オーディン
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オーディンは、北欧神話の主神にして戦争と死の神。詩文の神でもあり吟遊詩人のパトロンでもある。魔術に長け、知識に対し非常に貪欲な神であり、自らの目や命を代償に差し出すこともあった。
名称
北欧神話の原典に主に用いられている古ノルド語での表記は Óðinn (再建音: [oːðinː], オージンに近い)であり、オーディンは現代英語などへの転写形である Odin に由来し[注釈 1]、「狂乱」[1]、「激怒」[1]、「激怒する者」に由来する[2]などの説がある。アングロサクソン人に信仰されていた時代の本来の古英語形は Ƿōden (Wōden, ウォーデン) であり、これは現代英語にも Woden, Wodan (ウォウドゥン)として引継がれている。また、ドイツ語では Wotan, Wodan (ヴォータン、ヴォーダン)という。
各地を転々とした逸話があることから、本来は風神、嵐の神(天候神)としての神格を持っていたといわれる[1]。
知恵と計略に長けることからローマ神話のメルクリウスと同一視された。ローマ暦で「メルクリウスの日」にあたる水曜日を「オーディンの日」とし、ゲルマン語派の英語で Wednesday, ドイツ語で Wotanstag (通常はMittwoch), オランダ語で woensdag, デンマーク語、ノルウェー語、スウェーデン語で onsdag と呼ぶのはこれに由来する[3]。
神話
ユグドラシルの根元にあるミーミルの泉の水を飲むことで知恵を身に付け、魔術を会得する。片目はその時の代償として失ったとされる。
また、オーディンはルーン文字の秘密を得るために、ユグドラシルの木で首を吊り、グングニルに突き刺されたまま、九日九夜、自分を最高神オーディンに捧げたという(つまり自分自身に捧げた)。この時は縄が切れて助かった。この逸話にちなんで、オーディンに捧げる犠牲は首に縄をかけて木に吊るし槍で貫く。なお、タロットカードの大アルカナ XII 「吊された男」は、このときのオーディンを描いたものだという解釈がある。
神々の世界アースガルズにあるヴァーラスキャールヴに住み、フリズスキャールヴに座り、世界を見渡している。
グラズヘイムにあるヴァルハラに、ワルキューレによってエインヘリャル(戦死した勇者)を集め、ラグナロクに備え大規模な演習を毎日行わせるという。この演習では敗れた者も日没とともに再び蘇り、夜は大宴会を開き、翌日にはまた演習を行うことができるとされる。
愛馬は八本足のスレイプニール。フギン(=思考)、ムニン(=記憶)という二羽のワタリガラスを世界中に飛ばし、二羽が持ち帰るさまざまな情報を得ているという。また、足元にはゲリとフレキ(貪欲なもの[4])という二匹の狼がおり、オーディンは自分の食事はこれらの狼にやって自分は葡萄酒だけを飲んで生きているという。
主に長い髭をたくわえ、つばの広い帽子を目深に被りテンプレート:Refnest、黒いローブを着た老人として描かれる[5]。戦場においては黄金の兜を被り[6]、青いマントを羽織って[7]黄金の鎧を着た姿で表される[8]。
また、トールと口論した渡し守ハールバルズの正体は変装したオーディンである。ゲイルロズ王の城を訪ねて炎の中に座らされたグリームニルもオーディンの別の姿であった。
霜の巨人のスットゥングが隠匿していた詩の蜜酒を略奪するため策略をこらした。オーディンは、蛇に変身して蜜酒のある場所へ侵入し、蜜酒の番をしていたスットゥングの娘グンロズの前で美青年の姿になって三夜を共にした後、彼女から三口分の蜜酒を飲ませてもらった。しかしオーディンはその三口で蜜酒の三つの容器を空にすると、素早く鷲に変身してアースガルズへ戻った。蜜酒は詩の才能のある人間たちにオーディンによって与えられることとなった。
最後はラグナロクにて、ロキの息子であるフェンリルによって飲み込まれる(または噛み殺される)結末を迎える。
エッダ詩「ハーヴァマール」
古ノルド語で書かれた歌謡集(詩群)である古エッダに収録されている型式の詩で、「ハーヴァマール (Hávamál, または高き者の言葉)」は別名『オーディンの箴言』と和訳されている。
『デンマーク人の事績』
サクソ・グラマティクスが記した歴史書『デンマーク人の事績』第三の書ではオーティヌス[9](またはオティヌス[10])として登場する。息子のバルデルス(バルドル)をホテルス(ヘズ)に殺され、その敵を討つ子供をもうける為に半ば強引な手段を使ってルテニ王の娘リンダ(リンド)と交わるが、それが原因で王位を追われた。しかし、後に賄賂によって復権した[11]。
系譜
オーディンは半巨人的な存在である ボルと女巨人のベストラの間に生まれた。
兄弟にヴィリとヴェー[12]1がおり、彼ら兄弟は三人で原始の巨人ユミルを殺し、世界を創造した[13][14]。
妻はフリッグで、彼女との間にバルドルがいるが、オーディンは女巨人との間にも子を成した。
娘のヨルズ[15]との間にトール、グリーズとの間にヴィーザル、リンドとの間にヴァーリがいる。他に母親は未詳であるがホズ、ヘルモーズ、ブラギ、ヘイムダルも彼の息子とされている[16]。
- 『巫女の予言』では兄弟はヘーニルとローズルとされている[17]。
オーディンの呼称
オーディンは多くの呼び名(ケニング)を持っている。 その呼び名としては、以下のものが挙げられる。
- 全知全能の神
- 詩の神
- 戦神
- 魔術と狡知の神
- 死と霊感の神
- 万物の神(アルフォズル)
- 戦死者の父(ヴァルファズル)
- 偉大で崇高な神(フィムブチュール)
- 叫ぶ者(フロプト)
- 語る者(フロプト)
- 高き者(ハーヴィ)
- 禍を引きおこす者(ベルヴェルク)
- 知恵者
- フロプタチュール
- 軍勢の父
- 恐ろしき者(ユッグ)
- 勝利を決める者(ガグンラーズ)
- 仮面をかぶる者(グリームニル)
- 人間の神(ヴェラチュール)
- 兜をかぶれるもの(グリーム)
- 旅路に疲れたもの(ガングレリ)
- 兜をつけたもの(ヒァームベリ)
- 第三のもの(スリジ)
- わきかえるもの・海?(スンド)
- 波(ウズ)
- 戦士の目をくらますもの(ヘルブリンディ)
- 片眼のもの(ハール)
- 真実のもの(サズ)
- 姿を変えるもの(スヴィパル)
- 真実をおしはかるもの(サンゲタル)
- 軍勢の名で快く感じるもの(ヘルテイト)
- 突くもの(フニカル)
- 突くもの(フニクズル)
- 片眼を欠くもの(ビレイグ)
- 焔の眼をせるもの(バーレイグ)
- (蜜酒を)隠すもの、守るもの(フィヨルニル)
- 誘惑に長じたもの(グラプスヴィズ)
- 途方もなく賢いもの(フィヨルスヴィズ)
- 眼深に帽子をかぶったもの(シーズヘト)
- 長髯の者(シーズスケッグ)
- 戦の父(シグフェズル)
- 馬にのって突進するもの(アトリーズ)
- 船荷の神(ファルマチュール)
- 顔をかえることのできるもの(イヤールク)
- 船人(キャラル)(橇を引くときは)
- 促進者(スロール)(民会のときは)
- 滅ぼす者(ヴィズル)(戦では)
- 望むもの(オースキ)(神々のところでは)
- 最高のもの(オーミ)(神々のところでは)
- 同じように高きもの(ヤヴンハール)(神々のところでは)
- 盾をふりまわすもの(ビヴリンディ)(神々のところでは)
- 魔法の心得あるもの(ゲンドリル)(神々のところでは)
- 槍をもつもの(スヴィズル)
- 槍をもつもの(スヴィズニル)
- 目覚めたるもの(ヴァク)
- 高座につくもの(スキルヴィング)
- さすらうもの(ヴァーヴズ)
- 生贄に決められたもの(ガウト)
- 灰色の髯(神々のところでは)
- 灰色の鬚(ハールバルズ)(渡守に身を変えたオーディン)
- 戦の狼(ヒルドールヴ)
- ヴィズリル
- 勝利の父
- シーズグラニ
- 万物の父(アルファズル)
- 盲目(ブリンド)
- フリニカル
- 分捕品をつくる者(フェング)
- 攻撃者
- 疾駆する者
- 試す者
- 片眼の英雄(ハール)
- 知を欲す者
脚注
注釈
出典
関連項目
参考文献
- サクソ・グラマティクス『デンマーク人の事績』谷口幸男訳、東海大学出版会、1993年、ISBN 978-4-486-01224-5。
- 佐藤俊之とF.E.A.R.『聖剣伝説』新紀元社〈Truth in Fantasy 30〉、1997年、ISBN 4-88317-302-X。
- 菅原邦城『北欧神話』東京書籍、1984年、ISBN 978-4-487-75047-4。
- 健部伸明と怪兵隊『虚空の神々』新紀元社〈Truth in Fantasy 6〉、1990年、ISBN 978-4-915146-24-4。
- テンプレート:Cite book - アイスランド・レイキャビクの出版社Guđrun Publishingによる和訳。
- V.G.ネッケル他編 『エッダ 古代北欧歌謡集』谷口幸男訳、新潮社、1973年、ISBN 978-4-10-313701-6。
- ライナー・テッツナー(手嶋竹司 訳)『ゲルマン神話(上)神々の時代』青土社、1998年、ISBN 4-7917-5673-8。
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タグがありません- ↑ 1.0 1.1 1.2 『虚空の神々』215頁。
- ↑ 菅原、p.85。
- ↑ 菅原、p.85。
- ↑ 『エッダ 古代北欧歌謡集』59頁。
- ↑ 『聖剣伝説』18頁。
- ↑ 『ゲルマン神話(上)』282頁。
- ↑ 『ゲルマン神話(上)』18頁。
- ↑ 『虚空の神々』213頁。
- ↑ 『北欧神話』(菅原)で確認できる表記。
- ↑ 『デンマーク人の事績』(谷口)33頁で確認できる表記。
- ↑ 『デンマーク人の事績』105-108頁。
- ↑ 『エッダ 古代北欧歌謡集』p.229(「ギュルヴィたぶらかし」6章)
- ↑ 『エッダ 古代北欧歌謡集』p.9(「巫女の予言」4節)
- ↑ 『エッダ 古代北欧歌謡集』p.229(「ギュルヴィたぶらかし」7章)
- ↑ 『エッダ 古代北欧歌謡集』p.231(「ギュルヴィたぶらかし」9章)
- ↑ 菅原、p.124。
- ↑ 『エッダ 古代北欧歌謡集』p.239-240(「巫女の予言」18節)