ジャン・ラシーヌ
テンプレート:Portalテンプレート:Portal ジャン・バティスト・ラシーヌ(Jean Baptiste Racine,1639年12月21日誕生、12月22日受洗 - 1699年4月21日没)は、17世紀フランスの劇作家で、フランス古典主義を代表する悲劇作家である。
シャンパーニュ地方出身。幼少時に両親を亡くし、ジャンセニスムの影響下にある修道院の付属学校で、厳格なカトリック教育を受ける。ラシーヌはこの学校で古典文学に対する教養と、ジャンセニスムの世界観を身につけた。このことは後のラシーヌの作品に深い影響を及ぼした。
その悲劇作品のほとんどは、三一致の法則を厳格に守り、主にギリシア神話、古代ローマの史実に題材をとる。『旧約聖書』に題材をとるものを、ラシーヌは悲劇とせず史劇と呼んだ。
ラシーヌは均整の取れた人物描写と劇的な筋の構成を、アレクサンドラン詩行と呼ばれるイアンボス6詩脚の丹精で華麗な韻文に綴った。後期の『聖書』を題材とする作品を除けば、ラシーヌの劇は、二人の若い恋人を中心とするものが多い。二人は愛し合っているが、女性が王など高位の男性に望まれる、あるいは二人が敵対しあう家系にいるなどして、恋愛は成就しない。この葛藤がラシーヌの悲劇の中心となる。これに第三者の嫉妬、政治闘争などが加わり筋が複雑になり、最終的に二人の恋は成就せず、主人公の死をもって幕が下りる。
またラシーヌは自身の作品を印刷に付し刊行する際、必ず書き下ろしの序文をつける習慣があった。このためラシーヌの作品は、たんに悲劇としての価値のみならず、演劇論としての価値をももつ。ラシーヌの詩論のなかではオスマン帝国の皇位継承争いを題材にする『バジャゼ』につけた序文での「悲劇の題材は観客から適切な隔たりをもつものでなければならない。この隔たりは神話や古い歴史のような時間的な隔たりだけでなく、時間的にはあまり遠くないがわれわれの風俗になじみのない距離的な隔たりであってもよい」とするものなどが知られる。
ラシーヌの代表作として今日もなお上演されるものには『アンドロマック』、『ベレニス』、『フェードル』などがある。
なお、彼の肖像はかつて、フランスの50フラン紙幣に描かれていた。
作品
括弧内は順に原題、形式、初演年を示す。
- ラ・テバイード 又は 兄弟は敵同士(La Thébaïde ou les frères ennemis, 5幕悲劇、1664年)
- アレクサンドル大王(Alexandre le Grand, 5幕悲劇、1665年)
- アンドロマック(Andromaque, 5幕悲劇、1667年)
- 訴訟狂(Les Plaideurs, 3幕喜劇、1668年)
- ブリタニキュス(Britannicus, 5幕悲劇、1669年)
- ベレニス(Bérénice, 5幕悲劇、1670年)
- バジャゼ(Bajazet, 5幕悲劇、1672年)
- ミトリダート(Mithridate, 5幕悲劇、1673年)
- イフィジェニー(Iphigénie, 5幕悲劇、1674年)
- フェードル(Phèdre, 5幕悲劇、1677年)
- エステル(Esther, 3幕史劇、1689年)
- アタリー(Athalie, 4幕史劇、1691年)
主な日本語訳
- 『ブリタニキュス、ベレニス』(渡辺守章訳、岩波文庫、1993年)
- 『フェードル、アンドロマック』(渡辺守章訳、岩波文庫、2008年)
- 『ラシーヌ戯曲全集2 ブリタニキュス、ベレニス、バジャゼ、ミトリダート』(渡辺守章訳、白水社、1979年 本巻のみ刊行)
- 『ラシーヌ戯曲全集』(人文書院全2巻、伊吹武彦・佐藤朔編、初版1964年-1965年、新版1976年)
- 『世界古典文学全集48 ラシーヌ』(筑摩書房、初版1965年、復刊2005年)
日本語文献
- ラシーヌとシェイクスピア(スタンダール/佐藤正彰訳、青木書店、1939年)
- ラシーヌとギリシア悲劇(戸張智雄、東京大学出版会、1967年)
- ラシーヌ研究(田中敬次郎、社会思想社、1972年)
- ラシーヌと古典悲劇(アラン・ニデール/今野一雄訳、白水社、1982年9月 文庫クセジュ)
- ラシーヌの悲劇(金光仁三郎、中央大学出版部、 1988年11月)
- ラシーヌ、二つの顔(山中知子、人文書院、2005年2月)
- ラシーヌ論(ロラン・バルト/渡辺守章訳、みすず書房、2006年10月)
関連項目
- 映画「女優マルキーズ」で、ランベール・ウィルソンがラシーヌを演じた。
- ラシーヌの雅歌:ガブリエル・フォーレがラシーヌの詩に基づいて作曲した合唱曲。