荷電粒子砲
荷電粒子砲(かでんりゅうしほう)は、高速の荷電粒子を撃ち出す兵器。
原理的には現代の技術でも実現可能だが、加速器の小型化がなかなか進展しないため、まだまだサイエンスフィクション上の架空の兵器である。
概要
砲弾として用いられる荷電粒子(電子、陽子、重イオンなど)を、粒子加速器によって亜光速まで加速し発射する。
荷電粒子は磁場により容易に偏向するので、地磁気の影響を受けやすい。また、宇宙空間にあっては、太陽風など他の荷電粒子束の影響も受けるため、質量の大きい荷電粒子でなければビームを真っ直ぐ飛ばすことが難しいと考えられている。よって、(2基の粒子加速器で原子核と電子を別々に加速し、同じ速度まで加速した原子核と電子を発射直前にミックスし、射出時に電気的に中性な原子にして発射する)中性粒子ビーム砲が本命とされており、レーガン時代のSDIでも盛んに研究された。
誤解されがちだが、ここに記載されている理論を用いれば、原理的にも技術的にも実現は可能である。しかし、現代の地球上では必要とされる超絶な量の電力が得られず(大気圏内で荷電粒子が直進するには、質量の大きな荷電粒子であろうと、最低でも10ギガワットの出力が必要である)、地球上での減退の問題(荷電粒子が空気中を通過すると、ある一定距離まではほとんど減衰しないが、ある距離を越えると急激にエネルギーを失い、ついには停止してしまう(ブラッグピーク)。停止するまでの距離を「飛程」と呼ぶ)もあって、実用化には未だ至っていないのが現状である。
反物質粒子砲
砲弾として反粒子(陽電子、反陽子など)を用いる場合は、単なる荷電粒子による破壊効果のみならず、目標との対消滅が期待できる。ただし、大気中を進行する反粒子ビームは対消滅による粒子の減衰が激しく、威力と射程が極端に落ちると考えられる。 また、ビームとして利用できるほどに粒子を加速した場合は反粒子の静止エネルギーよりも運動エネルギーの方がはるかに大きくなるため、対消滅の恩恵はほとんど得られないと考えられる。
フィクション上の描写
フィクションにおける荷電粒子砲は、数え知れないほど存在する。また、劇中では程度の差こそあれ、強力な兵器として描かれることが多い。特定の粒子等を亜光速(あるいは光速以上)まで加速し発射、なおかつ真空中でも視認可能と考えられたため、アニメの描写において重用されている。
- 機動戦士ガンダム
- 監督の富野由悠季は、「ガンダムシリーズ(この場合は、宇宙世紀を舞台とした作品)に登場するビーム兵器の類は荷電粒子砲であり、その原理はブラウン管式テレビジョンの電子銃と同じ原理だ」と説明している。
- 勇者王ガオガイガー
- 1話のゾンダーが電子レンジ利用の荷電粒子砲を使用。
- ゾイドシリーズ
- 公式ストーリー、アニメ版、漫画版、ゲーム版など全てにおいて、最強兵器の1つとして描かれている。設定は「空気中の静電気を取り込み、体内でエネルギーに変換し、さらに増幅。粒子ビームとして放射し、対象を原子レベルに分解してしまう」[1]ものとされ(後に、荷電粒子吸入ファン無しでの荷電粒子砲の開発・装備にも成功している)、荷電粒子の定義も地球上のものとは大きく異なっていると思われる(エネルギー=荷電粒子ではない)。舞台となる惑星Ziは、地球より遥かに大きな磁場があるとされるが、荷電粒子砲の直進に成功している。また、初期設定時代およびアニメ版においては空気中に荷電粒子が漂っているものとされる。[2]
- 新世紀エヴァンゲリオン
- 加粒子ビームを用いた超長距離射撃で攻撃してくる第5使徒・ラミエルを撃破するため、試作型の自走陽電子砲を改造してスナイパーライフルを急造し、狙撃するという「ヤシマ作戦」が実行される。地球の自転や磁場による軌道のズレは狙撃役であるエヴァンゲリオン初号機及び本部にあるMAGIにより補正、ラミエルのA.T.フィールドを貫通可能とする大電力(1億8000万キロワット)は日本全国を停電させて徴用するという大規模な作戦であった。
反物質を使用したビーム兵器は、撃った瞬間に全ての反物質が大気中の物質と一斉に反応し、撃ったもの諸共大爆発するという説[3]があるが、ライデンフロスト効果と同じ理由で反応が阻害されるため、そのようなことは起こらないという説もある。 また『宇宙空母ブルーノア』に登場した「反物質投射砲」では、反物質に先立ってプラズマを投射することで、対消滅による減衰を防ぐという設定だった。
医療への応用
兵器としては完成していないが、医療分野においては重粒子放射線治療として癌治療のひとつとして実用化されている。放射線治療に用いられる荷電粒子は電子と陽子が主である。陽子より原子番号の大きなイオンを用いる場合は重粒子線治療と呼ばれ、その場合は炭素原子などが用いられる。陽子線治療と重粒子線治療を総合して粒子線治療と呼び、電子を照射する治療方法(電子線照射)は通常粒子線治療には含めない。ただし、一般的な放射線治療に用いられる放射線としてエックス線、ガンマ線と並んで電子線は主要な地位を占めている。
兵器としての荷電粒子加速装置が機器や生物、建築物等へ対するマクロな破壊を目的としているのに対して、粒子線治療は粒子が持つ電荷が細胞核中のDNAを損傷することによる細胞致死効果を治療原理としており、ミクロな破壊を目的としているところに本質的な違いがある。荷電粒子は電荷を持たないエックス線やガンマ線とはその作用機序が異なり、ブラッグピーク深を目的の治療部位の深度に充てることで効率的に癌にダメージを与えるように治療が計画される。
粒子の加速にはサイクロトロンやシンクロトロンなどが用いられる。放射線治療の分野においても加速器の小型化と言うのは大きな問題であり、現在用いられている治療用の粒子加速装置は円形加速器で半径数メートルから数10メートルの大きさになる。そうなると放射線照射室内に加速器を置くことは困難なので、大概の粒子線治療施設では加速器は地下か地上の別施設に置かれそこで加速した荷電粒子を偏向磁石を使って照射室の照射ガントリまで飛ばしている。 治療用の数MeVのX線を発生させるために電子を線形加速する装置であるリニアックでも、筺体は一般的なサイズで高さ2メートル程度になる。
脚注
- ↑ 機獣新世紀ゾイド ZOIDS 公式ファンブック(ISBN4-09-102830-6)60p
- ↑ ゾイドバトルストーリー2(1987年刊)p25に「大気中にある荷電粒子を~吸い込み~」と書かれてしまっている
- ↑ 空想科学読本等で指摘されている。