関数電卓
関数電卓は、科学・工学・数学などに関わる計算向けに設計された電卓である。従来計算尺を使っていた用途で広く使われており、教育分野でもよく使われている。様々な関数の数値計算が可能なためこのように呼ばれるが、英語では scientific calculator と表記される。
欧米の高等教育分野ではテンプレート:仮リンクに取って代わられている。グラフ電卓は関数電卓およびプログラム電卓としての機能を備え、さらに入力データなどに基づいてグラフ(統計図表、関数のグラフ)を描画できる。関数電卓は金融市場向けの電卓ともオーバーラップする部分がある。
主なメーカーとしては、ヒューレット・パッカード、テキサス・インスツルメンツ、カシオ計算機、シャープ、キヤノンがある。
機能
関数電卓は、四則演算や百分率しか計算できない電卓に比べて多数の関数を備えている。
関数の追加以外に、基本的な方式の違いとして、
- 内部の数値が浮動小数点方式であり、絶対値が極端な値は指数表記される
- 加減算と乗除算が、普通の電卓のように入力順で計算されるのではなく、先に入力された加減算より後から入力した乗除算が優先される
- 優先順位を指定するためのカッコを入力できる
といった、一般の電卓と異なる点がある(逆ポーランド記法の場合は異なる)。
搭載している機能はメーカーや機種によって異なるが、以下のような機能および関数は多くの関数電卓が備えている。
さらに上位機種では以下のような機能も備えている。
- 二進法、八進法、十六進法による計算。基本的なブール演算
- 複素数
- 分数や方程式を表記通りに計算
- 統計計算と確率計算
- 微積分
- 単位の換算
- 物理定数や数学定数の呼び出し
- 行列の計算
- プログラム可能 - プログラム電卓を参照
元々は普通の電卓と同様に1行の表示しかできず、せいぜい10桁から12桁の表示だったが、中には浮動小数点表示のために指数専用の桁を持つものもあった。その後複数行表示が可能なものが登場し、グラフ電卓のようにドットマトリクスディスプレイで数学記号などを自然な形で表示するものが登場した。
用途
何らかの数学関数を素早く計算したい場合に広く使われている。例えば三角関数は数表を参照して、手計算あるいは機械式計算機に入力し計算していたが、関数電卓によって素早く計算できるようになった。また、天文学、物理学、化学などでは非常に広範囲の数値を扱うことがあり、浮動小数点数を扱える関数電卓が使われている。
中学校から大学レベルまでの数学の教育現場でもよく使われており、理系の試験では関数電卓の持ち込みが許可されていることも多い。このため特に欧米では教育市場向けに多く販売されており、上位機種には演算子の優先順位を考慮してテキストなどにある数式をそのまま入力して計算可能なものもある。
歴史
上述の基本的機能を全て備えた最初の関数電卓はヒューレット・パッカード (HP) のテンプレート:仮リンク (1968) である[1]。ただし Wang LOCI-2 や Mathatronics Mathatron も後に関数電卓の機能とされる機能を一部先行して搭載していた。HP-9100シリーズは集積回路ではなくトランジスタで構成されており、個人用計算機として初めてテンプレート:仮リンクアルゴリズムによる三角関数の計算を実現し、逆ポーランド記法 (RPN) による入力方法を初めて採用した電卓である。その後HPは電卓で逆ポーランド記法を広く採用するようになり、今でも金融向けのHP-12Cやグラフ電卓のテンプレート:仮リンクシリーズで逆ポーランド記法をデフォルトの入力方式として採用している。
1972年2月1日に登場したHP-35はHP初のポケットサイズの電卓で、世界初のハンドヘルド型関数電卓である[2]。HP製のデスクトップ型関数電卓と同様、逆ポーランド記法を採用している。価格は395ドルで、1975年まで販売されていた。その後も テンプレート:仮リンク や テンプレート:仮リンク といった関数電卓を発売している。1974年の HP-65 はプログラム電卓である[3]。
テキサス・インスツルメンツもデスクトップ型の関数電卓をいくつか発売した後、1974年1月15日にハンドヘルド型の関数電卓 SR-50 を発売した[4]。その後も関数電卓市場で存在感を示し続け、テンプレート:仮リンクシリーズ (1976 - ) は教育現場で広く採用された。
カシオ計算機とシャープも関数電卓の主要メーカーである。カシオのFXシリーズ(最初の機種は1972年のFX-1[5])は、学校などによく売れた。カシオはグラフ電卓市場でも活躍しており、テンプレート:仮リンクは世界初のグラフ電卓として知られている。
逆ポーランド記法を含め、ほとんどの関数電卓は、1引数の関数は、たとえば 3 . 1 4 sin のように、まず引数を入力し、次いで関数の釦を押す、という順序の入力方式が主流であった(この方式であれば、コサインの不動点を求める時などは、1 cos cos cos ... のように連打すればよい)。これに対し、数式通り(書式通り・公式通りとも)入力方式があらわれ、数式が表示されるものでの採用をはじめとして広まった。カシオのようにほぼ全て切り替えてしまったメーカーもある。数式通り方式は、数式を左から書くのと同じ順序で、たとえば sin 3 . 1 4 のように操作する。これに対し従来の方式は標準方式などと呼ばれる。
2000年代後半より、数式自然入力(数学自然表示・式通り入力表示・教科書ビューとも。メーカーにより入力と表示をまとめて指す方式名の場合と、入力方式と表示方式を別にして扱っている場合とがあるので注意)という、分数や開平記号なども一般の数式における記法のように表示される方式が登場してきている。
Google検索では「関数電卓」で検索すると、ブラウザ上で動作する関数電卓が現れる。
脚注・出典
文献
関連項目
外部リンク
- The Old Calculator Web Museum
- 関数電卓セレクトガイド - 「理系人のための関数電卓パーフェクトガイド」の著者による大学生向けのガイド。
- Programmable calculators – 様々なプログラム電卓や関数電卓の仕様を解説しているサイト
- 関数電卓マニアの部屋 - 関数電卓のしくみ(CORDICアルゴルズム) CORDICアルゴリズムの日本語での説明
- The Museum of HP Calculators
- Datamath.org TI製電卓の博物館サイト
- Soviet Digital Electronics Museum ソ連製電卓コレクション
- Online Scientific Calculator
- Online Calculators