焜炉
焜炉(こんろ、またはカタカナでコンロと表記することが多い)とは、直接的な食品支持部を有しないもの[1]で電気・気体燃料・液体燃料を熱源とする調理用加熱器[2]あるいは「木炭こんろ」[3]や「練炭こんろ」[4]のように固形燃料を熱源とするもの[5]。
本来運搬可能な小型の調理用の炉をさしたが、今日では鍋釜などの調理器具を加熱する据付型の燃焼器具または加熱器具も含まれる。
「焜」とは広韻で「火の貌(かたち)」と解釈され、つまり熱炉・熾炉(しろ)というに等しい。
カタカナ表記されることが多いため西欧語の誤解があるが日本語である。
アメリカ英語でクックトップ(Cooktop)またはレインジ/レンジ(Range)、イギリス英語でハブ(Hob)[6]、中文では炉子(炉子:ストーブ、小炉子:ミニ火鉢、厨灶:キッチン)と呼ばれる。
目次
呼び方
- ガス台
- ガステーブル
- クックトップ(日本国外製品に対し用いられることが多い。)
- ビルトイン焜炉(流し台に組み込まれた焜炉。調理作業面となる天板に一枚板となるように焜炉が組み込まれていることがシステムキッチンと呼ぶ基準テンプレート:要出典の一つとなる。)
- ガスレンジ(狭義にはオーブン、コンビネーションオーブンレンジ(電子レンジとガスオーブンが組み合わさったもの)、コンベックを対象とする。)
概要
本来焜炉とは運搬可能な調理用の炉をさしていた。江戸時代の遺構(江戸遺構、四国城下町遺構など)から多くの持ち運び可能な土師(はじ)製火床が発掘されている[7]。七輪も焜炉の一種であり、江戸時代の終わり頃までには作られたことが分かっている[8]。七輪とは珪藻土などで作られ、燃料に木炭などを使う焜炉の一種で、空気取り入れ口の加減で火力を調節するが、燃料の燃え具合の調節が難しい。
今日焜炉といえば、一般的にはガス焜炉をさす。ガス焜炉にはガス栓からガスホースを用いガスを供給する方式と、液化ガスを充填したボンベを接続しガスを供給する方式がある。さらには電気焜炉及びIHクッキングヒーターなどをさすこともある。近時はガス焜炉とIHクッキングヒーターが並びあい一体となった焜炉もある。なお電気で加熱するものとしては、皿や調理済みの料理の入った鍋が冷めないように保温加熱するプレートヒーターもあるが、通常焜炉の範疇には含めない。その他キャンプ及び登山用品として様々な種類の携帯用焜炉も存在する。
焜炉は一般的な調理に伴い、飛び跳ねた油、吹きこぼれた食材及び食材の断片などによって汚れることが多い。これらは腐敗したり、病原害虫を呼び寄せる原因になる。ガス焜炉の場合、バーナー部分の目詰まりを起こし燃焼不良の原因ともなり、電気焜炉およびIHクッキングヒーターの場合、腐食や漏電などの原因ともなる。IHクッキングヒーターでは、基板を収める空間が過熱しないように絶えず冷却ファンを回す必要があり、吸気部のフィルターが目詰まりしないよう常に注意を払う必要がある。燃料を使用するタイプの焜炉では原理上、常に換気に注意する必要がある。
焜炉の種類と特徴
一般に焜炉は、熱源として電気を使うものと、燃料を使うものとに大別できる。電気を使うものには電気抵抗を利用するタイプ(電気抵抗)と電磁誘導を利用するタイプ(電磁誘導)とがあり、燃焼加熱によるものの燃料には(固体燃料)、(液体燃料)および(気体燃料)と各物質状態の燃料がある。
焜炉の種類により、それぞれ得手、不得手がある。
石炭焜炉・かまど(固体燃料)
テンプレート:Main 古くから用いられているもので、石炭、薪、木炭など固体の燃料が使われる。固体の可燃物であればたいていの燃料を用いることが可能だが、煤が溜まりやすいことも有って不完全燃焼を起こす場合がある。強い火力を必要とする調理には適しているが、火力調節がし辛く弱火で長時間煮込むような調理法は難しい。その上生じた熱を鍋釜などの調理器具に必ずしも確実には伝えられず、その大半を本体側面から逃がしてしまうため、調理を行う者は酷暑に晒される一方で燃料が無駄になりやすい。
もっとも、それでも裸火を使って調理するよりははるかに効率が良いし、土などの調達が容易な材料で作れることから、近年では森林の乱伐採が問題視される発展途上国で木炭の利用と並びこれら焜炉の使用が推奨されている。現行の他の焜炉に比べると欠点が目立つこの形式だが、上記の事例では燃料を選ばない点や材料の調達が容易な点のメリットが大きい。
その他携帯用焜炉では、メタノール系固形燃料やパラフィン系固形燃料などの固体燃料を使うタイプがある。固形燃料タイプでは缶に入っていて缶自体が焜炉として利用できる物がある一方、一回分がパック詰めなどになっていて、燃料自体が燃焼量・燃焼時間も決定する簡易型の物がある。災害時やキャンプなどで上記の高価な液体ないしガスを使用する携帯焜炉の代用品としては前者が、屋内での食卓上での調理や屋外でのレーションなどの加熱には後者が用いられる。
石油焜炉・アルコール焜炉(液体燃料)
ガソリンや灯油、アルコールなどの常温では液体の燃料(ある程度穏やかに揮発するが)を用いる焜炉。ストーブにも分類され、キャンプ用語ではポータブルストーブと呼ばれる事もある。後述のガス焜炉よりも燃料の管理がしやすく、温度変化や気圧変化にも強い。主としてキャンプ・登山用の携帯型焜炉に用いられるが、ツーバーナーなどの大型の物はバーベキューのような焼き物調理の際に利用されるのに対し、シングルバーナーなどの小型の物は燃料の量も限られるため、飲料の加熱や水の煮沸などに用いられることが多い。
焜炉用液体燃料の主流はホワイトガソリンだが、灯油や自動車用ガソリン(赤ガス)、ベンジンなどの複数の液体燃料に噴射ノズル等のパーツ交換で対応するマルチフューエルタイプの焜炉もある。しかし石油系の燃料は着火性にやや難があり、点火前にヒーター部分(ジェネレータとも呼ばれる気化器)を加熱(プレヒート)し燃料の揮発を助ける必要がある。燃料に不純物があると焜炉の揮発機構に悪影響があるため、自動車・オートバイ・モーターボートなどのエンジン(内燃機関)用の燃料を用いると、内燃機関用の添加剤が原因で、噴射ノズルが目詰まりを起こすなどの故障をおこすことがある。第二次世界大戦前後の製品は気化器の構造が単純でノズルもやや大きめに作られているために自動車用ガソリンの使用が可能であることを謳っている製品も多かった(その反面、細かな火力調整がほぼ不可能なものが大半であった)が、近年の製品はよりきめ細かな火力調整を行うために気化器が小さく複雑な構造となっており、燃料に「ホワイトガソリン」と指定されているものにはホワイトガソリンを使用しなくてはならない。
第二次世界大戦以降に製造された製品では燃料タンクに加圧用ポンプが備え付けられているため、ポンピングにより燃料タンクに加圧して燃料を半液状の状態で噴出させ、プレヒート皿に燃料を蓄えることでタンク内の燃料のみでプレヒート作業が行えるが、スウェーデンのオプティマスに代表される初期の焜炉には加圧用ポンプが存在せず、アルコール等をタンクに直接振りかけて点火し、文字通り焜炉全体を火達磨とする事でプレヒートを行う必要があった。このように着火作業自体にある程度以上の手順の熟知と経験が必須であったため、取り扱いが簡便なガスカートリッジ式の焜炉が普及すると液体燃料式は少数派となっていった。しかし、ランニングコストの安さや構造を熟知していれば分解清掃などにより長期間同じ焜炉を愛用し続けられる事から、今日でも液体燃料式携帯焜炉は一定の需要が存在し続けている。
一般的なアルコール焜炉では、燃料の揮発性が高いために通常ポンピングによる加圧やプレヒートを要せず、そのため構造が単純で故障が少なく手入れがほとんど不要であり、加圧しないために燃焼音も静かである。しかしその代わり加圧しないためにそれだけ火力も下がり風雨にも弱くなるので風防の類が必須となる。燃料がアルコールであることから石油系と異なり水で消火できる長所があるが、燃料の発熱量が小さいため火力が弱く、また直射日光下で炎が見えないという短所がある。アルコール焜炉は非常に軽量なため、今日でも予備焜炉として持ち歩く登山者も多い。
なおアルコール焜炉でも、指定燃料以外のアルコール飲料やガソリン・ベンゼン・ライターオイルを入れた場合に、燃焼不良や爆発を起こす危険性がある。
そのほか、アルコール(メタノール)を固形燃料とした携帯用焜炉も存在する。前記「1.3 石炭焜炉・かまど」の節を参照のこと。
ガス焜炉(気体燃料)
都市ガスやプロパンガス(LPG)などの可燃性の気体を燃料とする焜炉。安定した火力で調理する際に威力を発揮する。その一方で小型の物は常温下では安定した火力が簡単に得やすいことから、沸点が高くカートリッジの耐圧製が低くできるブタン(ガスライターの燃料)や混合ガスを充填したカートリッジを使用する。
プロパンや都市ガスなどを使用する据え置きタイプの物は火力の調節が簡単で、炒め物などの高温を必要とする調理から煮物などの弱火を長時間用いる調理にまで、幅広く用いることが可能である。簡易式のカートリッジを使うタイプでも他の移動式焜炉より点火が簡便で、また高温も得やすい。
設置された状態や追加機能により呼び分けることもある。ガステーブルはガス栓からガスホースにより接続された移動が容易な焜炉をさす。システムキッチンとして組み込まれた(ガス焜炉の上面と手前操作部のみ露出)状態で固定されたものはビルトイン焜炉と呼ばれる。焜炉手前に組み込まれたグリル機能のある焜炉をガスレンジと呼ぶ。上位機種として焜炉台にあたる部分にガスオーブンレンジを組み込んだものもある。なお、大型鍋用あるいは業務用に用いられる本体が鋳物でできた鋳物コンロ(ハイカロリーコンロ)と呼ばれるものもある。
燃料とするガス種類は大きく分けて、メタンを主成分とする天然ガスと、高圧下で液体にしてタンクに貯蔵してあるプロパン・ブタンを主成分とする液化石油ガスがある。ガス種にあう焜炉を用いないと適切な燃焼状態を確保することが困難である。部品交換により燃料転換修理も可能な焜炉も少なくないが、意外と料金がかかる場合がある。
問題点としては、屋内使用では燃焼による酸素消費があるため、換気が適切でない室内において燃焼を継続すると、不完全燃焼による一酸化炭素を発生させ一酸化炭素中毒による事故となる。テントのような屋外に設置する簡易な住居においても換気が不適切である場合、同様な事故が生じる。これは燃焼加熱式共通の問題である。また、一定濃度で大気と混合している状態にて点火すると、爆発的燃焼を起こす。爆発燃焼事故を未然に防ぐ為、爆発限界に達する前に嗅覚またはガス漏れ検知器等(メタン等のガス主成分に反応)にて容易に発見するために家庭用ガスには付臭することが法で定められていることや、ガス機器や配管損傷を主とする大量の漏れに対しては、ガスメーターの安全装置およヒューズガス栓が作動しガス供給遮断される等の対策が施されている。焜炉での事故は誤使用に起因することが多く、安全保護機能を備え付けられたガス焜炉の普及により減少傾向となった。
プロパンの卓上用こんろ、キャンプのストーブ、カートリッジは販売されている[9] [10] [11]。
冬季用に便利というのは事実ではなく、メーカーは零下ではガソリンや灯油より効率が落ちるとしている[12]。
日本の卓上用カートリッジガスこんろ(通称カセットこんろ)は、1969年に岩谷産業で業界で初めて開発された卓上カセットコンロ「イワタニホースノン・カセットフー」であり、コンセプトの「ホースがなく持ち運びに便利」が話題を呼び大ヒット商品となった[13]。その後数社から同様の商品が発売され、1991年7月1日に日本工業規格「カセットこんろ(JIS S S2147)」「カセットこんろ用燃料容器(JIS S S2148)」が制定[14]されていた。しかし、カセットボンベの規格が複数規定されていたため1995年に発生した阪神・淡路大震災において、被災者間や救援物資においてカセットボンベの融通できないなどの問題が発生し、規格統一の必要性が認識された。これを教訓として1998年2月20日に日本工業規格「カセットこんろ(JIS S S2147)」「カセットこんろ用燃料容器(JIS S S2148)」の改正が行われ[14]、カセットボンベの形状が一種類に規定された(→参考)。(ただし、燃料容器の寸法等について厳密な定義がされておらず、なによりも強制法規対象の規格ではないため他メーカー間のカセットこんろとカセットボンベの互換性を保証するに至っていない。また、2011年4月26日現在「カセットこんろ用燃料容器(JIS S S2148)」の認証を受けている製品自体存在しない[15]。「JIA認証」表示を互換認証と誤って捉えている場合があるが、これは設計および製造工場の検査認証であり互換認証ではない[16])。とはいえ、形状が合う場合は大抵装着できる場合が多いが、それでもメーカーにおいては保証の対象外となる場合があるので注意が必要である。
カセットこんろの規格変更、製品製造終了後もメーカーは旧式となった製品用カセットボンベをしばらくの期間製造供給を続けたり[17]、カセットボンベそのものの製造が終了しても流通在庫が存在するためしばらくの期間旧製品用カセットボンベの店頭販売が継続されるため注意が必要である。さらに、カセットボンベに形状が類似した特定用途器具用LPG燃料容器が流通しているため誤ってカセットこんろに使用しない様に注意が必要である。カセットこんろは使用が手軽であるため種々の誤った使用による爆発・火災などの事故も多いため業界団体により注意喚起がなされている[18]。
意外な盲点としてカセットこんろは五徳の長さが短い製品が多いため、小型なべや鍋焼きセットの容器が五徳から外れガス口に落ちてしまう場合もある。通販などでは五徳の寸法まではまず表記されていないため、アルミ鍋焼きをよく作る場合は購入時に見本商品でチェックすることが望ましい。
現在の液化石油ガス自体には毒性はないが、液化石油ガスをそのまま吸引すると酸欠による中毒を起こす危険性がある。都市ガスの中には一酸化炭素を含むものもあるが、天然ガスに転換された地域では一酸化炭素は精製成分として含まれていない。
2000年代には、ガス焜炉でも調理器具を加熱する天板を拭き掃除しやすいようにガラスコートを施されたガラストップコンロが販売されている。これはIHクッキングヒーターの「上面が平らであり拭き掃除がしやすい」というメリットをガス焜炉にも導入したものである。従来の五徳が際立ったフッ素コーティングの焜炉より、デザイン性に優れ、掃除がしやすいなど利便性が向上している。この動きにより、ガス焜炉のデザイン史も大きく進化した。業務用器具としては、IHクッキングヒーターのように天板が平らであるが加熱方式はガス燃焼式の焜炉もある。
近年、省エネの点でも改良が進み熱効率が向上し調理時間がさらに早くなっている。炎の形状では外炎式と内炎式がある。内炎式の場合、炎が内側に向くため効率がよい。カートリッジガスこんろ(カセットこんろ)においても内炎式商品が製造されている。たとえばある内炎式のカートリッジガスこんろは72分間の持続時間がある。
2008年10月1日「ガス事業法」および「液化石油ガスの保安の確保及び取引の適正化に関する法律(液石法)」により「PSTG」または「PSLPG」マークを貼付していないガス焜炉の販売、販売目的の陳列が禁止された[19]。中古品等についても同規制を受けるので注意が必要[20]。また、「カセットこんろ」の名称が「カートリッジガスこんろ」に変更され、関係省庁の公示文書では変更された名称で表示されている[21]。
電気焜炉(電気抵抗)
ニクロム線などの電気抵抗の小さくない導電体に、電流を通してジュール熱を発生させて高温にし、熱伝導や熱放射によって加熱する。
商用電源等の電力インフラが必要。機種によってはエアコンと同様に200Vの専用電源配線が要る。停電時は当然使えない。 厨房へのガス配管工事がいらないことや、ガス漏れ・直火からの引火の危険性が少ないといった利点もあることから、ワンルームマンションなどの賃貸集合住宅を中心に多く用いられている。 電気こんろ(とくに簡易卓上型)では十分な発熱量が得られないと思われがちだが製品次第であり、据付型電気こんろではガス方式と得られる熱量に一義的な差はない。
熱効率はIH方式より低く利用頻度次第では使用コストが割高になる。 運用コスト面はまちまちであり、都市ガスやプロパンガスと比較しても地区電力会社やガス会社の料金体系や契約形態(オール電化契約等)、あるいはこんろの使用状況による。
チャーハンなどあおり調理(フライパンをこんろから離したり振ったりする動作)を要する調理法にはあまり向かないが、ほぼ全ての煮炊きに適する。 熱放射が直接得られるため餅焼きや海苔・干物などの炙りも可能。
燃焼のための酸素供給は不要なので、換気は食材からの煙などのためだけに必要。
かつてはコイル状の電熱線が露出している製品(裸発熱線)が主流で、通電中の電気回路が露出していることによる、漏電や感電の危険性があった。そのため今日では、絶縁されている製品が主流となっている。シーズヒーター(金属管に耐熱絶縁被覆電熱線を通して隙間に充填材を詰めた物)式電気こんろは外観がやや太い渦巻き蚊取り線香のようであり、ラジエントヒーターは、IHクッキングヒーターと同様にヒーターがガラストップの下に有り露出していない。 呼称については電熱線が露出しているものを「電気こんろ」、シーズヒーターを「電気クッキングヒーター」と呼んで区別するメーカーもある。
スイッチオフの後も数分から十数分間は余熱により、かなり熱いため注意が必要である。小型電気こんろについては、使用方法の周知不徹底から漫然と安全なものと過信し、加熱面に安易にダンボールや紙袋などを置き何かの拍子に通電され火災が発生する、といった事故が複数報告されている[22]。
IHクッキングヒーター(電磁誘導)
脚注・出典
参照
- ベトナムの伝統的な焜炉[1]P.8