山車
山車(だし)は、日本で祭礼の際に引いたり担いだりする出し物の総称。花や人形などで豪華な装飾が施されていることが多い。地方によって呼称や形式が異なり、曳山(ひきやま)・祭屋台(まつりやたい、単に屋台とも)などとも称される。神幸祭などの行事では、この山車が町の中をねり歩き行列となることもある。
厳密に言うと、山の形状を模したり、上に木を立てて山の象徴としたものを「山」。それらがないものが「屋台」と分類される。ただし、実際は祭礼ごとに形状に関係なく、名称がどちらかに統一されている場合が多い。
目次
山車の別名
地方によって様々な呼ばれ方をする。
- 山のつくもの
- 車のつくもの(上記を除く)
- 笠のつくもの(上記を除く)
- 台のつくもの
山車(だし)の語源は、神殿や境内の外に出す出し物であるからとする説と依り代である髯籠(ひげこ)を出していたからだとする説などがある。山車は「出し物」全般を指すが、車の字がついていることから曳き山を指すことが多い。
山(山車の原型)
山(やま)は自然の山岳を模して造られた依り代で、祭礼などで用いられる。山車の原型。
古来の民間信仰では、神は山岳や山頂の岩や木を依り代として天から降臨するという考えがあり、山上や山麓に斎場を設け祭祀が行われていた。これらは山岳信仰として、或いは山岳を神体とする神社として残っている。代表的な例では大神神社(三輪山)などがあり、小さな神社でも山麓にあるものは山頂に磐座や神木を持つことが多い。
村落が発達すると平野部においても祭祀が行われるようになり、臨時の斎場が設けられた。このときにも降臨を仰ぐために依り代を立てており、これが恒久化して現在の神社のような施設ができる。この依り代の1つに、山岳を模して造られた山(やま、造り山・飾り山)がある。恒久的である神殿内部の依り代と並行して、この山は神の降臨を表現する、或いは、再確認する臨時の依り代として祭礼などで用いられるようになる。
記録に残っている最初の山は『古事記』の垂仁天皇の条にある「青葉山」で、出雲国造の祖である岐比佐都美が葦原色男(大国主)を祀る庭として青葉で飾った山を造ったとある。体形的な祭礼の物では、『続日本後紀』天長10年(833年)11月戌申条、仁明天皇の大嘗会に曳きたてられた「標山(しるしのやま・ひょうのやま・しめやま)」がある。標山には移動神座のような役割があり、山車の原型であるといわれている。大嘗会には中断された時期があり、このときに標山は廃止されたようである。
民間の祭礼にも同じようなものが登場し、形態は山との関連と運行形態から一時的に祭壇のような築山を設ける「置き山」、引く形式の「曳き山」、担ぐ形式の「舁き山」などと呼ばれ、また「だし」とも呼ばれるが、その漢字には山車が使われた。現在の祭礼では、巡行されない置き山は数が少なく、巡行される山車がほとんどである。
本来の意味の残る希有な例として、栃木県那須烏山市の「烏山の山あげ行事」(通称「山あげ祭」、国の重要無形文化財)がある。この祭では元来築山を街に作り奉納していたが、経済の隆盛とともに地元特産の和紙(程村紙)を使って木材と竹で作った枠に貼付け「山をあげる」ようになった。その大きさは最大で幅は道幅一杯の7m、高さは10m以上に及ぶ。現在は奥行き100mに渡って複数の「山」と舞台装置を組み合わせ、余興(所作狂言、神楽など)が奉納されている。また、これらの「山」は他所の曳山などと同様、町中を巡行する。全て手作りの幅7m、高さ10m以上、奥行き100mの山と舞台装置一式を毎回組み立てて、余興を催し、解体、移動を一日最大6回、3日間の祭礼で最大16回に渡ってくり返し、移動総延長は20kmにも及ぶ。6町年番制で町ごとに山を含む舞台装置は全て異なるが、全ての「山」には滝が描かれ、全ての町にあまねく山の恵みが行き渡るように、との願いが込められている。古くは祭りのたびに山を焼き、灰を縁起物として配っていた。
富山県 射水市の放生津八幡宮と高岡市の二上射水神社では古代信仰の形態である築山行事が現在も行われている。放生津八幡宮祭礼曳山ならびに御車山は、この築山行事の形態を移動できるように発展させたものと考えられており、起源はよくわかっていないが、放生津八幡宮の築山神事は江戸時代初期より行われていたことが、享保6年(1721年)の東八幡宮記録や築山古老伝記に記録されている。
放生津八幡宮では大きな松の木、二上射水神社では大きな3本の杉の木の前に臨時の築山(祭壇)を設置し神様を迎え入れる。どちらの築山も祭壇が2段になっており、下段には共にそれぞれ面をつけた仏門守護の四天王(持国天・増長天・広目天・多聞天)を配し、上段中央には共に唐破風屋根の神殿(祠)の上に、放生津八幡宮は鬼女(狂女)の面に白髪を振り乱し、金襴の内掛けを着た姥神(オンババともいわれる)を、二上射水神社は斧を振り上げた天狗を祀り神事を行う。なおいずれの築山神事も神事が終わるとそれぞれの神が暴れるとされるため、築山は大急ぎで解体される。
なおこの行事は能登にある石動山(せきどうざん)の伊須流岐比古(いするぎひこ)神社でも行われていたが明治期に廃絶、富山県でも放生津八幡宮と1956年(昭和31年)より復活した二上射水神社で行われているだけであり、いずれも1982年(昭和57年)1月18日に富山県の無形民俗文化財に指定されている全国的にも珍しい行事である。
山車
山車には、曳き山、舁き山などが含まれ、読みの意味から考えると山(置き山)なども含まれる。最も一般的なものは車輪の付いた曳き山で、その他にはかき棒のついた舁き山などがある。呼称は冒頭であげたようなものがあるが、同じものでも地域によって呼称が異なっていたり、異なったものに同じ呼称が用いられていることもあり、非常に複雑である。
山車は風流として練りだされたものが増え、全国各地で様々なものが存在する。依り代としての役割が薄れたものが多いが、稚児や人形が乗っていたり、依り代として用いられるものが装飾に施されているなどの名残がある。
曳き山(ひきやま)
曳き山の山車の中には非常に凝ったからくりを持つものもあり、また大きさも普通の神輿サイズからその10倍以上の大きさ(重量で数トン程度)のものまで様々である。中でも、石川県七尾市の青柏祭の曳山(でか山)は重量約20トンであり、日本最大とされる。大きな物が生まれた理由として、引くという形式から巨大なものが運行可能であるということ、依り代としてより目立つ背の高いものが用いられた名残、氏子同士の風流としての競い合いの結果などがあげられる。
台車の形状は地域や地区によって、車輪が台車の内についているものや外についているもの、車輪が木製のものや金属製のもの、車輪の大きさ、台車本体の木材の組み方などの違いがあり、数多くの種類がある。
車輪の数としては四輪が一般的であり、それに補助の車輪がついているものもある。ほかには滋賀県大津市の大津祭での曳山や三重県北部の石取祭に使われる山車が三輪であり、静岡県森町から磐田市にかけての遠州中東部で引き回される二輪屋台、浜崎祇園山笠のように六輪あるものもある。また、それに伴って運行方法、運行形態も異なるものになっている。小城祇園においては、旧来は車輪がついていない山の下に丸太を次々に敷き挽いて運行するという珍しいものだったが、現在は普通に車輪のついた曳き山となっている。
多くの場合、山車は人力で引いて動かすが、中にはエンジンやハンドルがついており自動車のように運転できるものもある。
重要有形民俗文化財に指定された山車
現在も日本全国で行われている祭礼(行事)のうち、5件の祭礼で使用されている山車計66基が重要有形民俗文化財に指定されており、これらを曳き出すいずれの祭礼は重要無形民俗文化財の指定も受けている(同指定を受けている祭礼については後節も参照)。なお、以下には山車と呼称しないものも含む。
その他
伊勢神宮では、神嘗祭の時期に行われる「初穂曳き」や式年遷宮に関連して行われる「お木曳き」、「お白石曳き」などの行事の際に山車が使用されるが、これらの祭祀は厳粛に執り行われる祀りであって、一般的な祭り(山車祭り)とは異なる。
山車祭り
山車が使用される主な祭行事一覧
※太字は日本三大曳山祭(後節も参照)、なお以下には山車と呼称しない祭も含む
- 東北地方
- ねぶた - 青森県
- 八戸三社大祭 - 青森県
- 田名部まつり - 青森県
- 五所川原立佞武多 - 青森県
- 角館のお祭り - 秋田県
- 土崎神明社祭の曳山行事 - 秋田県
- 花輪ばやし - 秋田県
- 盛岡秋まつり - 岩手県
- 日高火防祭 - 岩手県
- 新庄まつり - 山形県
- 連山車(福島稲荷神社例大祭に伴う) - 福島県
- 二本松提灯祭り - 福島県
- 会津田島祇園祭 - 福島県
- 関東地方
- 常陸國總社宮大祭 - 茨城県
- 潮来祇園祭礼 - 茨城県
- 日立風流物(春の日立さくらまつりで披露) - 茨城県
- とちぎ秋まつり - 栃木県
- 山あげ祭(山(山車の原型))- 栃木県
- 川越まつり - 埼玉県
- 秩父夜祭 - 埼玉県
- 熊谷うちわ祭 - 埼玉県
- 久喜の提灯祭り・天王様 - 埼玉県
- 佐原の大祭 - 千葉県
- 成田祇園祭 - 千葉県
- くらやみ祭 - 東京都
- 八王子まつり - 東京都
- 青梅大祭 - 東京都
- 鵠沼皇大神宮例大祭 - 神奈川県
- 天王祭 - 神奈川県
- 中部地方
- 上越まつり - 新潟県
- 村上大祭 - 新潟県
- 瀬波大祭 - 新潟県
- 岩船大祭 - 新潟県
- 放生津(新湊)曳山祭 - 富山県
- 高岡御車山祭 - 富山県
- 城端曳山祭 - 富山県
- たてもん祭り - 富山県
- 福野夜高祭 - 富山県
- 越中八尾曳山祭 - 富山県
- 出町子供歌舞伎曳山祭 - 富山県
- 伏木曳山祭り - 富山県
- 青柏祭 - 石川県
- お旅まつり - 石川県
- あばれ祭り - 石川県
- 飯田燈籠山祭り - 石川県
- おかえり祭り - 石川県
- 三国祭 - 福井県
- お船祭り - 長野県
- 高山祭 - 岐阜県
- 古川祭 - 岐阜県
- 揖斐祭 - 岐阜県
- 大垣祭 - 岐阜県
- 垂井曳山祭 - 岐阜県
- 竹鼻祭り - 岐阜県
- 藤枝大祭 - 静岡県
- 金谷茶まつり - 静岡県
- 事任八幡宮例大祭 - 静岡県
- 掛川祭 - 静岡県
- 遠州横須賀三熊野神社大祭 - 静岡県
- 八坂神社祇園祭 - 静岡県
- 山梨祇園祭 - 静岡県
- 飯田山名神社天王祭 - 静岡県
- 袋井祭 - 静岡県
- 森の祭り - 静岡県
- 掛塚貴船神社祭礼 - 静岡県
- 浜松まつり - 静岡県
- 尾張津島天王祭(川祭り) - 愛知県
- 大野祭り - 愛知県
- 亀崎潮干祭 - 愛知県
- 足助八幡宮例大祭 - 愛知県
- 西枇杷島まつり - 愛知県
- 犬山祭 - 愛知県
- 筒井町出来町天王祭 - 愛知県
- はんだ山車まつり - 愛知県
- 知立まつり - 愛知県
- 挙母祭り - 愛知県
- 須成祭 - 愛知県
- 近畿地方
- 石取祭 - 三重県
- 四日市祭 - 三重県
- 上野天神祭 - 三重県
- 鳥出神社の鯨船行事 - 三重県
- 長浜曳山祭 - 滋賀県
- 大津祭 - 滋賀県
- 祇園祭 - 京都府
- 亀岡祭 - 京都府
- 岸和田だんじり祭 - 大阪府
- 田辺祭 - 和歌山県
- 灘のけんか祭り - 兵庫県
- 中国地方
- 四国地方
- 九州地方
重要無形民俗文化財に指定された山車祭り
現在も日本全国で行われている祭礼のうち、国の重要無形民俗文化財に指定されている山車祭り(ここでは山車をメインに据えた祭を指す、なお山車と呼称しないものも含む)は以下の33件ある。また祇園祭と日立風流物の2件は、ユネスコの無形文化遺産に2009年(平成21年)に登録されているが、文化庁は上記2件を含む重要無形民俗文化財に指定されている32件(会津田島祇園祭を除く)の山車祭りを一括して「山・鉾・屋台」行事として2015年の登録を目指し提案することを2014年(平成26年)3月13日に発表し[2]、同年3月27日正式に提案の決定、登録の可否は最短で2015年秋頃の予定だったが[3]、6月4日に登録を行ったところ、各国より61件もの登録が寄せられたため、登録審査は2016年の秋頃になるとユネスコより連絡を受けた[4]。
- 東北地方
- 関東地方
- 日立風流物
- 烏山の山あげ行事
- 鹿沼今宮神社祭の屋台行事
- 秩父祭の屋台行事と神楽
- 川越氷川祭の山車行事
- 佐原の山車行事
- 中部地方
- 高岡御車山祭の御車山行事
- 城端神明宮祭の曳山行事
- 魚津のタテモン行事
- 青柏祭の曳山行事
- 高山祭の屋台行事
- 古川祭の起し太鼓・屋台行事
- 尾張津島天王祭の車楽舟行事
- 犬山祭の車山行事
- 亀崎潮干祭の山車行事
- 知立の山車文楽とからくり
- 須成祭の車楽船行事と神葭(みよし)流し
- 近畿地方
- 九州地方
三大曳山祭と三大山車祭
以下のうち、祇園祭と高山祭は共通である。
- 三大曳山祭(三大美祭)
- 三大山車祭
- 祇園祭
- 高山祭
- 長浜曳山祭(滋賀県長浜市)
ギャラリー
- Dekayama sanno.jpg
七尾市青柏祭の曳山(でか山)
- Tonamiyotaka.jpg
砺波夜高祭りの山車は傘鉾の上部に位置する行燈、行燈山車のぶつけ合い
- OTABI MATSURI FESTIVAL KOMATSU 001.JPG
小松市お旅まつりの曳山、子供歌舞伎上演の舞台ともなる
- 2rin-yatai-kakegawa.jpg
二輪屋台の例:掛川型、前後左右に激しく動かすことが可能
- IshidoriNishiyada.JPG
石取祭の祭車(桑名祭車)は三輪
- Hamasaki gion yamakasa night.jpg
浜崎祇園山笠の台車は六輪
- DANJIRI2.jpg
2003年10月、大阪市今津比枝神社秋祭りでの徳庵駅前だんじり競演
- Saijou danjiri .JPG
愛媛県西条市の楽車(舁き山車)(2005年5月、香川県高松市のイベント参加会場)
- DANJIRI1.jpg
子供みこしで使われる山車(神輿の台輪より下側の部分)(2004年7月、大阪市今津比枝神社夏祭りの巡行)
- Hachioji-matsuri (Dashi-kamichiku-hachiman-otsujiawase) 2.jpg
八王子まつりの山車
- Hanawabayashi 2012.JPG
花輪ばやしの屋台
- 飯田町燈籠山祭り3.jpg
飯田燈籠山祭り、燈籠山人形が飾られている高さ約16m・重さ約5トンの山車(燈籠山)が見所
- Senami-hamamati-2.jpg
越後村上市の瀬波大祭、浜町の山車
日本国外の事象
脚註
参考文献
- 新湊の曳山(新湊市教育委員会)昭和56年10月発行
- 高岡御車山(高岡市教育委員会)平成12年3月31日発行