泣きゲー

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泣きゲー(なきゲー)は、ギャルゲーアダルトゲーム恋愛ゲーム)・美少女ゲームにおいて、「プレイすることで感動を呼び起こされ、泣けるゲーム」を指す俗語。転じて、そういったゲームの内容の属性(特徴)を示す語やゲームのカテゴリ(範疇)またはジャンル(種類)の一つとしても使用されている。感動に特化したシナリオでなくとも、たとえば性的描写よりもむしろシナリオ性などに重点が置かれたギャルゲー・美少女ゲームのことを総じて「泣きゲー」と拡大解釈して称されることも増加している。

概要

泣きゲーとは、ギャルゲーアダルトゲーム恋愛ゲーム)・美少女ゲームにおいて、「感動を呼び起こされ、泣けるゲーム」のことを指し、ゲーム市場のうち人気を博しているジャンルの一つである。具体的には、心身共に深く結ばれた男女が残酷な運命に翻弄されるような筋立ての恋愛作品を指すことが多いが(「泣きゲーの構造」の項も参照)、ゲームメーカー(制作者)が行っている正式なカテゴリ(範疇)またはジャンル(種類)としての区分ではなく、何によってどのように「泣ける」かは実際にゲームをプレイしたユーザー(プレイヤー)自身にしか認識できない(感じ取れない)ため、作品に対するユーザーの感想を端的に言い表したものであって、ゲームの特徴を表現した俗語に過ぎないという側面もある。

制作者の側からは、物語や登場人物への共感を引き起こす作劇を意図的に用いてプレイヤーの心を揺さぶり、物理的に涙を流させることに特化した作品を「泣きゲー」であると定義する意見もある[1]。しかし、制作者が意図した通りに泣けたか否かはユーザーの反応に委ねられる。ゲームをプレイした大多数の人から「泣ける」と賛同されるために、客観的な評価として「泣きゲー」という用語が用いられることもあれば、少数な意見であってもそのユーザーの感覚・価値観に依って、主観的な意見として「泣きゲー」という用語が用いられることもある。したがって、個々の作品が泣きゲーか否かに関しては意見が分かれる場合があり、厳密なカテゴリやジャンルとして各作品を明確に区分することは難しいこともある。また、最近では、感動に特化した作品でなくとも、ストーリ性が重視されていたりシナリオが熟考されていたりする恋愛ゲームに、性的描写を重視したゲームに相対する呼称として、「泣きゲー」という分類が用いられることも多くなっている。

アダルトゲームのなかで泣きゲーと呼ばれる作品の特徴として抜きゲーとの対比から性的描写が低調であることがあげられるが、CD・DVDによる大容量化にともない高画質化やボイス付きなど演出面が進歩したこともあり、性的描写についても以前のゲームより充実しているものもある。ただしその場合でもゲーム全体からいえば大きな部分を占めてはいない。

「泣きゲー」という言葉は美少女ゲームに感動系のものが急増した1990年代終わりから2000年代初めに使われるようになったため、それ以前のゲームは内容にかかわらず泣きゲーとは呼ばないことが多い。

ジャンルとしての歴史

長い間、アダルトビデオと同列の商品であるアダルトゲームでは性的快楽の描写が好まれていた。しかし『同級生』(1992年)の登場より、ストーリー性を重視した作品が出現しだす。 その後、Leafより『』(1996年)、『』(1996年)、『To Heart』(1997年)[注 1]のリーフビジュアルノベルシリーズ (LVNS)が発売される。アドベンチャーゲームにおいて感動させるという傾向は、その色合いを濃くしていく。

その流れを受け、さらに感動させることを主目的としたゲームが広まることとなる。そして1998年にTacticsから『ONE 〜輝く季節へ〜』が発売された。本田透らはこの作品を「泣きゲー」の元祖的作品であるとしている[3]。その難解とも言われるストーリー性ゆえ『ONE 〜輝く季節へ〜』の販売本数は振るわなかったが、その当時のインターネットや口コミ等でじわじわと話題となり[4]、各種アダルトゲーム雑誌でも大きく取り上げられ、新しいジャンルの存在を世間に知らしめた。

そして、『ONE 〜輝く季節へ〜』の制作チームの一部が Tactics から移籍して立ち上げた ゲームブランド・Key [注 2]より1999年に発売された『Kanon』は大ヒット作品となり、10万本以上の売り上げを誇ってプレーヤーの支持を得たのに加えて、マスメディアにも取り上げられた[注 3]。これによって感動させるストーリーに重きを置いた作品が、一つのゲームジャンルとして広く認知されるようになり、「泣きゲー」という言葉が普及し始めた。

これらのゲームの特徴として、シナリオの完成度の高さもさることながら、それらの感動的シーンに挿入されるゲームミュージックやボーカル曲も無視できない。作劇上も、クライマックスのここぞという場面における印象的な歌曲は、プレイヤーを泣かせるためのトリガーとして効果を発揮する[5]。泣きゲーの発展に伴って、それまでは単調だったゲームミュージックやボーカルもより重視されるようになり、完成度の高いものになってきている。例えば、『Kanon』の主題歌を担当したI'veはゲーム音楽専門の集団として人気を博し、その後の同様の専門家集団やゲーム専門音楽クリエイターの発展を促した。

プレイヤーの「感動」を呼び起こすことを目的とした泣きゲーのシナリオにおいて、性的な描写は必ずしも必要ではなく、むしろ付加的な扱いになり、性的な描写を潔しとしない、と考えるユーザーも増加した。この流れを受けて、Keyから2004年に発売の『CLANNAD』(後にPS2版も発売)や、2007年に同じくKeyから発売された『リトルバスターズ!』が発売当初からコンピュータソフトウェア倫理機構の一般ソフト作品とするレーティングで発売されるに至った。この経過は、泣きゲーとしての当然の帰結であった[注 4]。ただし、『G線上の魔王』のように、主人公とヒロインとの性的関係がなければストーリーがつながらなくなる泣きゲーも存在する。

また、前述における本来の意味とは異なる「泣きゲー」においても、性的描写にのみ重点の置かれた従来のアダルトゲームとは異なり、ストーリー性にも重点が置かれている。

泣きゲーの構造

AIR 』や『CLANNAD』といった作品にシナリオライターの一人として参加した涼元悠一は自著[1]において、このようなゲームジャンルで用いられている「萌やし泣き」という手法を紹介している。これは物語の前半部分で時間をかけて主人公とヒロインとの他愛もない日常描写を描き、ヒロインをかけがえのない存在として印象付けて(萌やして)から、後半で二人を一気に不幸な展開に突き落とすというものである。手法として重要なのは前半部で描かれる楽しげな日常描写と後半部との落差であり、不幸な展開の結末は悲劇でも逆転による大団円でも構造に大差はなく、いずれにせよ、失われてしまったかけがえのない日常への郷愁に打ちひしがれ、不幸な展開に疲弊しているプレイヤーに対して、予め前半で敷いておいた「最後の一押し」のための布石[注 5]を用いて落涙によるカタルシスを促すのだという。このような手法は、いわゆる泣きゲーの基本手法としては広く認知され確立されているものであると説明されている[1]

つまり、このような類型の「泣きゲー」では、主人公にとって分かちがたい存在となった恋人に降りかかる不幸や、時間をかけて築き上げた日常が永遠に失われる悲しみ、あるいはそれを取り戻すことにより得られる安堵を描くことが物語の主題となり、プレイヤーはそれに涙するのである。

他の属性との重複

泣きゲーとして認知されている作品の中には、他の属性(特徴)を持つもの(例えば鬱ゲー)としても挙げられているものがある。複数のキャラクターのストーリーがひとつの作品の中で扱われているため、一人のキャラクターに焦点を合わせた時、そのキャラクターは幸福な結末を迎えるが別のキャラクターに救済が齎されず悲劇的な結末を迎える事があり、この場合たとえば「鬱ゲー」という属性が付加される。また、主人公や周囲の人物があるストーリーで問題解決のために超人的な活躍をする事もあり、この場合「燃えゲー」という属性が付加される事になる。

こういった状況は、前項の通り、「泣きゲー」が登場キャラクターの悲劇的な状況を打破することでカタルシスを得ることが多いため起こる作劇上の特徴である。

泣きゲーと呼ばれる主な作品

発売日順(同日の場合は五十音順)。移植版がある作品については、初出作品を記載。

1998年
1999年
2000年
2001年
2002年
2003年
2004年
2005年
2006年
2007年
2008年
2009年
2010年
2011年
2012年



注釈

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  1. ヒロインの一人であるアンドロイド少女、HMX-12マルチのシナリオは、残酷な運命が確約されているにも関わらず健気に頑張るヒロインの姿が「泣ける。もう泣けまくり」などと評された[2]
  2. このため、コミックマーケットジャンルコード等では『ONE 〜輝く季節へ〜』はKeyの作品群と同等に扱われている。
  3. 扶桑社週刊誌SPA!』2002年月22日号では「なぜボクらは『泣けるエロゲー』にハマったのか!?」という特集が組まれた。
  4. 但し、同作品は後に『リトルバスターズ!エクスタシー』として成年版が発売された。
  5. 例えば、伏線の回収や印象的なゲームミュージックの挿入などがこのようなものに当たるという[1][5]

出典

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関連項目

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