マーカス・ミラー
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マーカス・ミラー(Marcus Miller,1959年6月14日 - )は、アメリカのベーシスト、音楽プロデューサー、作曲家・編曲家である。ジャズ・フュージョン界にて活躍している。
ウィントン・ケリーの甥。
ベーシストとしてのマーカスは、'77年製フェンダー・ジャズベースをトレードマークとして、スラップ、タッピング、独特のネック寄りのフィンガー弾きなどの奏法を駆使して、表現力豊な深みのある音でそれを鳴らし、またジャズ、R&B、ファンクなどあらゆる音楽ジャンルの習得・理解をバックボーンとしたベースラインやグルーヴ感を伴った演奏が最大の魅力である。特にスラップ奏法の独特なサウンドは、他のベーシストに大きな影響を与えた。世界中にファンがいる20世紀末 - 21世紀を代表するベーシストの一人。
プロデューサー、作曲家・編曲家としても非凡な才能を見せ、デイヴィッド・サンボーン、ルーサー・ヴァンドロスらのアルバム制作に長年携わり、ヒット作を生み出している。映画音楽、CMなども多数手がける。近年の自身のアルバムには、様々なジャンルの楽曲をマーカス流のテイストを加えたアレンジで多数カバーしている。
また、周囲のミュージシャンから”jack of all trades”(なんでも屋)と呼ばれるように、ギター、鍵盤、ドラムなど他の楽器も相当な腕前で演奏することができ、特に高校時代から演奏しているクラリネットは得意な楽器であり、バスクラリネットによるリードとソロは一つのトレードマークになっている。また、ヴォーカリストとしても秀逸である。
機材
- ベース
- マーカスの愛機ともなっている'77年製のフェンダー・ジャズベースは、ロジャー・サドウスキーの手によってアクティブ回路搭載に改造されたものである。これはベース単体でトレブル・ベースのトーン調整により音作りができるようにしたものであり、マーカスのようなセッション現場を渡り歩くミュージシャン達に重宝された。マーカスのベースにはバルトリーニ製の旧型TCTが特殊結線で搭載されている。
- もともとこの年代のフェンダー・ベースは、いわゆるヴィンテージものに比べて人気もそれほど無かったが、独自のサウンドを放つこのスタイルはマーカスサウンド、NYCサウンドと呼ばれ、他のベーシスト達に大きな影響を与えた。現在ではアッシュボディにメイプル指板ネック、アクティブ回路を搭載した'70年代フェンダージャズベーススタイルが一つのスタンダードとして確立しており、高い人気を誇っている。
- このベースの他に、フェンダー、フォデラ・サドウスキー、ケンスミス、モデュラス等、多数のベースを所有しているが、最近のツアーに持参するのは、フェンダー'75 ジャズベース(サブ用)、フェンダー・ジャズベース改(フレットレス、CBS以降品、年代不明)、フェンダー・ジャズベースMM5(5弦)が多い。
- なおあまり弾かないが、アコースティックベースも所有しプレイすることがある。
- アンプ
- 1990年代前半はSWRのレッドヘッドやゴライアスがトレードマークであり、ベースアンプにツイータを搭載するスタイルを浸透させた。クリーンサウンドからファットサウンドへの指向の変遷からEBSを使用するようになり、現在の410スピーカキャビを使用するシステムに至っている。
- エフェクター
- 各時期により変遷があるが、近年ではEBSのコンパクト(オーバードライブ、コンプレッサー、オクターバー、オートワウ、コーラス、リバーブ)を基本として、ファズ、ワウペダルなどを加えたフットペダル系で構成されている。
- 弦
- 基本的にDR社製の“マーカス・ミラー・シグネチュア”モデルを使用。
- DI
- ディメター(Demeter)社製のVTDB-2B(チューブ・ダイレクト)を使用している。同機は真空管に「12AX7」を使用するダイレクトボックスで、レコーディングではベースアンプが使用されることは少なく、ベースからDIを通してミキシングコンソールにインプットすることが多いと言われている。
経歴
- ニューヨーク生まれ。
- クラリネット、サックス、エレクトリックベースを手にする。
- 音楽教育:ニューヨークの芸術学校とクイーンズ・カレッジ。
- 1979年 プロとして独立。GRP(デイヴ・グルーシンとラリー・ローゼンが設立したプロダクション、後にレーベルとして独立)のスタッフ・ミュージシャンとなる。
- ブレッカー・ブラザーズ、渡辺香津美らとセッション。
- 1981年 マイルス・デイヴィスのThe Man with the Hornにベーシストとして抜擢される。
- 1983年 デビュー・アルバムSuddenly発表。自身がヴォーカリストとして参加。
- 1984年 アルバムMarcus Miller発表。日本盤は『パーフェクト・ガイ』名。
- プロデュース、セッション・ミュージシャンとして、マイルス・デイヴィス、ジョージ・ベンソン、デイヴィッド・サンボーン、ロバータ・フラック、チャカ・カーン、ルーサー・ヴァンドロス、ドクター・ジョンやドナルド・フェイゲンらのレコーディングに参加。
- 1987年 生まれ育った街クイーンズの仲間、バーナード・ライトやレニー・ホワイトらとジャマイカ・ボーイズを結成。セルフ・タイトルでアルバムを発表。
- 1989年 ジャマイカ・ボーイズの第2作J. Boys発表。以後ジャマイカ・ボーイズ名義のアルバム発表はない。
- 1991年 ライブ・アンダー・ザ・スカイに出演。プージー・ベル、パッチェス・スチュワートらと組む“マーカス・バンド”はこのライブの為に初めて結成された。
- 1992年 この年最後の開催となったライブ・アンダー・ザ・スカイにデイヴィッド・サンボーンを迎えて出演。
- 1993年 アルバムThe Sun Don't Lie発表。日本盤は『ザ・キング・イズ・ゴーン』名。生前のマイルス・デイヴィスの音源を収録しており、デイヴィッド・サンボーン、ジョナサン・バトラー他多数の有名ミュージシャンが参加。
- 1995年 アルバムTales発表。
- 1996年 初のライブハウスツアー敢行、ブルーノート東京に出演。
- 2000年 ベスト・アルバムBest of '82-'96発表。
- 2001年 アルバムM2発表。日本盤は『M2~パワー・アンド・グレイス』名、ボーナス・トラックあり。
- 2001年 第44回グラミー賞「最優秀コンテンポラリー・ジャズ・アルバム賞」を獲得。
- 2002年 アルバムThe Ozell Tapes発表。
- 2003年 東京国際フォーラム7days Jazz、およびMt.Fuji Jazz Festeivalに出演。Take6と共演。
- 2005年 アルバムSilver Rain発表。同名タイトル曲にエリック・クラプトンがボーカル・ギター・作曲で参加。
- 2005年 ブルーノート春ツアー。東京・名古屋・大阪・福岡にて公演。
- 2005年 東京JAZZ2005に出演。
- 2005年 初のDVDMaster of All Trades発表。
- 2005年 ブルーノート冬ツアー。東京・名古屋・大阪にて公演。年間3度目の来日を果たす。
- 2006年 東京JAZZ2006に出演。フランク・マッコムと共演。
- 2007年 ブルーノートツアー。東京・名古屋・大阪にて公演。
- 2007年 アルバムFree発表。
- 2008年 アルバムMarcus発表。スタンリー・クラーク、ヴィクター・ウッテンと組み、3人のベーシストによるユニット"S.M.V."による企画アルバム、Thunderを発表。
- 2009年 マイルス・デイヴィスのトリビュート・ツアー"Tutu Revisited - The Music of Miles Davis"を行う。仙台・札幌(Zepp)、東京・大阪(Billboard)にて公演。
- 2010年 東京JAZZ2010に出演。渡辺香津美 To Chi Ka 2010 - Kazumi Watanabe, Warren Bernhardt, Omar Hakim, Mike Manieri & Marcus Miller。
- 2010年 ビルボード・ライブ東京にてラリー・グラハムと共演。大阪、名古屋(Bluenote)にて単独公演。
- 2011年 ジョージ・デュークとデイヴィッド・サンボーンとの特別ユニット"DMS"(George Duke, Marcus Miller, David Sanborn)のツアー。東京JAZZ2011、東京、大阪(Billboard)、札幌(Zepp)公演。
- 2012年 アルバムRenaissance発表。
TV出演
- 『東京JAZZ2011』 (NHK BSプレミアム)2011年10月15日