包丁

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包丁(ほうちょう)とは、食材を切断または加工するための刃物で、調理器具の一種である。本来の用字は庖丁

語源

「庖」は調理場を意味する。「丁」は「園丁」や「馬丁」のように、そこで働く男、つまり庖丁の原義は「料理人」のことである。『荘子』の「養生主篇」に、恵王の御前で、ある庖丁(ホウテイ)が見事な刀捌きで牛一頭を素早く解体して見せ、王を感銘させる記事がある[1][2]。 彼の使用した料理刀を後に庖丁と称し、これが日本語読みで「ほうちょう」となった。かつて「庖」が当用漢字外とされたため同音の「包」で代用することが多いが、本来は「庖丁」。


包丁の種類

和包丁(わぼうちょう)と洋包丁(ようぼうちょう)に大別できるほか、特殊用途の包丁が数多くある。洋包丁は多く両刃(刃の断面が左右対称のV字型)で、和包丁には片刃(断面が「レ」のように、裏が平面で、表側のみ斜めの砥ぎ面(切れ刃という)の非対称)のものと、両刃のものがある。片刃のものは右利き用・左利き用の区別がある

和包丁

ファイル:DebaBocho.Cleaver.Japan.jpg
出刃包丁 右から大出刃、中出刃、小出刃
出刃包丁(でばぼうちょう)(英語:Deba knife
や鳥・スッポン等を解体するときに使い、使用中に力を入れても刃先が撓ったり曲がらずに使えるように刃が厚く重い包丁で、形状は三角形。江戸時代に大阪府堺市の出っ歯の鍛冶が開発したことから、出刃包丁という名前がついたという説がある。大きさにより、大出刃、中出刃、小出刃と呼び分けることがある。一般的な出刃包丁は大出刃であり、本出刃包丁ともいう。中出刃は相出刃包丁と呼ばれることの方が多い。刃渡りは大出刃と同じ程度で、厚みが薄い。小出刃は大出刃を小型にしたもの。小出刃の薄いものは鯵切(あじきり)ともいう。
薄刃包丁(うすばぼうちょう)(英語:Usuba knife
主に野菜全般を切るための包丁。関東型(東型)は刃の形状が横から見るとほぼ長方形になっている。関西型は先端みね側が丸くなっており、鎌型とも呼ぶ。日本料理ではかつら剥きや野菜の曲切りなど非常に用途が広い。片刃である。小型の薄刃包丁を特に皮むき包丁と呼ぶこともある。
菜切り包丁(なきりぼうちょう、なっきりぼうちょう)(英語:Nakiri knife
菜刀(ながたん)とも言う。薄刃包丁と形状が似ているが、菜切り包丁は両刃で切っ先は丸く、家庭向けになっている。本職向けの薄刃とは機能が異なり、桂剥きや細工切りなどの機能は考慮されていない。かつて一般家庭用として広く普及した。
刺身包丁(さしみぼうちょう)(英語:Sashimi knife
刺身を引くための包丁。刺身を切る際に刃を往復すると素材の切断面が傷み、光沢がなくなることから一方向にのみ引き切ることができるように刃渡りが長い。関西型は先が尖り、その形状から柳刃(やなぎば)と呼ぶ。「柳葉」の字をあてることもあり、また、菖蒲の葉にも似ていることから「菖蒲」「正夫」と呼ぶこともある。関東型は蛸引(たこひき)と呼ぶが、刃が直線的で先端を平らに切落としたような形状になっており、柳刃よりもやや薄い。丸まった蛸の足を切るのに適したものなので蛸引と呼ぶとする説がある。先端が尖っていないのは喧嘩っ早い江戸っ子が喧嘩に使いにくいようにしたためだともいう。先端で細工切りがしやすいなどの理由で、近時は柳刃が関東も含め全国的に主流となっている。刃裏には裏すき、若しくは决り(しゃくり)と呼ばれる凹みがある。フグ刺し用には専用の特に薄くて鋭利なふぐ引きがある。てっぽう(関西方面でのフグの通称)用という意味でてっさ包丁とも呼ぶ。 
三徳包丁(さんとくぼうちょう)(英語:Santoku knife)
近年、日本の家庭で一般的に使われている万能包丁。 刃は薄く、野菜・肉・魚を一本で処理できることから「三徳」という。文化包丁(ぶんかぼうちょう)ともよばれる。
身卸包丁(みおろしほうちょう) 
出刃包丁の一種であるが、刃をやや細く長くして捌きから刺身を引くまで一本で間に合わせようとする亜種。
舟行包丁(ふなゆきほうちょう) 
身卸包丁と形は似ているが刃が薄く、魚から野菜の処理までこなす万能包丁。多くの料理道具を携帯できない釣り船などに持ち込む包丁の意。
ファイル:Tsukiji fish market thuna knife.jpg
鮪包丁によるマグロ解体
鮪包丁(まぐろぼうちょう)(英語:Tuna knife)
魚市場などでマグロを解体する際のみ使う特殊包丁。マグロ切り、マグロ切り包丁ともいい、刃が非常に長く、日本刀に近似しているが、若干しなるように作られている。マグロの解体は二人がかりで、一人はタオルを巻いた刃先を握るため非常に危険で扱いには熟練を要する。
鰻裂き(うなぎさき)(英語:Eel knife)
を捌く際に用いる。地方により形状が異なる。
穴子包丁
アナゴを捌く際に用いる。鰻裂きとほぼ同じ形状のものである。
鱧切り(はもきり)
ハモの骨切り専用の特殊包丁。
附庖丁(つけぼうちょう)
かまぼこを成型する特殊包丁。魚のすり身を板に盛るへらと包丁を兼ねる特殊な形状をしている。近年のかまぼこは手作業から機械成型に主流が移り、使用する職人も減り衰退している。
フグ引き
フグの刺身用の特殊包丁。
鰹包丁
を切るための特殊包丁。刃先が三角にとがった諸刃になっており鰹を容易にさばくことが出来る。
麺切包丁(めんきりぼうちょう)(英語:Noodle knife)
を切るための包丁。うどん切、そば切とも。麺切包丁を用いるときには、麺の太さを一定にするために小間板(駒板)が用いられることが多い。
寿司切り
巻寿司を切るための特殊包丁。刃の部分が円く曲線状に張り出している。
餅切り
を切るための特殊包丁。両手型のものもある。刃の部分が若干円く張り出している。
豆腐切り
豆腐を切るための特殊包丁。形状は麺切包丁に似ている。
寒天切り
寒天を切るための特殊包丁。刃の部分が横方向に波状になっている。
西瓜切り
スイカを切るための特殊包丁。大型のスイカでも最後まで割らずに切ることができる。
菓子切り
羊羹を切るための特殊包丁。

洋包丁

牛刀(ぎゅうとう)(英語:Chef's knife)
本来は食肉(枝肉)の仕分け用の、薄く、刃渡りが長く大きい肉切り包丁。野菜やパン切りなど様々な別用途にも使いやすい。
筋引(すじびき)
枝肉の解体で、いわゆる「ヒレ肉」(fillet meat) は、周囲を「スジ」と呼ばれる不要部分が覆っている。これを切り離す、「すじ引き」と呼ばれる作業のための、長く細身の包丁。海外の「フィレ・ナイフ」に相当する。
カービングナイフ(英語:Carving knife)
主にカービングフォークと一緒にローストビーフなどの肉の塊を切り分けるのに使われるナイフ。
スライサー(英語:SlicerまたはSlicing knife)
主に薄切り肉や刺身、ハムなどスライスする時に用い、刃先には丸みがあり牛刀を細身にしたような形状をしている。スライスイングナイフとも呼ばれる。
クレーバー(英語:Cleaver)
動物解体するとき肢の関節を叩き切るなどのように使う。叩きつけても刃先がまくれたり、曲がらずに使えるように刃が厚く重く、形状は四角形。
骨スキ(ほねすき)
骨から肉を切り剥がすために用い、東型と西型がある。海外のボーニングナイフ(Boning knife)に相当する包丁だが、Boning knife は刃が柔らかくしなるように作られており日本独特の包丁である。サバキとも呼ばれる。
ガラスキ
鶏など丸鳥の解体に用いる。軟骨や関節を切断するため、骨スキと同型だが刃が厚くまた長くなっている。
フィレナイフ(英語:Fillet knife)
ボーニングナイフと形は似ているが、刃がやや細く長く、ヒレ肉から魚類の処理までこなす万能包丁。刃は弾力性が高く、ほんの少し背のほうへ反っている。特に生の魚類を捌きやすく作られた洋包丁。
洋出刃(ようでば)
横から見た形状は牛刀と似ているが、スープ用の牛骨を刃の背で砕いたりするため刃が厚く頑丈で、牛刀とは用途が異なる。
ペティナイフ(英語:Paring knife
野菜・果物の皮むき、カクテルやケーキ用フルーツの飾り切りなど用途の広い小型の万能ナイフ。
パン切り包丁(英語:Bread knife
多孔質の柔らかいパンを切りやすいように、波形の刃になっているものがあり、切断面近くの組織をつぶさないように、刃厚が薄く幅が狭い。ブレッドナイフ、パンスライサーなどの名称で販売されている場合もある。食パンなどを均等な厚さにスライスする場合には専用のガイドを用いる。

その他の包丁

中華包丁(ちゅうかぼうちょう)(英語:Chinese chef's knife Chinese cleaver)
中華料理に用いられる身幅の大きい万能包丁。刃は四角いものが主流だが、魚料理の多い上海型は魚おろし用の切っ先を持つ三角形である。骨付き肉など硬い材料用の厚刃、野菜の刻みなどに用いられる薄刃、また、その両方を兼用する中間的なものがある。中華料理ではほとんどの食材を中華包丁のみで処理する。菜刀。方頭刀。
冷凍切り包丁
冷凍した食材をスライスする際に用い、刃先がギザギザの波刃になっている。刃の部分の厚みは2mm程度。冷凍ナイフとも呼ばれる。なお、業務用の製品の中には両手の部分に柄がある両手式のものもある。

上にあげたものの他にも、ケーキ用のケーキナイフ、チーズ用のチーズナイフ、貝をむく貝むき(シェルナイフ)など、特定用途に特化した包丁は枚挙にいとまがない。

なお、調理用途以外の刃物にも、表装などで紙や布の裁断に用いる丸包丁(本惣・相惣ともいう)、漆芸で用いられる塗師屋包丁、の製作に使う畳屋包丁、刻みタバコを刻む煙草包丁、各種野菜の収穫用に特化した包丁など「包丁」と呼ばれるものがあり、また、調理用であっても蒲鉾の成形に用いる手付包丁(附庖丁)のように刃物ではない(刃が無い)が包丁と呼ばれるものもある。

構造

ファイル:Yanagiba cookingknife.jpg
包丁の各部名称(和庖丁)

洋包丁と和包丁で構造が異なるが、厳密な区別基準というものは存在しない。概ね刃については、洋包丁は両刃(諸刃)で全鋼(刃全体が鋼でできている)であり、和包丁は片刃で、軟鉄の地金に鋼を貼り合せた合わせという)である。 むろん洋包丁でも軟鉄で鋼を挟んだものがあり、和庖丁には全鋼の本焼きがある。 柄については、洋包丁は中子を挟み込んで鋲打ちで留めているものが多く、和包丁は中子を柄に差し込んだだけの構造をしていることが多い。

  • 切っ先 - 刃先、刃の先端。力を掛けず細かな細工で使う。
  • そり - 刃線の中のでも変曲点、または曲率が変化している曲線部で切っ先から刃線までに位置する部分。
  • 刃線 - 切断に使う部分。
  • 刃元 - 力を入れた切断に使う部分。
  • 刃道 - 切っ先から刃元に至る切れる部分全体の名称。
  • 小刃(こば)、小刃止め - 刃道に僅かに付けた段差。切れ味を低下させずに永切れする(切れ味が低下しにくいこと)ようにするために付ける。小刃を付けることを小刃合わせ、糸刃合わせと言う。
  • あご - 柄から刃が出て突き出している部分。
  • マチ - 柄元となかごの境となる段。ない物も多い。みね側を上マチ(むねマチ)、刃側を下マチ(刃マチ)と言う。
  • 刃渡り - 切っ先からあごまでの長さ。マチ付きの包丁では先端からマチまでの長さ。
  • みね - 刃の後ろ側の部分。背、むねとも。
  • おおむね - みねの下側。
  • - 横側の部分。
  • 切刃 - 片刃の包丁の表にある斜めの平面部分。
  • しのぎ筋 - 平と切刃の境目の角になる筋。単に鎬(しのぎ)とも言う。
  • 刃境 - 合わせ包丁に見られる地金と鋼の境目。
  • 裏すき - 刃の裏側のえぐれ。これがあることで裏が平面にならないので食材が貼り付きにくく、抵抗が減って切りやすくなる。

また、うらすきがあると、裏を平面に研摩する時に砥石にあたる面積が減るため裏押ししやすい。

  • 裏押し - 刃の裏側の縁の部分を研いで付けた平面。刃裏とも言う。裏押しを付ける作業を指すこともある。裏押しが実質的な完全平面であるために、裏すきによって裏が完全な平面でなくても片刃の鋭利な刃が付く。
  • なかご - 柄の中に納まっている刃の根元部分。中子。
  • かつら - 和包丁で、中子を差し込む側の割れを防ぐために取り付けた輪っか。口輪とも言う。主にステンレスの金属製のものを口金(くちがね)、やや高級な水牛の角を用いたものを角巻(つのまき)と呼ぶ。特注の高級品は真珠貝を使用する場合もある一方、低価格の普及品では合成樹脂エボナイト製が多く、PC桂、プラスチック桂などと呼ぶ。桂は当て字。
  • ディンプル - 切ったものが包丁にくっつかないために刃の表面に高さの低い凸面を複数施したもの。
  • 鎚目(つちめ) - 表面を叩いて凹凸にしたもの。外観を整える効果があり、近年増加している。

刃の素材

  • 炭素鋼 日立金属の刃物用鋼材である安来鋼(青紙、白紙、黄紙など)、SK鋼(工具鋼)などが多い。
  • ステンレス 武生特殊鋼材のVG10鋼、日立金属の銀紙鋼など。以前は、ステンレスは錆びないが切れないので業務用には向かないとされてきたが、近年は充分な硬度と靭性をもったステンレス包丁も多い。
  • セラミックス 主にジルコニア系セラミックスが使用される。長期間切れ味が持続し、におい移りしにくいが靭性に劣り、研ぐには高速回転するダイヤモンド砥石などが必要になり、一般的に研ぎ直しは難しい。

材質は和包丁はが一般的だが、他に材や紫檀黒檀などもある。楕円や、利き手に応じて栗の実の形に削られるが、八角断面に成型される場合もある。洋包丁は合成樹脂強化木製が多く、ローズウッドマホガニー材のものもある。鍔有りと鍔無しとがある。最近は柄もステンレスでできたものもある。

通常、包丁には鞘を使わないが、白木(多くは朴材)の鞘が用意されている場合もある。 鞘に収める場合は、刃を完全に乾燥させてからでないと、中で錆が進行するおそれがある。

日常の手入れ

使ったあとは洗い、錆や柄の腐朽を防ぐため、水分を完全に拭き取っておく。しばらく使わない場合は、完全に乾かし、油を含んだ古新聞などの紙(新聞インクが油を含む)で刃を包んでおく。

研ぎ方

包丁を含めた刃物は使用による摩耗で切れ味が落ちるため、定期的に研ぐ必要がある。

現在の人工砥石は、細かさにより「番手」が表示されている。包丁は通常、1000番前後の「中砥石」と、2000番から4000番の「仕上げ砥石」の2つの砥石を使用し、中砥石でだいたいの刃こぼれなどを除き、その後、仕上げ砥で刃をつける。砥石は表面が平らな状態で使う。使用によって減り窪んだ砥石は、面なおし専用の砥石などを使い、平面を矯正しなくてはならない。砥石の一部分だけ使って砥ぐと表面が片減りするので、砥石全体を使う。

水砥石は、使用前に水に漬け、充分に水を吸わせる。砥石はぐらぐらしないようしっかり固定し、角度を一定にして砥ぐ。和包丁はふつう表(刃表・傾斜面)を砥石に密着させて砥ぎ(ベタ砥ぎという)裏側は、返りを取る程度に軽くとぐ。洋包丁は刃の両面を研ぐ。


その他

和式の包丁では、長年のうち柄の内部に水分が浸入し、中子が腐蝕してくることもある。柄の、刃の付け根部分にあらかじめ蝋をたらして防水することで、包丁の寿命を伸ばすことができる。

主な生産地

日本

日本の三大産地
その他の地域

右記は経済産業大臣指定伝統的工芸品の名称(伝統的工芸品 業種別一覧

欧州

台湾

脚注

  1. 語源由来辞典「包丁」[1]
  2. 荘子「養生主篇」については「養生主篇における思想及びその影響の一考察」黄華珍(岐阜聖徳学園大学紀要 外国語学部編2004)[2]に解説あり

関連項目

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参考文献