ゼンテイカ
ゼンテイカ(禅庭花)は、ユリ科(APG分類体系ではキスゲ科(ワスレグサ科))の一連の多年草。一般には、「ニッコウキスゲ」の名前で呼ばれることも多い。また、各地で別々に同定されたため、和名、学名ともに混乱が見られる[1]。
概要
日本の本州などでは高原に普通に見られるが、東北地方や北海道では海岸近くでも見られる。関東では低地型のムサシノキスゲや、奥多摩、埼玉、茨城県でも低地型の自生のニッコウキスゲが見られる。花期は5月上旬から8月上旬。草原・湿原を代表する花で、群生すると山吹色の絨毯のようで美しい。 高さは50cm〜80cm。花茎の先端に数個つぼみをつける。花はラッパ状で、大きさは10cmぐらい。花びらは6枚。朝方に開花すると夕方にはしぼんでしまう一日花。ムサシノキスゲは開花の翌日まで開花する。
日光の霧降高原、尾瀬ヶ原、霧ヶ峰などの群落が有名である。 花が黄色で葉がカサスゲ(笠萓)に似ているため、地名を付けてニッコウキスゲと呼ばれだし、全国に広まった。 ただし、栃木県日光地方の固有種というわけではなく、ゼンテイカは日本各地に普通に分布している。
日光地方では、霧降高原を中心に「日光キスゲまつり」が毎年開催されている。府中市 (東京都)では、ゴールデンウィークの頃に「キスゲフェスティバル」が開催される。
分類
本種は、分類の紆余曲折のため和名・学名ともに混乱が見られる。 本種の分類は、1925年に小泉らによりH. esculentaとされた[2]。 1949年、大井により、当時はmiddendorffiiと分類されていたエゾカンゾウの変種middendorffii var. esculentaとされた[3] 。次に1964年、北村らによりヒメカンゾウの変種とされ、H. dumortieri var. esculentaとされた[4]。また、ゼンテイカ群の分子系統学的解析を行っている野口[5]は、大井の見解を受けてH. middendorffiiとしている。[6]。
- Rokko alpine botanical garden14s2816.jpg
ゼンテイカ(六甲高山植物園)
- Hemerocallis dumortieri Kiritappu wetland02.jpg
エゾゼンテイカ
- Higashidateyama kozan-shokubutuen02bs3200.jpg
ゼンテイカ群落(東館山高山植物園)
- Hemerocallis esculenta in Nakazaki Ridge.JPG
飛騨山脈中崎尾根でのゼンテイカ
保護上の位置づけ
本種自体は普通種であり、個体や群落自体が保護されているものではないが、天然記念物指定地域に多く群生している。
- 天然記念物・雄国沼湿原植物群落 - 本種の群落がある。
- 天然記念物・駒止湿原 - 本種の群落がある。
- 特別天然記念物・尾瀬(大江湿原など) - 本種の大群落がある。
- 天然記念物・霧ケ峰三湿原(車山湿原、踊場湿原、八島ヶ原湿原)[7] -霧ケ峰周辺の湿原には本種の大群落がある。
参考: 国指定植物天然記念物
ゼンテイカ群とその近縁種
画像 | 名称(学名) | 概説 | 保護上の位置付け |
---|---|---|---|
180px | ヒメカンゾウ (H. dumortieri C.Morren var. dumortieri |
ニツコウキスゲよりやや小型。花茎は25cm-40cm程度となり、花期は5月頃。 | |
100px | トビシマカンゾウ (H. dumortieri C.Morren var. exaltata (Stout) Kitam. ex M.Matsuoka et M.Hotta / シノニム Hemerocallis exaltata Stout) |
ニッコウキスゲの島嶼型であり、山形県の飛島で発見されたことから和名がある。佐渡島には群落があり、佐渡市の花となっている。ニツコウキスゲと比べてやや大型であり、花茎は1mに達する。 | 山形県レッドデータブックで準絶滅危惧(NT)に指定されている。 |
180px | ムサシノキスゲ (H. middendorfii var. esculenta f. musashiensis) |
ニッコウキスゲの変種。浅間山 (東京都)に自生している。5月初旬から中旬にかけて開花し、開花した翌日に閉花する。かすかな芳香があると言われる。植物園などで見られるムサシノキスゲは府中浅間山から移植したものであが、花期が5月との理由でゼンテイカをムサシノキスゲと称する植物園(向島百花園)もある。 | 東京都レッドデータブックの絶滅危惧I類(CR+EN)に指定されている。 |
100px | エゾキスゲ (H. lilioasphodelus L. var. yezoensis (H.Hara) M.Hotta / シノニム H. thunbergii auct. non Baker |
日本では北海道に分布する。ゼンテイカ群の近縁種。花茎は40cm-80cm程度で、花期は5月-7月。花は夕方に開き始め、翌日の午後にしおれる。花は鮮やかなレモンイエローとなる。 | |
180px | ユウスゲ (H. citrina Baroni var. vespertina (H.Hara) M.Hotta / シノニム H. vespertina H.Hara |
ゼンテイカ群には含まれない。別名にキスゲ、ユウスゲ、アサマキスゲ等がある。日本では本州から九州の山地に分布し、花期は7月-9月。花茎は1m-1.5m程度となる。花は鮮やかなレモンイエロー。夕方から開花が始まり、翌朝にはしおれる。花には芳香がある。
他に野カンゾウ群として、朝方から開花するノカンゾウ、ハナカンゾウ、ヤブカンゾウ、アキノワスレグサなどもある。 || 各都道府県レッドデータブックでは、千葉県で野生絶滅(EX)、三重県,和歌山県,福井県,愛媛県で絶滅危惧I類(CR+EN)、山口県,長崎県で絶滅危惧II類(VU)、兵庫県,香川県,大分県,宮崎県,鹿児島県で準絶滅危惧(NT)に指定されている。 |
- Liliowiec Middendorfa Hemerocallis middendorffii.jpg
middendorffii群の基準種。和名オオゼンテイカ
- Middendorfii var. esculenta f. musashiensis-03.jpg
ムサシノキスゲ
- Hemerocallis thunbergii2.UME.jpg
H. lilioasphodelusの花(スウェーデン)
- Taglilienfeld St. Stephan.jpg
H. lilioasphodelusの群生(de:Taglilienfeld (Rehling)・ドイツ)
利用
園芸植物として植栽される。また、台湾では金針または黃花菜の名で食用とされる。
ギャラリー
参考文献
- 大井次三郎,日本植物誌,J. OHWI, Flora of Japan, 1-1383, 6 plates,1953,5500圓,至文堂(東京都新宿區拂方町27番地)
- 平成10年度新規植物特性調査事業報告書 ヘメロカリス(pdf) 平成11年3月 農林水産省種苗管理センター
- 原色牧野植物大図鑑 (合弁花・離弁花編) 牧野 富太郎(ISBN 978-4832604001)
脚注
- ↑ Plant of forgetfulness Onomastics(人文研究, 90: 27-67)
- ↑ The Botanical Magazine (Tokyo), Vol.39, 1925, S.1-30
- ↑ 日本植物誌
- ↑ A. P. G. 22(1-2): 41 (Jan. 1966); Kitam. & Murata in A. P. G. 22(3): 69 (Jul. 1966).
- ↑ 異質染色質の変異よりみた日本列島におけるゼンテイカ群の変遷史と分化 日本植物分類学会 ISSN:00016799 Vol.39, No.1-3(19880625) pp. 25-36
- ↑ 埼玉県内に自生するゼンテイカ(ニッコウキスゲ)について 埼玉県立自然史博物館,自然史だより 第53号 2004.3
- ↑ ビーナスライン沿線の保護と利用のあり方研究会提言 ビーナスライン沿線の保護と利用のあり方研究会・長野県