同人誌

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テンプレート:出典の明記 同人誌(どうじんし)とは、同人(同好の士)が、資金を出し作成する同人雑誌(どうじんざっし)の略語。非営利色の強い少部数の商業誌を含めて、「リトルマガジン」と呼ぶこともあり、同人誌に用いる場合は文学・評論系に限られる。「ミニコミ誌[1]」も参照。

漫画同人誌の場合、概して小冊子相当の少ないページ数のものが多い[2]

概要

現在では漫画・アニメ・ゲームなどの二次創作市場の拡大により、「同人誌」=「漫画・アニメ・ゲームの二次創作同人誌」で「卑猥なものしかない」といったネガティブなイメージも定着しているがその歴史は古く、文学などによる創作(オリジナル)の著述分野で始まっている。

日本における同人誌の始まりは明治時代の硯友社の『我楽多文庫』など文学、小説、俳句、短歌の同好の士が発表の場を求めて自費で雑誌を刊行したに始まる。これらの同人誌は『文学界』『新思潮』『白樺』のように近代文学の発展に大きな役割を果たした。名作だと呼ばれる文学作品やの中にも初出が同人誌だというものや、文豪と呼ばれる作家を輩出することも多数あり、それに伴い文学において同人誌は一定の地位を得た。その証左に芥川賞は選考対象作品に同人誌で発表されたものを含めていたし、公募型文学賞の中には募集要項に「未発表のもの(同人誌も含む)」などとするものもあった。しかし出版産業の発展や公募型文学賞の増加とともに同人誌の地位は低下していくと、同人誌の参加者は減少と高齢化が一途をたどり、明治の同人誌と同名の文学雑誌『文學界』では「同人誌探訪」のコーナーをやめるなど文学における同人誌のその役割を終えつつある。 

第二次世界大戦後、手塚治虫藤子不二雄石ノ森章太郎赤塚不二夫など漫画家が現れ、マンガとアニメの文化が興隆しはじめると、それらの同人誌が登場した。マンガの同人誌は文学の同人誌同様の役割を果たしたが、それ以外に既存の作品の二次創作物の発表の場となった。マンガやアニメの二次創作物は活字のみで表現される文学と異なり比較的制作が容易(プロットといったものから作家の画風作風など視覚的に模倣すべき要素が多く、どこを模倣しているかがわかりやすい)で、マンガ・アニメファンによる同人誌の刊行が相次いだ。それに伴い同人誌の読者も増加し、制作者と読者との相互の交流が活発になるなど活性化し、二次創作物のみならずオリジナルの作品も出るなど、サブカルチャーの一つの分野を形成するに至っている。

流通形態

関連する商業誌に紹介ページが用意され、発行同人に連絡をとって入手することが多い。また『宇宙塵』のような中核的同人誌に掲載されることで、他の同人の存在が周知されることもある。また、同人になることでしか入手できない場合・または購読会員という形で同人に所属することを必要とする場合もある。

文芸系同人誌

文芸系同人誌は、発行同人に連絡をとる、委託書店で購入する以外の方法は極めて少ない。また、出版形式はもちろん、連絡手段や宣伝などを含め、コンピュータの利用は漫画・アニメ同人誌と比べると非常に低いことは大きな特徴である。「ぶんぶん!」「文学フリマ」など、文芸系同人誌主体の即売会も少数ながら存在する。

漫画・アニメ・ゲーム系二次創作同人誌

漫画・アニメ・ゲーム等の同人誌は、商業化が進行しコミックマーケット等の同人誌即売会同人ショップ・ネット販売などで、流通市場が成立している。CLAMP等ではニュースペーパーを発行、購読会員の囲い込みを行うことも少なくない。

一次創作系同人誌

一次創作系同人誌とは既存のマンガやゲーム、アニメなどのキャラクターや設定などを題材としないものをいう。 コミックマーケット等オールジャンル同人誌即売会のほか、COMITIA(コミティア)、そうさく畑などの創作系同人誌即売会、同人誌ショップ、一部の一般書店で販売される。 コミティアなどの同人イベントでは商業出版社がプロ志望者を対象に作品持込を会場で受け付ける出張編集部が設けられることもある。 これは一次創作系以外の即売会にはグレーゾーン問題などがあり、あまり見られない傾向である。

同人誌の分類

個人誌

全体が1人の作者による作品により構成された同人誌を指す。他者の原稿が掲載されている場合でも、その全体に占める割合が少なければ、個人誌に分類され得る。近年の同人誌においては主流の発行形式である。

合同誌

特定のジャンル(創作を含む)を元に、複数の作者により作られる同人誌。特に、それぞれ独立したサークルとして活動している作者複数の作品が掲載された同人誌を指すのが一般的で、商業誌たるアンソロジーとの類似点がある。ただし、同一のサークルに所属する複数人の作品が掲載されている場合(つまり本来の意味での同人誌)をこう呼ぶこともある。

印刷方法による分類

印刷方法によって、個人がコピー機などを用いて製作する「コピー本」と印刷業者にオフセット印刷などによる印刷や製本を委託する「オフセット本」に分類される。過去にはこれ以外の形態も見られた。

近年はパーソナルコンピュータの普及に伴い、CD-ROMDVD-ROMインターネットからのダウンロードなどで同人作品を頒布するという方式が増えているが、これらは本の形態ではないため、厳密には同人「誌」ではなく「デジ同人」「同人ソフト」などと呼ばれる。

他には便箋抱き枕バッジなどのアクセサリーや日用品も製作され頒布されている。これらは「同人グッズ」と呼ばれる。

漫画・アニメ系同人誌を取り巻く状況と問題点

テンプレート:出典の明記

同人誌市場の拡大

当初、同人誌を頒布する機会はほとんどなく、わずかにSF大会や、学漫であれば文化祭などで頒布する以外は、制作者近辺でしか流通しなかったが、1975年(昭和50年)、第1回コミックマーケットが開催されたことにより状況が一変する。当初のコミックマーケットは、一般流通で頒布することのできない、素人による同人誌専門の流通市場の創設を開催目的として掲げていた。32サークル、参加者700人で始まった同人誌即売会という市場の出現は、それまで制作者と読者が同一だった同人の世界に、明確な「読者」という存在を作り出した。翌年、同即売会の運営母体だった迷宮発行の『萩尾望都に愛をこめて』に掲載された萩尾望都作品『ポーの一族』のパロディ『ポルの一族』によって、エロ要素を含むパロディが同人誌において重要な存在となっていく。

そしてパロディが主流となっていく中、廃れ行く創作系においても新たな展開を模索する動きがあり、京都を中心に活動した球面表着(きゅうめんひょうちゃく)のように漫画以外に特集コーナーなどの雑誌的要素を取り入れるものもあった。

その後、イベントの大型化、市場の拡大により同人誌印刷を行う印刷所も増え、それに伴う印刷コストの低減、DTPの普及、コピー、プリンターなどの低価格化によって、形態は多様化していった。同時に内容も、創作漫画、漫画批評、アニメファンジンに止まらず、パロディやサブストーリー、エロティックな描写や小説など多様化した。1980年代前半にはロリコン、アニパロが、後半にはやおいがキーワードとなる同人誌が流行した。また、1990年代に入ると、グラフィックが十分な性能を備え出したことからかゲームに対しても、攻略、サブストーリー、エロパロなどの同人誌が増えていった。対象も広がり、鉄道コンピュータモバイルなどあらゆる分野について、技術的な内容(特に裏情報)を深く掘り下げたもの、噂やパロディなど商業誌では取り上げられない内容を扱うものも出現している。

商業作家の参入と営利化

市場が拡大した一方、同人誌活動には営利化(商業化)という問題がつきまとうようになった。本来は経済的利益の追求とは無関係に趣味として作成と販売が行われていた同人誌だが、おたく人口の増大とマーケット拡大により、特に人気同人誌の売り上げ額は非常に大きくなった。一定数の売り上げが見込めるほど流通市場が拡大したことにより、プロやセミプロの作家が同人誌を収入確保の一手段として利用する光景も見られるようになった。その反面、同人誌は商業誌が商業利益追求のために切り捨てた部分を補う役目を果たすようになっている。商業誌で人気がないため連載が打ち切りになったり、出版社の倒産などで掲載誌そのものが廃刊となった場合に、作家が自己の作品の続きをオリジナルの同人誌で発表したり、単行本化されない作品を同人誌で発行するという形も見られる。原稿が散逸したり、出版権などの権利関係が複雑で商業ベースでの復刻が事実上不可能になってしまっている作品を、同人誌で復刻したりすることが行われている。

さらに他方では、コミックとらのあななどの同人誌を中心に扱う書店(同人ショップ)が台頭し、自店舗での独占販売を前提としたいわゆる合同誌を企画することも見られている。このような形態の同人誌では知名度の高いプロの漫画家やイラストレーターを中心に作家の人選が行われることも多く、とどのつまりは一般的な商業流通のルートに乗っていないだけで、商業流通しているアンソロジー本と実質的な内容差が無いものまで見られるようになっている。

また、こういった発行物を大量に仕入れ、ネットオークションや漫画専門の古書店に売りさばく「転売屋」と呼ばれる存在もある。

所得税の申告と実情

同人誌販売やグッズ販売などで得た所得も、無論課税の対象となる。年間を通して反復継続して販売行為を行えば事業所得、そうでなければ雑所得として、一年間の所得を合算して申告する必要がある。なお特例として、これら収入から必要経費を差し引いた後の所得金額が20万円以下で、年末調整を受けた給与所得以外の収入がない者には、申告不要制度を利用することが可能である(国の税務経費削減が目的で条件がある)。また他に所得が全くない場合基礎控除(年間38万円)以下の所得であれば、計算上所得税は発生しないため、申告義務は発生しない(住民税はこれ以下でも発生する場合がある)。

税務調査の実態として、同人誌即売会による収入の捕捉は難しいため、以前は税務当局による厳しい処分がなされないケースが多かったといえる。しかし近年は、専門店などへの卸行為や委託販売行為も幅広く行われており、これらは振り込みにより決済されるケースが多いため収入が捕捉されやすく、同人作家で6000万円の追徴課税を受けた者が現れて以降は、同人作家に対して課税の強化を行っている。

同人誌と青少年を取り巻く問題

特にコミックを中心とする同人誌での性描写に対し、青少年の健全な育成を主張する立場から、表現規制を求める声が毎年強まっており、後述の著作権よりも一層深刻な問題となっている。

その一例として、「児童の保護」を口実に「東京都青少年の健全な育成に関する条例の改正案」で規定されている「非実在青少年」[3]と、各道府県の「青少年保護育成条例」、「児童ポルノ法の改正案」で導入を進めている準児童ポルノに対する規制案」「(準児童ポルノを含めた)単純所持に対する罰則の新設案」を根拠に、同人誌を含むコミックの性表現を規制しようとする運動があり、少なくとも一方が可決されるだけでも、規制の論拠として足りるものとなる。

さらに、前述の改正案が可決され、性表現の規制が厳しくなれば、今度は「コミックの規制に乗じ、暴力・犯罪などの表現も合わせて規制」しようとする動きもある[4]

また、いくつかの市民団体や推進派らが管理者(地方公共団体、企業など)に対し、公共施設(コンベンションセンター(展示場)、多目的ホール貸し会議室など)を同人誌即売会の会場として提供しないよう陳情する運動も行われ、後述のように東京都立産業貿易センターが同人誌即売会の会場(特に成人向け同人誌)として提供することを拒否し始めるなど、首都圏内においても次第に活動が困難となりつつあり、近畿圏や、特に保守的な気質の地方においてもその影響を強く受けているため、大手同人ショップの実店舗や代理店などが地方へほとんど進出しない原因のひとつになっている。

これらの運動は、同人誌には文学系のものなど芸術性の高いものも含まれることと、また必ずしも全ての同人誌の内容が卑猥かつ反社会的とは言いきれないにもかかわらず、「同人誌や同人ソフトは全て低俗で反社会的なもの」という、誤った認識や偏見に基づく不当な運動である場合もある。

その一方で、一般的な感性の人々が嫌悪するような性描写のある、いわゆる『成人向け』の同人誌などが数多く存在するのは否めない事実であり、それらが同人誌即売会において、一般向けとの区分が曖昧なまま購買側の年齢などの確認が充分に行えない方法で販売されていることに対しては、何らかのゾーニング(年齢別での購入制限)が必要であるとの問題意識もある。ゾーニングが有効であるとする前提の下に、コミックとらのあなメロンブックスのような大手同人ショップの店舗で販売する場合、成人向けと一般向けを明確に区別することにより、少しでも児童(ここでは18歳未満の者の意。以下一部除き同様)の目から隔離されるよう配慮がなされている。

なお、これは厳密にいえば「児童が手に取れないように区別」しているのではなく、単に「売り場を仕切り、目につきにくくしているだけ」なので、実際はゾーニングではなく単なるパーティショニングである。アメリカなど海外の先進国の場合は、表現の規制こそ日本より緩いように思われるが、そもそも成人向けの作品は「成人しか入場できない店舗」でしか販売できないように区別し、なおかつ児童連れの入店を禁止するのが普通である。また、児童への販売が発覚した場合は、販売者も処罰される。日本のように誰にでも入店できる店舗で、便宜上のゾーニングを行うだけで成人向けコンテンツを堂々と販売するという形式は、先進国の中では稀である。

しかし、成人向けではないものを含む全ての同人誌即売会について、高校生も含めた児童の参加を一律に禁止すべきとする、モラル・パニックに近い批判の声まで上がっており、仮に性描写のある同人誌の販売を一切禁止するよう規制ができても、そのような状態に陥っている層からの理解は到底得られないともみられており、同人に対する汚名の返上が困難を極めている。

特に2000年代の情勢を考慮して、2006年(平成18年)以降のコミックマーケットでは修正関連も含めて規則を強化している。また、2007年(平成19年)8月23日に起きたわいせつ図画頒布容疑での同人作家の逮捕や、同年10月下旬に起きた同人誌即売会に対しての会場(東京都立産業貿易センター)の貸し出し拒否の波及などを受け、印刷業組合や各同人誌即売会の主催者などは、ガイドラインの制定や規則に沿った修正を確実にするよう促している。

なお、日本(世界)最大の同人誌即売会であるコミックマーケットに固有の、安全性や地域住民の理解・会場確保に関する問題については、コミックマーケットの項を参照されたい。

同人誌と著作権問題

同人誌市場における著作権慣習

現行の日本著作権法では、フランス知的保有権法典第122条の5第4項のいわゆる“パロディ条項”のようなパロディを正面から認める法理存在せず[5]、判例やテンプレート:要出典範囲、原作の著作権者の許諾を得ることなく二次創作物を不特定多数への販売することは、原則として著作権侵害となる。一方で、漫画というメディア自体がパロディを高度な表現手段として確立してきた経緯、商業作家が自らの作品のパロディを同人誌で作成している状況などがあり、一面的な法解釈についての疑問もある。将来的にどうなるかは別として、現状においてはその規制や取り締まり概況が権利者毎にまちまちで、後述する様に権利者自身も人材発掘などにおいてその様な状況を利用してきた面があり、いわゆるグレーゾーン的な位置にあるものということが言える。

ディズニーサンライズ任天堂コナミのように二次創作物を著作権を侵害するものと明確に見なして法的手段を駆使して積極的な規制を公然と行なっている企業や、個人ないし個人事務所のレベルでその様なことを行なっているクリエイターも存在する一方で、無許諾ではあるがファン活動の延長線上にあるものとしてとらえ、または相乗効果の発生を期待したり、そもそも二次創作を手掛けるディープなオタク層をメインターゲットとした作品作りを行っており、作品や著作権者に対する中傷・風刺などの実害が及びかねない内容や、著しく反社会的な内容の作品でもない限りあえて黙認している著作権者も少なくない。なお、黙認とは、黙って認めることであり、認める意思がなく単に沈黙しているに過ぎない場合は本来、含まれない。また、現実的な問題として、人気作品では二次創作の作品点数もまた膨大になり、その全容を網羅することは小規模な著作権者でなくとも困難で、作品単体でコミケットのジャンルコードが割り振られる程のスケールにもなれば尚更のこととなる。

他方で、特に性表現を含めない一般向けの内容においては、よほど極端な表現でもない限り黙認する権利者も少なくない。もっとも、積極的かつ半ば公然と規制や警告が行われているコンテンツについては、同人作品の制作者からは警戒・忌避され、同人誌の購入者の層からも見捨てられる、極端な場合にはこれらからのバッシングの標的にされたり、著作権者に対する批判への代わりの標的として作品へのネガティブキャンペーンが張られるなどといったことも起き、時に厳格な著作権管理を大々的に進めた結果として、かえって自身のメディアミックス展開や続編コンテンツが想定外の不振に陥ることも起きてくるため、販売戦略の観点から著作権者側も慎重にならざるを得ない一面もある。強力な法務部門を擁し警告の実績が多数あるなど著作権の管理や規制に積極的なことで知られる企業であっても、コミケットなどの同人イベントの場へ関係者を多数動員してまで直接摘発に乗り出した事例は少なく、著作権侵害に対し厳しい態度を取っているディズニーを別とすれば、摘発は同人ショップなど事実上商業化された流通経路での販売が行われたものに限られていた。しかし、二次創作でも制作から販売まで大掛かりになりがちなビデオやDVDなどの映像作品については摘発された事例もあり[6]、また、比較的小規模な企画が多い深夜アニメやアダルトゲームの場合、同人界隈で著名な大手同人サークルが幾つも参入してくると往々に二次創作物の頒布の経済規模が元々の作品本体の売り上げを超える規模となることもあり、それら二次創作物の販売による利益(ロイヤリティ)が著作権者に全く還元されないため、看過できる範囲を超えることになる。同様に、同人での二次創作を容認する様な著作権者であっても、同人ショップなどの商業流通に乗せられて大々的に販売されるものや、イベント専売でも余りに大規模な販売がなされている作品は「ファンクラブ的な活動」の範囲を逸脱しているものと判断して容認せず、法的対応を取ったり、当のサークルへ個別に警告を行うケースは少なくない。

許諾の意思がない場合との識別が困難ではあるものの、その意思に基づく限りにおいて、著作権者による黙認には事実上の許諾という側面もある。ただし、過去には「ときめきメモリアル」(コナミ)のように黙認と思われていた状態から突然、法的手段の行使に至る場合や、「しまじろう」(ベネッセ)のように、一旦許諾したものを突然取り消し、結果としてファンダムによる同人活動が事実上の崩壊に追い込まれたケースもある。

また、一部の企業にはガレージキット(キャラクターのフィギュアなど)などを中心に即売会会場で制作者に利用を許諾し、比較的少額の対価で販売権を与える『当日版権』などの発展的な試みをしている場合があり、有力パロディ元の一つであるアダルトゲームの主要ブランドでは、一定のガイドラインを設けた上で二次創作を認める[7]など、明示の許諾に切り替える動きもあるが、多くの企業やプロダクションは現時点ではこの問題に未着手である。

出版社やコンテンツ配給会社なども、同人誌即売会の有名作家をヘッドハンティングして即戦力として期待値の高い作家を集めたり、新人賞入選の作家の修行先としての役目を果たしている側面もあるため、黙認しているのが現状である。さらに講談社では、コミックマーケットの企業スペース内に少年マガジン編集部ブースを出展し、原稿持ち込みを受け付けるなど、むしろ積極的に認めるかのような行動を取っていたこともある。

個人においても、プロ作家がプロを志す過程の一つとして同人活動を行っていた事例は枚挙に暇がない。その中には二次創作物を製作・販売していた経歴の持ち主も多く、むしろ二次創作物の作者として一時期名を馳せた経歴を持つ人物も少なくない。すなわち、二次創作の元となる作品を供給している側も、元々は二次創作の作り手として活動を着目されて抜擢を受けてきた場合もある。中には、商業ベースでの活動と並行して同人で堂々と二次創作を行っている人物も多い。また、高いレベルの二次創作家がプロにスカウト、またはスポット的な仕事をすることがある。いずれにしても、同人の二次創作と商業出版の関係で言えば、対外的に発表していた作品のほぼ全てが商業作品の二次創作であった同人作家が、勧誘、新人賞入選、外注として関与した商業作品のヒットなどのきっかけを得て商業ベースのオリジナルの作品制作へと活動の主軸を移して“プロの作家・クリエイター”の看板を掲げるケースは少なからず見られる。その中からは後にオリジナル作品で大成した者も見られる一方で、逆に商業出版の制作進行管理や表現に対する制約の厳しさや、オリジナリティクオリティへの要求に対応できずに、結局は短期間で同人の二次創作の世界に舞い戻ったり、プロ作家としての商業ベースでの活動が実質的に二次創作物の同人誌を大量販売するための下地としての知名度確保のための手段となるパターンも珍しいものではない。

こういった複雑な人材の流動や、商業出版の世界と同人誌の世界の持ちつ持たれつの関係が長く続いたことにより、年を追ってコミケットと同人関連産業が拡大する程にファンダムにおける「消費のみのファン - 二次創作者 - プロ作家」の区分が曖昧になった。その意味では、二次創作はプロ作家などの有力な供給源で、作品の多様性と高品質を支えており、消費のみのファンにとっては製作側に親近感を抱きやすくし、製作側にとっても消費側との乖離を防ぎニーズを吸い上げやすくしていると言える。ただし、漫画雑誌の新人賞や漫画家のアシスタントなどから同人活動を経験することなくプロになった作家には同人活動に対し拒否反応を示す者も多いとされ、同人活動とプロの距離感はあくまで作家毎のケースバイケースである。たとえば、週刊少年ジャンプに籍を置いている傍ら、同人誌を発行した経験がある漫画家冨樫義博は自身の同人誌で、コミケ(二次創作同人誌)に関して「パロディ自体は好きだから同人誌もいい」と肯定的な態度を示す一方で、その同人誌(特に、自分の作品(『幽☆遊☆白書』)を題材とした成人向けやおい同人誌)が売れるからといって女王様気取りになっている同人作家は大嫌いだとも述べている。

また、同人誌の経験がある、あるいは同人出身とされる作家の中には、商業誌の代わりの発表の場として同人誌を選んだだけで、作家自身のオリジナル作品しか創作していない者や、単に同人誌の経験もあるというだけで、実際はアシスタントや持ち込みの経験から評価されてデビューの機会を与えられた者も多い。これらは、1980年代初頭までにデビューした作家に多い。また、現在に至る二次創作物が登場し始めた1980年代以降であっても、そもそも同人とは全く関係のない出自の作家も多数いる。

近年では逆に、元々同人誌とは無縁だったプロ作家が、自著の不人気、出版元とのトラブル、あるいは活動の拠点にしていた雑誌休廃刊やベテラン作家を受け入れる商業誌が少ないジャンルという事情で行き場を失ったり、健康上の理由による商業出版の分野からの事実上撤退(引退廃業)などの事情から新作発表の場を同人誌に移すケースも増えており、二次創作とは無関係なオリジナル作品[8]を発表することも多い。

会場の大型化や参加者の激増と共に巨大化を続けたコミケットを頂点として同人の事実上の産業化が進んだ1990年代以降、男性向創作(商業出版で言う成人向け漫画)やボーイズラブ、コンピュータソフト制作(同人ソフト)を中心に、同人活動のみ、さらに言えば二次創作物のみで知名度を確立し、「同人誌の製造小売業」として自身やスタッフの生計を事実上立てている同人作家が多数登場し、これらには、出版社などからオリジナル作品やメディアミックス絡みの公式な二次版権作品などでの製作・掲載の勧誘を受けても、これを拒絶してまで同人誌制作を優先して続けている者も少なくない。この理由については、製作スケジュールの自由度が低く同人イベントに対応できなくなる、締め切りの厳守が難しい、商業作品の表現規制が自身のスタイルに合わない、プロとしてその後も商業出版の世界で活動していける確証や自信がない、出版社との契約の関係で現在の収入源である特定の作品の二次創作が手掛けられなくなる、など様々である。ただし、その事情はいずれにせよ、同人作品の制作を職業的活動として行う者が数多く登場している背景には、同人の世界が現状のまま推移・発展してくれるならば商業出版への転換で負うリスクをわざわざ取る必要が無いほどに同人の作品やイベントの経済規模の拡大が進んでいることがある。他方で、原作の著作権者や、税務署などの当局は、事実上の職業的活動を同人の二次創作の場で繰り広げている者をアマチュアとはみなしておらず、これらのサークルが二次創作物で上げた販売規模が著作権者としても無視できない規模になっている場合や、過剰な性表現の作品を発表した場合、多額の収入を申告せずに隠匿していると考えられる場合などには調査が行われ、何らかの法的対処や摘発に至るケースが多い。

しかし反面では、他の先進国(特にアメリカ)と異なり、また著作権侵害に当たるような行為を著作権者が見て見ぬ振りという曖昧な態度を取ることによって、製作側から消費側までの断続面のない厚い地層が形成されていることが、現在の日本における漫画アニメ隆盛の原動力の一つとなっているともいえ、その内情には複雑なものがある。

なお、企業、同人作家問わず、パロディなどとは異なり、著作権法で容認されている批評などのための引用についても、著作権者の許可が必要という認識は強い。しかし、漫画の引用については小林よしのり上杉聰らの間で争われた「『脱ゴー宣』裁判」で絵の引用が争点となったが、2002年(平成14年)4月26日に「絵の引用は合法」とする最高裁判決が出ている(ただし、「レイアウトの改変は違法」とされた。詳細は脱ゴーマニズム宣言事件を参照)。この判決は、コミックマーケットがシンポジウムで取り上げるなど、同人誌にもある程度の影響を及ぼした。しかし前出のサンライズなど、現在でも判例を無視して一切の画像利用禁止を告知している企業もあり、絵の引用においては著作権者の許可を必要とする認識がなお主流となっているテンプレート:要出典

著作権紛争の発生事例

テンプレート:See also そのような状況下にあって、2005年(平成17年)12月30日に開催されたコミックマーケット(コミケット)で、「AQUA STYLE」という大手同人サークルが、「同人ショップが著作権者から著作権侵害についての警告を受けた」という理由で、頒布を予定していた「MALIGNANT VARIATION FINAL」という映像作品の販売を中止するという事態が起きた。

当時、同サークルの主宰人物が主張していたところによれば、同人ショップに警告が届いたのはコミケットでの頒布を予定していた10日前で、サークルに連絡が来たのは同作品が既に同会場への搬入まで全て終えた段階であり、コミケット向けに製造した約4万枚について全量の現地からの回収と廃棄処分を余儀なくされ、1000万円を超す経済的損失が発生したという。当該の映像作品は当時1枚1890円での販売が予告されており、単純計算でも完売すれば7000万円以上の総売り上げが予想されたことや、その種の二次創作物において著作権者がロイヤリティ(版権使用料)を徴収できる様なシステムが確立されておらず、著作権を侵害した形での多額の利益の発生が予想されたことから、著作権侵害のこれ以上の規模拡大や模倣者の登場を防ぐ意味でも、著作権者側としてもさすがに静観していられなくなった状況が窺われる。もっとも、実際に警告を受けたのは「FINAL」ではなく、同じ「MALIGNANT VARIATION」(通称「マリグナ」)シリーズの「味を見ておこう」で、警告のタイミングがイベント頒布中止の直前だったため混同されている。だが、いずれの作品もパロディとはいえ内容に多くの著作権侵害の問題を抱えた映像作品であり、著作権上の立場からすれば非常に弱いものであった。

当の警告を発した著作権元は明らかにされていないが、警告後に同サークルがイベント専売用に製作した映像作品「KITE'S BIZARRE ADVENTURE」が事実上「MALIGNANT VARIATION」シリーズの後継作であり、従来作品に出していた特定著作物由来のキャラクターを登場させなくなったことから、そのキャラクターに関する著作権者が警告者ではないかとインターネット掲示板などでは噂された。また、当時、類似した内容の作品を製作・頒布していたサークルが多数警告を受けているが、その様な警告を受けたり二次創作作品の販売自粛に追い込まれたサークル側の関係者の中には、警告主を類推(特定)できる方法を取り、著作権的に問題のある映像を警告を受けた後も販売し続けた者、二次創作物の販売のために“作品(作家)のファン”を装っていたそれまでの言動をかなぐり捨てて警告してきた著作権者やその作品への憎悪・罵倒・揶揄へと走った者、さらには著作権者や著作権という制度そのものへの憤懣を自身の二次創作物のファンからの同情心を介して各所で煽り立てようとした者が現れるなど、一部の人物の著作権に対する認識の甘さや不見識が露呈し、このようなことも含めて二次創作の版権パロディについて物議を醸した。

この一件の後にも、いわゆる「ドラえもん最終話同人誌問題」が起きた。これもことの発端は2005年(平成17年)のことで、田嶋安恵が「田嶋・T・安恵」名義で事実無根の都市伝説をベースにして制作した同人誌「ドラえもんの最終回」を発表したことである。当初は注目を集めなかった同作であるが、これがしばらく間をおいてから各メディアから注目を集め出し、同作について問い合わせを受けるなど反響の大きさや悪影響を懸念した出版元小学館著作権元藤子プロが2007年(平成19年)に著作権侵害を通告し、田嶋は在庫の廃棄処分と同作の著作権侵害によって得た利益の返還を命じられた。この一件に限れば、原作者が故人という状況下における事例である上、また、原作に酷似させた製本デザインや、ブログの無断転載などで有名化したことにより、「公式・公認の作品」「原作そのもの」「正規の権利関係者が制作した作品」などの誤解を多くの一般人に招いたことなど特徴的なこともあり、この一件の事例による影響がただちに他へ波及するとは考えにくい状況ではあったものの、同人誌における二次創作物への各出版社の今後の対応が注目される契機となった。

非親告罪化への動き

著作権侵害非親告罪化への動きも、同人誌関係者にとっては中長期的な懸念材料の1つである。

現在のところ、著作権侵害(著作権法第119条)の刑事罰は親告罪とされており、著作権者漫画家出版社アニメ制作会社など)が告訴しない限り刑事責任を問うことができない[9]。このことが、著作権者によるパロディ同人誌の黙認に刑事司法上の一定の効果を与えている。しかし、非親告罪となった場合、著作権者が「二次創作を容認」し「告訴する気がない」場合であっても、警察側の判断で逮捕・告訴することが可能になるため、事前かつ明示の許諾を求める必要が発生する(事後に許諾を求めた場合、たとえ著作権料などを支払う用意ができても著作権侵害になる)。

なお、現状でも刑事責任とは別に、損害賠償の請求や、発行の中止、または回収・廃棄させるなどの民事責任も問うことができる(刑事責任を不問とする代わりに、民事責任のみを問うこともできる)。この場合も著作権者訴えの提起を必要とする。

朝日新聞2007年(平成19年)5月26日号「著作権が「脅威」になる日 被害者の告訴なしに起訴、共謀罪でも」(丹治吉順)によると、日本は「模倣品・海賊版拡散防止条約」の制定を提案している。しかし、アメリカ合衆国から「海賊版摘発を容易にするため、非親告罪化を盛り込んで欲しい」という要望[10]があり、条約提唱国としては国内の著作権法も条約に合わせて改正するのが望ましいとされた。そこで、文化庁文化審議会著作権分科会法制問題小委員会で3月から審議が始まった。

また、同記事によると、文化庁の審議とは別に国会で審議が進んでいる共謀罪法案には、自民党の修正案3案のうち2案で、著作権法を共謀罪の対象としている。自民党案をとりまとめた衆議院議員早川忠孝は、「犯罪組織が海賊版を資金源にすることを防ぐのが目的」と述べている。

ここで注意しなければならないのは、「海賊版」と「パロディ」「二次創作物」の本質的な違いである。「海賊版」は創作性のない複製物、つまり単なるデッドコピーであり、なんら創意工夫をせず複製(コピー)だけで利益を得る手段である。「パロディ」「二次創作物」は二次的で(なおかつ著作権者が公認していないものでも)一応創作物になる。これらは、現行の著作権法でいずれも「著作権を侵害する行為」として一括りにされ、同列に扱われているが、本来「海賊版」と「パロディ」は同列に扱われるべきものではない。

編集者竹熊健太郎は、「非親告罪化によって警察・司法が独自の判断で逮捕することが可能になれば、商業的な出版・放送・上演・演奏のみならず、コミケの二次創作・パロディ同人誌などにも深刻なダメージが加わる可能性がある」と指摘。「俺を含めて多くの作家・マンガ家・同人誌作家・ブロガーは何か書く場合でも無意識のパクリがないかどうかおっかなびっくり書くことになり、ひいては表現の萎縮につながりつまらん作品ばかりになるかもしれないので俺は反対だ」[11]と主張している。

また、クリエイターの小寺信良は「行使する側が「模倣」と「創作」の違いがわからない場合、クリエイターの活動を萎縮させかねない」とコメントした[12]

ファイル:Doujin Mark first usage.jpg
赤松健の漫画作品UQ HOLDER!のタイトルロゴの左下に配置された同人マーク。本作が初の採用例

非親告罪化への対策の一つとして、2013年に二次創作同人誌作成や同人誌即売会での無断配布を有償・無償問わず原作者が許可する意思を示すための同人マークという新たなライセンスがコモンズスフィアによって公開された[13]。これは環太平洋戦略的経済連携協定 (TPP) 交渉で非親告罪化される可能性が言及され[14]、実際に非親告罪化された場合に第三者による告発などで権利者が黙認したいケースでも訴訟に発展するなどの事態を防ぐことを目的に漫画家赤松健が発案したライセンスであり[15]、赤松自身の漫画作品で『週刊少年マガジン』2013年39号(同年8月28日発売)より連載開始のUQ HOLDER!で採用されている[16]

脚注

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  1. ミニコミが熱かった時代「平凡パンチ」1975年2月5日号 「ミニコミ第三世代に注目」(1/3) - 日刊サイゾー
  2. 商業漫画単行本に比べて(殆どが高価な割に)ページ数が少ないことから、漫画同人誌を指す「薄い本」という俗語がある。
  3. 出版社・アニメ制作会社・同人ショップなどの本社がほとんど東京都に集中しているため、その影響から事実上法律と変わらない効力を有することになる。
  4. ITmedia News:2007年10月25日「漫画・イラストも児童ポルノ規制対象に」約9割──内閣府調査。なお、調査は2007年(平成19年)9月13日から同月23日までの期間、個別面接によって行われ、有効回収率は約6割。
  5. テンプレート:Cite web
  6. 全く無関係の業者による無断複製の海賊版が端緒となり、制作サークルまで連座的に摘発された事例もある。
  7. アダルトゲームが原作であれば、成人向けの二次創作に対する規制も緩やかになることが多い。
  8. 中にはプロ時代に未完で終了した連載の続編や、過去作の外伝などを発表するケースもあるが、これは権利関係の如何によっては二次創作物とみなされることもある。
  9. 「作品のイメージが傷つけられた」からといって、ファンが代理で告訴することはできず、著作権者に「著作権を侵害しているものがある」旨の通達することしかできない。告訴するか否かは著作権者自身の判断に委ねられる。
  10. 2006年12月5日日米規制改革および競争政策イニシアティブに基づく日本国政府への米国政府要望書(「日米規制改革および競争政策イニシアティブに基づく日本国政府への米国政府要望書 2006年12月5日」)には、「知的財産権保護の強化」のための要求の一つに「起訴する際に必要な権利保有者の同意要件を廃止し、警察や検察側が主導して著作権侵害事件を捜査・起訴することが可能となるよう、より広範な権限を警察や検察に付与する。」がある。
  11. たけくまメモ:2007年5月21日 【著作権】とんでもない法案が審議されている
  12. ITmedia +D LifeStyle:2007年6月11日 知財推進計画が目指す「コンテンツ亡国ニッポン」
  13. テンプレート:Cite news
  14. テンプレート:Cite web
  15. テンプレート:Cite news
  16. テンプレート:Cite news

関連項目

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外部リンク