饗宴
テンプレート:Dialogues of Plato 『饗宴』(きょうえん、テンプレート:Lang-grc-short、シュンポシオン、テンプレート:Lang-en-short)は、プラトンの中期対話篇の1つ。副題は「恋[1]について」。
目次
構成
登場人物
後代話者
- アポロドロス(Apollodorus of Phaleron) - アテナイ近郊の漁村パレロン出身のソクラテスの友人・崇拝者。激情家として知られ、ソクラテス臨終の際には大声で泣き喚いた様が『パイドン』に描かれている。
- 友人(グラウコン[2])
回想部話者
- アリストデモス - アテナイのキュダテナイオン区出身のソクラテスの友人。回想は彼視点で語られる。
- ソクラテス - 53歳頃。
- アガトン - 悲劇詩人。ゴルギアスの弟子。饗宴の主催者。
- パウサニアス - アテナイのケラメス区出身アガトンの恋人。プロディコスの生徒。
- パイドロス - アテナイのミュリノス区出身。弁論家リュシアスの心酔者。彼を冠した対話篇もある。
- エリュクシマコス - 医者。
- アリストパネス - 喜劇詩人。『雲』によって、ソクラテスに対する大衆の偏見を広めた(『ソクラテスの弁明』)。
- アルキビアデス - 容姿端麗な名家の子息にして、政治・軍事指導者。ペロポネソス戦争では主戦論を展開し、ちょうど本作回想部の設定年代(紀元前416年[3])の翌年である紀元前415年、ニキアスの和約を破り戦争再開、その後亡命生活を繰り返すなど波乱の人生を送る。彼の師と看做されていたことが、ソクラテスが告発される一因となった(『ソクラテスの弁明』)。初期対話篇『プロタゴラス』にも登場。
時代・場面設定
紀元前400年[3]頃のアテナイ。アポロドロスは友人に、紀元前416年[3]にあった饗宴の話を教えてほしいとせがまれる。
アポロドロスは、ついこの間も、別の知人からその話をせがまれたことを明かしつつ、その饗宴は自分達が子供の頃のかなり昔の話であり、自分も直接そこにいたわけではないが、そこに居合わせたキュダテナイオン区のアリストデモスというソクラテスの友人・敬愛者から、詳しい話を聞いて知っていること、また、その知人にパレロンの自宅からアテナイ市内までの道を歩きがてら、語って聞かせたので、話す準備はできていることを述べつつ、アリストデモスが述べたままに、回想が語られる。
紀元前416年、アテナイの悲劇詩人アガトンが悲劇のコンクールで初優勝した翌日、アガトンの邸宅での祝賀饗宴に招かれているソクラテスが、身なりを整えているところに、アリストデモスは出くわし、一緒についていくことになった。アガトンの邸宅に着くと、28名の男達が集っており、ちょうど食事をするところだった。食事を終え、エリュクシマコスが今夜は演説で時を過ごそうと提案、論題を「エロース」に設定し、順々に演説を行っていくことになる。
翌朝、ソクラテスが帰るまでが描かれる。
内容
あらすじ
対話篇は大きく三つの部分にわかれる。
- エロス賛美の演説 - エリュクシマコスの提案で、愛の神エロスを賛美する演説を行うこととなる。パイドロス、他の23人(省略)、パウサニアス、エリュクシマコス、アリストパネス、アガトンが順に演説を行う。
- ソクラテスの演説 - ソクラテスは自分の説ではなく、マンネンティア出身の婦人ディオティマに聞いた説として、愛の教説を語る。
愛(エロース)とは欠乏と富裕から生まれ、その両方の性質を備えている。ゆえに不死のものではないが、神的な性質を備え、不死を欲求する。すなわち愛は自身の存在を永遠なものにしようとする欲求である。これは自らに似たものに自らを刻印し、再生産することによって行われる。このような生産的な性質をもつ愛には幾つかの段階があり、生物的な再生産から、他者への教育による再生産へと向かう。愛は真によいものである知(ソピアー)に向かうものであるから、愛知者(ピロソポス)である。愛がもとめるべきもっとも美しいものは、永遠なる美のイデアであり、美のイデアを求めることが最も優れている。美の大海に出たものは、イデアを見、驚異に満たされる。これを求めることこそがもっとも高次の愛である。(以上、ディオティマの説) - アルキビアデスの乱入 - ソクラテスの信奉者である若いアルキビアデスが登場する。アルキビアデスはすでに酔っており、ソクラテスが自分をいかに愛さなかったか、自分がソクラテスを愛者[4]にしようとしていかに拒まれたか、また戦場でソクラテスの態度がいかに立派なものであったかを語る。これはいままで抽象的に展開されてきた愛を体現した人として、プラトンが師の肖像を描こうとした部分といえる。
アルキビアデスの乱入のあと饗宴は混乱し、夜通し騒いだ後みなが宴席で寝静まったところに、ソクラテスは酔い乱れることもなく、体育場へ出て行く。
概要
導入
紀元前400年頃のアテナイ。アポロドロスは友人(グラウコン)に、かつてアガトン、ソクラテス、アルキビアデス等が饗宴でエロースについての演説を行った話を聞きたいとせがまれる。アポロドロスは、ついこの間も、知人に頼まれて話をしたばかりなので、準備はできていること、また、この話は自分達がまだ子供の頃の話で、そこに居合わせたソクラテスの友人アリストデモスから聞かされた話だと前置きしつつ、話を始める。
回想部導入
紀元前416年のアテナイ。悲劇詩人アガトンが悲劇のコンクールで初優勝した翌日、アリストデモスは、沐浴を終えて靴を履いたソクラテスに出逢う。アガトンの自宅での饗宴に呼ばれているのだという。そして、アリストデモスも一緒について行くことになった。
アガトンの自宅に着くと、28人の男達が集っており、給仕たちが慌ただしく食事の用意をしていた。アガトンがアリストデモスに、ソクラテスはどうしたのか尋ねると、アリストデモスは先程まで一緒だったのにと不思議がる。給仕が外に見に行くと、隣の家の玄関前で立ったまま考え込んでいるという。アリストデモスは、いつものことだから放っておけばいいと言う。
皆が食事を始め、半ば済んだ頃に、ようやくソクラテスがやって来た。皆が食後に酒を飲み始めると、パウサニアスが、昨日酒を飲み過ぎたので多少の休養が欲しい、どうしたら気楽に酒が飲めるかと問う。アリストパネスも賛同する。エリュクシマコスがアガトンに問うと、アガトンも賛同した。エリュクシマコスは、酒豪のアガトンがそう言うなら好都合だし、医術的にも酩酊は有害なので、今日は演説をご馳走に時を過ごすことを提案。一同、賛成する。
エリュクシマコスは、パイドロスからよく聞かされる「愛の神エロースが、詩人たちから無視・疎外され過ぎている」という意見を引き合いに出し、エロース賛美の演説を右回りで一人ずつ行っていこうと提案。一同、賛成する。
最初の演説は、パイドロスが引き受けた。
パイドロスの演説
パイドロスは、
- エロースは、カオスの中からガイアと共に出現した、原初神・最古の神々である。
- エロースは、我々人間を突き動かす最大福祉の源泉である。
- 特に、パイデラスティア(少年愛)に関わる双方にとって、美しく生きる源泉となる。
- 結論、エロースは、神々の最年長者であり、人類にとって最も権威のある指導者である。
といった旨の演説を行う。
次に、他の23人が順々に演説を行ったが、アリストデモスは忘れてしまった。
次に、パウサニアスが演説した。
パウサニアスの演説
パウサニアスは、
- パイドロスが「エロース」を無差別に、一緒くたにして扱ってしまっているのはよくない、そこには区別がある。
- 「エロース」と「アプロディーテー」(愛の神)は一体的な関係。
- 「アプロディーテー」には、「ウーラニアー」(天の女)[5]という異名・性格と、「パンデモス」(万人向けの神)[6]という異名・性格の区別がある。
- 「パンデモス」(万人向けの神)としての愛は、「万人向け」の名の通り、またゼウスとディオーネーという男女両性から生まれ、もう一方の「ウーラニアー」より遅く生まれた年少であるその出自・性格を反映して、凡俗な「肉体に対する愛」(肉欲)であり、魂をかえりみず、少年にも、婦人にも向けられる。
- 「ウーラニアー」(天の女)としての愛は、ウーラノスの男根から生まれた年長としてのその出自・性格を反映して、男性のみに、その強さと理性のみに向けられる。
- パイデラスティア(少年愛)においても、この区別(「肉体」を愛するか、「魂」を愛するか)がある。
- この関係が、「魂」のために、その「徳」「智慧」のために結ばれる時、アテナイではノモス(慣習)においても、誉とされる。
- したがって、「徳」を促す「ウーラニアー」(天の女)としてのエロースは、美しく、価値があり、他の「パンデモス」(万人向けの神)としてのエロースとは区別されつつ、特権的に賛美されるべきである。
といった旨の、プロディコスの弟子らしく言葉・概念の区別にこだわった演説を披露する。
次はアリストパネスの番だったが、しゃっくりが止まらず、代わりにエリュクシマコスが先に演説を行う。
エリュクシマコスの演説
アリストパネスの演説
アガトンの演説
ソクラテスの演説
アルキビアデスの演説
終幕
補足
人間の起源
エロスに関する演説では、ソクラテスの同時代人の文体と思想がさまざまに模倣されている。特に有名なものは、アリストパネスのくだりである。
男と女はもと背中合わせの一体(アンドロギュロス)であったが、神によって2つに切り離された。このため、失われた半身を求めるのだ、というもの。この部分はテクストの文脈を離れてしばしば参照される有名な部分である。配偶者のことをone's better half, one's other half というのは、この説話に由来する。
『ヒュペリオーン』への影響
ソクラテスが言及するディオティマは、「恋のことでもその他のことでも、何にでも通じる知者」とされる。ヘルダーリンの『ヒュペリオーン』に登場するディオティーマの造形はこれに多く拠っている。ディオティマは紀元前430年頃にはアテナイにいた実在の人物のように書かれているが、一般にプラトンの創作の人物であると考えられている。ただしフェミニズム哲学では、ディオティマの実在性を主張し、女性哲学者としての地位を与えようとする試みがあるテンプレート:要出典。
主な日本語訳
- 『プラトン全集〈5〉 饗宴 パイドロス』 藤沢令夫編、鈴木照雄訳、岩波書店、初版1974年 復刊2005年ほか
- 『饗宴 パイドン』 朴一功訳 京都大学学術出版会〈西洋古典叢書〉、2007年
- 『饗宴』 久保勉訳、岩波文庫、改版2008年、ワイド版2009年
- 『饗宴 恋について』 山本光雄訳、角川文庫、改版2012年
- 『饗宴』 森進一訳、新潮文庫、改版2006年
- 『饗宴』 中澤務訳、光文社古典新訳文庫、2013年
脚注
関連項目
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