CIWS

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
移動先: 案内検索

CIWS(シウス、もしくはシーウス, Close in Weapon System)は、艦船を目標とするミサイル航空機を至近距離で迎撃する艦載兵器の総称であり、個艦防御システムの1つである。日本語では「近接防御火器システム」などと訳されている。なお、アメリカおよびNATO諸国では「シー・アイ・ダブリュ・エス」とそのまま呼称する。

概要

近代的な海軍では、経空脅威に対する軍用艦艇の自己防空は艦隊レベルのものから個艦レベルのものまで装備されている。特に性能向上が著しい対艦ミサイルに対しては、艦載機対空兵装の充実した艦船によって広い範囲での防空網の構築が行われ、長射程や短射程の艦対空ミサイルという射程の異なる複数の対空兵器によって多層的な防御が行われている。典型的な多層防御では、長射程の艦隊防空ミサイルスタンダードミサイルなど)により迎撃が行われ、次に個艦防空ミサイルシースパローESSMなど)および 76mm127mm砲などの火砲により迎撃が行われ、CIWSが最も内側での防御を担当する。同時に、チャフフレアECMなどの非破壊的な対抗手段(ソフトキル)により攻撃の無力化が図られる。

CIWSの運用にあたっては、実際の弾道とコンピューターの弾道計算との比較試験を定期的に行い(これをPAC射撃:PRE-ACTION AIM CALIBRATION 較正射撃という意味)、射撃精度を常時維持しておく必要がある。

一般的にCIWSの有効射程は数km程度であり、対処可能時間が数秒から十数秒ほどと短時間のため目標捕捉から初弾発射まで短時間に対応できる即応性と、高い命中精度及び目標を確実に撃墜できる高威力が求められる。高速で接近する大型の対艦ミサイルに対しては、小さな砲弾が数発程度命中しても、弾頭部の炸薬を起爆するなど十分に空中で破砕できなければ、高速運動体であるミサイルの残骸が推進剤や弾頭部の炸薬と共にそのまま艦へ突入してくる可能性がある。

CIWSは艦船にとってほぼ最後の迎撃手段となるため、搭載する艦船のレーダーなどのセンサー、火器管制装置に依存せず、捜索から目標捕捉、攻撃までの一連の動作が自動化されていることが望ましいとされる。

米国のCIWS

アメリカ合衆国では、対艦ミサイルの脅威が認識され出した1970年代以降、シースパロー艦対空ミサイルと並んで開発・導入されたのがファランクスCIWSである。

しかし、ガトリング機関砲を迎撃手段とするファランクスでは高速化する対艦ミサイルに対応しきれない恐れが高まった。対艦ミサイルを撃墜できたとしても破片などがそのまま船体に突入して被害が出る可能性が懸念されるのと、バルカン砲では数十秒で弾丸を撃ちつくしてしまうために、対艦ミサイルの飽和攻撃には対応できないことが指摘された。このため遠距離での迎撃を可能とする赤外線誘導ミサイルを使用したRIM-116 RAMが開発されたが、ファランクスを完全に代替するものとはならず、とくに大型艦では今後も両者が併用される。

また、アメリカ海軍が2種の沿海域戦闘艦で採用したボフォース 57mm砲は、CIGS(Close In Gun System)と呼ばれており、CIWSの役割も兼ねる。開発中のズムウォルト級ミサイル駆逐艦でも副砲としての搭載が予定されていたが、対舟艇用の30mm機関砲に変更されCIWSは搭載されないことになった[1]

米国の水上戦闘艦艇の多くが、CIWSを後部に1基もしくは相互の射界をカバーできる2基を前後ないし両舷に装備している。航空母艦揚陸艦などの大型艦は、艦の重要性や艤装スペースに余裕があることから、3基ないし4基を船体各所に搭載している。

ソ連・ロシアのCIWS

対艦ミサイル欧米に先駆け実戦配備してきたソ連海軍は、対艦ミサイル防御の最終ラインを担うCIWSについても率先して実用化、導入を行ってきた。主として対航空機用のAK-230に続きAK-630を実用化、ミサイル機関砲を組み合わせた複合型CIWS、CADS-N-1も他国に先駆け実用化し採用している。

AK-230ないしAK-630は2基1組で構成され、駆逐艦またはフリゲートでは2基もしくは4基、航空母艦巡洋艦などの大型艦は6基もしくは8基を搭載している。

イタリアのCIWS

テンプレート:Main イタリア海軍などでは ダルド・システム(DARDO)をCIWSとして採用している。 また、ダルド・システムに使用する砲にOTO メララ 76mmスーパーラピッド砲など中口径砲を使い、ストラレス誘導砲弾[2]を使用するCIGSも開発されている。

主なシステム

主なCIWSシステムは以下の通り。

テンプレート:Flagicon アメリカ合衆国

  • ファランクス
レイセオン社製のCIWS。

テンプレート:Main

  • Mk 110(ボフォース Mk 3)
ボフォース社製のCIWS。

テンプレート:Main

  • RAM(ラム)
レイセオン社製のCIWS。

テンプレート:Main

テンプレート:Flagicon オランダ

  • ゴールキーパー
タレス・ネーデルランド社製のCIWS。

テンプレート:Main

テンプレート:Flagicon ソビエト連邦/テンプレート:Flagicon ロシア

  • AK-630
1969年の登場以来、ソ連を中心とする東側諸国の艦艇に広範に採用されているCIWS。機銃・レーダー・光学照準器が別々に設置される分離式で、システムは火器管制装置、レーダー(バスティルト)1機に対し砲塔2門で構成される。

テンプレート:Main

  • CADS-N-1
1988年の新型CIWS。

テンプレート:Main

テンプレート:SUI

  • シーガード
エリコン・コントラベス社が開発し、トルコ海軍に採用されている。

テンプレート:Main

テンプレート:Flagicon スペイン

  • メロカ
バサン社製CIWSであるが、レーダーシステムは米国製を採用している。

テンプレート:Main

テンプレート:Flagicon イタリア

  • ダルド・システム(DARDO
システムのみのCIWSで特定の構成要素を持たず、使用する火器管制システム、レーダー、武器は自由に組み合わせることができる。
主にイタリア海軍で採用され、OTOブレダ社の76mmスーパーラピッド砲(発射速度毎分120発、射程14km)や40mm連装機関砲(発射速度毎分600発、射程7km)などの採用実績がある。
中国ではライセンス生産され、40mm連装機関砲をベースに37mm連装機関砲が用いられている。

テンプレート:Main

テンプレート:Flagicon 中国

  • 730型
中国人民解放軍海軍艦船に搭載されているCIWS[3]2002年に建造中の広州級駆逐艦に搭載されたことから存在が判明した。
外見はゴールキーパーや仏製のサモスに酷似しており、口径も同じ30mmである。システムは全自動の自己完結式で、照準はXバンドの TR47C 捜索・追尾レーダーと球形にまとめられた光学照準器とレーザー測距儀によって行う。30mm機関砲は7砲身で、毎分4,600-5,800発の砲弾を放つ。
新鋭艦に続々と搭載されているが、システム単価が4,000-5,000万と高価なのが欠点である(AK-630は砲塔4門でも2,500万元しかしない)。

テンプレート:Main

現在の各国のCIWSの比較

テンプレート:CIWS比較表

海上自衛隊のCIWS選定

対艦ミサイルを物理的に無力化する方法としては、ミサイルの誘導、操縦機能を破壊するコントロール・キルと、弾頭を直撃破壊するウォーヘッド・キルが考えられる。

海上自衛隊がCIWSを導入するに当たっては、前者の武器体系であるイタリアのダルドシステム(現行の砲システムの延長であるため導入はスムーズに行われるはずと考えられた)と、後者であるアメリカファランクスが比較検討された。なお、シグナール社にも訪問したと伝えられるが同社のゴールキーパーは候補とされていない。

しかし、ダルドシステムは評価が未了であり、実績という点(当時の海上自衛隊の砲システムの実績からしても理論どおりには命中しないと想像された)で導入するのに躊躇せざるを得ないこと、また、コントロール・キルでは、コントロールシステムを破壊してもミサイルはそのままの進路で飛来し、艦に損害を与える可能性があること、また、実際にコントロール・キルされているかどうかの確認が難しいことなどから、ウォーヘッド・キルであり、アメリカ海軍で徹底的な評価に合格しているファランクスが選定された。

しかし、ファランクスの20mm砲が使用する、通常の装弾筒付徹甲弾(APDS)ではミサイルの弾頭を確実に破壊するには威力不足であり、一方、アメリカ軍で採用している貫徹力の高い劣化ウラン弾は、国内事情から導入が難しく、その点がファランクス導入の障害となっていた。だが、日本同様劣化ウラン弾を導入できないオーストラリアにおいてタングステン弾で代用しても目的が達成できるため採用したという情報を得、日本でも技術研究本部にてタングステン弾を開発することにより、ファランクス導入の決定がされた。最初のファランクスは1981年就役の護衛艦くらま」に搭載された。

その後、タングステン弾は86式20mm機関砲用徹甲弾薬包として実用化、導入された。この砲弾が導入されるまではHE弾が使用されていた。

CIWSの陸上転用と類似兵器

元々艦載兵器CIWSのものである装置が、一部のシステムはそのまま陸上に設置して施設防衛用の対空砲としたり、陸上車両に搭載して自走式対空砲に転用されている例がある。しかし、これらは「CIWS」とは呼ばれない。

ファランクスと相似した陸上設置用20ミリ対空機関砲システムにVADS(Vulcan Air Defense System)があり、日本では航空自衛隊が基地の防空システムとして採用している。 また、アメリカ陸軍ロケット弾迫撃砲弾などを空中で迎撃する数種の兵器システムとしてCounter-RAM(Counter-rocket, -artilly and-motar)を開発中である。

一方、中国北方工業公司2004年に730型と同型の機関砲とレーダーを8輪駆動トラックに搭載した陸盾2000近接防空システムを発表した[4]。これは、8輪駆動トラックの後部にレーダーと機関砲を搭載したマウントを設置し、砲塔と操縦席の間の装甲区画に砲手が乗り込み作動させるものである。730型との違いは捜索レーダーが無いことで、指揮車両が敵機を捜索して情報を6両の陸盾2000に伝達できるようになっている。陸盾2000には、ロシア製の8輪駆動トラックにCIWSを搭載し、TY-90短距離赤外線誘導ミサイルを搭載したガン・ミサイルコンプレックス化した改良型もあるが、地上用に用いるにはシステムが大きすぎ、また、原型の730型が高価であることから配備は進んでいないようである。

戦闘車両の近接防御用火器

戦車をはじめとする陸上戦闘車両は、装甲板による直接防御による耐弾防御手法が主体であり、CIWSを含む艦載対空兵器のように、飛来する敵弾その他の脅威を積極的に撃墜して対処するという発想が余り無い。

そんな中、ソ連が開発したアリーナ(円形闘技場)やドロースト(つぐみ)、イスラエルが開発したトロフィーは、その希有な例といえ、これらはアクティブ防護システム(APS:Active Protection System)と呼ばれる[5]

関連項目

脚注

テンプレート:脚注ヘルプ

  1. Navy Swaps Out Anti-Swarm Boat Guns on DDG-1000s
  2. OtoMelara Dart Strales YouTube動画
  3. 日本周辺国の軍事兵器
  4. 日本周辺国の軍事兵器-LD-2000近接防空システム(陸盾2000)
  5. アルゴノート『月刊パンツァー』2005年12月号「T-80戦車シリーズの開発と発展」参照