真剣師
真剣師(しんけんし)とは、賭け将棋、賭け麻雀などの賭博によって生計を立てている者のことである。この手の賭け事を「真剣」というところからきている。大会やタイトル戦に出場して賞金を得るプロ棋士などとは異なり、真剣師は主に個人的な賭博を行う者を指す。
概要
将棋や囲碁、盤双六といったゲームでは古くから賭博としても行われており、そのなかで博打好きの相手をなりわいとするものが現れた。それが真剣師である。いわゆる職業としての将棋指し、碁打ちなどが確立していない時代のアマ強豪には、真剣師もよく見られた。近代になって競技協会が設立されると、真剣師からプロ棋士、プロ雀士となった者もいる。
こういった賭け事にはイカサマがつきものであり、「牌を積み込む」「石や駒などを隠し持つ」ということもしばしばあったようである。
現在の日本では賭け事が法律で禁じられており、この手も賭け事も以前ほどは盛んではないため真剣師はほとんど存在しないとされる。一方、海外の一部ではバックギャモンなどで気軽に賭け事が行われているため、相手をする真剣師も多数存在する。
麻雀の真剣師
かつて「裏プロ」だったという人物には阿佐田哲也、桜井章一、荒正義が挙げられ、荒は「最後の裏プロ」というキャッチフレーズを持つ。こういった裏プロの世界を虚実交えて描いた作品も多々存在しており、阿佐田は自身の体験を基に『麻雀放浪記』という小説を書いている。
囲碁の真剣師
囲碁で賭けが行われるのも古来から行われて、江戸時代には囲碁などを禁止する藩もあった。ただしその他の遊芸が広まるにつれて囲碁への規制は緩くなっていく。江戸時代の賭碁師の中では、享保・文政期に三千両を稼いだと言われる「阿波の米蔵」こと四宮米蔵などが著名。明治初期に方円社に所属した水谷縫次も、それ以前には賭碁師として名を知られていた。大正に専門棋士として三段まで進んだ大阪の堀田忠弘はその後真剣師となって1982年に没するまで、プロ棋士もしばしば破る活躍で鬼と呼ばれた。
将棋の真剣師
将棋の真剣師がいつごろ現れたかは定かではないが、 江戸時代中期には記録が残っている。江戸時代には賭博が原則として禁止されており、明治以降も同様であったが賭け将棋は盛んに行われ、多数の真剣師が現れた。真剣師の中には、当時のプロ棋士を実力で打ち負かすほどの実力を持つ人物もいたという。花村元司に至っては五段でプロ編入が認められ、九段まで昇っている。『修羅の棋士-実録裏将棋界』(宮崎国夫・著、幻冬舎アウトロー文庫)には真剣師として上田久雄、大田学、加賀敬治、小池重明、花村元司、平畑善介、三崎巌という七人の侍が掲載されている。 しかし取り締まりが厳しくなった社会背景もあり、昭和50年代には真剣師はほとんどいなくなったものと推測されている。「最後の真剣師」と言われた大田学が真剣師廃業を決意し、最後の記念に朝日アマ名人戦に出場、63歳で優勝したのがちょうどその頃である。
チェス
チェスには将棋や囲碁のようなプロ制度が無く、大半の選手は書籍の執筆やコーチで生計を立てているが、それらが得意でない者の中には真剣で収入を確保する者もいる。なおFIDEは真剣行為を禁じていないため倫理的に問題はない。チェスの真剣行為は隠語で「Coffeehouse」と呼ばれる(本来は気軽に遊ぶこと)。
アメリカ(一部州)やイギリスなど賭け事が禁止されていない国の都市部では、公園や喫茶店などでチェスの真剣が気軽に行われており、その相手で金を稼ぐ真剣師も多い。
かつて(2000年代前半まで)アメリカの公園では真剣チェスがよく見られたが、金銭トラブルからの喧嘩や長時間テーブルを占拠するなどの迷惑行為が多かったため、現在では公共スペースでの賭行為を禁止した自治体も多い。しかしワシントン・スクエア公園のように客待ちの真剣師が減らなかったため、テーブルを撤去した公園もある。
海外のスターバックスではチェスセットの貸し出しサービスがあるため、現在でも「Coffeehouse」に興じる人がよく見られる(日本では貸し出しサービスがない)。
映画『ボビー・フィッシャーを探して』では、ワシントン・スクエア公園を根城にするホームレスの真剣師が著名なプレイヤーを手玉に取ったり、公園を訪れた主人公と「賭け事禁止」の看板の前で真剣をやるシーンがある。
その他のゲーム
バックギャモンは伝統的に真剣行為が多く、賞金付きの大会に参加する以外は真剣師というプレイヤーも多い。
真剣師が登場する作品
- 『ハチワンダイバー』柴田ヨクサル
- 『5五の龍』つのだじろう
- 『麻雀放浪記』阿佐田哲也
- 『哲也-雀聖と呼ばれた男』さいふうめい・星野泰視
- 『賭博師 梟』さいふうめい・星野泰視
- 『ボビー・フィッシャーを探して』
参考文献
- 増川宏一『碁 ものと人間の文化史59』法政大学出版局 1987年
- 大島正雄「鬼伝説の真剣師」(『棋道』1988年1月号)
- 『修羅の棋士-実録裏将棋界』宮崎国夫、幻冬舎、ISBN 4877285547
- 『真剣師 小池重明』団鬼六、幻冬舎、ISBN 4877284591
- 『懸賞打ち 賭碁放浪記』江崎誠致テンプレート:Game-people-stub