。12月20日開業のイオンシネマ幕張新都心にも導入された。2014年には3月12日開業のTOHOシネマズくずはモール[1]のほか、3月20日開業のTOHOシネマズ日本橋に導入予定。
映画のデジタル上映方式
- ドルビーデジタルシネマ
- 従来のフィルムプリントをデジタルデータに置き換え、色彩表現の向上、ディテール再現、デジタルサラウンドを可能とした上映技術。
- ドルビー3Dデジタルシネマ
- DLPデジタルシネマ上映館で3D映画の上映を可能とする上映技術。プロジェクタ内部のフィルタホイールで分光した映像を、対応メガネを通して視聴することで、映像が立体化して見える。高価なシルバースクリーンではなく、一般的なホワイトスクリーンを使用可能。また一回の投資で済む上に年間ライセンス料が不要で、コスト削減が可能。
マトリックスデコード再生技術
- ドルビーサラウンド(アナログ)
- ドルビーステレオを一般家庭用にした技術。ビデオやレーザーディスク、カセットテープなどの2.0chステレオのみ記録できる媒体に、アナログの3.0chサラウンド(フロント2chとリア1ch)を記録させることができる。専用のデコーダーや機材の無い場合は通常の2.0chステレオ、機材のある場合は3.0chサラウンドを再生させることができる。'90年代に入ってからはTVゲームにも採用された。なおドルビーサラウンドを元にリアを2chとしセンター1chを付加したドルビープロロジックという技術も存在するが、あくまでデコーダー側の処理によるものであり、元の信号としてはドルビーサラウンドと同一である。
- 代表作は『スーパーダライアス』(PCエンジン)、『ジュラシックパーク』(スーパーファミコン)、『パラサイト・イヴ』(PlayStation)、『スターツインズ』(NINTENDO64)など。
- ドルビープロロジック(アナログ)
- 2.0chステレオを4.0chサラウンドに変換する技術。ドルビーサラウンドとの違いは、「2.0chステレオから位相的にサラウンド信号成分を抽出するだけの簡易型技術」がドルビーサラウンド、「ロジック(方向性強調)回路により、隣接チャンネルの分離度を高めるよう4.0chサラウンドに変換する技術」がドルビープロロジックである。
- ドルビープロロジックII、ドルビープロロジックIIx、ドルビープロロジックIIz
- さらに技術を向上させたプロロジックII(2.0chステレオを5.1chサラウンドに拡張)、プロロジックIIx(2.0chステレオや5.1chサラウンドを6.1chサラウンドや7.1chサラウンドに拡張)、プロロジックIIz(2.0chステレオや5.1ch~7.1chまでのサラウンドを9.1chサラウンドに拡張)が順次追加されている。
- ドルビープロロジックIIは当初はデコード(再生)側だけで4.0ch/5.1ch/6.1ch化する再生オンリーの技術であったが、ドルビープロロジックIIxにおいて、ゲーム用にドルビープロロジックIIインタラクティブエンコード技術が開発された。このエンコード技術を用いて、マルチチャンネル音声を2ch音声としても再生できる音声の一部としてマトリックスエンコードし、それをドルビープロロジックII、ドルビープロロジックIIxでデコードする事で、エンコード無しの場合に比べて制作者の意図をより大きく反映する事が可能となった。
- なお、このエンコード技術を用いて制作されたゲームソフト(PS2、PSP、Wii、GC)にはドルビープロロジックIIのロゴが表記されている。
バーチャル技術
- ドルビーバーチャルスピーカー
- 2本のスピーカー(2chステレオ)で5.1chサラウンドを体験することができる技術。
- ドルビーヘッドフォン
- 部屋でのスピーカー再生をシミュレートし、ヘッドフォン(2chステレオ)で5.1chサラウンドを体験することができる技術。ヘッドフォンに起こりがちな頭内定位が解消される利点があり、一部のMDプレーヤーやAVアンプ、PC用DVD/Blu-ray Disc再生ソフト、ほとんどのコードレスサラウンドヘッドフォンに搭載されている。
携帯機器向けサラウンド技術
- ドルビーモバイル
- 携帯電話やスマートフォン、タブレット端末で高音質な動画や音楽の視聴を可能にする技術。一部製品ではワンセグ放送の音声をヘッドフォン接続時でバーチャル5.1chサラウンド化が可能。
- 日本ではNTTドコモのシャープと富士通、LGエレクトロニクス、NECカシオMCの携帯電話・スマートフォン・タブレット、ソフトバンクモバイルのHTC、シャープ、富士通MC製のスマートフォン、au(KDDI・沖縄セルラー電話連合)の富士通MC、シャープ製のスマートフォン・タブレットにそれぞれ搭載されている。
パソコン向けサラウンド技術
- ドルビーホームシアター
- PCの内蔵スピーカーやヘッドフォンでのサラウンドサウンド、音声周波数特性の補整、圧縮音源の音質向上、低音効果の向上、ドルビープロロジックIIx、音声をリアルタイムでドルビーデジタルに変換する機能を搭載。
- ドルビーアドバンストオーディオ
- ヘッドフォンでのサラウンドサウンド、音声周波数特性の補整、圧縮音源の音質向上、低音効果の向上機能を搭載。ドルビーホームシアターの機能削減版。
- ドルビーサウンドルーム
- 5.1chスピーカーシステムがないような場合での2chステレオサウンド変換再生、強力で高度なデジタル信号処理テクノロジを搭載。ネットブックにも採用されている。
記録用音声技術
- ドルビーデジタルレコーディング
- DVDレコーダーやHDD内蔵ビデオカメラで、2.0chステレオを「ドルビーデジタル」の圧縮信号で記録出来るフォーマット。
- ドルビーデジタルステレオクリエーター
- 2.0chステレオを圧縮信号で記録できるフォーマットで、音声トラックを編集可能。
- ドルビーデジタル5.1クリエーター
- 5.1chサラウンドを比較的容易に記録できるフォーマット。DVDオーサリングソフト、DVDレコーダー、5.1chサラウンド記録対応ビデオカメラ等に採用されている。
脚注
- ↑ テンプレート:PDFlink、2014年1月28日、TOHOシネマズ株式会社、2014年3月11日閲覧。