近鉄1010系電車

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テンプレート:出典の明記 テンプレート:鉄道車両 1010系電車(1010けいでんしゃ)は、近畿日本鉄道通勤形電車の一つ。電算記号はT(10番台)。

本項ではその前身の920系電車についても記述する。

概要

1972年京都線の輸送力増強を目的に920系として登場した[1][2][3][4]。一部機器を600系から流用して[2]製造されたため、吊り掛け駆動方式で、電気ブレーキも装備していなかった。車体は8400系と同等の普通鋼製で[2]、乗降扉は片側4箇所[2]座席はロングシートで[4]、車両間の貫通路は幅の広いものとなっている。モ921 - 929(奇数) + モ922 - 930(偶数) + ク971 - 975の3両編成5本が製造された[1][2][4]。製造当初は冷房装置を搭載していなかった[4]

主要機器 (製造当初)

先述の通り600系の一部機器を流用したため駆動方式は吊り掛け式で[2]、モーター出力は140kW[2]、主電動機はMB-213AFを装備する[2]。制動装置はHSC。制御装置は三菱電機製のABFを搭載する。電動車の台車空気バネのKD-74を新造したが[2][4]、制御車の台車は同時期に廃車された車両のもの[5]を改造して利用した[4]。KD-74は将来のカルダン化を想定しての採用であり、実際にカルダン化された現在でも使用されている。パンタグラフは菱形式のPT-42がモ920形(偶数)に2基装備された[2]

改造・車体更新

冷房化とカルダン化

1982年から、駆動方式を吊り掛け式からカルダン式に、制御方式を抵抗制御から界磁位相制御に変更する改造工事が行われた[1][2][3]。その際、制御器は8000系の回生制動化によって発生したMMC制御器を流用して改造した日立製作所製MMC-HTR-20Eに交換し[2][4]主電動機は廃車となった10100系(ビスタカーII世)の 三菱MB-3020Eに取り替えられた(出力は125kWから132kWに引き上げられた)[2][4]。この改造によって回生ブレーキが使用できるようになった[1][2][4]。同時に冷房装置の搭載も実施された[1][2][3]

空気圧縮機はHS-10をMc車に[3]、電動発電機は日立製HG-634をTc車に搭載する[3]。WNドライブ変更後の車両性能は1000系の3両編成車と同一で[3]起動加速度は3.2km/h/s、最高速度は110km/hである。抑速ブレーキおよび回生ブレーキの有無を除けば、大阪・名古屋線用2680系2000系とほぼ同等の車両性能になった。

名古屋線への転属

京都線・橿原線での3両編成の運用が減少したため[1]1987年から1989年にかけて、全車が名古屋線に転属した[1]。この際改番が行われ、性能面や機能的にほぼ同一となっていた1000系に続くモ1010-モ1060-ク1110となったほか[1]連結器の高さを変更するなどの改造が行われた[4]1992年から1993年にかけて車体更新が行なわれている[1]。後に旧型車からの流用だったク1110の台車は、8000系の廃車発生品であるKD-51Hへ変更された[3]

ワンマン改造

2006年に1012Fと1015Fが[3]2007年に1013F[3][6]がそれぞれB更新(延命工事)およびワンマン運転対応工事(車外スピーカー、電光式ワンマン表示器の設置など)を施工された[3][4]。この際、ク1110形の台車が空気バネのKD-64Aに交換された。抑速ブレーキを装備しない車両が新青山トンネルを越えて高安検修センターまで自力回送されるのは異例のことである。

B更新では転落防止幌や雨樋、貫通扉横への車内非常通報装置が設置され、座席モケット・壁紙・床材が7020系に準じた仕様に交換されている。B更新が施工されていない1011Fは2014年に、1014Fは2013年に転落防止幌が設置されている。

2011年から2013年にかけて1011F・1013F・1015F・1016Fが新型ATSデッドマン装置設置、戸締灯増設工事を受けている。ワンマン対応編成と1016Fは悪天候時の空転発生を考慮して増粘着剤噴射装置の取り付けが行われている。


  B更新入場 出場 営業運転復帰
1011F(T11)
1012F(T12)
2006年5月 2006年7月 2006年9月
1013F(T13)
2007年7月 2007年8月 2007年10月
1014F(T14)
1015F(T15)
2006年7月 2006年9月 2006年11月

テンプレート:-

編成・配置と運用線区

テンプレート:TrainDirection
Tc
ク1110形
M
モ1060形
Mc
モ1010形

2014年4月現在、3両編成4本と中間車1両が明星検車区に所属している[7]

名古屋線・山田線鳥羽線の準急・普通で運用されている[4]。ワンマン改造がされていない1011F・1014Fは1000系や2800系、2050系と共通運用で、近鉄名古屋駅 - 伊勢中川駅間の普通列車の他、平日早朝の近鉄四日市始発名古屋行き急行および、近鉄四日市駅 - 鈴鹿線平田町駅間の急行でも運用されている[8]
ワンマン運転対応の車両は、日中の近鉄名古屋駅 - 近鉄四日市駅間の急行、湯の山線・鈴鹿線でも運用され[4]2000系2103F - 2106F・2109F - 2112Fや2444系と共通運用である。
大阪線東青山駅までは入線可能であるが、川合高岡駅伊勢石橋駅大三駅のホーム有効長が最大2両編成[9]しかないために大阪線東青山駅 - 伊勢中川駅間の急行及び普通列車では運用されない。

車両不具合

2008年8月12日23時50分ごろ、伊勢若松平田町行き最終列車として運転中の1012Fが三日市駅に停車する直前、2両目のモ1062の床下から、衝撃音と共に出火する列車火災事故を起こしている。約50人の乗客は車外へ避難し無事であったが、地元の消防による鎮火まで約50分を要し、車両側では一部の床下機器と座席の焼損、天井化粧板の溶解など、地上設備では枕木8本を焼損する被害となっている。翌13日より航空・鉄道事故調査委員会による実況見分が行われ、2009年10月30日に事故調査報告書が公表された。この事故を受けて、近鉄では床下の断流器の絶縁対策を強化している。同編成は実況見分の後に塩浜検修車庫にて車両修繕が行なわれ、2009年4月には修理が完了して明星検車区明星車庫に回送、そのまま明星車庫にて休車となったが、試運転などの最終調整を行った上で2010年1月から名古屋線で、同年3月から湯の山線・鈴鹿線で、営業運転にそれぞれ復帰した。事故が発生してから1012Fがワンマン運用に復帰するまでは同じくワンマン対応編成である1013F・1015Fも再発防止を考慮して湯の山線・鈴鹿線ワンマン運用からは外れていた。しかし、2011年1月2日に、鈴鹿線鈴鹿市駅 - 三日市駅間を走行中に当該車両の1012Fモ1062から煙が出ると共に走行不能となるトラブルがあり、鈴鹿線で通常運用についていた1013Fに牽引されて塩浜検修車庫に緊急入場し、後述の組成変更まで1012Fは運用から外れ、塩浜検修車庫にて長期休車となっていた。

組成変更

2013年11月に1014Fと、前述の車両不具合の影響で塩浜検修車庫にて長期休車となっていた1012Fが五位堂検修車庫に回送され[10]、1012Fと1014Fからモ1062・モ1064をそれぞれ抜き取り、名古屋寄りからク1112 + モ1064 + モ1012に組み換えた[10][11]。この際、ク1112はク1116に、モ1064はモ1066に、モ1012はモ1016に改番が行われ、同年11月22日付で1016F (電算記号はT16) として車籍を登録された後に同年11月30日に営業運転に復帰した[10][11]転落防止幌は設置されているが[10]、両端のTc・Mc車は1012F時代にB更新とワンマン改造、固定窓化が行われており、中間M車は1014F時代にB更新が施工されていなかったため、先頭車と中間車で内装や車体外見の違う編成を組んでいる[10]
外されたク1114、モ1014、モ1062は高安車庫に留置されたままとなっている[10]が、ク1114およびモ1014は同年11月22日付で除籍され[11]、2014年1月に廃車解体となった一方で、モ1062は2014年4月現在でも除籍・廃車解体されずに在籍している[7]

廃車

同時期に製造された1000系、8400系には廃車が発生しているが、2013年4月時点では本系列の廃車は発生しておらず、製造された3両編成5本 (15両) 全車両が在籍していた[12]。しかし、2013年11月には上記の組成変更により余剰となった1014Fの先頭車2両が1010系では初の除籍となり[11]、2014年1月に廃車解体された後に同年2月上旬に高安車庫から搬出された。

参考文献

  • カラーブックス「日本の私鉄 近鉄2」p.54(著者・編者 諸河久・山辺誠、出版・発行 保育社 1998年) ISBN 4586509058
  • 日本の私鉄「近畿日本鉄道」p.84・p.85 (著者・編者 広岡友紀、出版・発行 毎日新聞社 2012年) ISBN 978-4-620-32003-8
  • 『近畿日本鉄道完全データ』 p.58・p.59 (発行 メディアックス 2012年) ISBN 9784862013934
  • ネコ・パブリッシング 復刻版 私鉄の車両13 近畿日本鉄道Ⅱ (通勤車他) p.73・p.172・p.173 (著者:飯島厳・藤井信夫・井上広和 編集者:名取紀之 発行人:笹本健次 発行所:ネコ・パブリッシング 2002年)ISBN 4-87366-296-6
  • 『私鉄車両年鑑2012』 16p (発行 イカロス出版 2012年)ISBN 978-4-86320-549-9

脚注

  1. 1.0 1.1 1.2 1.3 1.4 1.5 1.6 1.7 1.8 カラーブックス「日本の私鉄 近鉄2」p.54(著者・編者 諸河久・山辺誠、出版・発行 保育社 1998年) ISBN 4586509058
  2. 2.00 2.01 2.02 2.03 2.04 2.05 2.06 2.07 2.08 2.09 2.10 2.11 2.12 2.13 2.14 引用エラー: 無効な <ref> タグです。 「63-v」という名前の引用句に対するテキストが指定されていません
  3. 3.0 3.1 3.2 3.3 3.4 3.5 3.6 3.7 3.8 3.9 日本の私鉄「近畿日本鉄道」p.84・p.85(著者・編者 広岡友紀、出版・発行 毎日新聞社 2012年) ISBN 978-4-620-32003-8
  4. 4.00 4.01 4.02 4.03 4.04 4.05 4.06 4.07 4.08 4.09 4.10 4.11 4.12 『私鉄車両年鑑2012』 16p (発行 イカロス出版 2012年)ISBN 978-4-86320-549-9
  5. ク971はKD-32E,ク972・ク973は2200系より流用の近車KD-42A,ク974・ク975はサ6451形より流用の日本車輌製造ND-8Aをそれぞれ装着する。いずれも1959年以降に新製された円筒案内式金属ばね台車である。 ネコ・パブリッシング 復刻版 私鉄の車両13 近畿日本鉄道Ⅱ (通勤車他) p.172・p.173 (著者:飯島厳・藤井信夫・井上広和 編集者:名取紀之 発行人:笹本健次 発行所:ネコ・パブリッシング 2002年)ISBN 4-87366-296-6
  6. ただし、前述の2編成と異なり、一部窓枠の交換は行われなかった。
  7. 7.0 7.1 鉄道ファン』2014年8月号 交友社 「大手私鉄車両ファイル2014 車両配置表」
  8. 近鉄四日市始発列車のうち、鈴鹿線直通急行は3両編成単独で、朝の名古屋行きは本系列および1000系や2430系、2800系などの3両編成を2本連結して運転されている。
  9. 東青山駅のホーム有効長は8両編成、榊原温泉口駅のホーム有効長は10両編成である。
  10. 10.0 10.1 10.2 10.3 10.4 10.5 近鉄 近鉄1010系で組成変更 交友社鉄道ファン』railf.jp 2013年12月04日
  11. 11.0 11.1 11.2 11.3 鉄道ファン』2014年8月号 交友社 「大手私鉄車両ファイル2014 車両データバンク」
  12. 鉄道ファン』2013年8月号 交友社 「大手私鉄車両ファイル2013」

関連項目

外部リンク

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