ドルイド
ドルイド(Druid)は、ケルト人社会における祭司のこと。日本ではドゥルイドとも表記する。ドルイドという名称の由来は、Daru-vid(「オークの賢者」の意味。Daruがオークを、vidが知識を意味する)というケルトの言葉である。なお、vidはサンスクリットのvedaと同源である。
ドルイドの社会的役割は単に宗教的指導者にとどまらず、政治的な指導をしたり、公私を問わず争い事を調停したりと、ケルト社会におけるさまざまな局面で重要な役割を果たしていたとされる。しかし、ドルイドは文字で教義を記す事をしなかったため、その全容については不明な所が多い。ガリアやブリタニアの各地に遺された遺物や、ギリシア・ラテン世界の著述家によって記された文献から、ドルイドの実態がおぼろげながら読み取れるに過ぎない。
カエサルの『ガリア戦記』によれば、ドルイドの社会的影響力はかなり大きなものだったようである。争い事を調停あるいは裁決し、必要があれば人々に賠償や罰金を課した。ドルイドの裁決を不服とした者は、社会的地位や信用を失った。ドルイドはこのような大きな権力を持っていたほか、兵役や納税を免除される等、特権的地位にあった。
ドルイドの宗教上の特徴の一つは、森や木々との関係である。ドルイドはパナケア(ヤドリギ)の巻きついたオークの木の下で儀式を執り行っていた。ドルイドはヤドリギに特別な力があると信じていたようだ。これについてはプリニウスが『博物誌』に記している。また、近代になって発掘された古代ガリアの奉納物にはオークで作られた物が多い。また、四葉のクローバー等といった希少な植物を崇拝していたという事も伝わっている。なお、神木の概念自体はケルト人に留まらず世界中に存在する。
5世紀頃のアイルランドのドルイドは、「我がドルイドはキリストなり」と宣言し、キリスト教へ改宗したという。そのためか、現代のアイルランドでは普通のローマ・カトリックとは一線を画したカトリックが存在していると言われる(ケルト系キリスト教)。
ドルイドの種類
はじめは一人であらゆる役目を果たしていたが、後に次の3つに専門化していった。中には騎士達とその王より高い地位を持っていたとされる者もおり、詩人の機嫌を損ねたために首を捧げた王がいたという話もある。
- ドルイド - 祭事を司る。政治の指導もし、大きな社会的影響を持つ。立法者でもある。
- ウァテス - 政務や祭儀の手伝い、天文などのドルイドの助手。時にドルイドの代弁者ともなった。
- バルド(吟遊詩人) - 神話伝承、法律、歴史も歌にして伝える者達。その歌には力が宿ると考えられた。フイラ(語り部)やボエルジ(弾唱詩人)等に分化して発展した。
架空世界におけるドルイド像
現実の姿については断片的な知識しか伝わっていないが、しばしば神秘的な存在として見られてきたドルイドは、ファンタジー小説やゲームなどに多く登場してきた。大抵はクレリック(僧侶)の一変形として扱われ、その中で描かれる像としては、金属を嫌う、自然を愛し、自分の森を守るなどが特徴となっている。
読者の便宜のために代表的な人物例としてアーサー王物語のマーリンがよく挙げられる。彼の使ったとされる魔術はドルイドの物とは多少異なるが、そのことに触れる作品は多くない。
ドルイドの巫女が主人公であるオペラに、ベッリーニのノルマがある。
ドルイドを取り込んだゲームとしてはダンジョンズ&ドラゴンズなどがある。
また、ドルイドを取り込んだ映画としては、スプラッター・ホラー映画であるハロウィン (映画)やウィッカーマンがあげられる。
架空世界との差異
- 生贄とするために罪人を養い、足りなければ戦争をして捕虜を手に入れた、など決して平和愛好者というわけではなかった。
- 神々を体内に召喚したと言われる勇者ルフが、黄金を身に付け鉄を鍛えた事など、自然物以外をも進んで身に着けていた。ただ、「戦いの儀式」と呼ばれる魔術を施された戦士は、神の力で加護されて勇敢になり、体が熱くなって服を身に着ける事もできなくなるとされていた。そのため、ドルイドの軍隊は金属鎧をつけずに戦う。