鳥海永行

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鳥海 永行(とりうみ ひさゆき、1941年10月29日 - 2009年1月23日)は、神奈川県伊勢原市出身の日本のアニメーション監督小説家で、アニメ演出家の押井守の師匠でもある。中央大学法学部政治学科卒。

概要

演出家としての代表作は、『科学忍者隊ガッチャマンタツノコプロ(1972-74)、『ニルスのふしぎな旅スタジオぴえろ(1980-81)。1983年に押井守と共同で監督したアニメ『ダロス』は世界初のOVA作品となった。

小説家としての代表作は、英仏百年戦争から日本の南北朝争乱までを描いた「球形のフィグリド」シリーズ(1988-91)。ジュブナイル誌・文庫を中心に執筆しながらも、伝奇的な要素を色濃く持つ歴史・時代小説を得意とし、境界を接するミステリーやファンタジー、SFといった作品にも手を染めた。

略歴

タツノコプロ時代

映画に興味を持っていたことから、中央大学法学部在学中にシナリオ研究所に通い、1966年2月にタツノコプロへ入社。鳥海は脚本家を志望したが、当時のタツノコプロには文芸部がなかったため演出部に所属し、九里一平笹川ひろし、原征太郎らの下で演出家の道を歩むことになった。漫画家からの転身でもなく、他のスタジオでのアニメの経験もない鳥海は、タツノコプロ育ちの演出家としては第一世代になる。

いくつかの作品で経験を経た後、前々から吉田竜夫社長より監督の打診を受けていた鳥海は、原からの推挙もあり、1972年に『科学忍者隊ガッチャマン』の総監督に抜擢された。当時としてはありえないほどのリアル志向とハードな描写・演出は「アニメは子供のもの」という常識を覆し、いわゆる「アニメブーム」の牽引役となった。特に第1話「ガッチャマン対タートル・キング」のメカ描写演出の迫力は現在でも高い評価を受けている。タツノコプロの代名詞とも言える大ヒット作となった。

以後、『破裏拳ポリマー』(1974年)、『宇宙の騎士テッカマン』(1975年)、『ゴワッパー5 ゴーダム』(1976年)とタツノコプロでテレビアニメを手がけていく。タツノコプロは1970年代後半から有力スタッフが抜けていくが、鳥海も1978年12月に退社してフリーとして活動を始めた。

スタジオぴえろ時代

1979年5月、布川ゆうじを筆頭に、案納正美川端宏高橋資祐上梨満雄、鳥海といったタツノコプロ出身演出家6人が発起人となり、『ニルスのふしぎな旅』(1980年)制作のためのアニメ制作会社スタジオぴえろを設立。鳥海はこの作品の総監督、演出を担当し、その丁寧な作品作りと確実な描写は絶賛を浴びた。その後も鳥海は、『ニルスのふしぎな旅』スタッフとの制作を望んで『太陽の子エステバン』(1982年)を監督。[1]日本でこそ大きな反響のなかった『太陽の子エステバン』だが、世界中では多大な反響を呼び、特にフランスでは続編の企画が複数回立ち上がり、21世紀に入った現在でも人気の高い作品となっている。

さらに鳥海は世界初のOVAとなった『ダロス』、同じくOVAで新谷かおる原作の『エリア88』といった戦場ものを手がけた。特に『エリア88』の完成度は高く評価され、第4回日本アニメ大賞オリジナルビデオソフト最優秀作品賞を受賞している。その後はスタジオぴえろを退社して再びフリーで活動した。

小説家としての鳥海

1978年末にタツノコプロを退社し、一時フリーになったのを機に執筆活動に入る。1979年7月、『月光、魔鏡を射る時』ソノラマ文庫(1979)でデビュー。その後出版された『時の影』ソノラマ文庫(1980)、『標的は悪魔』ソノラマ文庫(1981)までは伝奇ミステリーに分類されるような展開の作品が続く。

しかし、次第に歴史を舞台にした伝奇小説へ傾倒していく。明治時代をテーマにした『双頭の虎ー山嵐妖綺伝』のような例外もあるが、平安時代(『時の影』『水無し川かげろう草子』『妖門記』)、室町時代(『南国水狼伝ー球形のフィグリド』『聖・八犬伝』)など、古代中世の日本を舞台にした作品が多い。中世の御伽草子や近世の読本をはじめとして、すでに伝奇物語として成立している作品に史実を丹念に組み合わせて独自の世界観を構築するのを得意とする(『水無し川かげろう草子』(源頼光四天王による酒呑童子退治)、『聖・八犬伝』(南総里見八犬伝)など)。

作品群には一貫して、当時の社会常識や変動を描くことで、そうした環境に翻弄される人物の悲劇を描こうとする傾向がある。そういった意味で、鳥海の名前を最も知らしめたのが、百年戦争時のヨーロッパと南北朝時代の村上水軍を描く『球形のフィグリド』シリーズ(1988~91)である。戦乱社会を背景として略奪・後継者争いなどに翻弄される人々を二つの舞台から描いたこの作品は、末弥純の挿絵の魅力も相まって多くの読者を得た。

また、パイロット版の完成のみで計画が頓挫してしまったアニメーション企画『フルムーン伝説インドラ』を小説として発表(『フルムーン伝説インドラ(前編)(後編)』ソノラマ文庫(1982))して以来、自作アニメの小説版も手がけている。

2009年1月23日心不全のため67歳で死去。

エピソード

  • 鳥海は『ニルスのふしぎな旅』DVD発売時のインタビューで「自分のライバルを自分で育てることはないや」「人を指導しようという意識はなかった」と答えている。さらに「自分の仕事ぶりを見せれば、影響を与える」という考えがあったとも答えている。[2]しかし、鳥海を慕ってタツノコプロからスタジオぴえろへ移籍し、『ニルスのふしぎな旅』の各話演出として鳥海に仕えた押井守は、この作品で押井は鳥海に演出家として育ててもらったと回想している。タツノコプロ時代の鳥海を押井守、西久保瑞穂うえだひでひと真下耕一ら当時所属していた若手演出家達は厳しい人、怖かったと口を揃える。
  • SF作品を手がけたこともあるが、本人はSFにはほとんど興味が無いらしく、押井に勧められた映画『エイリアン』は冒頭で寝てしまったらしい。『ニルスのふしぎな旅』のような堅実な路線を描きたくて始めた『太陽の子エステバン』が、徐々にSF的様相を呈していくのは、9話から合作となり、フランス側からの意向を受けてのことだという。
  • 同じくタツノコプロに在籍し、同じ作品で仕事をした経験もある脚本家の鳥海尽三とは血縁関係はない。タツノコプロ周辺では、両人を体格から「タツノコの大鳥(尽三)、小鳥(永行)」と呼んだという[3]

作品リスト

小説作品

  • 『月光、魔鏡を射る時』 ソノラマ文庫(1979)
  • 『時の影』 ソノラマ文庫(1980)
  • 『標的は悪魔』 ソノラマ文庫(1981)
  • 『フルムーン伝説インドラ(前編)』 ソノラマ文庫(1982)
  • 『フルムーン伝説インドラ(後編)』 ソノラマ文庫(1982)
  • 『ダロスールナリアン伝説(神話崩壊編)』 講談社X文庫(1984)
  • 『水無し川かげろう草子』 朝日ソノラマ(1987)
  • 『LILY-C.A.T.(リリイ・キャット)』 ソノラマ文庫(1987)
  • 『黄金の国から来た男ー球形のフィグリド(1)』 ソノラマ文庫(1988)
  • 『天使の仮面を持つ悪魔ー球形のフィグリド(2)』 ソノラマ文庫(1988)
  • 『双頭の虎ー山嵐妖綺伝』 角川スニーカー文庫(1989)
  • 『死神たちの戦場ー球形のフィグリド(3)』 ソノラマ文庫(1989)
  • 『南国水狼伝ー球形のフィグリド(上)』 ソノラマノベルズ(1991)
  • 『南国水狼伝ー球形のフィグリド(中)』 ソノラマノベルズ(1991)
  • 『南国水狼伝ー球形のフィグリド(下)』 ソノラマノベルズ(1991)
  • 『妖門記』 朝日ソノラマ(1993)
  • 『折れた聖剣ー光の騎士伝説』 電撃文庫(1993)
  • 『青銅の魔剣ー光の騎士伝説』 電撃文庫(1994)
  • 『復活の神剣ー光の騎士伝説』 電撃文庫(1994)
  • 「黄金龍の息吹ー光の騎士伝説外伝」(『ドラゴン殺し』所収)メディアワークス(1996)
  • 『聖・八犬伝 巻之一 伏姫伝奇』 電撃文庫(1995)
  • 『聖・八犬伝 巻之二 芳流閣の決闘』 電撃文庫(1995)
  • 『聖・八犬伝 巻之三 対牛楼の仇討』 電撃文庫(1996)
  • 『聖・八犬伝 巻之四 庚申山の怪猫』 電撃文庫(1996)
  • 『聖・八犬伝 巻之五 妖怪城の逆襲』 電撃文庫(1997)
  • 『信長幻記 覇王欧州伝 ー冥府の軍師』ワニノベルス(1997)

監督

演出

監修

出典・脚注

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  1. 『ニルスのふしぎな旅 dvd-box1』解説書 p14「総監督鳥海永行インタヴュー」
  2. 『ニルスのふしぎな旅 dvd-box1』解説書 p13「総監督鳥海永行インタヴュー」
  3. 但馬オサム『世界の子供たちに夢を』メディアックス、2013年

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