鋼
鋼(はがね、こう、旧字体で釼とも書く。)とは鉄を主成分にする合金を指し、鉄の持つ性能(強度、靭性、磁性、耐熱性、自己潤滑性など)を人工的に高めたものである。鉄の代表的な不純物である炭素の含有率で見た場合、軟鉄と鋳鉄の間の、炭素の含有が0.3%~2%のものの総称である。ただし0.3%以下でも、ステンレスや耐熱鋼などは鋼として扱われる。軟鉄や鋳鉄とあわせて鉄鋼(てっこう)あるいは鉄鋼材料とも呼ばれ、鋼でできた材料を鋼材(こうざい)、板状の鋼材を鋼板(こうはん)と呼ぶ。日本語の「はがね」の由来は「刃金」である。20世紀後半には多くの新材料が発達したが、鋼は依然として産業上重要な位置を占めている。
目次
定義
語源
鋼(はがね)の語源は、刃物に使用されるために作られた金属を意味するテンプレート:ルビであり、それ以外も含めて鉄鋼材はすべて鍛えた鉄という意味でテンプレート:ルビと呼んだ。それは鉄器時代の大半が刃物・工具など、現在でいう特殊鋼用途に鉄鋼が使われ、構造部材へ鉄鋼が大々的に使われるのは産業革命以降であることと関係する。現在では、刃物専用以外の鋼材も含めて精錬技術によって造られた鉄鋼材全般をテンプレート:ルビ・テンプレート:ルビと呼ぶ。また、錬鉄・鋳鉄などを含めて鉄鋼あるいは鉄鋼材料と呼ぶ。一般に鋼とは、鉄に炭素が重量比で、0.3 - 2.0% 程度混ざった合金であり、鉄器時代にはそれを鍛造段階で軟鉄に接合して刃物が製作されていた。したがって鋼とは、一般に鉄とは異なり、硬い刃先を形成している物質を指していた。ここを原点にさまざまな鉄合金が発達し、そのつど鋼の定義は拡大解釈されて現在に至っている。鉄鋼はドイツ語の「Eisen und Stahl」の訳が語源とされているが、日本で最初に「鉄鋼」という呼び名が使われたのは雲伯鉄鋼合資会社(現・日立金属安来工場)の社名が原点とされているテンプレート:要出典。雲伯鉄鋼合資会社による鉄鋼製品の源流は「たたら製鉄」であるが、ここでいう「鉄鋼」とは新案特許「製鋼法」(明治39年(1907年)取得)からなる錬鉄をさす。その内容は、
といったものであった。すなわち、国内で言う鉄鋼製品とは雲伯鉄鋼合資会社からなる新特許法の錬鉄(伊部式包丁鉄と言う)が出発となる。
鋼は、錆びやすいという欠点はあるものの、炭素含有量や熱処理の仕方によって、材料強度や耐食性、耐熱性、磁気特性、熱膨張率などを変えることが可能である。鋼と呼ばれないものには、鋳鉄、錬鉄などがある。これは使い勝手から来る要求性能よりも作り勝手を重視しているからである。語感からいうと、熱処理などによって優れた強度・硬度をもつものを鋼と呼ぶように認識されがちなのは、その原義が日本語では刃物の金=刃金=鋼であり、漢字としても強く硬い(剛い)金=鋼という昔からの概念に、近代の合金という意味合いを重ね合わせたためである。この古い概念に相当する鋼は、金属組織学上マルテンサイト組織と呼ばれ、その状態はもっとも強靭な状態である。
金属学からの定義
現在の金属学からの定義は、Fe-C系2元合金において、C含有量が0.0218 - 2.14%の範囲にある部位である。言い換えると、フェライトのC最大固溶量・0.0218%からオーステナイトのC最大固溶量・2.14%までの範囲の部位とも定義できる。
なお、Fe-C系2元合金において、C含有量が0.0218%以下の部位を鉄と呼び、2.14[mass%]以上の部位を鋳鉄と呼ぶ。
製鋼法
鋼の生産は、先ず赤鉄鉱や磁鉄鉱など採掘された酸化鉄である鉄鉱石を高炉で還元させて銑鉄を得る。縦長の高炉上部から、鉄鉱石・コークス・石灰石を投入し、下部から熱ガスと空気を送り込んで800℃以上を維持するよう燃焼させる。これにより、コークスから発生する一酸化炭素が酸化鉄を還元させる。この工程は高炉の耐久性限界まで連続して行うのが通例である[1]。
これにより銑鉄が得られるが、次に未だ多く含まれる炭素など不純物を取り除く製鋼工程に進む。ここでは、珪素、リン、硫黄などを除去し、炭素の含有率を0.5 - 1.7%程度に調整する。この方法には転炉と平炉がある[1]。
転炉(転炉製鋼法)は1856年にイギリスの発明家ヘンリー・ベッセマーが開発し、彼の名を取ってベッセマー法と名づけられた技術は初めて鉄鋼の大量生産を可能とした。珪石製煉瓦を内部に張った炉に銑鉄を入れ加熱空気を送る。これにより不純物や余分な炭素を燃焼させて酸化し除去する。この方法によって20トンの製鉄を30分以下で行うことが可能となった。当初の技術ではリンの除去は不可能だったが、1887年にシドニー・ギルクリスト・トーマスが白雲石粉末を裏張りした転炉を用いる方法を開発し、リンをリン酸カルシウムの溶滓(ようさい)として取り出すことが可能となった。この溶滓は肥料に転用された。現在は、1946年にオーストリアで開発された空気の代わりに酸素を用いるLD転炉法が主流となっている[1]。
平炉は反射炉の一種で、シーメンス・マルタン法と呼ばれる。鉄鉱石と屑鉄(スクラップ)を混合し加熱して不純物を酸化・除去し適度の炭素を残す。加熱には電気アークが用いられる[1]。
このほかにスクラップを用いる電気炉生産方式(電気炉製鋼法)がある。日本での生産割合は、転炉製鋼法が約75%、電気炉製鋼法が約25%である。日本古来の製鋼法を「たたら吹き」と呼び、日本刀の原料、玉鋼を極少量であるが非営利目的で製造している。
鋼の種類
鉄鋼材料はいろいろな名前で呼ばれている。また、分類法によって、同じ鉄鋼材料が別の名前で呼ばれることがある。
鋼は機械・金型・工具に長く使われた伝統があり、その用途ごとに、鋼種の改良が進んできたため、例えばJISの鋼種の分類も、銅などの合金が比較的成分の系列にしたがって系統的に命名されているのに比べて、用途別や、製法によるものや、強度区分を含むもの、成分の1つである炭素量を示すものなどがあって、解りにくいものになっている。強度の高い高張力鋼板(ハイテンHTSS)を加工する金型なども特殊鋼の一種である工具鋼という同一強化機構を用いているのは、鋼の幅広い強度調整力を示す好例である。
例えばS45Cという鋼種は炭素量0.45%の鋼をいい、SUJ(軸受鋼)は、ボールベアリングの内外輪に使われる鋼種であるということを示す。
さらに、各国の規格において鋼種の呼称が異なっている。例えば
鋼の特長は、まず鉄に軽微な合金化を行うことにより最も強靭な固体材料を生成できることにある。次に資源が豊富であり比較的酸素との親和性が低いため安価に精錬ができてきたのが多用される重要な要素である。また、別元素との固溶限が大きく合金化しやすい側面もあるため多様な合金が開発されてきた。合金元素を添加することによって、ケイ素 (Si) を添加した電磁鋼、ニッケル (Ni) やマンガン (Mn) を添加した非磁性鋼、クロム (Cr) やニッケル (Ni) を添加したステンレス鋼、最も原始的な炭素にさらに別合金元素を添加することにより、飛躍的性能を持つ工具鋼、高速度鋼などさまざまな用途に適した性能をあたえることができる。これら、工具鋼系などは全合金系のなかではもっとも複雑化、高度化した合金とも位置付けられる。
成分からの分類
鉄鋼には様々な種類が存在する。ここに代表的なものを列挙する。
炭素鋼と合金鋼は、成分からの分類では、以下のようにさらに細かく分類できる。
- 炭素鋼(JIS記号:S○○C)
- 低炭素鋼(炭素含有量が約0.3%以下)
- 中炭素鋼(炭素含有量が約0.3 - 0.7%)
- 高炭素鋼(炭素含有量が約0.7%以上)
また、
- 極軟鋼
- 軟鋼
- 半軟鋼
- 硬鋼
- 最硬鋼
という分類もある。
- 合金鋼
- 低合金鋼
- 中合金鋼
- 高合金鋼
また、炭素鋼は、組成(標準組織)や炭素濃度の上から以下のように分類できる。
- 共析鋼
- パーライトのみからなり、炭素濃度は0.77%。
- 亜共析鋼
- 初析フェライトとパーライトからなり、炭素濃度は0.02% - 0.77%。
- 過共析鋼
- 初析セメンタイトとパーライトからなり、炭素濃度は0.77% - 2.11%。
性質からの分類
用途からの分類
JIS規格ではこの分類法が用いられている。
形状からの分類
加工法
表面硬化処理及び表面処理
世界の主要鉄鋼メーカー
主要な鉄鋼メーカーを、粗鋼生産量順(2012年)に並べた。
- アルセロール・ミッタル(テンプレート:Flagicon ルクセンブルク)
- 新日鐵住金(テンプレート:Flagicon 日本)
- 河北鋼鉄集団(テンプレート:Flagicon 中国)
- 宝鋼集団(テンプレート:Flagicon 中国)
- ポスコ(テンプレート:Flagicon 韓国)
- 武漢鋼鉄(テンプレート:Flagicon 中国)
- 江蘇沙鋼集団(テンプレート:Flagicon 中国)
- 首鋼集団(テンプレート:Flagicon 中国)
- JFEスチール(テンプレート:Flagicon 日本)
- 鞍山鋼鉄集団(テンプレート:Flagicon 中国)
参考文献
- テンプレート:Cite book
- 『日本の鉄鋼業』(日本鉄鋼連盟、2013年)
脚注
関連項目
外部リンク
- 日立金属「たたらの話」
- 社団法人 日本鉄鋼協会 (ISIJ)
- 社団法人 日本鉄鋼連盟 (JISF)
- 社団法人 日本鋼構造協会 (JSSC)
- 低温でもしなやかで強い鉄、超微細結晶粒鋼の靭性の逆温度依存性を発見、 2008年5月23日、物質・材料研究機構テンプレート:Link GA