魚つき林
テンプレート:単一の出典 昔から、漁業者の間には、海岸近くの森林が魚を寄せるという伝承があり、そのため海岸林や離れ小島の森林を守って来た歴史がある。そのような森林を魚つき林(うおつきりん、魚付林・魚付き林)という。現在、そのような名目で魚つき保安林という名のもとに保護を受けている区域もある[1]。
概要
古来、漁業を営む地域では、海岸の森林を守る習慣があり、岬の岩場に成立する海岸性の森林や、湾内の離島の森林に神社を設け、立ち入りを制限するなど、一定の保護を行って来た場所がたくさんあった。これは、森林の木影には魚が集まる、とか、森によって風当たりが弱まる、など、いくつかの理由のもとに、この森林があるから魚が集まるのだということを認知していたものである。本州南部ではヤマモモなどを使った例が知られる。それらの森の事を魚つき林といった。そのような形で残って来た森林を法的に保護するための名称が"魚つき保安林"であった。このような森林は、往々にして神社林のように扱われ、海岸の無人の小島には、島の海岸に鳥居が作られたり、島に小さなほこらが建てられたりしている例が多い。
科学的根拠
では、実際にそのような効果があるのかと言えば、科学的に明確な根拠、あるいは具体的な因果関係という点では、明確なものはわかっていない。しかし、恐らく過去に森を荒らして魚が減ったというような事があったためでなければ、このような伝承も残らないはずである。おそらく、いろいろな経験から、古人は森と海のつながりを知っていたものと思われる。
ところが、最近はこのようなことが認知されやすくなっている。 近年、"磯焼け"、つまり海岸の岩礁に海藻が生えなくなる現象が見られるようになり、これが実は山奥の森林の荒廃が進むにつれ、海へ流れ込む成分が変化したためではないかと言われるようになった。これに基づいて、川の源流を守る事が漁業を守る事につながるとの認識で、独自に植林事業にのりだす漁協が出現するまでになった。
このように、海の生態系と陸の生態系とのつながりを示す現象も次第に明らかになり、根拠も次第に集まりつつある。この両者の間で物質の移動が予想以上に大きな役割を持っている事が分かりつつある。今後はより広く森林保護が人間の生活を守る事につながるとの理解が進む事と期待される。
そのような意味で、魚つき林という言葉は、海と森林とのつながりの深さを表している。
陸と海との繋がり
森の生態系では、樹木や草木は、消費者の餌となる他、葉を落とし、また自身が枯れて分解者を通じて養分となり、ふたたび生産者のもとへ戻ってゆくが、その養分の一部は川を下って海に至り、海において海草・海藻の栄養分となる。海では陸に比べて無機塩類などの供給が制限され、陸上からの流入は貴重な存在である。海草・海藻は魚に食べられて植物性蛋白質となる。
海の生態系では光合成と無機塩類を材料に海藻や植物プランクトンが生産者として活動し、それを小魚が食べるといった食物連鎖へ続くほか、食物残些や海藻の粘膜、その他微小な有機物塊はバクテリアなどがそれについて分解する過程で重要な栄養分となる。これも食物連鎖へと続く入り口である。そうして育った魚の一部は、地上のほ乳類や鳥類の餌となり、陸上の生態系へと運ばれる。動物の糞や死骸は土に返って森の栄養となる。この時、海から持ち込まれる成分は、やはり陸の生態系では貴重なものとして、大きな意味をもちうるらしい。こうして、海の生態系と陸の生態系はつながっているわけである。
クジラの遺骸もまた、同様に陸へ持ち込まれて養分となっている。 鯨骨#遺骸としての鯨骨の座礁による遺骸も参照。
これは森と海の間で行われる物質循環のあり方の一部である。
魚つき保安林
魚つき保安林は森林法第25条に基づき指定される保安林の一つ。2011年3月現在、約6.0万ha指定(他の保安林との重複指定を含む)されている[2]。監督者は、農林水産大臣(国有林)及び都道府県知事(民有林(自治体所有の森林も含む))。現在指定されている魚つき保安林の多くは、第二次世界大戦以前に沿岸漁業の振興を期待して指定されたものであり、海岸線付近に集中していることが特徴である。近年、注目を浴びている河川上流部の森林(河畔林)が魚つき保安林に指定される例は、ごく少数にとどまっている。
脚注
参考文献
- 柳沼武彦 『森は全て魚つき林』 ISBN 4894740079