紙飛行機
紙飛行機(かみひこうき、英語:paper airplane, paper plane, etc.)とは、紙で飛行機を模した形を作り、飛ばして遊ぶもの。一枚の紙を折って作る折り紙飛行機を指すことが多いが、部品を紙から切り抜き貼り合わせて作る組立て式紙飛行機もある。なお厳密には、普通は動力機でないため、「紙航空機」ないし「紙滑空機(グライダー)」であり、英語でもペーパーグライダーやペーパーダートとも言うが、紙飛行機、ペーパーエアプレーン、もしくはペーパープレーンとするのが一般的であり、当記事でも以下「飛行機」とする。
ペーパークラフトの一種であるが他の多くのペーパークラフトが形に重きを置くのに対し、飛ぶ(滑空する)という工学的な機能に重きを置く点が特徴である。
目次
歴史
紙で玩具をつくることが始まったのは約2000年前の中国だと考えられているが、紙飛行機発祥の地を正確に説明することはできていない。
木材や竹などを使った(翼など紙を張ることもある)模型飛行機は有人の動力飛行機以前に作られ、実機の参考や試作とされてきが、紙飛行機についてはよくわかっていない。
紙飛行機の製作が分かっている最古の年代は1909年だと言われているテンプレート:要出典が、最も広く認められているのはノースロップ社のジャック・ノースロップが1930年につくったものであるテンプレート:要出典。ノースロップは現実の飛行機のアイデアを得るために、紙飛行機をテストとして使っていた(ノースロップ社が開発に挑戦した無尾翼機やジャック・ノースロップが並々ならぬ熱意を注いだ全翼機は設計が非常に難しい)。
ドイツでは、第一次大戦後の空白期(ヴェルサイユ条約で軍用機の禁止にとどまらず動力機は制限された)に、後のHe111やJu 88などの原型(民間機として設計された)など重要な計画で基本性能と構成の確認のために紙製の模型を使ったテンプレート:要出典。
紙飛行機のデザインは速度・揚力・型といった面で長い年月をかけて改善され続けてきた。
折り紙飛行機
正方形ないし矩形(たいていは白銀比か黄金比ぐらい)の紙を使うことが多い。それ以外の形を使ったり補助的に切ったり切り取るものもある。これらの紙を折って作るもので、折り紙の一種でもある。普通は手で投げて飛ばす。日本のものでは、古くはトンビと呼ばれるものや、よく知られているものとしては滞空時間の長いへそ飛行機、まっすぐ遠くへ飛ぶやり飛行機や、先尾翼風の翼のあるイカ飛行機、宙返りが得意なツバメ飛行機などがある。
いずれのタイプでも、正確で強い中心線が左右のバランスを取り直進性を高めることにつながる(以降の折り方は左右対称で行われる)。多くの飛行機では、次に機首側を三角形にして折り込んでいく。これは重心を前寄りにするためである。一般に機首が上がれば揚力が大きく、下がれば小さくなるため、重心を空力中心のやや前方にすれば迎え角を自動的に調整する効果(風見安定)が期待できる。充分な面積を持つ、ゆがみのない翼をつくり、空中で水平に広がる角度に調整できていれば、途中どのような折り方をしても最終的には何とか飛ぶことが期待できる。
広島県福山市には約800種類の紙で作った色とりどりの紙飛行機が展示された「紙ヒコーキ博物館」がある。毎週土曜日のみの開館だが専門家が在館しており、良く飛ぶ折り紙ヒコーキを教わることができる。また、同県神石高原町の米見山山頂公園には「とよまつ紙ヒコーキ・タワー」があり、地上15mの展望室から自分で折った紙飛行機を飛ばすことが出来る。
航空工学的側面 - 低レイノルズ数の飛行
模型の航空工学については模型航空#模型航空機の工学理論など、学術面の研究も参照の事。
通常の飛行機の翼断面形状(翼型)は上に凸であるのに対し、紙飛行機はたいてい薄い板状である。紙飛行機の翼型を、飛行機を真似てキャンバー(ふくらみ)を付けたり前縁を丸くしても性能は良くならないと言う。同様にトンボの翼型も前縁が尖っており、かつギザギザであるがこのほうが性能がいいという。これはレイノルズ数の違いが原因であると言われている。レイノルズ数は速度と注目する長さに比例するため、紙飛行機やトンボにとっての空気の流れは、飛行機と比べると3ケタほど小さなレイノルズ数であり、小さくてゆっくりと飛ぶものほど空気の粘り気の影響を強く受けることになる。ゴムのカタパルトで時速100kmを超える高速で発射される紙飛行機の場合には、発射直後と上空を時速数キロでゆっくりと滑空している場合でとはレイノルズ数がまったく異なる。
世界記録
折り紙飛行機
- 屋内飛行距離の記録(ギネス・ワールドレコーズ)
- 登録種目名は "Farthest flight by a paper aircraft"[1]。2012年2月26日、元アメリカンフットボール選手のアメリカ人テンプレート:仮リンクは、アメリカ合衆国カリフォルニア州にあるテンプレート:仮リンクの屋内環境(無風環境)にて、A4判の紙を切らずに作った紙飛行機(折り紙飛行機。デザイン:ジョン・M・コリンズ)を用いて226ft 10in (69.1388m) の飛行距離を叩き出し、ギネス世界記録を更新した[2][1]。更新前の世界記録はスティーブン・クリーガーが2003年に記録した207ft 4in (63.1952m) であった[2]。
- 屋内飛行(滑空)時間の記録(ギネス・ワールドレコーズ)
- 2009年(平成21年)4月11日、日本折り紙ヒコーキ協会会長の戸田拓夫は、日本の広島県福山市にある広島県立ふくやま産業交流館(ビッグ・ローズ)の屋内環境(無風環境)にて、A5判のサトウキビ加工紙を切らずに作った紙飛行機(折り紙飛行機)を用いて飛行滞空時間27秒9を叩き出し、ギネス世界記録を更新した[3]。更新前の世界記録はアメリカ合衆国のケン・ブラックバーンが持つ27秒6であった[4]。
組立て式紙飛行機
主にケント紙に下記のように罫書きしたものを切り抜き、貼り合わせて組み立てる。良くできた機体では数十秒間滑空する。「きりぬく本」として印刷済みのケント紙を製本した書籍も存在している。
著名な日本人設計者に二宮康明がいる。
組立て方
- 胴体の組立て
- 部品1の両側に部品2と3を貼り付ける
- (1)の両側に部品4と5を貼り付ける
- (2)の両側に部品6と7を貼り付ける
- 主翼の組立て
- 部品8の裏側に部品9を貼り付ける
- 全体の組立て
- 胴体に部品10(水平尾翼)を貼り付ける
- 胴体に主翼(部品8+9)を貼り付ける
調整
- 曲がり、ねじれの修正
- 組み立てあがった機体を十分に乾燥させ、片手で持って片目で機首側から見て、胴体、主翼、尾翼の曲がりやねじれを左右対称になるよう調整する。
- 主翼の仕上げ
- 主翼をわずかにかまぼこ型になるように曲げ(キャンバー)を入れる。揚力の向上というよりも、曲げ強度の増加と失速特性の改善の上で意味がある(#航空工学的側面 - 低レイノルズ数の飛行 参照)。ただし、ほぼ一定の速度で飛行するゴム動力の模型飛行機などと異なり、速度の変化が大きい紙飛行機の場合、発射直後の上昇性能を確保して飛行時間を延ばすことを重視するので、抵抗が増えるほどのキャンバーは総合的には滞空時間が短縮する結果となる。
調整飛行
- 風が無い広いところで行う。
- 目の高さに機体を持ち、前へ押し出すように投げ出す。
- 右か左に曲がるようであれば、主翼、尾翼のねじれを直す。
- 機首からすぐに落ちてしまう場合は、水平尾翼の後ろを少しねじり上げる。
- 逆に機首がすぐにあがって失速する場合は機首にクリップなどの重りを加えるか、水平尾翼の後ろを少しねじり下げる。
本番飛行
- 機体の持ち方
- 人差し指と中指を伸ばして主翼の後ろにかけ、胴体を親指と薬指で持つ。
- 投げ上げ方
- 右手投げの場合は、機体を45度から60度に傾け、右斜め上に向かって投げ上げる。
カタパルト式と手投げ式
- カタパルト式(PLG:パチンコ・ランチ・グライダー)
- カタパルト式とは支持棒の先に結んだゴムを機体のフックに掛け、伸びたゴムが収縮するエネルギーで機体を射出する方法である。
- 上昇する軌道により、「らせん上昇」と「垂直上昇」に分けることができる。
- らせん上昇
- あらかじめ左に旋回するように調整した機体を、右に45度~60度に傾けて、地上に対して30度~45度の角度で射出するもので、機体は大きく右旋回をしながら上昇し、その後左に旋回しながら降下する。(右利きの場合)
- 垂直上昇
- 地上に対し80度~垂直の角度で、機体を射出させるもので、機体を宙返りさせずに上昇させるために独特の機体作りと機体の調整方法が必要とされる。
- 機体の大きさ
- 「全日本紙飛行機選手権大会」においては、2009年度まで行われていた種目に全幅は185ミリ以上という競技規定があった。
- 手投げ式(HLG:ハンド・ランチ・グライダー)
- 手投げ式には、「野球投げ」と「サイドアームランチ=SAL」の2つの方法がある。
- 手投げ式の紙飛行機は、胴体や主翼が「貼り合せ構造」から「中空構造」と進化し、より滑空性能が高い大型機が主流となっている。
- 野球投げ
- 前述の「本番飛行」の項のとおり。
- サイドアームランチ
- 翼幅が400ミリを越すような大型の機体の左翼の翼端を持ち(右利きの場合)、野球のサイドスローのような動きで機体を投げる。
脚注
参考文献
- 折り紙
- 誠文堂新光社『折り紙手品』- 一風変わった折り紙飛行機をいくつか収録している。ハードカバー版には収録されているがペーパーバック版では割愛されてしまった作品がある
- 組立て
- 誠文堂新光社『よく飛ぶ紙飛行機集』シリーズ他同社より多数 - 直接切り抜いて作れる本も多い
- 誠文堂新光社『子供の科学』- 毎号1機切り抜いて作れる綴じ込み付録を収録