コンパニオンアニマル
コンパニオンアニマル(英語:Companion animal)とは、従来では所有物扱いのペットに対して、生活して行く上での伴侶などとする、より密接な関係を人間と持っている動物を指す。伴侶動物(はんりょどうぶつ)とも表現される。
目次
概要
この呼称は、特に近年では社会の高齢化や少子化に伴い、生活を充実させるために飼育している動物に対しての特別な感情を示すために使われ始めた。特に不都合の無い場合には、人間同様に扱い、話し掛けたり、一緒にテレビを視聴したり、旅行などに同伴するといった傾向も見られ、これら生活に於ける飼育動物への依存度が増大するにつれ、ペット業界や動物病院などでは飼い主の感情に配慮して、単なる愛玩物・所有物としてのペットではなく、「人生の伴侶」としての動物であるとして、同語への呼び替えも見られる。
これらの動物には、衣服を着用させたり、特に風味に配慮した食物を与えるなどの、従来では「溺愛」とされた行為に似た傾向も見られるが、それら動物の習性上で不快感を与えない・または体の構造で適切なものが選択されるようになっており、単なる擬人化した上での溺愛行為とは一定の格差も見られる。
なお、これらの動物が人間社会で認められるためには、人間が動物の習性に合わせるだけではなく、動物の側も人間の生活に合わせるよう、一定の躾が必要とされる。この事から、外に連れて歩くコンパニオンアニマルでは、躾に従順な種類の動物であるケースが多い。
他方、完全に住居や敷地内で飼育される・外には同伴されない動物でも、飼育の手間が余り掛からない・困った習性を持たない動物が好まれる。近代から現代に掛けての欧米では、ペットを(人間の)家族同様に扱う風習も見られた他、日本では1990年代よりインテリアの延長としてアクアリウムが好まれたり、古くより飼育されていたイヌやネコでも、比較的おとなしい種類や個体のものが好んで住居内でのみ飼育されるケースが増えてきている。特に人間の生活を圧迫しないものが好まれる点で小動物にも一定の人気があるほか、一部では爬虫類や両生類、甲虫類などをコンパニオンアニマルとして、一緒に生活する友人(ルームメイト)のように考える人もある。
前記のとおり、従来のペットのように単なる慰み物という位置付けではなく、共同生活者として扱われるが、流石に家事の分担をこれら動物に求めるケースは稀な模様である。
これら動物に対する待遇の例
2000年代前半に人気を博したチワワでは耐寒性の低さから、日本での飼育においては冬季などに防寒のために衣服の着用が勧められているが、それら専用の衣服も各種メーカーから提供されている。また水に濡れる事を厭わず、雨降りの中でも散歩を好むレトリバー種向け等にレインコートが発売されるなどしており、屋内で大型犬を飼育する人が散歩のたびに洗って乾かす手間を省くために利用している。
動物用の食物では、かつては残飯(または食品廃材)などが与えられるケースが多く、反対に溺愛している例では自分と同じ料理を与える人すらあった。しかし一般にペットとして広く飼育された犬猫であっても、タマネギは食べられない(中毒による溶血性貧血を起こす)事や、香辛料や食塩等の適量が人間のそれより遥かに少ないなど人間と同じ食事を与えることの害が周知されるにつれ、次第に残飯や自分と同じ食品を与える行為が控えられるようになってきた。
コンパニオンアニマルでは、人間が自分の食生活に健康の面から配慮するのと同様に、これら動物の健康な代謝機能に配慮したペットフードが求められ、各ペットフードメーカーでは競って高級食材や、獣医師指導のもとで綿密な調査によって開発されたメニューを生産している。近年ではこれらの動物同伴で、同じ料理(動物の代謝機能上で問題に成らないよう配慮された物)が一緒に食べられるレストランも米国で登場している。
コンパニオンバード
従来からケージ等でペットとして飼育されていた飼い鳥の中で特に懐く個体を指す。これらの多くは人工的に羽の色が改良されて品種増えた文鳥、セキセイインコ、コザクラインコ、オカメインコなど手乗りとしてヒナの時から飼われているものが多い。 ただ鳴くのを聞いたり観察するという目的での飼育から、ケージから出してコミュニケーションを直接とるなどの家族の一員としての飼育へと変化している。ヒナから人間の手によって育てられたこれらの種類は飼い主を親やパートナーとして見ている。
生活を支える動物
先に述べた動物では、生活空間や時間を共有するという事で人間に一定の影響力をもつ訳だが、これとは別に、積極的に人間の生活に関係するよう訓練された種類の動物達を使う場合もある。盲導犬や介護犬・介護猿などは、その訓練の厳しさもあってあまり一般に広く普及しているとは云いがたいが、介助を受ける側にとっては、日常生活に欠かせない伴侶であると共に、自身の身体にも匹敵する存在である。
これらの動物では、訓練によって人間との関係を良好に保つための躾が施されており、一般にペットと目される動物とは、大きな較差が存在する。例えば盲導犬では、食品売り場に連れ込んだとしても、商品に口を付ける等といった無作法を仕出かす心配が無い。またレストラン等では、被介助者の食事が終わるまで、杖やバッグと同じ位におとなしくしている。雑踏の中で不意に誰かに(故意にせよ事故にせよ)足を踏まれても、パニックに陥ったり、噛みかかったりするような事も無い。この点は、ヘタな人間よりは余程節操があるといえる。
このような理由もあり、通常はペット等の同伴を断る食料品店や飲食店等でも、入店を断られる事は無いとされるが、ただ一部には理解不足から、被介助者の生活上で欠かせない存在であるにも関わらず、入店を断られ、結果的にこれら被介助者自身も入店できないケースも発生している。(盲導犬の項を参照)。
コンパニオンアニマルと社会問題
コンパニオンアニマルは飼育者その人にとって、近しい友人と同列に扱われる存在である。しかし人間ではない以上、必ずしも人間の友人と同じ扱いが出来ないケースも見られる。個人が自分の住居内で動物を人間同等に扱うのは個人の自由であるが、社会的にもそれが認められるかは、別の問題である。
人が社会にあって他人に認められるには、他人に不快感を与えないようマナーを弁える必要があるように、コンパニオンアニマルにも、一定の遵守すべきマナーが求められる。
ノーリード問題
近年の日本では、従順で温和な性格の大型犬を飼う事が都市部住民を中心に広まりを見せているが、一部の飼い主には問題行動も見られる。その一例が、ノーリード問題である。リード即ち引き綱は、イヌと飼い主の主従関係を構築する上で、重要な教育道具とみなされるが、健康な人間であっても、綱を持った状態で大型犬に充分に運動させる事は難しい。高齢者の場合は、小型犬の運動量にも対応しがたい場合もある。このためドッグラン等の専用施設内でイヌを十分に走らせるなどして、運動不足を解消する事が勧められている。
だが一部の飼い主には、児童公園など一般利用者のいる場所で引き綱を外してしまうケースも見られる。遊んでいる幼児や児童に大型犬が近付いた場合、子供や親に恐怖心を与える恐れがあり、小型犬であっても動物の扱いに不慣れな児童が噛まれる事故も発生する。これらの事情により、一部の市民公園ではイヌの立ち入りを禁ずる所も出ている。
イヌを正当な理由なく放し飼いする行為は軽犯罪法第1条第12号により処罰される可能性があり、他の人間や動物に損傷を与える原因となった場合、飼い主に賠償責任があるとするのが判例・学説の見解である。
英国のロンドンでは古くより、都市部でイヌを飼う習慣があり、イギリス人のイヌ好きは有名であるが、これらのイヌは充分に躾られ、日本のイヌの散歩に見られる「余所の家のイヌとすれ違うたびに騒ぐ」や、飼い主との主従関係が逆転した「イヌによる人間の散歩」といった問題行動はほとんどない。また公園にはイヌの汚物専用の屑入れも設けられる等、一定の社会的地位を獲得している。市民公園などではイヌと戯れる飼い主や、散歩の合間にベンチに飼い主と並んで休むイヌの姿も見られる。他の公園利用者は、イヌと一定の距離を置く事が出来、日本のように引き綱を外されたイヌが我が物顔に走り回る光景はほとんど見られない。
ホテルと「コンパニオンアニマル(?)」
一部の観光地に於ける宿泊施設では、コンパニオンアニマルの登場により、旅行先にも動物を同伴する人が増えたのを受け、動物同伴を受け入れる所が出始めている。これらでは、利用者は友達である動物とチェックインして、同じ部屋に泊まる事が出来る。またそれら動物が必要とする食事の提供や、専用の入浴施設も用意されるなど、人間と大差ない品質の衛生的で快適なサービスを受けられる等の配慮が成されている。
しかし当初こそ、旅行の同伴に耐えうる躾の行き届いた利用者(人間+動物)が多かったものの、次第に同種施設が口コミ等で広まると、旅行によってストレスを被ってしまう動物を無理に同伴してくる人や、中には旅行できないほど躾の悪い動物を持ち込むケースまで発生した。最悪の場合には、これら連れ込まれた動物がストレスから脱走したり、夜通し吠える・設備内にマーキングを行って汚損する・他の利用者(人間にも動物にも)に迷惑を掛けるという、最早人間の同伴者を含め他の人と同じ様に扱うことの出来ない事態が発生する所まで出てきた。
このため一部の同種サービスを売り物とした宿泊施設が、同サービスを終了する事態に陥る事もあり、他の利用者を落胆させている。
自然公園への立ち入り
コンパニオンアニマルが、人間と旅行する事がある訳だが、この中には登山や自然の景勝がある行楽地へといった自然公園などへの立ち入りが含まれる。自然環境を元来の姿のまま保護している自然公園では、非常に環境の維持に注意を払っている訳だが、その一環として外部からの動物の持込を厳しく制限している。野生生物が生息する環境でもあるため、これらへの悪影響を懸念しての事である。
だが近年、高度な社会性を獲得したコンパニオンアニマルを同伴した人が、これら自然公園への立ち入りを希望するケースが増え、一部ではインターネット上の電子掲示板上でも賛否両論が入り乱れた議論を招いている。
持ち込みに賛同する側からは、環境維持や他の旅行者に配慮して幾つかの条件を設けた上で、それに適合する「コンパニオンアニマル=友達」に、持ち込み許可制を設けてはどうか?とする意見が提出されている。以下に条件として挙げられたものの例を列記する。
- 身体機能が目的地の環境に耐えられる事(心肺機能の衰えた老犬を登山に連れ出したり、気候上で体調を崩す恐れのある動物は不許可など)
- 持ち込みに耐えられる躾が成されており、他の利用者や野生動物の迷惑に成ったり危害を加えないようにされている事
- 公園内ではリードを絶対に外さない(迷子対策や野生動植物へ危害を加えないため)
- 排泄物はその場で回収し全て持ち帰るか、焼却等の適切な処理が可能な施設に持ち込む
- 入場前に検疫を設け、公園外から体に付着した種子や病害虫(住吸血虫や寄生虫を含む)を持ち込ませない
だがたとえコンパニオンアニマルであろうと、立ち入りに反対する向きからは、動物であるために必ずしも人間のように理性的に振舞えない事や、他の「到底、持込を容認できない」種類の動物を持ち込んでしまう困った人々を助長してしまいかねない事、また動物に固有の病原菌や、本来その地域に存在しない植物の種子などを持ち込んで、野生生態系に大きな被害を与える可能性が危惧され、また検疫を設けるにしても、その運営費用を何処に求めるかに関して議論を呼んでいる。
近年では別荘地やキャンプなどの野外生活で連れ込まれたペットが逃走し、野生化して行楽地周辺に被害を与えるケースもあるため、殊更慎重論を招く結果となっている。一部には都市部の生活に適正化されたコンパニオンアニマルを敢えて自然環境に連れ出す行為は、自然を満喫するどころか、逆にそれら動物に負荷を掛けるのではないか?とする議論もある。
ペットロス症候群
テンプレート:Main 上に述べたのは、飼い主のマナーや態度に関する問題だが、これとは別に飼育している動物の死に関連してペットロス症候群と呼ばれる深刻な精神不安定状態を引き起こすことも知られている。
コンパニオンアニマルは飼い主の生活に深く影響している訳だが、人間側の平均寿命の延長や少子高齢化・核家族化や独居老人のように、人間を取り巻く環境の変化にも伴って、飼い主がそれら動物に対して格別の愛着を抱く傾向もあり、いわゆる「家族同然」や「子供や孫のよう」といった側面も見出される。しかし人間側の寿命に比べると、イヌの場合では10歳で老齢に達し、20年生きる個体は少ない・ネコでは15年ほどであるなど、高齢者である飼い主より早く寿命が来てしまうことも珍しくはない。
このため、これら動物との死別によって精神的に苦痛を受けたり参ってしまうなどのケースも見られる。なお余禄ではあるが、こういった「大切な動物との別れ」に対してきちんとした葬儀を行いたいという需要もあり、ペット供養というサービス形態も発生している。しかしそのペット供養において、最後の出費を厭わない飼い主の心情に付け入って食い物にするような悪徳業者も報告されており、こちらも社会問題視されている。
参考文献
- M.ゲング、D.C.ターナー『老後を動物と生きる』みすず書房 2006年
関連項目
- 人間と生活する上で、動物に固有の病気と並んで、これら人にも動物にも感染する病気の予防は重要な問題である。