ファランクス (火器)

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テンプレート:Infobox Weapon ファランクス(Phalanx)は、アメリカ合衆国レイセオン・システムズ社製、艦艇用近接防御火器システム(CIWS)であり、Mk.15の名称が付けられている[1]。6銃身のゼネラル・エレクトリック社製20mmガトリング砲M61A1を用い、捜索・追跡レーダー火器管制システムを一体化した完全自動の防空システムである。対艦ミサイルからの防御を主目的とする[2]

名称は、古代ギリシアで用いられた重装歩兵の密集陣形ファランクス」に由来する。

開発経緯

第三次中東戦争に続く消耗戦争の1967年10月に、エジプト沖で哨戒中のイスラエル駆逐艦エイラート」が、ポートサイド港のエジプト海軍ミサイル艇から発射されたソビエト連邦製のP-15対艦ミサイルに撃沈された。このエイラート号事件は、西側海軍に対艦ミサイルの脅威を知らしめた。アメリカ海軍は、この事件を契機に対艦ミサイル防御システムの開発を開始することとなった。

1969年に研究が開始され、1970年プロトタイプ実験、1976年に評価試験が行われ、1980年より配備開始。

特徴

構造

ファイル:Abukuma-ciws.JPG
マウント部から船体より独立していることが判る

ファランクスの中核をなすMk16武器グループは、探知距離5.6kmのKuバンドの捜索レーダーが納められた半球状の丸いレドームの下に同じく探知距離4.3kmのKuバンドの追跡レーダーが納められた円筒状の胴体が続き、下部に銃身が付いている。この上部システムは胴体中ほどでマウントに接続されている。砲とレーダーも含めた上部システム全体が俯仰し、マウントが全周旋回して標的を狙う構造である。最大射程4,500m、有効射程1,500m、有効迎撃距離550m、発射速度は毎分3,000発。弾倉容量は989発。自重6t。劣化ウラン弾芯APDSを使用していたが、1988年からはタングステン弾芯に切り替えられた。

動力配線を別にすれば、ファランクス・システムの構成要素は全てマウント上に配置されており、設置にあたって床面に穴をあける必要がない。したがって搭載艦艇の甲板強度や重心位置が許す限りどこにでも設置が可能である。このことは既存の艦船への後日装備が極めて容易であることを意味する。結果的にこのことがファランクス・システムのセールスポイントとなって各国海軍に広く普及することとなった。 テンプレート:Clearleft

射撃制御

目標破壊までは、以下の手順で行われる。システムが起動し、目標が射程内に入ると、20mmガトリング砲を発射する。発射した20mm弾の弾道をレーダーで追尾、目標とのズレを計測する。そのデータに従い、銃身の向きを変更し、銃弾を発射する。目標が破壊されるまでこの動作を繰り返し行い、目標が破壊されると、次目標の索敵を行う。これらは全自動で行われる。この制御手順は自動機器の基本的な制御手順の一つであるクローズド・ループ制御(またはフィードバック制御)を応用したものである。

この方式は後に登場したゴールキーパーなど、多くのCIWSで採用されている。

テンプレート:Multiple image テンプレート:- テンプレート:CIWS比較表

各型

Block0
最初の量産モデル。次のBlock1が登場したことでBlock0と呼ばれるようになった。
Block1
1988年から製造されている能力向上型。主な改良点は
  • 発射速度向上(3,000→4,500発/分)
  • 弾倉の大型化(989→1,550発)
  • 俯角を大きく取れるようにする(-10°~+80°→-20°~+80°)
Block1A
Block1のコンピュータシステムを更新したもの。
ファイル:Hyuuga 05.JPG
Block1B 右のレンズが赤外線センサ(FLIR)
Block1B
  • 新型レーダー
  • 改良型弾薬
  • 赤外線センサ(FLIR) による光学照準
  • 砲身の延長(1,520→1,981mm)
  • 制御システムの改良による遠隔手動操作
  • マウントの改良により俯角を大きく取れるようにする(-25°~+85°)
などの改良を受けて、
  • 小型の水上目標(体当たりしてくる自爆ボートなど)
  • 低速低高度の空中目標(無人機や爆弾を積んだラジコン飛行機など)
への対処が可能になった(Phalanx Surface Mode, PSuM)ほか、射撃精度がより向上した。

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採用国

NATO各国海軍を始め、21か国で870セットの採用実績がある。

アメリカ

アメリカ海軍1980年ミッドウェイ級航空母艦コーラル・シー」に搭載されたのを皮切りに1990年代までのほとんどのアメリカ海軍艦艇が装備していた。沿岸警備隊の一部カッターにも搭載された。

ファランクス・システムの短所は射程の短さ・20mm機銃の破壊力の小ささ・多数目標への同時対処能力の不足であると言われる。高速飛翔ミサイルに対しては、対処可能な時間が短くなることに加え、たとえ20mm弾が直撃しても敵ミサイルがほとんどそのままの速度で自艦に突入してくる可能性があるため、より高い能力のCIWSを求める動きもある。

一方で、破壊力をはじめとする能力の向上は重量などの増大を招くという問題もあり、現在でもファランクス・システムの生産は続いている。なお、90年代初頭にはファランクス Block2としてより大口径ガトリング砲を使用するバージョンも検討されていたが採用されなかった。当時の構想には25mmガトリンク機銃GAU-12 イコライザーを用いるもの(マウント重量がほとんど変わらず、威力がほぼ倍化される)や、まだ構想段階であった35mmガトリンク機銃(実現しなかった)を用いるものがあったと伝えられている。 結果としてアメリカ海軍は弾頭直撃型CIWSを拡大する方向には向かわず、ファランクスとともにRAMの様な近接防御ミサイルあるいは57mm砲 Mk 110の様な高機能砲弾を使用できる口径の火砲を次世代CIWSシステムとして採用しつつある。

アメリカ海軍は2003年7月12日就役のニミッツ級航空母艦ロナルド・レーガン」で従来のファランクスにかえて、多数目標への同時対処能力と高速飛翔ミサイルへの対処能力向上を目的に、ドイツと共同開発したRAM近接防空システムの搭載を始めている。このため、現在ニミッツ級ではファランクスのみ、RAMのみ、双方搭載と各艦の武装が異なっている。が、次世代のジェラルド・R・フォード級航空母艦アメリカ級強襲揚陸艦ではRAMとともにファランクスが搭載される予定である[3]

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日本

ファイル:Shirayuki ciws.JPG
護衛艦「しらゆき」のファランクス

海上自衛隊では高性能20mm機関砲と呼称され、ヘリコプター搭載護衛艦のしらね型が新造時から装備が計画されたが、昭和50年度計画艦の1番艦「しらね」は後日装備となり、実際には平成2年に装備された。昭和51年度計画艦の2番艦「くらま」は新造時から装備している。

汎用護衛艦では、はつゆき型昭和54年度計画艦の3番艦「みねゆき」から新造時に装備されるようになっている。また、他の護衛艦にも順次追加装備されている。自衛隊では当時のファランクス Block0で使用していた劣化ウラン弾を採用せず、独自にタングステン弾の「86式20mm機関砲用徹甲弾薬包」を開発・装備している。この弾薬が開発されるまでの一時期は航空自衛隊F-4EJ ファントムで使用していた弾丸を使用していた。

1996年6月にはハワイ沖で行われた環太平洋合同演習(Rimpac96)で、汎用護衛艦のあさぎり型ゆうぎり」が、標的曳航中のアメリカ海軍第115攻撃飛行隊(VA-115)所属のNF500(CAG)A-6艦上攻撃機を誤って撃墜している(パイロットは脱出)。

最新のBlock1Bは汎用護衛艦のたかなみ型4番艦「さざなみ」以降の新造艦に搭載され、イージス艦こんごう型4番艦「ちょうかい」、2番艦「きりしま」に改装により搭載された。この他、既存のファランクス・システムもBlock1Bに改装される予定。 テンプレート:-

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イギリス

イギリス海軍は、フォークランド紛争の戦訓からインヴィンシブル級軽空母にファランクスを採用したが、後により破壊力の大きなオランダのシグナール(Signaal)社製ゴールキーパー7銃身30mmガトリング砲に更新した。が、その後の新造艦では引き続きファランクスが採用される。

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その他

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出典

  1. Thomas, Vincent C. The Almanac of Seapower 1987 Navy League of the United States (1987) ISBN 0-9610724-8-2 p.191
  2. テンプレート:Cite web
  3. 世界の艦船』2010年1月号 特集 今日のアメリカ海軍

関連項目

外部リンク

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sv:M61 Vulcan#Phalanx CIWS