シルデナフィル

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
移動先: 案内検索

テンプレート:Drugbox シルデナフィル (sildenafil) はファイザーが製造・販売する勃起不全 (ED) 、および、肺動脈性肺高血圧症の治療薬。ED治療薬としてはバイアグラ (Viagra[1]) という名称(商標)が、肺動脈性高血圧症の治療薬としてはレバチオ(Revatio[2])という名称が用いられている。投与はいずれもクエン酸塩の形態で経口にて行われる。

概要

夢の勃起不全治療薬「バイアグラ」として1990年代末から2000年代にかけて世界的なセンセーションを巻き起こし、副作用による死者、違法な販売、偽物が出回るなど社会問題にもなった。日本では2014年5月にバイアグラとしての特許が切れたことから、それ以降は合法的な後発医薬品(ジェネリック)が発売されている[3]

開発史

もともとシルデナフィルは1990年代前半、狭心症の治療薬として研究・開発が始まった。第1相臨床試験において、狭心症に対する治療効果は捗々しいものではなく試験の中止を決めるが被験者が余剰の試験薬を返却するのを渋り、理由を問うた所、僅かであるが陰茎勃起を促進する作用が認められ、これを適応症として発売されることとなった[4]

1998年アメリカ合衆国で販売を開始。発売直後からマスコミインターネットなどで「夢の薬」「画期的新薬」と騒がれ、日本にも多くの個人輸入代行業者の手によってもたらされるようになった。

日本では米国での市販から間もない同年6月頃より、狭心症を患ってニトログリセリンなどの硝酸塩薬を服用している者(主に高齢者)が個人輸入で入手して性行為を行った直後に心停止に陥り死亡する事例が数件発生した。このため安全性を図るべく医師の診断・処方箋が必要となる医療用医薬品として正規販売する運びとなり、厚生省は副作用死(薬害)抑止の観点もあり国内での臨床試験を実施せず米国の承認データを用いるスピード審査を敢行し、1999年1月25日に製造承認、3月23日よりファイザーから医療機関向けに販売された。

このスピード審査はそれまで治療上の緊急性が高い抗HIV治療薬などに対して行われていたが、安全性の確認がなされていた経口避妊薬の認可申請が10年以上に亘り却下され続け1999年6月2日に承認された事と比較し、テンプレート:要出典範囲

作用機序

バイアグラ(シルデナフィル)は、生体内で環状グアノシン一リン酸 (cGMP)の分解を行っている5型ホスホジエステラーゼ (PDE-5) の酵素活性を阻害する。これが陰茎周辺部のNO作動性神経に作用して血管を拡張させ、血流量が増えることによって機能すると考えられている。

勃起不全の症状がある場合、この薬(錠剤)を性行為の30分くらい前に服用すると陰茎が勃起し、性行為が正常に行える。但し、性的なリビドーがない場合や陰茎に対する適切な物理的刺激がない場合には勃起は起こらない。また性的な気分を高揚させる効果はない。この薬は陰茎の勃起に効果はあるものの精液の量を増やす効果はなく、射精時にあまり精液が出ない、いわゆる「空撃ち」状態になると射精の快感は半減する。

その他の心血管系作用

シルデナフィルは陰茎に限らず脳を介した血管拡張を促進する作用がある事から、現在種々の疾患に対する適応が研究されている。その例としては、慢性心不全[5]、肺高血圧症[6](特に新生児心室中隔欠損症動脈管開存症[7]開心術中・術後[8]急性肺傷害[9]など)がある。

肺動脈性肺高血圧症治療薬のレバチオは、2008年4月より発売されている。

副作用

ただし、この作用メカニズムは心臓病の治療に用いるニトログリセリン等の硝酸塩系薬剤と同様のものであるため、副作用として血圧の急激かつ大幅な低下や、心臓への酸素供給に支障をきたす狭心などがあらわれることがある。特に同薬服用時に狭心発作に見舞われ、救急病院に搬送された際、服用者が同薬使用を告げずに硝酸塩系薬剤を投与され、症状が悪化・最悪の場合には死亡するケースも見られる。

ファイザー側はこの同薬に関する問題に対して、医師・薬剤師への禁忌情報の提供を行うと共に、錠剤パッケージ裏にニトログリセリン等硝酸塩系薬剤との併用が出来ない旨を記載している。

「滋養強壮」「精力強壮」を謳った健康食品・サプリメントのなかには、シルデナフィルを含むものもあり、厚労省が注意を喚起している[10]

米FDAは2007年10月18日、男性性的不全治療薬の服用で突発性難聴になる恐れがあると警告し、ファイザー(バイアグラ)、イーライリリー(シアリス、一般名:タダラフィル)、バイエル(レビトラ、一般名:バルデナフィル)の3商品に対し、品質表示ラベルや説明書にリスクを詳しく記載するよう求める方針である[11]

バイアグラに絡む社会現象

日本国内の医療機関で処方されている剤形は、25 mg 錠または50 mg 錠(一錠に 25 mg ないしは 50 mg の有効成分が含まれる)だが、ファイザーが米国等海外に於いて製造・発売している剤形には、100 mg 錠もある。しかしこの 100 mg 錠は日本国内での製造承認は出ておらず、医療機関では処方されていない。

日本で正規に入手するためには医師の処方箋が必要な上、健康保険の適用外で自由診療(保険外診療)のため、各医療機関が価格を定めることができるが、1錠およそ1,500円程度となっている。

1999年の発売当初は泌尿器科性病科)や一般内科などの医師がMRから説明を受けるなど専門知識を習得した特定の診療所・病院の診療科において、患者が問診と血圧測定などの生理的検査を行い、EDと確定されれば処方される仕組みのみであった。なお、この検査において基本的に陰茎を医師の前で露わにしたり、触診させる必要はない。その後、2000年代以降は一部の美容外科心療内科を中心に、依頼すれば簡単な問診だけで処方する診療所も見受けられる。

一方、用途の関係から医療機関や薬局へ出向くのが恥ずかしいと思いこむ者もおり、依然として個人輸入代行業者による販売が行われている。こうした業者の販売する薬物からは、偽物あるいはコピー薬が発見される事もある。

スパム関連

勃起不全は男性にとって、アイデンティティへの脅威であると共に、専門医に対しても相談しにくい症状である。このためインターネット上の通信販売等に於いては常に一定量の需要があり、それを相手とした市場も存在する。その一方で、迷惑メール等の宣伝行為を行う前出の個人輸入代行による業者も多く、これら業者の活動が一般のインターネット利用者からは問題視される事態も発生している。

特に迷惑メールでは、無差別に送信される事もあり、また用途(性行為に関する不具合を改善する治療薬)に絡んで、テンプレート:要検証範囲一方、同薬の効能が世間に広く知られるにつれ、ニセの薬品を高値で売りつける業者もあるとされ、こちらも問題となっている。

また日本国内では販売が認可されていない 100 mg 錠を扱う業者もあり、2003年10月6日には同錠を扱った仙台市の業者が逮捕される事件も発生している。また、2013年には、偽物のバイアグラを中国在住の兄弟を通じて密輸入しようとした男性が逮捕されている[12]

コピー版バイアグラ

成分がバイアグラと同等とされる薬品も発売されている。インドのajanta社が製造しているカマグラ、RANBAXY社のカベルタ、Zydus Alidac社のペネグラを始め、複数のものが発売されている。一般的に医薬品に関する特許には「成分特許」と「製法特許」の2種類があるが、インドでは「製法特許」だけ認めているため、成分が全く同じ化合物であっても製法さえ異なれば合法的に薬品を製造販売することが可能である。そのためインドでは多くのコピー薬品が作られ正規の薬品よりも安価で販売されている。コピー薬の効果はほとんどバイアグラと同じであるが、価格は概ね6分の1ほどである。これらもバイアグラ同様に個人代行輸入業者が取り扱っており、個人的に使用する目的で輸入することは合法である。なお、これらのコピー薬は後発医薬品(ジェネリック医薬品)にはあたらない。成分特許を認める国においてはシルデナフィル自体の成分特許が有効であり、コピー薬を日本に輸入・販売することは「特許発明の実施」とみなされ、特許法に反する。日本国内での転売は薬事法による取締りの対象ともなる。

インド等で合法的に製造されている薬とは別に、ファイザー社のバイアグラに似せた偽造品(「Pfizer」「VGR 100」などと書かれた青色の錠剤)も出回っている[13][14]。シルデナフィル含有量や製造過程での衛生管理・品質管理に問題のあるものも多い。

ジェネリック

シルデナフィルに関してファイザーが有する特許のうち、日本国内におけるシルデナフィルとしての物質特許は2013年5月17日に満了[15]、勃起不全治療薬バイアグラとしての用途特許は2014年5月13日に満了した[3]。そのためバイアグラのジェネリックの発売が日本でも合法となり、2014年5月には東和薬品から日本初のジェネリックが発売された[16]

脚注

テンプレート:脚注ヘルプ テンプレート:Reflist

外部リンク

  1. Viagraの商標、日本では登録商標第4127593号、米国での登録番号は2162548
  2. Revatioの商標、日本では登録商標第4996088号、米国での登録番号は3069332
  3. 3.0 3.1 テンプレート:Cite web
  4. テンプレート:Cite journal Erratum in: ibid. 1998 Jul 2;339(1):59.
  5. テンプレート:Cite journal
  6. テンプレート:Cite journal Erratum in: ibid. 2006 Jun 1;354(22):2400-1.
  7. テンプレート:Cite journal
  8. テンプレート:Cite journal 総説
  9. テンプレート:Cite journal
  10. テンプレート:Cite web
  11. 2007年10月19日 日本経済新聞朝刊
  12. 中国の兄から弟へ…偽のバイアグラなど密輸未遂 読売新聞 2013年3月8日
  13. テンプレート:Cite web
  14. テンプレート:Cite web
  15. テンプレート:Cite web
  16. テンプレート:Cite press release