吸血鬼ゴケミドロ

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テンプレート:Infobox Film吸血鬼ゴケミドロ』(きゅうけつきゴケミドロ)は、1968年8月14日に公開された、松竹製作の怪奇特撮映画第一弾。 カラー、シネスコ、84分。

英題は、『GOKE』、『Body-Snatcher GOKE』、『Body Snatcher from Hell』。

ストーリー

1960年代後半の日本。羽田空港から伊丹空港に向かう小型旅客機が、外国大使を暗殺して逃亡中だったテロリスト・寺岡によってハイジャックされた。その直後、旅客機は謎の火の玉と接触して、見知らぬ山中に不時着した。

奇跡的に生き残ったのは10人。副操縦士の杉坂、スチュワーデスの朝倉、次期総理大臣候補である政治家・真野、兵器製造会社の重役・徳安とその妻で真野の愛人でもある法子、精神科医の百武、宇宙生物学者の佐賀、ベトナム戦争で夫と死別した未亡人・ニール、時限爆弾を持ち込んだ自殺志願者の松宮、そしてテロリスト寺岡。

他の生存者を銃で脅して逃走した寺岡は、岩陰でオレンジ色に輝くUFOを発見、吸い込まれるように中に入っていく。寺岡の額が縦にぱっくりと裂け、その中にアメーバ状の宇宙生物・ゴケミドロが侵入していった。血液を常食とするゴケミドロに寄生された人間は吸血鬼となるのだ。そして寺岡は生き残った人々を襲い始める。

吸血鬼の魔手から逃れようとエゴを剥き出しにした争いで、また吸血鬼に襲われて次々と死んでいく生存者。最後まで冷静さを失わなかった杉坂と朝倉はかろうじて吸血鬼の襲撃から逃れ、ようやく人里(有料道路の料金所)にたどり着くが、目に入る限りの人間は全て血を吸われて死んでいた。ゴケミドロの地球総攻撃は既に始まっていたのだ。真っ赤に染まった空を見て、杉坂は「どうしてこんなことになったのだ。こんな事に…。遅すぎたんだ。何もかも遅すぎたんだ……!」と叫んだ。やがて宇宙から、続々と地球めがけて飛んでいくゴケミドロの侵略円盤の姿があった…

概要

松竹が前年の特撮映画作品『宇宙大怪獣ギララ』に続いて制作した、松竹特撮映画作品の第2弾。松竹京都太秦撮影所制作の「お盆興行」作品。侵略テーマ、人類破滅テーマの本格的なSF映画であり、緊迫した人間関係と全編を覆うペシミスティックな雰囲気から、現在もファンが多い。

キャッチコピーは「生き血を吸われた人間が見るみる風壊する! 遂に出た! 恐怖怪奇映画の決定版!

本作品は前年の1967年に、ピープロが企画したテレビ特撮シリーズ『ゴケミドロ』が元になっている。内容は、地球に不時着したUFOに乗っていた、人間に乗り移れる善玉の宇宙人と、その機内食料だったが、野性に還り凶暴化した宇宙生物「ゴケミドロ」との戦いを描いたもので、原案・脚本はうしおそうじ

この企画を基に、高山良策によるゴケミドロのぬいぐるみが三浦半島の剣崎洞窟でうろつくというパイロットフィルムがピープロで製作された。このフィルムのゴケミドロは、両腕の他に胸からもう一本腕の生えた、毛むくじゃらの怪物だった。うしおがこのパイロット・フィルムであちこちに売り込みをかけているうちに、松竹から「ぜひうちで」と声がかかり、映画化となった。が、上述したように、映画化の際に内容は一新されている。映画が製作開始された頃、うしおが新幹線で京都へ向かっているときに、東京12チャンネルのプロデューサーとたまたま席が向かい合わせになった。そのプロデューサーはうしおが『ゴケミドロ』の原作者とは知らずに、「松竹で今度やる『ゴケミドロ』って変な題名の映画、あれ一体何のことでしょうね」と話しかけてきて、うしおは笑いをこらえていたそうである。

こういった経緯で、特撮はピープロが担当している。ゴケミドロの円盤はそのまま、ピープロのTV特撮番組『宇宙猿人ゴリ』(フジテレビ)のゴリ博士の円盤に流用されている。吸血鬼の割れた額から流れ出る宇宙生物の素材には、コンドームが使われた。

ゴケミドロに乗り移られた殺し屋役を演じた高英男はシャンソン歌手であって俳優ではないが、脚本での「灰となって風に散る」という役柄の最期が気に入り、吸血鬼の役を引き受けた。が、完成フィルムではその最期の描写を高橋昌也に取られる形に変更されてしまい、非常に不本意だったという。本作出演後、しばらく高は町で子供たちから「ゴケミドロだ!」と言われて怖がられたという。劇場用パンフレットには、顔の左半分が白骨化したようなポスターイメージの高のイラスト画の紙製お面が付録についていた。

日本公開時では全年齢で適しており、年齢制限はなかったが、アメリカ公開時ではR指定を受けている。映画監督のクエンティン・タランティーノも本作の大ファンであることを公言していて、日本のスタジオで撮影された映画『キル・ビル』では、本作で全編にわたって使われた「真っ赤な空」がオマージュとして採り入れられており、これはタランティーノ自身の意向によるものだった。

公開時のポスターでは、高英男が中心に配されて、「吸血鬼」と銘打たれていて、「ゴケミドロ」よりも高が主役のような図柄となっていた。トルコ公開版のポスターではアニメ作品『宇宙戦艦ヤマト』のヤマトが載っているが、本編にはこのヤマトが登場するシーンはない。

企画から脚本まで

脚本を担当した小林久三(当時、松竹の脚本部員だった)の著書『雨の日の動物園』によれば、ピープロの持ち込んだ企画にはすでに「ゴケミドロ」というタイトルが付き、人間の10本の指に目ができ、それによって起こる奇怪な現象を特撮で表現するという内容であったという。企画の担当窓口は本映画のプロデューサーを務めることになる猪股尭。当時、猪股は深作欣二が松竹で撮る『黒蜥蜴』(主演は丸山明宏)の併映作品の企画を探していた。一種、ゲテモノ映画である。ゲテモノにはゲテモノということで、この企画を小林に相談したようだ。しかし当の本人は、指に目があるというアイディアは“お子さま向けのマンガの材料にしかならない”(原文ママ)と感じたという。むしろ恐怖映画なら、と小林は提案すると猪股は「監督は誰がいいか?」と聞いてきた。そこで小林は、『散歩する霊柩車』や『怪談せむし男』を撮っていた東映の佐藤肇を推薦した。 共同脚本の高久進は、テレビ『キイハンター』で、佐藤とコンビを組んでいた関係上参加した。打合せの結果、ピープロの企画は破棄されたが、怪獣ものではないSF風の作品にするということで、佐藤、高久二人の意見は一致していた。三人は脚本家御用達の旅館として有名な神楽坂の和可菜(本文中では若菜と表記)に籠もり、脚本を執筆することになった。 ゴケミドロに襲われた人間の額がパクッと割れるアイディアは、フレドリック・ブラウンの『73光年の妖怪』を元にした。提案したのは共同脚本の高久進であるという。当初は東北の寒村の精神病院に、目に見えない宇宙生物が飛来してくる設定を考えていたそうだ。これは同じく精神病院を舞台にしたアメリカ映画の恐怖映画『蛇の穴』からインスパイアされたものだという。舞台の冒頭を旅客機にしたのは佐藤である。『蛇の穴』のアイディアが出た翌日の早朝、佐藤は高久、小林に以下のようなアイディアを話した。「旅客機の窓に、ぴたっぴたっとひかりゴケのようなものが付着する。すると、旅客機は操縦不能になって、山中に不時着する。血を主食にする宇宙生命体は、人間を宿主にして、生き残った乗客を次々に襲い出す……」(原文ママ)。こうして『吸血鬼ゴケミドロ』の世界観が確定したのである。

「ゴケミドロ」のネーミング

本作のタイトルの「ゴケミドロ」とは、宇宙から空飛ぶ円盤で飛来した、人類よりも高い知能を持った、水銀状の寄生生物の名である。

この「ゴケミドロ」の名の由来は、パイロット・フィルムを制作したうしおそうじが京都でよく立ち寄るという「西芳寺」(苔寺=こけでら)と、「個人的に興味があった」という「深泥池」(みどろいけ)から着想した造語で、当初「コケミドロ」としたが、興行で「こける」は禁句なので、濁点を着けて「ゴケミドロ」としたものである。

一方、松竹映画として公開される際には、松竹宣伝課によって、『吸血鬼ゴケミドロとは何か?』と題し、「『ゴ・ケミ・ドロ』とは、三つの言葉が合成されて出来た言葉」とする説明文が各種宣材に添えられた。こちらの文ではうしおそうじの命名から大きく設定を拡げ、「」は「キリスト処刑で有名なゴルゴダの丘から採った、頭蓋骨を意味する言葉」で、「ケミ」は「ケミカルつまり、科学的処置を受けたという意味の略」、「ドロ」は「アンドロイドから採った言葉」としていて、「SFの世界で宇宙の天体QXに生息する頭骨だけが異常に発達した“人間もどき”が特殊の科学的処置の洗礼を浴びて、水銀状の知性体に化したものが、このゴケミドロの正体なのです」、「この水銀状の血を吸って生きる高等生物は、彼らの食糧(血)が減少したため、新たな食糧源を地球に求めてやって来た」と説明している。[1]

佐藤監督のコメント

本作のラストでの「青い地球がやがて茶色く変色していく」というシーンについては、佐藤肇監督は「人類滅亡」のイメージを込めたという[2]。また、公開時の宣材では、「演出の言葉」として、佐藤肇監督の次のような言葉が添えられていた(原文ママ)。

「ノストラダムス(フランス16世紀の大予言者)の不気味な四行詩は、1999年に地球は滅亡すると予言している。《この年、恐るべき王が、空から舞い降りてくる》 原爆以来、空飛ぶ円盤の目撃例は、増加している。地球は狙われているか!? 地球滅亡の24時間を、現代日本を代表する十人の人間どもの典型を極限状態に追い込むことによって描いてみたい。」

備考

本編に登場するジェット旅客機、なぜか機長席と副操縦席が、通常とは逆(通常は機長が画面向かって右)になっている。

スタッフ

キャスト

脚注

  1. 『松竹タイムス』「吸血鬼ゴケミドロ」1968年
  2. 『吸血鬼ゴケミドロDVD』(松竹ビデオ)

参考文献・資料

  • 『吸血鬼ゴケミドロDVD』(松竹ビデオ)
  • 『スペクトルマンVSライオン丸:うしおそうじとピープロの時代』(太田出版)
  • 『松竹タイムス』「吸血鬼ゴケミドロ」1968年
  • 『雨の日の動物園』(キネマ旬報社) 

関連項目

外部リンク