白熱電球
白熱電球(はくねつでんきゅう、テンプレート:Lang-en[1])とは、ガラス球内のフィラメント(抵抗体)のジュール熱による輻射を利用した電球である。フィラメント電球ともいう。 ジョゼフ・スワンが発明・実用化したが、本格的な商用化はトーマス・エジソンによるものが最初。
目次
特徴
電源は直流、交流のどちらでも良く、一般的な商用電源周波数であれば周波数も問わない。フィラメントの赤熱が持続するため、交流電源の場合もチラツキがない。電力の多くが赤外線や熱として放出されるため発光効率が低い。日常用いられる100Wガス入り白熱電球では可視放射10%(例えばGEライティングのLW100V95WGは15lm/w程度)、赤外放射72%で残りが熱伝導による消費となる。ガラス球部分に赤外線反射膜(通常、多重干渉膜によるダイクロイックミラー)を形成し、赤外放射を減らすと同時に加熱に寄与させ変換効率を上げたものもある。
発光の原理上放射光の分光分布が黒体放射に近く、一般の人工光源の中では演色性に特に優れている。このことから写真や映画、テレビの撮影光源として広く利用されるほか人工光源の演色性の基準になる光源もそれ専用の白熱電球と特殊なフィルターの組み合わせで定義されている(CIE標準光源)。
部品
- フィラメント
- 白熱電球の発光部分本体。
- 導入線
- アンカ(吊り子)
- フィラメントを支える補助線。モリブデン線が用いられる。
- バルブ
- フィラメント部を封入したガラス球。通常軟質ソーダガラス、ときに硬質硼珪酸ガラス。ハロゲンランプでは石英ガラスが用いられる。
ほかに以下の部品がある。
- 排気管
- フレヤー
- マズル
- マウント
- サイレンサー
- ソケット
白熱電球の分類
用途による分類
封入ガスによる分類
ソケットの分類
Eはネジ式の口金(エジソンベース、Edison screw)を指す。耐震性を要求される場所ではS、即ちスワンベース(引っ掛け式)を用いる。英国では普通の電球にもスワンベースの電球を用いる場合がある。
- E39 - 200W以上の大型の電球用である。
- E26 - 一般の電球ソケット、特殊用途以外は200Wまでである (IEC 60061-1 (7004-21A-2))
- E17 - 小型の電球ソケット、クリプトン電球に多い (IEC 60061-1 (7004-26))
- E12 - 常夜灯や表示灯などに使われるソケット。
- E10 - 懐中電灯や表示灯に用いられる。
照度
白熱電球の明るさはかつては燭(カンデラ (cd) にほぼ等しい)を単位とする光度で表されていたが、現在はワット (W) を単位とする消費電力で表現されている[2]。ただし、Wで表示するのは白熱電球だけとなり、他の光源である電球形蛍光灯とLED電球はルーメン lmで表示する事と業界団体の規定で定められている。
寿命
現在、市販されている白熱電球の多くは1000時間程度の寿命を持つ。ただ使用環境によっては電圧の高い(日本では許容最大値である110ボルトかかる)場合もあり、この場合は100ボルトの電球では寿命が短くなる。そのため、特に記載はないが、110ボルトの電圧を想定した電球も販売されている[3]。電圧が定格より下がると、寿命が向上する(#照度参照)。
高温(2200 - 2700℃)となるフィラメントではその構成する素材(今日ではほとんどがタングステンとなっている)が点灯時間の累積と共に徐々に蒸発し、細くなることで素材強度がなくなり、最後に折損(俗に言う「球切れ」)することで寿命となる。また昇華したタングステンがガラス球内に付着し、可視放射効率低下の原因ともなる。フィラメントを真空中に置いた真空電球ではこの昇華が大きい。
ガラス球内を不活性ガスで満たすことで昇華を抑えることが出来るが、ガス中への熱伝導による損失が大きくなる。今日用いられる白熱電球のほとんどがこのガス入り白熱電球と呼ばれるタイプのもので封入する不活性ガスとしては通常、希ガスが用いられるがその分子量が大きいもの程熱伝導による損失が少なくなるため窒素やアルゴン以外に高価なクリプトンあるいはキセノンを用いたものもある。
封入ガスにハロゲン(ヨウ素、臭素、塩素あるいはその化合物)を微量混合し、ガラス球部が高温になるように設計することで、昇華したタングステンをフィラメントへと還元するようにしたものもある(ハロゲンランプ)。
フィラメントの温度を高く設定すると放射光中の可視光成分が多くなり、発光効率が上昇するが、その分フィラメントの蒸散も大きくなり、電球の寿命が短くなる。ハロゲンランプの場合、フィラメントの温度が同じならば通常のガス入り白熱電球の数倍の寿命となるが、その温度を高く設定し、寿命は同じだが効率が高い電球とすることもできる。
フィラメントの温度を低く設定し、長寿命化した製品も存在する。例えばキセノンランプの中には、効率が低く光色も赤色味が強くなる代わりに10000時間前後の寿命を持つものがあり、電球交換の頻度を減らす必要がある、交換が困難な場所(高所など)で用いられている。交流点灯の場合、ダイオードによりフィラメントに流れる電流を半減させ寿命を延ばすという手法もある。
他に寿命を伸ばす手法としては、制御回路により、フィラメントが切れることが多い電源投入時に流れるラッシュカレント(電源投入の瞬間からフィラメントの温度が安定するまでの間、規格の8倍程度の電流が流れてしまう現象。消灯時の冷えたフィラメントの抵抗値は点灯中の高温時に比べ低いために発生する。突入電流とも言う)を軽減し、電源投入時のストレスを減らすというものがある。
フィラメントは、通常単コイルまたは二重コイル(小径のコイルを巻き、そのコイル線で大径のコイルを巻く)となっている。これはフィラメントの封入ガスとの接触面積を減らすことで、熱伝導を抑え発光効率を改善するとともにその寿命を延長するのに有効である。
電球形蛍光灯・発光ダイオード(LED)照明への移行
2013年現在、白熱電球を使用する器具において、電球形蛍光灯やLED電球への移行も行われている。ただし、問題もあるためすべてが移行してない。
- 映像や写真撮影を行う場合。それらの電球は高い周波数で明滅しており、これが撮影機器に写りこみ、影響を及ぼすため。また特に写真では演色性が劣ってしまうため。
- 電波・ノイズの発生を嫌う場合。電波暗室などの電磁波測定施設、ラジオなどの無線装置周辺など。
- ダウンライトなど、調光機能を持つ器具で使用する場合。
- 断熱材に覆われた環境、密閉された環境で使用する場合。
- 非常用照明器具として使用する場合。(消防法で使用が禁止されている。)
- 直流電力で使用する場合。
- 農産物のビニールハウス栽培や養鶏など、照明の役割と同時に白熱電球の発する熱を利用する用途。及び赤外線を利用する作物の光周性制御のため。
- 製品コストなど経済的な理由。(ただし、長時間点灯させるような環境下では、電球形蛍光灯やLED電球にしてしまった方が、ランニングコスト面からすると安価になる。)
使用中止に向けた法令等
地球温暖化防止・環境保護として、白熱電球の生産・販売を一切終了し電球形蛍光灯やLED電球への切替を消費者やメーカーに促す動きが世界的に広がっている。オーストラリア、フランスやアメリカ(州による)などは白熱電球の生産・販売が今後法律で禁止される。
日本
2008年4月には、2012年末までに生産と販売を自主的にやめるよう電機メーカなどに要請する方針を甘利明経済産業大臣(当時)が表明した[4]。これに応える形で東芝ライテックは同年4月14日に2010年度を目途に白熱電球の生産を原則中止すると発表し[5]、2010年3月17日に国内大手電機メーカーで初めて白熱電球生産事業より撤退。続いて三菱電機オスラムも(当初の2012年より1年前倒しし)2011年3月限りで生産を終了(一部製品を除く)、NECライティングも2012年内に生産を終了した。
原発事故の影響
東日本大震災の影響によって電力事情が逼迫しているとし、細野豪志環境大臣兼原発担当大臣は「節電を促す観点から消費電力の多い白熱電球の販売を自粛するよう電器店に呼びかけ、消費者には消費電力の少ないLED電球や電球型蛍光灯への買い換えを呼びかけていく」方針を明らかにすると共に、2012年6月13日、経済産業省と環境省は白熱電球の製造業、家電量販店など関係する業界に製造や販売の自粛を要請した。これは家庭用・産業用とも、電球形蛍光灯、あるいはLED照明への転換をさらに促すこととなる[6][7][8]。この要請を受け、パッケージに代替製品への移行を勧める文言を加えながら家庭用製品の生産を続けていたパナソニックも、当初の2013年春より約半年前倒しの2012年10月末で生産を終了した[9]。