柳下毅一郎
柳下 毅一郎(やなした きいちろう、1963年12月30日 - )は日本の翻訳家、映画評論家、殺人研究家。自称「特殊翻訳家」(後述)。多摩美術大学造形表現学部映像演劇学科非常勤講師(映像芸術論)。
経歴・人物
大阪府生まれ。甲陽学院中学校・高等学校から東京大学理科一類を経て工学部建築学科卒業。東京大学在学中は、山形浩生とともに、「東京大学SF研究会」に属し、共同でウィリアム・バロウズについての研究ファンジン「バロウズ本」を作成した。卒業後、宝島社に勤務し雑誌『宝島』等の編集者をへて、フリーに。映画評論コンビの町山智浩とは、『宝島』編集部時代の同僚であった。
「ガース柳下」や「曲守彦」の筆名を使うこともある。ただし「曲守彦」は、宝島社勤務時代に使った名前で、現在は使用されない。
町山智浩と共に仕事をするときは「ガース柳下」「ウェイン町山」の「ファビュラス・バーカー・ボーイズ」を名乗ることが多い。なお、ウェイン、ガースは『ウェインズ・ワールド』のボンクラ・コンビの名前。「ファビュラス・バーカー・ボーイズ」は映画『ファビュラス・ベイカー・ボーイズ』のもじりである。
「特殊翻訳家」の謂いは、普通の翻訳家が手を出さない特殊な文献・文学作品を好んで翻訳することからで、「特殊漫画家」と自称した根本敬から影響を受けた自称である。
連続殺人、猟奇殺人、映画、海外SF及びそれに隣接する海外前衛文学(コミック含む)等に造詣が深く、各分野で評論・エッセイ執筆、翻訳を行っている。最愛の作家は、ともに異端のSF作家である、J・G・バラードとR・A・ラファティ。
映画評論家としての仕事は、町山が創刊した雑誌『映画秘宝』を中心に活動しており、ピンク映画やドキュメンタリー映画など一般の評論家がみない映画を積極的に観て評論する一方、邦画・洋画問わず「駄目な大作映画」も見て「どこがどのように駄目か」具体的に指摘するなどしている。また、著書『興行師たちの映画史』では、「見世物」としての映画を、製作する側の「見世物師としての映画作家たち(=興行師)」の側から論じている。
上記の批評姿勢から、自主制作した映画を全国でゲリラ的に自主上映している渡辺文樹を擁護し、彼の作品を追いかけている。2008年のカナザワ映画祭では、やはり自主制作作品を独自の上映方法で公開しているクリスピン・グローヴァーの作品の翻訳等を行った。
また、サッカー愛好家でもあり、サイモン・クーパーをはじめ、サッカーについて政治的に論じた書の翻訳も行っている他、ヨコハマ・フットボール映画祭の審査委員長もつとめる。
著書
- 『世界殺人鬼百選/Ultimate Murder File』ぶんか社、1996年9月。(ガース柳下名義)
- 『世界殺人ツアー 殺人現場の誘惑』原書房、1998年2月。→文庫化にあたって改題 『殺人マニア宣言』ちくま文庫、2003年9月。
- 『愛は死より冷たい 映画嫌いのための映画の本』洋泉社、1998年9月。
- 『シー・ユー・ネクスト・サタデイ 完全収録 『激殺!映画ザンマイ』』ぴあ、2003年10月。
- 『興行師たちの映画史 エクスプロイテーション・フィルム全史』青土社、2003年12月。
- 『シネマ・ハント ハリウッドがつまらなくなった101の理由』エスクァイアマガジンジャパン 2007年12月。
- 『新世紀読書大全 書評1990-2010』洋泉社、2012年8月
共著
- 『ファビュラス・バーカー・ボーイズの地獄のアメリカ観光』洋泉社、1999年1月。(町山智浩と共著)
- 『コンプリート・チャールズ・マンソン チャールズ・マンソンとシャロン・テート殺人事件』コアマガジン、1999年10月。(共著)
- 『ファビュラス・バーカー・ボーイズの映画欠席裁判』1-3 洋泉社、2002-07(町山智浩と共著) - 3冊からセレクトして『ベスト・オブ・映画欠席裁判』文春文庫
- 『バッド・ムービー・アミーゴスの日本映画最終戦争 邦画バブル死闘編〈2007‐2008年版〉』洋泉社、2009年3月。(江戸木純、クマちゃんと共著)
- 『日本映画空振り大三振 〜くたばれ!ROOKIES』洋泉社、2010年6月。(江戸木純、クマちゃんと共著)
編書
- 『ティム・バートン 期待の映像作家シリーズ』 キネマ旬報社、2000年3月。
- 『実録殺人映画ロードマップ』 洋泉社、2004年4月。
監修書
- 『実録殺人映画ロ-ドマップ』洋泉社、2004年4月。
- 『実録!マーダー・ウォッチャー 2005 summer issue』洋泉社、2005年7月。
- 『女優・林由美香』洋泉社、2006年10月。(編集は、直井卓俊、林田義行)
- 『凶悪犯罪の歴史』ぶんか社文庫 2008年2月。
- 『Murder Watcher 明治・大正・昭和・平成 実録殺人事件がわかる本』洋泉社、2008年6月。
- 『Murder Watcher 実録 この殺人はすごい!』洋泉社、2008年12月。
- 『Murder Watcher 殺人大パニック!!』洋泉社、2009年4月。
- 『実録殺人事件がわかる本 2010 spring マーダー・ウォッチャー vol.6』 洋泉社、2010年2月。
編訳書
- ジョン・スラデック『蒸気駆動の少年』河出書房新社 2008年2月。(大森望らと共訳)
- ロバート・クラム『ロバート・クラムBEST―Robert Crumb's troubles with women』河出書房新社、2002年7月。
訳書
- ウィリアム・S・バロウズ『おかま』ペヨトル工房、1988年。(山形浩生と共訳)
- ウィリアム・S・バロウズ『ソフトマシーン』ペヨトル工房 1989年8月。(山形浩生と共訳、のち河出文庫)
- J・G・バラード『クラッシュ』ペヨトル工房、1992年。(のち、創元SF文庫)
- フランク・リシャンドロ『ジム・モリスン/幻の世界』JICC出版局、1992年4月。
- モリッシー/ジョン・ロバートスン『クイーン・イズ・デッド モリッシー発言集』JICC出版局、1992年9月。
- ジョン・スラデック『遊星よりの昆虫軍X』ハヤカワ文庫、1992年12月。
- ウィリアム・S・バロウズ『おぼえていないときもある』ペヨトル工房、1993年。(浅倉久志ほかと共訳)
- ジョン・レチー『ラッシュ』白夜書房、1993年5月。
- ジェームス・ヤング『ニコ ラスト・ボヘミアン』宝島社、1993年5月。
- ギデオン・サムズ『ザ・パンク』 PSC、1994年12月。
- デヴィッド・ブレスキン『インナーヴューズ 映画作家は語る』大栄出版、1994年12月。
- ハロルド・シェクター『オリジナル・サイコ 異常殺人者エド・ゲインの素顔』ハヤカワ文庫、1995年2月。
- ブルース・ワグナー『バド・ウィギンズ氏のおかしな人生(上・下)』扶桑社文庫、1995年9月。
- ルベン・マルティネス『すべてのリズムで踊れ LAラティーノの鳴動』白水社、1996年2月。
- キャサリン・ダン『異形の愛』ペヨトル工房、1996年7月。
- J・C・ハーツ『インターネット中毒者の告白』草思社、1996年11月。(大森望と共訳)
- オリヴァー・サイリャックス『世界犯罪百科全書』原書房、1996年12月。
- ジョン・ウォーターズ『ジョン・ウォーターズの悪趣味映画作法』青土社、1997年10月。
- マイケル・マッカラーズ『オースティン・パワーズ』青山出版社、1998年5月。
- ブライアン・マスターズ『ジェフリー・ダーマー死体しか愛せなかった男』原書房、1999年3月。
- デレク・A・スミシー『コリン・マッケンジー物語』パンドラ、1999年10月。
- クリストファー・プリースト『イグジステンズ』竹書房文庫、2000年4月。
- サイモン・クーパー『サッカーの敵』白水社、2001年3月。
- ニール・ゲイマン『ネバーウェア』インターブックス、2001年7月。
- ジェームズ・エリソン『パニック・ルーム』ヴィレッジブックス、2002年3月。
- R.v.クラフト=エビング著『クラフト=エビング変態性慾ノ心理』原書房、2002年7月。
- R・A・ラファティ『地球礁』河出書房新社、2002年10月。
- フィリップ・ゴーレイヴィッチ『ジェノサイドの丘 ルワンダ虐殺の隠された真実(上・下)』WAVE出版、2003年6月。
- スティーヴン・ピジック『アイデンティティー』ヴィレッジブックス、2003年10月。
- ウィリアム・S・バロウズ『ソフトマシーン』河出文庫、2004年6月。(山形浩生と共訳)
- ジョン・ウォーターズ『ジョン・ウォーターズの悪趣味映画作法』青土社、2004年6月。
- ジーン・ウルフ『ケルベロス第五の首』国書刊行会、2004年7月。
- サイモン・クーパー『アヤックスの戦争 第二次世界大戦と欧州サッカー』白水社、2005年2月。
- デニス・オニール『バットマンビギンズ』SB文庫、2005年6月。
- シオドア・スタージョン『輝く断片』河出書房新社、2005年6月。(大森望編、大森望、伊藤典夫と共訳)
- R・A・ラファティ『宇宙舟歌』国書刊行会、2005年10月。
- ジーン・ウルフ『デス博士の島その他の物語』国書刊行会、2006年2月。(浅倉久志、伊藤典夫と共訳)
- マット・ウェイランド、ショーン・ウィルシー編『世界の作家32人によるワールドカップ教室』 白水社、2006年5月。(越川芳明と共監訳)
- ブライアン・オールディス『ブラザーズ・オブ・ザ・ヘッド』河出文庫 2007年1月。
- アラン・ムーア/エディ・キャンベル『フロム・ヘル』上下 みすず書房 2009年11月
DVD
- 『20世紀の冷酷犯罪史 4枚組BOX』監修・解説、ア-ティストハウスエンタテインメント 2007年4月
外部リンク
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