阪急8200系電車
テンプレート:鉄道車両 阪急8200系電車(はんきゅう8200けいでんしゃ)は、1995年に導入された阪急電鉄の通勤形電車である。
目次
概要
1980年代後半からのバブル期に乗客増加で神戸線のラッシュ時輸送力が限界に達しつつあったことから、1995年に、子会社のアルナ工機で、ラッシュ時対策用の増結車として以下の2両編成2本(4両)が製造された。
- 8200形8200・8201
- 梅田寄り制御電動車 (Mc1) 。
- 8250形8250・8251
- 三宮寄り制御車 (Tc) 。補助電源装置および空気圧縮機を搭載。
同年6月12日の震災復旧によるダイヤ改正から運用を開始した。イベント時以外は神戸線のみで運用されている。本系列は8000系の派生系列であるが、車体構造も主要機器もともに試作要素を含むため、過去に製作された試作要素の強い車両である5200系や2200系と同様、形式の百の位が200番台とされている。
車体
構造
8000系に準じた構造・寸法の押し出し型材の溶接組み立てによるアルミ合金製車体を備える。
ただし、ラッシュ時の混雑緩和と乗降時間の短縮を目的として、従来の客室扉より200mm広い1,500mm幅のワイド扉を採用したため扉両脇の戸袋部が拡大し、扉間に従来同様に側窓を3枚配置することが困難となった。そのため、窓配置はd (1) D2D2D1(d:乗務員扉、D:客用扉、 (1) :戸袋窓、数字:窓数)となり、位置的に戸袋と干渉する乗務員室直後の細窓は固定式の戸袋窓とせざるを得なくなっている。
扉間および連結面寄り車端部の側窓は8000系の設計を踏襲し、空気圧動作による一斉/個別操作可能な下降式のパワーウィンドウとなっており、扉間の窓数が減少したこともあり、窓高さおよび窓幅を拡大して開口寸法を極力在来車に近づけるようにしている。なお、各側窓は戸袋窓や扉窓を含めすべて複層式の熱線吸収ガラスを採用しており、日よけは従来のアルミ製鎧戸を止め、フリーストップタイプの一般的なロールアップカーテンに変更している。
運転台寄り妻面は、設計当時風圧による問題を指摘され初期製造グループ以降幾度も形状変更を繰り返していた8000系および8300系の実績を受け、左右窓下辺直下のラインで「く」の字状に折れ曲がる複雑な3面折妻構成とし、8000系および8300系においてやはり位置移動で試行錯誤を繰り返していた形式番号を向かって左の車掌台側妻窓の内側下部に表示するようにし、電照式として夜間などの視認性を確保している。
妻面の種別・行先表示器は従来どおり幕式を踏襲するが、側窓の寸法を拡大した関係で車体側面の種別・行先表示器については省スペース化が可能なLED式を採用する[1]。
接客設備
座席については従来同様すべてロングシートであるが、ラッシュ時に最も混雑率の高い梅田寄りに増結すること[2]を前提として、既に東日本旅客鉄道(JR東日本)205系サハ204形6扉車などで採用実績があった折りたたみ式座席を関西の鉄道事業者としては初めて採用している。
この座席は空気圧動作のシリンダーを内蔵しており、運転台からの指令で開閉操作や手動での開閉の可否を切り替え可能としている。
車内の客用扉上には千鳥配置でLED式の車内案内表示装置と14インチの液晶ディスプレイを設置し、FM大阪のニュース(見えるラジオ)や天気予報、沿線情報が表示される。つり革も阪急では初めて枕木方向にも設置し、かつ同社で初めての三角型を使用。加えて車内中央部にスタンションポールを設置し、乗客がつかまるところを確保している。
冷房装置はラッシュ時の快適性を改善すべく冷凍能力10,500kcal/hの集約分散式を1基増やして4基搭載(他系列の多くは3基搭載)とし、座席下部のヒーターと併用して冬期の暖房能力を向上させるため、冷房機本体を冷暖房兼用のヒートポンプ式としている。
主要機器
制御器
VVVFインバータ制御装置は8000系と同様に東芝製で、スイッチング素子としてGTOを採用する。
ただし、8000系では1基のインバータ装置で4個のかご形三相誘導電動機を制御する1C4M制御方式によるINV032-A0を搭載しているのに対し、本系列では粘着特性の改善を狙ってインバータ装置を3セット内蔵し、それぞれ1個の電動機を制御する1C1M個別制御方式としたSVF018-A0を搭載している。また、この装置は日本製のVVVFインバータでは最初のベクトル制御方式[3]を採用、惰行制御も装備している。
主電動機・駆動装置
主電動機は東芝SEA-350[4]かご形三相交流誘導電動機を8200形の各台車に合計3基搭載する。この電動機は設計最高速度を130km/hとして将来のスピードアップにも対応可能なように8000系のSEA317[5]よりも出力に余裕を持たせて計画され、一方で高定格回転数仕様として磁気回路容量を削減することで軽量化を実現している。
駆動装置は神宝線系統で標準のWNドライブで、高定格回転数のため歯数比を8000系の5.31から6.13に引き上げて定格速度を8000系と揃えている。なお、この電動機は8両編成時の各電動車に4基ずつ搭載とすることで、最高速度130km/hの条件の下でもMT比3M5Tでの運転が可能な性能[6]を備える。
台車
台車は京都線8300系で先行採用されていた、Zリンク式牽引装置とモノリンク式軸箱支持機構を備える、住友金属工業SS-139系ボルスタレス式台車を装着する。
ただし、神戸・宝塚線用の本系列では駆動装置が異なることなどからサフィックスが付与され、それぞれSS-139A(8200形)・SS-039A(8250形)となっている。
ブレーキ
ブレーキ時の電力回生効率を向上させるため、制御器側の回生ブレーキを優先使用する設計のナブテスコHRDA-1電気指令ブレーキを搭載する。
各台車の基礎ブレーキ装置はブレーキ動作時の滑走防止を目的としてABS装置付のユニットブレーキとしている。
連結器
かつて宝塚本線では8両編成の宝塚寄りに増結される運用も存在したことから、8000系2両編成(8040・8190形含む)は梅田寄り先頭車にも電気連結器付き密着連結器を装着するが、神戸線では三宮寄りに2両編成が増結される運用はないため、事実上同線専用の本系列では梅田寄りは通常の密着連結器とし、三宮寄りのみ電気連結器付き密着連結器としている。
集電装置
集電装置は冷房装置の増強で屋根上スペース確保が困難となったことから、阪急電鉄では初採用となる、軽量小型のシングルアーム式パンタグラフが8200形に2基搭載されている[7]。
運用
本系列は1995年6月12日の神戸線全線復旧に伴うダイヤ改正から運用を開始し、このダイヤ改正で新設された梅田行き通勤急行[8]の内、特に混雑する2列車へ西宮北口で増結する運用に座席収納状態で充当された。その後、山陽電気鉄道本線に直通していた特急の増結車として、座席使用可能な状態で夕ラッシュ時にも充当が開始された。これは山陽電鉄線内各駅はホーム有効長の関係で6両編成までしか入線できないという制約があるためで、本系列を三宮駅で増結、切り離しを行ったが、1998年2月15日のダイヤ改正で山陽電鉄線への乗り入れが中止されたことに伴い、夕ラッシュ時の運用は廃止された。
それ以降、平日朝ラッシュ時の上り通勤急行梅田行き(8両編成)の混雑緩和を目的として、三宮発7:25と7:38の2本の8両編成の先頭に西宮北口駅4号線ホームで座席収納の状態で増結して、10両編成で梅田駅に到着していた。到着後はそのまま回送列車となり西宮車庫へ入庫したため、この時期には通常の営業運転で座席が使用されることはなかった。
座席収納の状態で運用されていた当時、本系列が充当される列車は定められており(上記の2本)、西宮北口駅ホームに掲示されている、10両運転する列車のみを記した時刻表にも「※大阪方前2両座席収納車」と注釈が付けられていた。なお、本系列が検査などで使用できない場合は、他系列で運行されていた。
本系列においては、収納式座席をはじめ阪急で初採用となる接客設備が多数採り入れられ、上述のとおり通勤急行用として朝ラッシュ時の混雑緩和に大きな威力を発揮した。しかし、運用開始前の1995年1月に発生した阪神・淡路大震災や、併走するJR神戸線へ接客設備と高速運転性能に優れた223系が新快速用として集中投入され同線の競争力が向上した結果、乗客数の減少により阪急神戸線の混雑が緩和されたこと、それに座席が収納されていて着席できないことに対して乗客から反発が出たことなどの事情から、本系列は初年度4両で製造終了となった[9]。このため、1997年に入り宝塚線用増結車の増備が必要となった際には、本系列の電装品と8000系の車体を組み合わせた8040・8190形に切り替えられている。2007年10月29日から優先座席復活などに併せて座席収納車両の運用を廃止したため、しばらく座席使用可能状態で運用された後、9000系に準じた内装に改造された(後述)。このため、改造後は三宮駅で増結される通勤特急などに使用されたりと、より幅広い運用がなされている。
本系列は2本とも増結車扱いであり、通常は平日朝ラッシュ時のみの運用である。
改造
座席収納車両の運用の廃止に伴い、2007年12月から2008年3月にかけて8200F・8201Fともに正雀工場にて以下の改造が行われた。
- スタンションポールの撤去。
- 枕木方向に配置されていたつり革の撤去。
- つり革の握り部を三角型から丸型に変更。
- 折りたたみ式座席を9000系に準じた仕切り板付きロングシートに変更。
- パイプ式荷棚を9000系と同じ棒状のものに変更。
- 床材をタイル状の模様が入ったものに変更。
- 車内の製造銘板が「アルナ工機」表記のみになり、製造年表記が削除された。
参考文献
『鉄道ピクトリアル No.837 2010年8月臨時増刊号』、電気車研究会、2010年
脚注
- ↑ この装置は設計当時のLEDの寿命がさほど長くなかったことなどから後の系列には波及せず、京都線用の9300系 (9300F - 9302F) では従来の幕式を踏襲、9000系および9300系9303F以降の編成と7300系リニューアル車、7000系 (7007F・7008F) でようやく新開発のフルカラーLEDが採用されている。
- ↑ 梅田駅は頭端式ホームで、主な改札口が一端に偏っているため、ラッシュ時には改札口との間の歩行距離が短くて済む梅田寄りの車両に乗客が集中する傾向がある。この傾向は1960年代中盤の2800系増備中に既に明らかになっており、同系列では2両から4両の編成を2セット組み合わせて運用されていたが、この問題から収容力の大きな運転台のない車両を含む編成を梅田寄りに連結するよう、編成替えを実施している。なお、この編成中各車の乗車率が偏る傾向は、梅田駅移転による乗客の歩行距離増大でさらに拍車がかかった。
- ↑ 中沢、戸田、島田:「ベクトル制御を適用した車両駆動システム」、第33回鉄道におけるサイバネディクスシンポジウム論文集、516、pp.247 - 250、1996.11
- ↑ 1時間定格出力200kW。
- ↑ 1時間定格出力170kW。
- ↑ 言い換えれば、8200形は2両編成でMT比3:5を維持するために主電動機を1基減らして3基搭載としている。なお、8000系のSE317でも現行ダイヤの下では電動車1両あたり4基搭載で3M5T運転が可能な性能を備えている。
- ↑ 8300系8315Fと同様の集電舟が1本のタイプである。
- ↑ 朝ラッシュ時のみ5本を設定。
- ↑ なお、関西の各社局では本系列以降、ラッシュ時対策として全座席を収納可能とした車両を導入する動きはない。